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「……安東りんさんが、別の県に引っ越して、今日から新しい学校に通うことになりました。お別れ会が出来ず、先生も残念です」
それを聞いたのは、あの日から一週間経った日のこと。
僕の心の中に、寂しさと悲しさが込み上げてきた。
---まだ、答えを聞かせてもらってないんだ。
……思い出される、あの日。夏休みが終わる、その一週間前。
僕らは公園で会っていた。
「りょうくん!今週もね、なぞなぞを持ってきたよ!」
目の前でメモ紙を差し出してくる女の子。
名前はりんちゃん。同じクラスの子だ。
この紙にはなぞなぞが書いてあって、僕……りょうは、それを解かなきゃいけない。
「えーっ、また?無理!」
見る前から諦める僕。それもそうだ。りんちゃん頭がいいから、同い年の僕でも難しい問題を出してくる。
「こらこら!まだ読んでもないのにあきらめないで!大丈夫、一週間あるから!」
一週間……っていうのは、問題の期限。一週間で答えを見つけなきゃいけない。
夏休みに入ってから、りんちゃんとは一週間に一回、この公園で遊んでいて、その度になぞなぞを持って来られる。
でも、解けたことはない。ちょっと申し訳なくなる。
「一週間で答えられなかったら、また答えを言っちゃうからね。前のはわかった?」
「わからなかったよ……」
「やっぱり!悔しいだろうけど、答えを言っちゃうよ。えっとね……」
そうして、時間が過ぎていった。
いっぱい遊んだりして、もう暗くなって……はない。6時だけど、夏だから明るいのだ。
「私、そろそろ帰るね。りょうくん、楽しかったよ。あ、ちゃんと問題読んでね!」
それだけ言うと、りんちゃんは帰っていった。時々振り返って、僕に手を振りながら。
「ふー……楽しかったな。そうだ、問題読まなきゃ」
メモを受け取って、僕はそれを開いた。
いつものように、なぞなぞが書いてある。どれどれ。
『切っても切っても、繋がっているものってなーんだ?』
トカゲのしっぽ?は、切れて生えてくるもんだし……なんだろう?
それから一週間悩んだけど、ちゃんとした答えは出ないままだった。
そうしてやってきたその日は、学校の始業式。
クーラーの効いた教室に入ってみると……りんちゃんの姿がない。
待っていれば来る。そう思っていたのに、先生から告げられた言葉は、
僕をふかい穴に突き落とすようだった。
「うっ……うっ……なんで……なんで何も言わずに……引っ越しちゃうんだよ……」
引っ越しをしたのは、最後に遊んだ日の次の日だったらしい。
りんちゃん、悲しそうな顔も全然してなくて……わからなかった。
わかってれば、さよならが言えたのに。
すごく、つらかった。
学校が終わって、僕はとぼとぼと家に帰った。
ちょっと涼しくなった夏の終わり、セミの鳴き声は僕をなぐさめてくれてたりするのかな?
「……あ、郵便のバイク」
僕の家に郵便屋さんのバイクが停まっていて、今ちょうど発進して行った。
また広告かな……そう思って、ポストを開けて入れられたものを集めていく……。
その中に、珍しいものを見つけた。
女の子が好きそうなシールが貼られた、白色のびんせん。これはつまり手紙。
「え、これ……」
差出人は、りんちゃんだった。
『この手紙が届く頃には、そっちも学校が始まってるかな?私のところは、荷物の片付けで大忙しです!急に、引っ越しちゃってごめんね。言う機会がなくって。
りょうくん、私の最後のなぞなぞ、解いてくれた?この手紙が一週間経ってから君に読まれること……そしてまだ、君が解いてないことを考えて、約束通りに答えを書いておきます!どっちも違ってたりしたら、まだこの折ってある部分を開かないでね!』
「りんちゃん……結局、わかんないよ……切っても切っても繋がってるものって」
ちょうど一週間経ってることを心の中で喜びながら、僕は夢中で、手紙の折り込みをひらいた。
『答えはね、私たちの心だよ!引っ越して、離れても、私たちはずーっと繋がってるの!
同じ空の下にいるから!だから……またね、りょうくん!」
ああ、そうか。
そうだったんだ。離れてても、心はずっと一緒。またねって……だからりんちゃん、
さよならを言わなかったんだ。また会えるから……。
「……うん。またね、りんちゃん……!」
セミの声に消されそうなくらい、小さな声で、僕はそう呟いた。
ここまでです
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