初めまして、お茶です☺️
この小説は密室ミステリーがテーマとなっており、いじめ要素も含まれています。苦手な方は読まないことをおすすめします。
感想やアドバイスを書いてくださったら嬉しいです。
※誹謗中傷などは控えてください。
波打つことのないぼんやりとした意識のまま、志乃は手探りに自分の身に起きていることを理解しようとしていた。
赤黒い視界のまま、手は硬くてひんやりとしたものに触れていた。
その次は同じく冷たくて細長く、先端に触れると危ないと無意識に手から離した。さらに片手を這わせると、また同じ感覚だ。下の辺りは細いが上へ上へと指を動かすと、それは極端に太くなる。
……もしかして、今触っていたのって。
触覚に縋って、その縁らしき当たりから内部へ人差し指を侵入させていく。途端に冷たい液体の感触がして、反射的に手をそれから離した。
曖昧だった意識は、もうとっくにクリアになっていた。
今度は、自分の頭を覆うものに触れてみる。これだけは何なのか、正体がすぐに分かった。赤い布袋を引き剥がすと、自分がさっきいじっていたもの達が視界に現れた。
丁寧にセッティングされた皿とその上に乗っているナプキン。左にはフォークが二つ、右にはナイフが二つとスプーンが一つ。横には水の入ったワイングラスもある。その下には、真っ赤なテーブルクロス。まるで高級フランス料理店のテーブルである。
しかし、そんな感心は目の前に広がる光景によってかき消された。
布袋を頭に被せられたまま、椅子にもたれかかっている少女達がいる。
驚きのあまり、自分と同じ制服を着ているから、同じ学校の人達だと気付くのに時間が掛かった。顔も見えない正体不明の人物達が、死人のように力なく腰掛けている姿はなかなかの鳥肌ものである。
「……ここ、どこ?」
志乃は辺りをきょろきょろと見回した。
一言でいえば、そこは西洋の屋敷のようだった。
学校の教室を少し細長くした程度の広さの部屋には、煌々と輝きを保つシャンデリア、自分とは離れた位置にある暖炉、壁に掛けられたいくつもの剥製がある。
そして志乃達が囲む最後の晩餐で描かれたようなテーブルは、日本の高校生ではなかなかお目にかかれない。しかし、照明が薄暗いせいか、全体的に不気味だ。
初めて生で見る鎧も、好奇心よりも恐怖心が勝っている。本棚や壁に掛けられたいくつもの絵画、時計をじっと眺めていると、ふいに鹿の剥製と目が合ったような気がして志乃は小さく声を上げた。
耳が不快な音を拾った。人の悲鳴にも聞こえるそれは、そばのドアがゆっくりと開いている音だ。しかし、ドアを開いた人物がいないことに気付いた瞬間、勢いよくそれは閉まった。
「……何なの!?ここはどこ?」
湧き上がりる恐怖に志乃は立ち上がって逃げ出そうとするが、足に強烈な違和感を覚えた。
足が動かない。
テーブルクロスをめくってみると、足は床下に入っており、鍵の掛かった足枷が取り付けられているのが一目で分かる。これでは、椅子から立ち上がることは不可能だ。
人は身体の一部の自由を失った時、尋常ではないくらい取り乱すのかもしれない。
「嫌だ!助けて!誰が!」
パニックになりかけた志乃の声に反応したのか、布袋を剥がした人物がいた。即座に志乃はその人物を凝視する。
雪のように白い肌に、二つ結びの長い髪。トレードマークの黒縁メガネをかけている少女の名前を叫んだ。
「美和!」
志乃の席は一番端、向かい側の美和は反対側の一番端と、二人の間にはかなりの距離があるが、美和が眠そうに目を擦るのが鮮明に分かる。
やがて美和の表情は険しくなった。
「……ここはどこ?」
「私も分からない」
志乃の隣から布袋を引き剥がす音が聞こえてきた。
「加奈!」
「……志乃?」
加奈が怪訝そうに志乃を見つめる間に、また一人また一人と、彼女達は布袋を取っていった。
加奈の隣の桃、志乃の真正面の杏樹、美和の隣の遥、遥のすぐそばの誕生日席の玲、杏樹の隣の園子、園子の隣の亜矢。
顔を露にしたのが全員クラスメイトだということに、志乃は僅かに安堵した。彼女達はやはり、異世界のような部屋に困惑していた。
「何、ここ……」
「今、何時?」
「これ夢じゃないの?マジで現実なの?」
口々に彼女達は疑問を吐き出していく。
桃がまだ隣で眠りについている一番端の席の人物に目をやった。
「まだ寝てる……誰?」
玲が正体不明の人物の肩を優しく叩く。だが、その人物はだらしなく椅子にもたれたまま、一向に起きる気配はなかった。
彼女達は黙ってその様子を眺めていると、嫌な予感が芽生え始めた。
「まさか……死んでるんじゃ」
「袋被ってるから、窒息死とか!?」
「いやいや、そしたら私達も死んでるから!」
ヒートアップしていくネガティブな言葉に、玲の肩を叩く力は徐々に強くなる。
「起きてよ!起きて!」
その瞬間、肩を叩いていた玲の手は乱暴に振り払われた。
その人物は噛み付くような勢いで布袋を引き剥がすと、苛立ちのこもった眼差しで彼女達を睨んだ。
「うるっさい!眠いんだよこっちは!」
「なんだ、真由かぁ……」
桃が目を見開いて彼女、真由の名前を呟く。
真由は状況を把握しようと辺りを見回すが、眉間に皺を寄せるだけである。真由にもここがどこなのか分からないようだ。
「皆、最後の記憶は分かる?」
遥の言葉を発端に、志乃達は記憶を辿った。
「家に帰る途中だった」
「犬の散歩をしてたと思う」
「そういえば、ゲーセンに寄ってた」
「私は確か……学校に残って明日の卒業式の答辞の練習をしていた」
玲の回答で、志乃ははっと胸を突かれた。
そう、明日は卒業式で志乃達が高校生でいられる最後の日なのだ。
「明日は卒業式なのに、何で私達こんなところにいるの……」
亜矢が深い溜め息を吐いた。
志乃はポケットからスマホを取り出す。時刻は二十三時五十分を示していた。
ホーム画面を開くとすぐさまLINEのアイコンを押したが、画面上に圏外と表示されている。
「圏外だから、誰かと連絡取ることも出来ないよ」
スマホをホーム画面に戻しながら、志乃は言った。
「私、最後に時計を見たのは十七時頃だけど、大体七時間は眠らされていたってことだよね」
園子もスマホで時刻を確認した。
何種類もの壁時計を見上げると、それらはなぜか時間がそれぞれズレていることに気付いた。
「これ夢だよね?」
真由が誰ともなしに問いかけるが、夢ならどんなにいいかというのが全員の答えである。黙り込む志乃達の反応が不満だったのか、真由は仏頂面のままテーブルクロスをめくって床にしゃがみこんだ。足枷を外す気だ。
つられるように、志乃達もテーブル下にしゃがみこんで足枷を壊そうと試みるが、それらはびくともしなかった。
「何か他に方法は無いの?」
加奈は足枷から手を離し、席に着くとスマホの画面を開いた。志乃も着席して、画面を覗き込む。
「足枷の鍵はあるわけないし、スマホは圏外、WiFiも繋がらない……」
それにしても、と志乃はもう一度辺りを見回す。
改めて奇妙な部屋だ。
暖炉の上にはたくさんのキャンドル、テーブルの中心には綺麗に並べられたフルーツや薔薇、ゴシック風のソファは外国の洋館に訪れたような錯覚に陥りそうになる。
いや、そもそもここは日本なのだろうか。それすら、今の自分達には分からない。
「そういえば……」
亜矢が口を開いた。
「この席順って、前にもどこかで見たことがある気がする」
「確かに!」
桃が何度も頷いた。
「でも、いつだったかなんて覚えてないよ」
玲が眉を八の字にする。
「一つ誰も座っていない席があるけど、そこに座っていたのは?」
園子は玲から遠く離れた向かい側の誕生日席を指した。
「あ!」と加奈が声を漏らした。
「クラスメイトは三十人だけど、ここにいるのは十人で全員。このメンバーに、何か意味があるのかな?」
「……思い出した!この席の並び方!」
亜矢が慌ててスマホで画像を探すと、それを隣の園子に見せた。志乃もその画像を見る。
画像には今の席順でカラオケで遊んでいる自分達が映っていた。そして、園子が指摘した空席に座っていたのは……。
「梨穂」
玲が無表情のまま、席の主の名前を口にした。
部屋中が凍りついた。ある者は目を泳がせ、ある者は顔を青ざめている。
沈黙が流れる中、志乃はあの画像をこの状況に結びつけようと思考を巡らせた。
このメンバーには、きっと何か理由があるはずだ。
志乃は部屋中を見渡した。ふと、無秩序にキャンドルが置かれた暖炉台の中心に据えられている一冊の本が目に留まった。
「あ、それ!」
志乃は目を輝かせながら、スマホでその本の写真を撮った。
「本がどうかしたの?志乃」と玲。
「この本、ヘミングウェイの著書『I Guess Everything Reminds You of Something』ってタイトルなんだけど、翻訳すると『何を見ても何かを思い出す』って意味なの。同じクラスの中からこのメンバーが集められたのは、きっと何か理由があるはず。このおかしな部屋にもきっと意味があると思った時、この本を見つけたの。この本は、私達へのメッセージじゃないかな。私達を連れてきた犯人は、何かを思い出せって言ってるんじゃない?」
志乃は間を置いて斜め右の空席を見つめ、続けた。
「もしかしたら、ここにいない梨穂のことを思い出せってことじゃない?」
彼女達が一瞬後ろめたそうな表情をしていたのを、志乃は見逃さなかった。『あんなこと』があれば、そうなるのも仕方がないが。
「……尾澤梨穂、十八歳。県内最大の総合病院の理事長で、県議会議員の娘として生まれた。その親譲りのカリスマ性でクラスの中心的な存在だった。六月に学校内で事故があって車椅子生活になった。その後不登校がちになって、去年末に失踪した」
ナレーターのように淡々と梨穂について記憶の限り説明するが、特に部屋に何も変化はなかった。
「海外に留学したって聞いたけど」
「私は精神科に通ってるって噂で聞いたよ」
「父親の夜逃げじゃなかったっけ?」
予想はしていたが、やはり皆聞いたことはバラバラだった。実際梨穂が失踪した時、様々な噂が流れていたのは知ってはいる。
正面に座る杏樹は声が出なくなっているため、スマホのメモアプリに文字を打ち込んで見せてくれた。
『私も本当はどうなのか分からない』
そのメモを読むと、志乃は軽く頷いて彼女達に向き直った。
「梨穂が今どこにいるのか、自分達はなぜここにいるのか、考えようよ。だって、ここにいるのは梨穂をいじめていたメンバーだよ!」
志乃の目を見て話を聞く者はいなかった。
「これは梨穂をいじめていた報いじゃないかな。私は直接はいじめていたわけじゃないけど、黙認していたから同じだよ」
志乃が話し終えるのと、テーブルにある時計のベルが鳴り出したのは同時だった。
止まることのないベルは、志乃達の顔を歪める。
「何なのこれ!」
「止められないの!?」
不快感に顔を顰める真由が、時計に手を伸ばした。
ふいに、けたたましいベルとは違う音が志乃の耳に届いた。ガタガタと何かが揺れている音。
「ちょっと、どういうことなの、これ!」
亜矢が足元を見ながら叫んだ。
志乃はテーブルクロスをめくって、亜矢の足元を覗く。亜矢の足枷がガタガタと動いている。いや、動いているだけではない。床下からじわじわと噴水のように水が溢れ出していた。
もしかして亜矢の足枷の鍵が解除されるのではないか、と淡い期待が浮かんだ。しかし、本当にそうなのだろうか?
「足枷どうなってるの!私、どうなるのよ!」
亜矢はテーブルクロスをぎゅっと握り締めると、向かい側の席の加奈に懇願の眼差しを送った。
「助けて、梨穂に謝って!」
「……え?」
明らかに動揺を見せる加奈。
加奈に「どういうこと?」という視線が注がれる中、「私じゃない、やったのは加奈だから」と亜矢は呪文のように繰り返した。
その瞬間、部屋に暗闇が訪れた。誰かの悲鳴が上がる。停電だろうかと考える隙間すら与えずに、部屋の明かりはすぐ点いた。
明かりが点って、志乃は安堵する。
しかし、本来空いてるはずのない空席が視界に入って、志乃は目を大きく見開いた。
亜矢の席には誰もいない。
「何で亜矢がいないの!?」
「消えた!?」
主を失った椅子を志乃達は呆然と眺める。
やがて、その視線は椅子から加奈に移っていった。
とても面白いですっ!続きがとても気になりました♡
7:お茶:2020/05/26(火) 23:49 >>6
ありがとうございます!☺️
「『やったのは加奈だから』ってどういう意味?加奈」
志乃が隣の加奈に顔を近付ける。
加奈は唇をぷるぷると震わせている。動揺している証拠だ。
「里穂をいじめていたのは皆も一緒だけど、『やったのは』っていう言葉には引っかかるよ」
頬杖をつく遥。
加奈が白なら、すぐに否定に入るはずだ。それなのに黙っているのは、黒の可能性が高い。
正直、パニックになった亜矢が責任逃れのつもりで、誰か一人を責めようと仕向けたことも考えたが、それは有り得なさそうだ。
「前から思っていたけど、加奈と里穂の間には絶対何かあるな、って感じてた。さっさと白状しなよ!」
真由が眉を吊り上げて怒鳴った。
「ていうかさ」
美和が話題を切り替える。
「杏樹の声が出なくなったのは、三ヶ月前くらいで、ちょうど里穂が失踪した時期と重なるよね」
「確かに……」
真由の相槌を皮切りに、今度は杏樹に疑惑の目が向けられた。
当の杏樹はというと、わかりやすく唇を歪めている。声が出ないため、加奈と違って白か黒か見極めるには難しいが、美和が言いたいことも一理あるだろう。
その時だった。それは、テレビで見るスローモーションのようにも感じた。五つはあるであろう緑と灰色それぞれの物体が天井から落ちてきた。
ボトボトという音とともにテーブルクロスや食器、フルーツ、薔薇の上に着地したそれらは、志乃の視界にひょっこりと現れた。それらは、蛙と鼠だった。
「嫌!!」
「何で天井から降ってくるの!」
蛙と鼠、特に鼠は着地した瞬間、テーブルの上で暴れ回っていた。
それは人にも連鎖反応していく。悲鳴を上げたり、捕獲しようとするけれど、綺麗にセッティングされていた食器達が規律を乱していくだけである。
志乃の食器の上でこちらを見つめる蛙と目が合い、思わずゾワッと鳥肌が立つ。
志乃はテーブルの下に隠れると、既にそこには園子、遥、美和、桃、真由はいた。下にも蛙と鼠が落ちてくるかもしれないのに、完全に避難出来たと言わんばかりか、彼女達は妙に落ち着いた顔をしている。
「そういえば、蛙と鼠で思い出したんだけど……」
「園子?」
「美和と遥が里穂の鞄におもちゃの蛙とか鼠を入れていたよね」
「そういえば、そうだったかも……」
どこか他人事のように美和は頷く。今度は真由が口を開いた。
「里穂が図書館横の階段から落ちた車椅子の原因になった事故で、当時一人挙動不審な亜矢を私は疑っていたけど、もしかしたら加奈も共犯者じゃないの?ちなみに、あの現場には蛙のおもちゃが落ちていた」
志乃の中で、絡まり合っていた無数の糸がようやく解けた。あの言葉がリフレインする。
『I Guess Everything Reminds You of Something』
「ここで起きていることは全て、里穂からのメッセージなんじゃない?蛙と鼠、さらに部屋にたくさんある本は図書館を連想させるもの、この足枷も立って自由に動けない、里穂の狙いは自分を車椅子生活にした人じゃないかな」
真由は思い立ったように椅子に座り直した。志乃達もそれにならって席に着く。
ふと辺りを見回すと、蛙と鼠は何かに誘われるように、部屋の端の小さな穴へと消えていった。
「この部屋の中の一番の嘘つきを今から吊るし上げてやる。ここから出たいなら、黙って従って」
真由は加奈を見ながら、そう宣言した。
加奈の顔色は、明らかに悪い。
「加奈、私にスマホ渡してくれる?」
真由が加奈に手を伸ばした。
真由の考えは大体予想出来た。きっと、里穂が事故に遭った後に亜矢なら、加奈にLINEの個人チャットで何か送っているはずだと。
真由の要求にどうするんだと猜疑と好奇の眼差しを耐えるように、加奈はスマホをぎゅっと握り締めた。
「……分かった。その代わり、真由には見せない。志乃だけになら見せるよ」
名前を呼ばれた志乃は、反射的に加奈に向き直った。
「どうして……私、嘘つけないよ。皆に見せなよ」
「私を疑っているの?私達、春から大学も同じだよ」
「早く罪を認めなよ。私だって助かりたいんだから」
自分から加奈に対して、こんなに冷たい声が出るとは思ってもみなかった。
加奈とは一年の時から仲が良く、お互い国立大学を志望していたため、よく勉強会をしたりしていた。穏やかで真面目な彼女とは相性が良く、親友とも呼べるような関係だった。それなのに、このような形でそれは壊れてしまうのだろうか。
「さっさと謝りなよ!」
行き場がなくなりつつある加奈を、真由がさらに迫る。
加奈はキッと真由を睨みつけた。
「……そういう真由も、里穂の顔を傷付けるために里穂の近くでガラスを割ったじゃん!」
「あれは違う!わざとじゃない」
身を半分乗り出しながら、必死に真由が弁解すると同時に、再びあの耳障りな時計のベルが鳴り響いた。
「また!?」
「まさか、また誰かが消える?」
美和のその言葉は、ほぼ正解だと言えるだろう。隣にいる加奈の足元から、異様な振動を感じたのだから。
「足枷が……!!」
テーブルクロスを両手で掴みながら、加奈は顔を歪めた。
志乃は加奈の足元を覗いてみると、やはり足枷はガタガタと揺れ動き、水が溢れ出ている。亜矢の時と全く同じだ。
「何で……私は何もしてない!」
「謝ってよ!」
再び真由が迫った。
「ただ驚かせようとしただけ、里穂が自分からわざと階段を落ちたんだよ!私見たんだから!」
「そんなの信じられないよ」
美和が吐き捨てるように言う。
加奈が信頼を失った今、彼女の言うことは眉唾ものである。志乃には、加奈を庇う気はなかった。
「謝ってよ!謝れば皆助かるんだから!」
真由に続いて、遥も謝罪を要求する。
加奈の顔からは、大量の汗が吹き出ていた。彼女達からの軽蔑の眼差しには我慢していたようだが、足元から這い出てくる恐怖には打ち勝つことが出来なかったようだ。
「……ごめんなさい。ごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
加奈は謝った。自分自身を抱きしめて、狂ったロボットのように何度も何度も。
加奈の過呼吸のような激しい呼吸音、鳴り響くベル、ガタガタと音を立てる足枷から逃げるように、目を閉じて耳を塞いだりする者もいた。
いつの間にか恐怖に怯えていた加奈の瞳は、憎々しげに里穂の空席を見つめていた。
「ふざけんな里穂!全部あんたが悪いんだ!」
その言葉を最後に、電気はバチンと消えた。
暗闇が保たれる中、志乃の耳には何度もさきほどの加奈の言葉が跳ね回っていた。
憎しみのこもった瞳。荒らげた声。きっと、あれが加奈の本性だったのだろう。全身がぞわぞわする。
電気が点灯すると、加奈は消えていた。これを予想していたせいか、不思議と驚くこともなかった。
志乃はただ、ぽつんと寂しそうに据えられた椅子を眺めていた。
「……結局、足枷外れてないじゃん!」
唇を噛み締める真由。
「このまま順番に消されていくのかな」
不安そうに桃が志乃達を見渡す。
「そもそも、消えた後どうなったんだろう……まさか」
玲がそう言いかけた時だった。ぽたぽたと天井から、何かが降ってきた。
蛙や鼠と違ってそれは液体だった。真っ黒な液体はテーブルクロスを汚し、ある者のナプキンを、ある者のワイングラスの水を黒く染めていた。異様な臭いが辺りを漂う。
「もしかしてこれって油?」
園子が黒く染まったワイングラスを眺めた。
「いっそ火を点けて、全部燃やしちゃえばいいかも」
投げやりな桃の呟きに、遥も首を縦に振った。
「火事を起こせば、消防車が来てくれるから良いアイデアだね」
遥はポケットからライターを取り出した。が、それは呆気なく美和に奪い取られた。美和の表情には、怒りや焦りが現れている。
「馬鹿なことしないで。そんなことしたら、消防車が来る前に死ぬよ」
低いトーンでそう叱咤すると、美和は本棚の上に目掛けてライターを投げた。
しかし、桃はまだ諦めてはいないようだ。
「どうせ順番に消されるなら火事を仕掛けてみたい。ライターが無くても、部屋にはキャンドルがあるから、それを倒せばいい」
「やめなよ!ねぇ!」
真由が止めに入るけれど、何かに取り憑かれたように、桃は無表情のまま食事用のナイフを一本キャンドルに向かって投げ出した。幸いそれは的を外れた。
悲壮感に溢れたこの光景を、志乃はただ黙って見ていた。
少しずつ彼女達は正常という領域から、離れようとしている。完全に志乃達の気持ちはバラバラでめちゃくちゃになっていた。
どこか懐かしいメロディが耳に入ってきた。遥がスマホから流しているのだ。曲調や歌声から、合唱曲のようである。Aメロが終わりを迎えようとしていた時、この曲が何か思い出した。
「それ、去年の学園祭で歌った曲だ」
「うん、『COSMOS』って曲。結構気に入って、何か嫌なことがあるといつも聴いていたんだよ」
「里穂から何か嫌なことされた時とか?」
桃の質問に黙って遥は頷く。
「この油も何か里穂からのメッセージだよ」
園子が未だに天井からぽたぽたと落ちていく油を眺めて、そう訴えた。すると、園子は隣にいる杏樹に目をやる。
「ねぇ……杏樹、どうして声が出ないの?受験で忙しかったけど、皆心配してたよ。それなのに、電話もLINEも無視して、一体どうしちゃったの!?」
園子の声色は酷く心配しているようにも、怒っているようにも感じられた。
杏樹が何やらスマホに必死に何かを打ち込んだ。伝えたいメッセージでもあるのだろうか。打ち終えると、杏樹は園子に画面を見せた。
「『犯人は里穂じゃない。別にきっといる』……?」
必死に首を縦に振る杏樹。
「里穂じゃないとしたら、何でこのメンバーなの?」と桃が問う。
再び杏樹はスマホに文字を打ち込むと、それを桃にかざした。
「『学園祭、ラクロス部が揚げ油をこぼした』?」
文字をゆっくり読み上げる桃だが、何のことだが理解していない様である。
「ラクロス部が学園祭でめちゃめちゃ怒られたの覚えてる?ドーナツの屋台をやろうとして、それ用に使う揚げ油が全部こぼれちゃった事件」と園子が杏樹の代わりに説明した。
「それって、管理が甘いって先生に怒られたよね?」
志乃が尋ねる。
『この油はその事件を思い出せというメッセージ』と杏樹は伝えた。
「その事件って、あれの一つでしょ?」
「あれって、あれ?」
「あれで見た覚えある」
「あれだとしたら、犯人って……」
その時、全員のスマホのバイブ音がした。
ここは圏外でWiFiも繋がっていないのになぜ、という疑問を隅に置きながら、志乃はホーム画面を開いた。
そこにはTwitterの通知に『真っ白な正義さんがツイートしました』と表示されていた。この通知に、誰もが「何で?」と思ったのは間違いないだろう。
亜矢が放課後の教室でイヤフォンから流れる音楽を聴いていると、ドアがゆっくりと開いた。
里穂と加奈だ。亜矢はイヤフォンを外して、こちらに近付いてくる二人に尋ねた。
「どうしたの?」
「私達の仲間にならない?」
何気ない笑顔で加奈は言った。
「仲間?」と亜矢が聞き返す。
「一緒に汚れた世界を真っ白にして行こう」
里穂はまるで小さな子供のように、瞳を輝かせた。説明をしようと里穂が口を開きかけたところで、ポケットにしまっていた里穂のスマホが鳴った。研修医の彼氏から電話が掛かってきたらしく、加奈にこの場を任せて去って行った。
『真っ白な正義』というTwitterのアカウント、通称『マッシロ』。メンバーは皆里穂に選ばれた者で、その人のみIDとパスワードを教えてもらい仲間となれる。一つのアカウントを共有しており、各自が行った行動を投稿していてパスワードは絶対他の人に教えてはいけない。また、その投稿は誰が投稿したものか詮索するのも、暗黙のルールで禁じられている。
「それで、私は何をすればいいの?」
「気に入らないことがあったら、ここに写真や動画をアップするの。真っ白は正義のアカウントで、世の中の間違ったことを正して世界中に広めていくんだよ」
例えば、と歩き煙草をしている人に水鉄砲で水をかけた動画を、自分がやったと加奈は見せた。他にも、点字ブロックの上に停められた自転車をどかして、山積みにした写真もある。
「凄いけど、私がやったってバレたら……」
亜矢が表情を曇らせた。
「でも、他の人には秘密だから大丈夫だよ。いざとなったら、里穂の父親もいるし」
「なるほど……」
加奈が亜矢にかざしたスマホには、悪を懲らしめる様々な活動内容が羅列していた。
それをじっと見つめていた亜矢の唇も、少しずつ綻びを増していった。
*
「マッシロの通知だ……」
「そんなことより警察!」
WiFiが繋いでいることに気付いた真由が、警察に電話するよう指示する。しかし、繋がることはなかった。無機質な待機音がするだけである。
助かるかもしれないという期待が打ち砕かれ、志乃は大きな溜め息をついた。
「ねぇ、今のマッシロの投稿見て」と園子。
志乃はTwitterを開いて、マッシロのアカウントを表示させると、思わず口をぽかんと開けた。
そこには『I Guess Everything Reminds You of Something』というメッセージとともに、さっき亜矢が見せてくれた写真が投稿されていた。
このアカウントのIDとパスワードを知っているのは、里穂とここに集められた者だけだ。
「里穂が投稿したのかな?」
「それとも、亜矢か加奈?」
「でもここは圏外なんだから、里穂以外のメンバーは投稿出来ないでしょ」
この写真とメッセージ。やはり、自分達に何かを思い出せとアピールしているのだろうか。
「分かった!」
園子が壁をじっくりと眺めて閃いた。
「部屋にある複数の時計のどれかが十二時丁度になった時、灯りが消えて人が居なくなるんだよ」
志乃達はすぐさま時計の数を数え始めた。
部屋の時計は十一個、椅子の数も十一個、マッシロのメンバーも十一人。園子の推測は、間違っていないかもしれない。
「じゃあ待ってよ!あと六分で十二時になる時計があるよ!」
桃がその時計を見上げながら、焦燥感を露にした。
また、この中の一人が消失する。それは自分なのかもしれない。恐怖が志乃達を蝕んでいく。
「何かを思い出させってこと?マッシロの投稿についてじゃない?そのことを反省しろってこと?汚れた世界をマッシロにしようとか言っといて、最後には軽犯罪みたいなことまでやらせて!?」
真由が半ば混乱気味に問う。
「みたいなって完全にアウトだよ!」
「私達、里穂にやらされていただけだし」
「脱線するのやめようよ!時間無いんだから!」と志乃が苛立ちながら、止めに入った。
杏樹がメッセージを志乃達に見せた。志乃がそれを読み上げる。
「『マッシロの被害者かもしれない』……」
「確かに、その可能性は有り得る」
遥が同意した。
「早くマッシロでやったことを告白しよう!」
園子が鬼気迫る表情で全員の顔を見渡すが、それに応える者は誰もいなかった。今更犯罪に近い行為を自白したくないだろう。責任逃れという言葉が相応しい空気だ。
痺れを切らした志乃は、マッシロのある投稿を彼女達に見せつける。
「ブラック企業の社長の車に白ペンキを塗った投稿は誰のもの?ちなみに投稿日は、七月二十日。流石に敵に回すにしては、悪過ぎる相手だよ」
「それ、やったのは亜矢と加奈だから」と真由。
真由はスマホを操作すると、雑音混じりの音声が流れてきた。
学校の廊下で撮影した動画のようである。動画には桃が映っており、流行りのダンスを踊っている。
一見普通の女子高生らしい動画に見えるが、二十秒を過ぎた辺りで、見慣れた二人の横顔が桃の後ろを通り過ぎて行った。亜矢と加奈だ。亜矢の手にはしっかりと白ペンキのバケツが握られていた。
動画が撮影された日も七月二十日と表記されているため、二人がやったのは確定だ。
「もう時間ないから、私が告白する!」
園子がテーブルクロスを握り締めた。額から汗が流れている。
「私は古文の先生の誤字脱字集を作った」
「それまだマシな頃のマッシロじゃん!」
呆れたように真由が指摘する。その瞬間にも、時間は刻一刻と迫っていた。あと十秒だ。
「時間ないよ!!」
志乃が叫ぶとともに、ベルが鳴り出した。十二時がやってきたのだ。
部屋の灯りは消え、瞬く間に点灯した。
志乃は席を見回すと、目を見開いた。亜矢と加奈以外の席にはきちんと全員いた。部屋に異変も見られない。
途端に、耳障りな音が扉の方から聞こえてきた。
誰かがやって来たのだろうか。自分達を閉じ込めた犯人か?それともいなくなった亜矢や加奈か?
志乃達は恐る恐るドアの方に目をやった。
そこには、最初自分達が被せられていた赤い布袋を頭に被っている一人の男がいた。男は黒いスーツを身にまとっているため、この洋館のような部屋だと執事に思える。しかし、布袋の目だと思われる部分は小さく切り取られており、不気味さを醸し出している。
志乃を含め皆、謎の男の登場に言葉も出ない状態である。
男は入室する際に運んできたワゴンを押し始めたと思いきや、床を叩きつけるような音が部屋中に響き渡った。
志乃は男の足元を見てみる。男は左足を引きずりながら、一歩ずつゆっくりと歩いていた。その男が一歩一歩進む度に、ガタンという音が志乃達の恐怖心を煽っていく。
志乃は自分の後ろを通り過ぎようとしている男の足音を、びくびくと感じていた。
すると、男の手は志乃の肩に伸びた。危害を加えられるのではないか、と冷や汗をかいたが、それは杞憂であった。
男は油で汚れた食器を持ち上げたと思いきや、それをワゴンに乗せたのだ。志乃のワイングラスやナイフなど、全ての食器をワゴンに乗せると、今度は加奈がいた席の食器を片付け始める。
「あの……誰ですか?」
園子が加奈の席から離れようとする男に問う。男は立ち止まると、園子の方をじっと見つめたが、無言のまま桃の食器を片付け始めた。
その様子を見ていると、志乃ははっと目を見開いた。桃の横の真由だ。真由は俯いたまま、テーブルにあったナイフをこっそりとスカートで隠したのである。
男を刺す気だ。いや、もしかしたら園子の質問に答えされるための脅しに使うのかもしれない。
志乃は止めることなく、その様子を固唾を呑んで見ていた。
やがて男は真由のところに移動する。真由の男を睨む鋭い眼差しは、こちらからでも窺えた。
その時だった。男は真由の食器を片付け終えると、テーブルクロスを捲りあげた。それによって、真由が隠し持っているナイフが露になる。
流石の真由も顔を青ざめていた。ナイフを持つ手が、痙攣したようにぷるぷると震えている。
しかし、男は何事も無かったようにテーブルクロスを元に戻した。真由のナイフを取り上げることも、真由に危害を加えることもなく、今度は玲の食器をワゴンに載せている。真由は額から流れ落ちる汗を拭うと、安堵の溜め息をついた。
やがて男は全員分の食器を片付け終え、テーブルの中心にあるフルーツや薔薇もワゴンに載せていった。
最後は油で黒い染みができたテーブルクロスを、同じ色の清潔なものと交換し、一人一人の前に何も入っていない透明なティーカップを置いた。そして片足を引きずりながら、重厚な扉を開けてワゴンとともに去って行こうとする。
志乃は慌てて、身を半分乗り出した。
「待って!どうすれば解放してくれるんですか?」
男は足を止めた。切り込まれた布袋の奥の瞳から、志乃をまじまじと見る。
しかし、男は何も言わずに部屋を出て行ってしまった。
緊張の糸が解けた美和が伸びをした。
「あの人、もしかしてマッシロの被害者じゃない?」
「いや、もしかしたら自分達と同じで無理矢理連れて来られたんじゃない?」
「でもそしたら、あんな覆面被ったりしないし、私達の質問に答えていたはずだよ」
玲の言う通りだ。同じ境遇なら、すぐに助けを求めようとするだろう。わざわざあんな犯人側の人間だと思われるような格好も行動もしないのが普通だ。
「思い出した!マッシロで告発されたスーパーの店長が確か足が悪かったよね」と桃。
「やっぱりマッシロの被害者に懺悔しろってことなんじゃ?」
そう言って、志乃は時計がまたすぐに十二時になっちゃうから早く、と促す。
「でも、さっき誰も消されなかったよ!」
遥が眉をひそめて言った。
二人連続消えたにも関わらず、さっきは全員無事だった。それがあってか、誰も告白する者はいない。
どうして皆こうも罪から逃げようとするの、と志乃は唇を噛んだ。
「スーパーが消費期限を偽装している投稿をしたのは誰?」
苛立ちを含んだ声で、志乃が問いただした。
すると、扉がギイという耳障りな音を立てて、再び男がワゴンとともに現れた。
今度は何なんだ、と周囲に緊張の糸が張り詰める。ワゴンに載っている透明なポットには、コーヒーが入っていた。
この男は、自分達にとって味方なのだろうか。それとも敵なのだろうか。どちらにしろ、この男が鍵となることはほぼ確定だろう。
「……あの、あなたも拉致されてここにいるんですよね?私達に協力して下さい!一緒に逃げましょ!この足、どうすれば外れるの?」
桃が最後の女神に縋るように、男の姿をじっと見た。
男は片足で不器用に志乃に近づいたと思いきや、テーブルの上に置いていた志乃のスマホを手に取り、志乃に渡した。
そして、本来里穂の席であろう椅子に座り、無言のまま人差し指を机に叩いて志乃に指示を出す。
スマホにはさっき投稿主を尋ねた投稿が表示されている。もしかして、この投稿主を探せということだろうか。
「この消費期限切れの投稿をやったのは?」
「亜矢じゃない?確か亜矢の従兄があのスーパーでバイトしているって言ってた」と遥。
「犯人は亜矢です。だから、私達を解放して下さい」
桃がテーブルクロスをぐしゃりと掴みながら訴えた。しかし、桃の要求を無視するように男は『次』と無言で再び机を叩く。
「投資詐欺した人の財布を盗んで、全額募金箱に入れた写真を投稿したのは誰?」
志乃の質問には答えず、彼女達は視線をテーブルに落とすばかりであった。
その時、床の方から金属音が聞こえた。真由がスプーンを落としたらしい。
スプーンが置かれていた場所を考えると、真由はわざと落としたのかもしれない。
男はスプーンを拾うために真由に近付くと、志乃の口からはっと息が漏れた。
真由は結局回収されることのなかったナイフを、まだスカートに隠し持っているのである。銀のナイフは鈍く輝き、少し震えている。志乃はごくりと唾を呑み込んだ。
その瞬間、真由の向かい側でガラスが割れるような音がした。音の主を探してみると、どうやら園子がティーカップを割ってしまったらしい。それは故意なのだろうか。
一見プラスチック製に見えるティーカップだが、造りはガラスであったため、音からして粉々になっているだろう。
「ごめんなさい」
わざとらしく園子が謝ると、ガラスを拾おうと屈む。
男は園子の元に近付くなり、園子の指が切れているのを確認し、ハンカチを渡した。そして、ガラスを丁寧に片付け始めた。
その様子に、志乃達は驚愕した。園子に優しくするところを見ると、もしかしたらこの男は味方側なのかもしれない。何かしらの理由で自分達の質問には答えられないが、最低でも安全は保証してくれる存在なのだろうか。
だが、園子が一瞬の隙をついてガラスの破片を男の首に突きつけた瞬間、志乃の希望は消え去った。
「今すぐ全員解放して!じゃないと……」
男を睨む園子の顔は、普段のおっとりした表情と比べて、断然険しかった。
男は先端が震えているガラスを奪い取り、園子の後ろに立つと、彼女の足元からガタガタと振動を感じた。園子の足枷が動き出したのだ。
「ねぇ!何で!?何で解放してくれないの!?」
園子は頭を抱え込んで絶叫した。園子の目からは大粒の涙が溢れ、それは頬を伝って流れ落ちていく。
そんな園子に、彼女達は哀れな視線を注いでいた。三度目のこの光景には、良くも悪くも慣れてしまった。
男はスーツの胸ポケットからハンドベルを取り出し、それを思いきり鳴らした。時計のベルに似た音が部屋に響き渡る。
志乃が耳を塞ぐと、やがて電気は消えた。そして、すぐに点灯する。
園子の席には、誰もいなかった。
それは、よく晴れた日の朝だった。
教室に入るなり、このクラスの担任の水瀬は白い歯を見せて生徒に挨拶をした。HRが始まるため、生徒達は一斉に席に着く。
もう一度教室の扉が開くと、あくびをしていた生徒も眠気が吹っ飛ぶくらい目を大きく開けた。
教室に足を踏み入れたその女子生徒は、緊張した面持ちである。しかし、注がれるたくさんの好奇の眼差しを全て受け止めるように、女子生徒はしっかり前を見据えていた。
水瀬は「お待ちかねの転校生だ!」と紹介する。四十代であろう水瀬の額には、皺が寄っていた。
女子生徒は軽く頭を下げると、口を開いた。
「鴨原園子です。よろしくお願いします」
園子は水瀬に促され、窓際の一番奥の席に座った。
隣の少女に目をやる。その少女はキリッとした端正な顔立ちをしているが、園子に向けた柔らかい笑みは近寄り難い雰囲気を感じさせない。ショートボブの髪もよく似合っていた。
「よろしくね」
園子は挨拶すると、少女は声を控えめにして言った。
「世界を変えることに興味ある?」
園子は首を傾げた。胡散臭い宗教の勧誘のようだと、少しばかり警戒する。
「私達と一緒にこの汚れた世界を真っ白にしていこう」
*
「何が目的なの!何とか言いなよ!」
机を叩きながら男を問い詰める真由を、男は無視する。
男は一人一人のティーカップにコーヒーを注ぎ、それに白い粉末を加えて配膳していった。再び里穂の席に着席し、指を机に叩きつけて何かを促した。
「……飲めってことだよね」
「でも明らかに白い粉は毒でしょ!」
「違う!これを見て何かを思い出せってことだと思う」と志乃。
志乃は『I Guess Everything Reminds You of Something』と心の中で何度も繰り返し呟いた。きっと、この飲み物も里穂と何か関係しているのだろう。
桃が声を出した。
「マッシロの活動は元々正義のためで、最初は良いことをしていたけど、里穂が暴走してこうなったんです」
「あのさ、覆面野郎!私達にどんな恨みがあるか知らないけど、さっさとここから出してよ!早く!」と真由が挑発する。
男は片足を引きずって真由の元へ向かった。その間、真由が桃に耳元で何かを囁いていること、真由が桃にナイフを渡したのを志乃は見逃さなかった。
真由が何を考えているのかわからないが、三度目のリベンジが始まったのは確かだ。
真由はさらに挑発するようコーヒーを男に投げつけた。ガラスが割れる音が響く。
男は濡れたスーツを気にも留めない様子で真由の前に立つと、その後ろでは背後からナイフで男を刺そうとする桃がいた。
志乃はさっき真由が桃に何を呟いたか、なんとなく想像出来た。多分、真由は自分が囮になるから男を刺せとでも言ったのだろう。前よりも確実な方法に、志乃は緊迫感を忘れて感心してしまった。
しかし、瞬時に男は背後から忍び寄るナイフを察知し、それを取り上げた。一瞬の出来事である。男は取り上げたナイフを桃の首元に突き付け、コーヒーを飲むようティーカップを指さした。
脅しがかかっても、桃は明らかに怪しいコーヒーを拒もうと、ティーカップから目を逸らした。
「無理です!飲めません!」
だが、男はしつこく指示する。
桃の目から涙が溢れ出そうにになったところで、真由は桃のティーカップを自分の方に引き寄せた。
「やめて下さい、お願いします。私が飲むから許して!」
真由はこれまで男に対して見せたことのない必死な顔で懇願した。
男が許可を与える隙も作らずに、真由はコーヒーを半分口にしてみた。志乃達はその姿をじっと観察するように見つめる。
真由は苦しそうに咳き込んだと思いきや、「口がザラザラする」と顔を歪めた。
粉末が加えられた際は毒だと危惧していたが、真由の様子を見る限り、その心配はなさそうだ。志乃は胸をほっと撫で下ろした。
「何かの錠剤?」
遥の問いに答えたのは、杏樹だった。杏樹はスマホに文字を素早く打ち、それを見せた。
『睡眠薬かもしれない。最近よく飲んでるから』
「ねえ、もしかしたらこの投稿が関係しているかも」
遥は志乃達にスマホの画面を見せると、ハッシュタグに『悪いやつほどよく眠る』『金髪DV野郎』と書かれた動画を再生した。
動画にはカラオケに集められたいかにも柄の悪そうな四人の男子高校生が映っていて、金髪の男は女性に暴力を振るったことを自慢げに話し、豪快に笑っている。
一人の男がコーラを飲むと、顔を歪ませて「苦っ!」と声を漏らした。他の三人も試しに飲んでみる。
数分後、男達は眠りにつき、彼等の顔には『クズ』『サイテー』『ゴミ』『#マッシロ』と白いインクで一人一人に落書きされていた。
動画が終わった途端、男は立ち上がって遥と美和の間に立った。男の手にはスケッチブックと黒いペンが握られており、それを遥の前に差し出した。
「どういうこと?何かを書けってこと?」
遥は首を傾げて、誰ともなしに尋ねた。
「マッシロって書かせて、筆跡鑑定するんじゃない?」
答える志乃に、不安げに遥が頷く。
遥はペンを手に取ると、ぷるぷると震える手でマッシロと書いていく。書き終えてペンをテーブルに戻し、遥は男の方を見た。
「コーラと睡眠薬でこの投稿を思い出しただけで、犯人は里穂と亜矢なの」
遥の弁解に、美和も同意する。
「私達は里穂の指示で、あの男達をカラオケに誘い出しただけ」
二人の言葉に納得したのかしてないのか、判別出来ないまま男は再び歩き出す。全員の飲み物を回収して、ワゴンを押し運びながら部屋をあとにした。
「……あの男、誰なんだろう」
完全に閉められた扉を横目で見る桃。
「普通に考えれば、あの投稿された四人のうちの誰かでしょ」と美和。
「名前は覚えてないけど、不良で有名な高校の人達で、金髪がクラスの誰かと付き合っていてDVが激しかったらしくて、それを噂で聞いた里穂が行動したんだよ」
遥が頬杖をつきながら言う。
杏樹はスマホに打ち、『落書きだけでこんなことする?本当に金髪かな?』と疑問を投げかけている。
「するかも」
遥が即答した。
「あの投稿の後に金髪から電話があって、面子潰してぶっ殺してやるってめちゃくちゃ怒ってたよ。里穂に伝えると、口だけでしょって言ってたけど」
「そうだとしたら、かなり危ないよ。またあの男が戻ってくるかもしれないから」
玲が足をばたつかせると、それに伴って足枷もガタガタと揺れる。せめてこの足枷が外れれば良いのだが。
「……真由、もう危ないことしないで」
桃が真由の肩を掴んだ。
真剣そのものの瞳に、最初は合わせなかった真由の視線も、やがて交錯した。
「今日は卒業式で、きっと自分達がいなくて大騒ぎになるよ。ただでさえ、里穂が失踪して担任の水瀬もクビになって、めちゃくちゃなのに」
桃が口を閉じるのと同時に、扉の奥から床を叩きつけるような音がした。聞き慣れたその音に、志乃の肩は縮こまり、心拍数が徐々に上がっていく。
扉が開くと、あの男は金属バットを片手に再び現れた。正装には似合わない使い古された金属バットに、彼女達の注目はいった。
「……もしかして、水瀬の事件と関わっているんじゃ」
真由が呟く。
志乃は学校や家のテレビで耳にタコができるほど聞いたあの事件の概要を、脳内で整理した。
水瀬は他校の生徒と暴力事件を起こし、解雇処分が決定した。事件の際、水瀬はバットでその生徒を殴ったとも聞いている。
男は里穂の椅子に腰を落とすと、タブレットを取り出して、動画サイトでその事件のニュースを流した。画面上に事件の現場だと思われる歩道が映し出される。
水瀬は路上で口論になり、突き飛ばして怪我を負わせたと自供、生徒側は水瀬に金属バットで殴られたと主張していたとニュースキャスターが淡々と告げた。
「その引きずる足は、水瀬に金属バットで殴られたせいとか?」
「ていうか、誰か水瀬の居場所知らない?」
「わかんないよ。事件以降、会ったことないし」
「たとえば、クラスの中に水瀬と付き合っていた生徒がいて、水瀬の代わりにその生徒に復讐するってこと?」
志乃達が思考を巡らせて話し合っている中、男は杏樹の背後に立った。
杏樹は男に何かを伝えようと文字を打ち込み、遥に読み上げさせた。
「『水瀬は体罰とかしていたから無理』……」
男は今度は遥の後ろに移動した。遥の顔が強ばる。
「……水瀬は依怙贔屓とか激しかった。美和とか凄い気に入られていた」
すると、男は話を振られた美和の後ろに立つ。
「体育の個人指導受けてたけど、身体をいつもべたべた触ってきて気持ち悪かった」
男は無言のまま、美和に顔を近付け覗き込んだ。覆面の奥から見つめられている眼差しを逸らすように、美和は俯いた。
「水瀬は本当に、最低最悪な教師だった」
「気持ち悪い」
「裏で皆笑ってた」
彼女達の口からこぼれ出る水瀬への悪口に、志乃も目を細めて頷いた。
「別に嫌いじゃなかったけど、暴力事件に関しては失望した」
男は美和から離れると、再びハンドベルを取り出して、玲の後ろに移動した。男がベルを鳴らす。
玲は背後からの恐怖に耐え抜こうと、唇を強く噛み締めた。しかし、肩や手の震えから、怯えているのが手に取るようにわかる。
「玲!」
誰かの叫びとともに、部屋は暗転した。五秒足らずで点灯し、志乃は遠く離れた玲の席に即目をやった。
玲はそこにいた。幻覚でもなんでもない、本物の玲がちゃんといる。
玲は自分が消えていないことを確認して、ほっと胸を撫で下ろした。
しかし、志乃はようやくここで気付いた。玲の後ろを見つめる美和の目が極限にまで見開いていることに。玲もそれを察知し、恐る恐る背後を振り返った。
そこに立っていたのは、幽霊のように生気を感じられない表情をした水瀬だった。
放課後の静かな教室では、加奈と園子が亜矢に英語を教えていた。
過去問に苦戦しているのか、亜矢は力なく机に突っ伏した。
「rewindの意味は?」と、参考書を片手に加奈が訊ねる。
「再び風が吹く」
「違うよ、巻き戻す」
「えー、風を吹かそうよ」
亜矢はやる気のなさそうにあくびをする。そんな亜矢に、加奈と園子は苦笑した。
「ちょっと!英語教えてって言ったのは誰?」
「そんなだと、本当に受験受からないよ」
「明日は明日の風が吹くだよ」
懲りずに亜矢が呟いた。
すると、「お!」というボリューミーな声とともに、水瀬が姿を現した。驚いたように三人は水瀬を見る。
「先生、今度の夏祭り行くんですか?」
亜矢は手に持っていたシャーペンを机に置いて尋ねた。
「部活の合宿だから行けないなぁ。他の日も部活だらけだよ」と水瀬が頭を掻いた。
「プライベートは?」
「娘ももう大学生だし、プライベートは真っ白だな」
『真っ白』という単語に、亜矢は面白おかしく二人に「『真っ白』だってさ」と囁いた。
亜矢とは対照的に、加奈と園子は気まずそうに押し黙る。
ご機嫌だった水瀬の表情が僅かに暗くなると、
「鴨原、ちょっといいか?」
と園子に手招きをし、廊下に呼び出した。
きょろきょろと周囲を見回して人の目を気にしつつ、水瀬は控えめな声で話し始めた。
「尾澤のことなんだが、俺は本人から大事にはしたくないと言われているけれど、突き落とした人間を知っておきたいんだ。受験もあるし大事にはしないが、見て見ぬ振りをするのは自分の正義に反するんだ」
それに、と水瀬は続ける。
「普通は家族の方が騒ぐが、あそこの家は特別だから」
園子は視線を床に落とした。
「……私には、話すことは無いです」
期待とは離れた回答に、水瀬な溜め息を吐いた。しかし、それは怒りや苛立ちからくるものではなかった。
「仲間を売らないのも、一つの正義ではあるけどな」
*
「嘘……どうして」
美和が呆然と独り言のように言う。
水瀬は足を引きずって里穂の席に戻った。志乃は、その様子を警戒心を含んだ瞳で見つめる。
「た、助かりたい一心で嘘をついたんです!」
「まさか先生だと思わなくて」
「本心じゃない」
明らかにデタラメな言葉を必死に彼女達は水瀬に投げかけてる。それを無視するように、
「皆!覚えてたんだな、俺のこと」
と、水瀬は笑っていないのに嬉しそうな声色で口を開いた。
「先生?水瀬先生なんですよね?」
確認を取るように志乃が聞く。
「そうだ」
「私達をここに監禁したんですか?」
志乃は、ずっと聞きたかったことを質問した。
水瀬は意味ありげに笑った。
「俺は教師は天職だと思っていた。ところが、結果として未成年を殴った暴力教師か、あるいは生徒に手を出したセクハラ教師と呼ばれるようになった。俺は最低教師だ。例えば、そこに教え子を拉致監禁した変態教師という呼び名が増えても、それほど大した違いはないと思わないか?」
水瀬は手にしていた金属バットを軽くトントンと床を叩き、「神崎美和!!」と美和の名前を叫んだ。
「俺のことを一番最初に気付いてくれて嬉しかったぞ」
水瀬は金属バットを持ったまま、美和との距離を詰めていった。
「やめて、来ないで!」
金属バットで危害を加えられることを恐れた美和は、唯一自由に動かせる手で抵抗しようとしている。
「俺の何が怖いんだ?」
「バット持って言うセリフじゃないよ!」
真由の指摘に、水瀬は黙って金属バットを床に投げ捨てた。
「言ってくれ」
「……私がマッシロに『セクハラ教師』って投稿したから」
観念して告白した美和の投稿を、志乃は記憶の片隅から引っ張り出した。
確か、去年の九月か十月辺りの投稿だった気がする。『セクハラ教師』『ボディタッチ多い』『ロリコン』などとハッシュタグを付けられ、顔にモザイクをかけられた美和の柔軟体操を手伝うように、彼女の肩を掴んでいる水瀬が載っていた。
「その足の怪我について教えて下さい」
志乃が両手をぎゅっと握り締めた。
「私達はずっとあの金髪が先生にバットで殴られたと思っていましたが、その怪我が事件で受けた後遺症なら全部がひっくり返ります」
「どういう意味?」
真由が聞く。
「被害者は先生の方だったんだよ!被害者だったのに、相手の言い分が通ってしまった。そのことを私達に伝えたかったんですか?」
水瀬は有理の問いかけを無視して、
「佐久間玲!!」
と表情のないまま再び叫んだ。
玲の肩がびくりと震えた。
「この真っ白な正義の意味について教えてくれ。それが正義の活動だと言ったが、既に学校をクビになっていた俺のことをセクハラ教師と世間に知らしめることにどんな正義がある?」
水瀬は皮肉めいた笑みを向けると、タブレットを取り出した。
水瀬の唇は真一文字に戻り、タブレットの画面を志乃達に見せた。閉店と書かれている張り紙をされたスーパーの写真だった。すぐにそれがどこのかわかり、志乃は水瀬の意図を探る。
「マッシロに投稿されたスーパーだ……」
「ああ、これは食品偽造を指摘されたスーパーの末路だ。マッシロに投稿されてから、四ヶ月後に潰れたんだよ」
「ニュースで観たから知ってます。自業自得じゃないんですか?」
「……ニュースをきちんと観るべきだな。正確には偽装したのは精肉担当の社員で、スーパー全体でそれを許していたわけじゃない。店長には娘がいた。お前達と同じ高校三年生、だが目指していた大学を諦めるしかなくなった」
水瀬はさらに続ける。
「愛車をペンキで真っ白にされたブラック企業の社長は、自分に恨みを持つ社員の仕業だと勘違いし激怒。疑われた社員はさらなるパワハラに合い、今は過労で入院している」
水瀬は唇を歪めた。心ここにあらずという状態だった水瀬の目が鋭くなる。
「教えてくれ、お前達の活動にある正義の意味を!」
「正義はありません」
玲がきっぱりと答えた。
「じゃあ、あの九月の投稿は一体何なんだ!なぜ俺はセクハラ教師だと世間に流される必要があった?」
「正義を履き違えた里穂が暴走した結果です。美和も他の皆も彼女に踊らされてたんです。マッシロは私と里穂とそれからもう一人、小学校からずっと一緒だった幼馴染みと始めたんです。あるときその人が、スマホだけで悪人を退治出来るかもと言い出したのがきっかけでした。ちなみに私は、里穂が暴走し出してからは投稿していません」
最後の一言に桃が眉をひそめ、尖らせた口が開いた。
「里穂のいじめも校長に密告して、こうやってマッシロのことも水瀬に告げ口出来て良かったね」
「いつも自分は悪くないって顔して、自分だけ良い子になろうとしているから、ハブられるんだよ!」
同調する真由の言葉に、玲は口をつぐむことなく負けじと反論する。
「私は皆のためを思って言っているだけ。無理矢理マッシロをやらせたのは里穂だけど、だからってあんなによってたかっていじめるなんて……」
玲は確かにずるいかもしれない。
里穂と幼馴染みだからマッシロに入っていただろうが、大して親しい関係ではなかったなら、絶対里穂の姿を遠巻きに眺めるだけだっただろう。
もともとあまり前に出る性格ではない玲を嫌っている人は多かった。成績がずば抜けて良いとか、それを全く誇示しない態度にやっかんでいるだけであったり、里穂に近付きたい人が無条件で里穂と仲良くしている玲を敵視したりと、志乃からすればかなりくだらない理由ではあった。
しかし、里穂の様子がおかしくなり、いじめが始まった頃の見て見ぬ振りをしつつ良い子ぶる玲の姿勢に、マッシロのメンバーもイライラしていた。
「いいな、こうしていると教室に戻って来たみたいだ」
水瀬が恍惚とした笑みを浮かべる。
「真っ白な正義とは何だったんだ?悪人はどうやって決める?学校の先生や親は皆悪人なのか?」
水瀬は志乃達を問い詰める。
「尾澤里穂が教室でいじめられるようになったのは知っている。お前らもそれに参加したわけだよな?ムカつくからか?」
「あんただって、ムカつく高校生がいたからバットで殴りつけたんでしょ!実際どっちが殴られたかなんてどっちでもいい。高校三年の大事な時に担任が事件を起こしたのは間違いないんだから!」
噛みつくように真由が怒鳴る。志乃が口を挟んだ。
「それが私達のためだったとしたら?睡眠薬事件の金髪から電話でぶっ殺してやるって、それを止めようとしてあの事件が起きたんだとしたら全部つじつまが合うでしょ?そのことを私達に言わなかったのは、事件の詳細を言えば私達も事情を聞かれることになるかもしれないから。そうですよね?私達を庇ってくれてたんですよね、先生」
志乃の問いに、水瀬は首を縦に振って、
「その通りだ」
と、壁に掛けられた鹿の剥製を見つめる。
「学校を辞めさせられたことに後悔はない」
水瀬は目を閉じて、白い手袋を取った。
志乃ははっと息を止めた。水瀬の人差し指には、婚約指輪がはめられていた。
水瀬は金属バットを手に取り、桃と距離を詰めた。
「ここにいる人間から一人を選べ。そいつを今から処刑することにする!」
くく、と水瀬は残酷に笑った。目尻に皺が寄っている。
発想力凄いですね!!
これからも頑張ってください!!!
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ありがとうございます!頑張ります!