「マフィアのボスです」
進路は? という質問に対する少女の率直な回答である。
なんて、険しい顔をしている進路指導の先生に言えるはずもなく──少女はその言葉を喉奥で潰して黙り込んだ。
少女と対面している女教師はメガネのブリッジを押し上げ、紅の引かれた唇を固く結んだ。
沈黙が重い。
時計の針が規則正しく時を刻む音と蝉の歌が、少女の救いだった。
「早いところ進路を決めてしまいなさい。もう夏休みにも入るんだし」
「……そうですね」
皺だらけの指は、進路希望欄の大きな空白を指している。
少女はとりあえず上辺だけの空返事をしたが、彼女の心に真剣に考える気は微塵も生じなかった。
シマウマ並の広い視野を持っていながら、マフィアの頂点しか見ていない。
「まぁ貴方の学力ならどこの大学でも問題なく入れるから選り取りみどりだものねぇ。迷うのも仕方ないわ」
女教師は少女の思惑からズレた見当違いなことを述べながら、名簿に面談終了と印字された欄にチェックを付けた。
印の埋まっていない欄は、残り一つ。
「じゃあ宇筒(うつつ)さんはこれで面談終わり。夢島さん呼んできてくれる? 彼女、進路希望に総理大臣! とか書いちゃってて……もう一回面談しないと」
「……そうですか」
人の進路を軽々しく言いふらす女教師に嫌悪感を覚えた少女──宇筒(うつつ)は、やはり先程の言葉は飲み込んでおいて正解だったと改めて思った。
これは二人の少女の物語。
マフィアの幹部か、総理大臣か。
夢(ゆめ)か。現(うつつ)か──。
宇筒 柑奈(うつつ かんな)
マフィアの幹部を目指す少女。
政治家だった両親をマフィアに殺害された経緯から、復讐の為に裏社会に足を踏み入れる覚悟を決める。
夢島 環菜(ゆめしま かんな)
柑奈の幼馴染。
バリバリのギャルだが、総理大臣を目指す女子高生。
女の子が好きなレズビアンで、日本で正式に同性婚ができるようにすることが夢。
夢島 理一(ゆめしま りいち)
環菜の兄で、香港マフィアの構成員。
柑奈の事情を知る人物で、裏社会へ入ることを良く思っていないが協力的。
麻雀の代打ちとして名を馳せている。
ポンズ
2030年からタイムスリップしてきた少女で、日本初の女性総理大臣"夢島かんな"の秘書。
高校時代の"夢島かんな"を探している。
チーズ
2030年からタイムスリップしてきた少年で、ポンズとは双子。
世界的に有名な香港マフィアのボス、"カンナ"の側近。
高校時代の"カンナ"を探しにやってきた。
夢島かんな
2030年に就任した日本初の女性総理大臣。
本当に夢島環菜なのか定かではない。
カンナ
2030年に抗争で勝利し、香港マフィアのボスになった女性。
宇筒柑奈なのかは分からない。