追憶の少女

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1:お茶:2020/05/23(土) 00:46

初めまして、お茶です☺️
この小説は密室ミステリーがテーマとなっており、いじめ要素も含まれています。苦手な方は読まないことをおすすめします。
感想やアドバイスを書いてくださったら嬉しいです。
※誹謗中傷などは控えてください。

2:お茶:2020/05/23(土) 01:09

波打つことのないぼんやりとした意識のまま、志乃は手探りに自分の身に起きていることを理解しようとしていた。
赤黒い視界のまま、手は硬くてひんやりとしたものに触れていた。
その次は同じく冷たくて細長く、先端に触れると危ないと無意識に手から離した。さらに片手を這わせると、また同じ感覚だ。下の辺りは細いが上へ上へと指を動かすと、それは極端に太くなる。
……もしかして、今触っていたのって。
触覚に縋って、その縁らしき当たりから内部へ人差し指を侵入させていく。途端に冷たい液体の感触がして、反射的に手をそれから離した。
曖昧だった意識は、もうとっくにクリアになっていた。
今度は、自分の頭を覆うものに触れてみる。これだけは何なのか、正体がすぐに分かった。赤い布袋を引き剥がすと、自分がさっきいじっていたもの達が視界に現れた。
丁寧にセッティングされた皿とその上に乗っているナプキン。左にはフォークが二つ、右にはナイフが二つとスプーンが一つ。横には水の入ったワイングラスもある。その下には、真っ赤なテーブルクロス。まるで高級フランス料理店のテーブルである。
しかし、そんな感心は目の前に広がる光景によってかき消された。
布袋を頭に被せられたまま、椅子にもたれかかっている少女達がいる。
驚きのあまり、自分と同じ制服を着ているから、同じ学校の人達だと気付くのに時間が掛かった。顔も見えない正体不明の人物達が、死人のように力なく腰掛けている姿はなかなかの鳥肌ものである。

「……ここ、どこ?」

志乃は辺りをきょろきょろと見回した。
一言でいえば、そこは西洋の屋敷のようだった。
学校の教室を少し細長くした程度の広さの部屋には、煌々と輝きを保つシャンデリア、自分とは離れた位置にある暖炉、壁に掛けられたいくつもの剥製がある。
そして志乃達が囲む最後の晩餐で描かれたようなテーブルは、日本の高校生ではなかなかお目にかかれない。しかし、照明が薄暗いせいか、全体的に不気味だ。
初めて生で見る鎧も、好奇心よりも恐怖心が勝っている。本棚や壁に掛けられたいくつもの絵画、時計をじっと眺めていると、ふいに鹿の剥製と目が合ったような気がして志乃は小さく声を上げた。
耳が不快な音を拾った。人の悲鳴にも聞こえるそれは、そばのドアがゆっくりと開いている音だ。しかし、ドアを開いた人物がいないことに気付いた瞬間、勢いよくそれは閉まった。

「……何なの!?ここはどこ?」

湧き上がりる恐怖に志乃は立ち上がって逃げ出そうとするが、足に強烈な違和感を覚えた。
足が動かない。
テーブルクロスをめくってみると、足は床下に入っており、鍵の掛かった足枷が取り付けられているのが一目で分かる。これでは、椅子から立ち上がることは不可能だ。
人は身体の一部の自由を失った時、尋常ではないくらい取り乱すのかもしれない。

「嫌だ!助けて!誰が!」

パニックになりかけた志乃の声に反応したのか、布袋を剥がした人物がいた。即座に志乃はその人物を凝視する。
雪のように白い肌に、二つ結びの長い髪。トレードマークの黒縁メガネをかけている少女の名前を叫んだ。

「美和!」

志乃の席は一番端、向かい側の美和は反対側の一番端と、二人の間にはかなりの距離があるが、美和が眠そうに目を擦るのが鮮明に分かる。
やがて美和の表情は険しくなった。

「……ここはどこ?」

「私も分からない」

志乃の隣から布袋を引き剥がす音が聞こえてきた。

「加奈!」

「……志乃?」

加奈が怪訝そうに志乃を見つめる間に、また一人また一人と、彼女達は布袋を取っていった。
加奈の隣の桃、志乃の真正面の杏樹、美和の隣の遥、遥のすぐそばの誕生日席の玲、杏樹の隣の園子、園子の隣の亜矢。
顔を露にしたのが全員クラスメイトだということに、志乃は僅かに安堵した。彼女達はやはり、異世界のような部屋に困惑していた。

3:お茶:2020/05/23(土) 22:57

「何、ここ……」

「今、何時?」

「これ夢じゃないの?マジで現実なの?」

口々に彼女達は疑問を吐き出していく。
桃がまだ隣で眠りについている一番端の席の人物に目をやった。

「まだ寝てる……誰?」

玲が正体不明の人物の肩を優しく叩く。だが、その人物はだらしなく椅子にもたれたまま、一向に起きる気配はなかった。
彼女達は黙ってその様子を眺めていると、嫌な予感が芽生え始めた。

「まさか……死んでるんじゃ」

「袋被ってるから、窒息死とか!?」

「いやいや、そしたら私達も死んでるから!」

ヒートアップしていくネガティブな言葉に、玲の肩を叩く力は徐々に強くなる。

「起きてよ!起きて!」

その瞬間、肩を叩いていた玲の手は乱暴に振り払われた。
その人物は噛み付くような勢いで布袋を引き剥がすと、苛立ちのこもった眼差しで彼女達を睨んだ。

「うるっさい!眠いんだよこっちは!」

「なんだ、真由かぁ……」

桃が目を見開いて彼女、真由の名前を呟く。
真由は状況を把握しようと辺りを見回すが、眉間に皺を寄せるだけである。真由にもここがどこなのか分からないようだ。

「皆、最後の記憶は分かる?」

遥の言葉を発端に、志乃達は記憶を辿った。

「家に帰る途中だった」

「犬の散歩をしてたと思う」

「そういえば、ゲーセンに寄ってた」

「私は確か……学校に残って明日の卒業式の答辞の練習をしていた」

玲の回答で、志乃ははっと胸を突かれた。
そう、明日は卒業式で志乃達が高校生でいられる最後の日なのだ。

「明日は卒業式なのに、何で私達こんなところにいるの……」

亜矢が深い溜め息を吐いた。
志乃はポケットからスマホを取り出す。時刻は二十三時五十分を示していた。
ホーム画面を開くとすぐさまLINEのアイコンを押したが、画面上に圏外と表示されている。

「圏外だから、誰かと連絡取ることも出来ないよ」

スマホをホーム画面に戻しながら、志乃は言った。

「私、最後に時計を見たのは十七時頃だけど、大体七時間は眠らされていたってことだよね」

園子もスマホで時刻を確認した。
何種類もの壁時計を見上げると、それらはなぜか時間がそれぞれズレていることに気付いた。

「これ夢だよね?」

真由が誰ともなしに問いかけるが、夢ならどんなにいいかというのが全員の答えである。黙り込む志乃達の反応が不満だったのか、真由は仏頂面のままテーブルクロスをめくって床にしゃがみこんだ。足枷を外す気だ。
つられるように、志乃達もテーブル下にしゃがみこんで足枷を壊そうと試みるが、それらはびくともしなかった。

4:お茶:2020/05/24(日) 21:23

「何か他に方法は無いの?」

加奈は足枷から手を離し、席に着くとスマホの画面を開いた。志乃も着席して、画面を覗き込む。

「足枷の鍵はあるわけないし、スマホは圏外、WiFiも繋がらない……」

それにしても、と志乃はもう一度辺りを見回す。
改めて奇妙な部屋だ。
暖炉の上にはたくさんのキャンドル、テーブルの中心には綺麗に並べられたフルーツや薔薇、ゴシック風のソファは外国の洋館に訪れたような錯覚に陥りそうになる。
いや、そもそもここは日本なのだろうか。それすら、今の自分達には分からない。

「そういえば……」

亜矢が口を開いた。

「この席順って、前にもどこかで見たことがある気がする」

「確かに!」

桃が何度も頷いた。

「でも、いつだったかなんて覚えてないよ」

玲が眉を八の字にする。

「一つ誰も座っていない席があるけど、そこに座っていたのは?」

園子は玲から遠く離れた向かい側の誕生日席を指した。
「あ!」と加奈が声を漏らした。

「クラスメイトは三十人だけど、ここにいるのは十人で全員。このメンバーに、何か意味があるのかな?」

「……思い出した!この席の並び方!」

亜矢が慌ててスマホで画像を探すと、それを隣の園子に見せた。志乃もその画像を見る。
画像には今の席順でカラオケで遊んでいる自分達が映っていた。そして、園子が指摘した空席に座っていたのは……。

「梨穂」

玲が無表情のまま、席の主の名前を口にした。
部屋中が凍りついた。ある者は目を泳がせ、ある者は顔を青ざめている。
沈黙が流れる中、志乃はあの画像をこの状況に結びつけようと思考を巡らせた。
このメンバーには、きっと何か理由があるはずだ。
志乃は部屋中を見渡した。ふと、無秩序にキャンドルが置かれた暖炉台の中心に据えられている一冊の本が目に留まった。

「あ、それ!」

志乃は目を輝かせながら、スマホでその本の写真を撮った。
「本がどうかしたの?志乃」と玲。

「この本、ヘミングウェイの著書『I Guess Everything Reminds You of Something』ってタイトルなんだけど、翻訳すると『何を見ても何かを思い出す』って意味なの。同じクラスの中からこのメンバーが集められたのは、きっと何か理由があるはず。このおかしな部屋にもきっと意味があると思った時、この本を見つけたの。この本は、私達へのメッセージじゃないかな。私達を連れてきた犯人は、何かを思い出せって言ってるんじゃない?」

志乃は間を置いて斜め右の空席を見つめ、続けた。

「もしかしたら、ここにいない梨穂のことを思い出せってことじゃない?」

彼女達が一瞬後ろめたそうな表情をしていたのを、志乃は見逃さなかった。『あんなこと』があれば、そうなるのも仕方がないが。

「……尾澤梨穂、十八歳。県内最大の総合病院の理事長で、県議会議員の娘として生まれた。その親譲りのカリスマ性でクラスの中心的な存在だった。六月に学校内で事故があって車椅子生活になった。その後不登校がちになって、去年末に失踪した」

ナレーターのように淡々と梨穂について記憶の限り説明するが、特に部屋に何も変化はなかった。

5:お茶:2020/05/25(月) 21:18

「海外に留学したって聞いたけど」

「私は精神科に通ってるって噂で聞いたよ」

「父親の夜逃げじゃなかったっけ?」

予想はしていたが、やはり皆聞いたことはバラバラだった。実際梨穂が失踪した時、様々な噂が流れていたのは知ってはいる。
正面に座る杏樹は声が出なくなっているため、スマホのメモアプリに文字を打ち込んで見せてくれた。

『私も本当はどうなのか分からない』

そのメモを読むと、志乃は軽く頷いて彼女達に向き直った。

「梨穂が今どこにいるのか、自分達はなぜここにいるのか、考えようよ。だって、ここにいるのは梨穂をいじめていたメンバーだよ!」

志乃の目を見て話を聞く者はいなかった。

「これは梨穂をいじめていた報いじゃないかな。私は直接はいじめていたわけじゃないけど、黙認していたから同じだよ」

志乃が話し終えるのと、テーブルにある時計のベルが鳴り出したのは同時だった。
止まることのないベルは、志乃達の顔を歪める。

「何なのこれ!」

「止められないの!?」

不快感に顔を顰める真由が、時計に手を伸ばした。
ふいに、けたたましいベルとは違う音が志乃の耳に届いた。ガタガタと何かが揺れている音。

「ちょっと、どういうことなの、これ!」

亜矢が足元を見ながら叫んだ。
志乃はテーブルクロスをめくって、亜矢の足元を覗く。亜矢の足枷がガタガタと動いている。いや、動いているだけではない。床下からじわじわと噴水のように水が溢れ出していた。
もしかして亜矢の足枷の鍵が解除されるのではないか、と淡い期待が浮かんだ。しかし、本当にそうなのだろうか?

「足枷どうなってるの!私、どうなるのよ!」

亜矢はテーブルクロスをぎゅっと握り締めると、向かい側の席の加奈に懇願の眼差しを送った。

「助けて、梨穂に謝って!」

「……え?」

明らかに動揺を見せる加奈。
加奈に「どういうこと?」という視線が注がれる中、「私じゃない、やったのは加奈だから」と亜矢は呪文のように繰り返した。
その瞬間、部屋に暗闇が訪れた。誰かの悲鳴が上がる。停電だろうかと考える隙間すら与えずに、部屋の明かりはすぐ点いた。
明かりが点って、志乃は安堵する。
しかし、本来空いてるはずのない空席が視界に入って、志乃は目を大きく見開いた。
亜矢の席には誰もいない。

「何で亜矢がいないの!?」

「消えた!?」

主を失った椅子を志乃達は呆然と眺める。
やがて、その視線は椅子から加奈に移っていった。

6:るる ◆ds:2020/05/26(火) 15:49

とても面白いですっ!続きがとても気になりました♡


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