ーら書く。
2:バルー◆zo:2020/03/04(水) 23:59 「何で僕は人間なのに走るのが早いの?」
「何で僕は犬なのに二つの足で走れるの?」
「何で僕は人間なのに耳が上にあるの?」
「何で僕は犬なのに鼻が利かないの?」
「何で俺は人間なのに…他の人間に嫌われるの?」
蔑みと冷やかしの目に、いつしか人の前に出る事は無くなった。
出て行く時も、パーカーで耳を隠す。これでずいぶん
生きやすくなった。家は川の流れる森の中。人は殆ど来ず、来ても
対岸で釣りをする程度。葉の影に隠れる俺には気付きもしない。
−−筈だった。−−
暑い真夏の昼、青々と茂った草木と蝉の声の中で、太陽の光で
キラキラと光る水面を眺め、ズボンの裾を折り水に浸かる。
岩魚や鯒が足元をすり抜けて泳ぐ姿が堪らなく愉快だった。
ガサガサッ
突如対岸の草が揺れ、小高い場所から落ちるように人が出てきた。
綺麗な服。きっとお偉いさんなのだろう。そう呑気に見つめていた
次の瞬間だった。そいつは顔をあげ川に浸かる俺の事を黙視した。
何か呆気に取られているようだった。そりゃあ森の中にポツリと人が
居たら驚くだろう。幸い今はフードをかぶっている。
(帰るだろうか。それともまじまじとこちらをただ観察するか。
石を投げて来ても可笑しくない。)見られてしまった以上、変に
動く事ができずその場で身構えていた。そいつは…
嬉しそうにニコッと笑い、裾を捲り、靴を脱いでこちら側へ来た。
俺だって急に来られたら焦る。
「なっ…何しに来たんだ?お前。」
睨みつけながら聞きだす。何の考えも無く来たらしく、急に
焦って「敵意は無いんだ」と手を振る。
『えーと…私はアレン=イクリプサ。よろしく』
アレン=イクリプサ。小さい頃から幾度か聞いた事のある名前。その存在が
今、目の前に居る事が恐怖でしか無かった。
(バレたら他の人間のように俺の容姿を笑うかもしれない。)
しかし、俺は毅然とした態度を取ろうと必死だった。
「俺は…シャーロットだ。」
強がりにしかならない強めの口調。意味も無いのに威嚇のように
鋭い視線を送る。
『シャーロットさんか。私ね〜、仕事が終わって出かけたんだけどあっつくて。
川の音が聞こえたから来ちゃったんだ。』
「…そうか。」
どうやらあんまり俺について詮索する気は無いようだった。
「まあ、危ないからな。気をつけろよ。」
背を見せたその瞬間だった。
『こんな暑いのにフード何か被ってたら余計暑いでしょ!ホリャッ!』
喜々として思いっきりフードを脱がされた。あまりに急ですぐに抵抗
できなかった。バッチリ見られた。太陽に照らされキラキラ光る毛と、
内が綺麗にピンクの犬の耳。さすがの一国の皇子でも
怖いであろう。そう思い彼の顔を見た。
『おお〜、犬だ。』
怖がりはしなかった。それどころか、何故か関心がいったようだった。
それが余計に不愉快だった。
「やっ…やめろ!見るな!」
俺は身を引き、彼の頬をバチンと叩いた。しかし、
貴族に手を上げたという事実を瞬時にして背負った。
彼は頬をさすったまま下を向き…黙った。急に怖くなった。
「あっ、…すまない…手を…出すつもりは……」
彼は目を瞑っていた。目を合わせたく無いのか。
(どうする。このまま帰らせれば、後に何が起こるか分からない。いっそ…いや、いけない)
様々な思いがぐるぐる巡っている時、彼が急に口を開いた
『ごめん。見たりして…そりゃわざわざ隠してたんだもん。嫌だよね。』
「…」
『じゃあさ、見ないようにこのまま目を閉じてるからさ、』
「?」
『お話しよう』
「…は?」
違うだろ。自分が皇子である事を忘れたのか?何故こんな
化け物に殴られ怒らないんだ?
『アレ…もしかして声も聞いちゃダメ?』
子供のように頬を膨れさせいじける。どうあっても俺と
居たいらしい。アレ…じゃないよまったく。
「俺が嫌じゃ無いのか。気持ち悪く無いのか。」
『うん。』
何故か少しうつむき加減になった。気を使って物を言ったのか?
目を瞑ったせいで眠いのか。自分から喋らなくなった。
えらく不気味だ。しかし、すぐにその意味が分かった。