琴宮花音、15歳。
ただいまピンチです。
高校1年生の春。一番最初のテストに撃沈いたしました…。
第一志望だった、この私立五月宮高校に入学してから初の挫折。
はあ、とため息をついて横を見ると、数人のクラスメートの女の子たちが一覧表の前の方を見てたくさんの感嘆詞を上げている。
「どうしたんだろ。」
「花音〜!どうだったー?」
「わっ!あ、晶ちゃん…う〜、訊かないで…」
晶ちゃん。中学校から唯一、一緒の高校に来た女の子。すっごく可愛くて、頭もいい、大好きな子です。
「はは…だろうと思ったけどさ。」
「うぐっ。あ、それより、みんななんであんなに騒いでるの?」
「え?アンタ知らないの?」
「え?うん。」
「長月。一位だったって、ファンの子らが騒いでんのよ。」
「ああ…。」
長月秋桜くん。
実は、すごく気になってるんだよね。
もちろん、好きとかじゃなくって、なんとなく、不思議だなって。
たしかに、身長も高くて、顔も素敵で、誰にでも優しい。うわさじゃ、クラスの大半は秋桜君が好きだとか。
ちなみにこすもす、じゃなくて、しゅうおう、と読むらしいよ…という晶ちゃん情報。
「しゅうおうかー、名前もかっこいいねぇ。」
「あれ、アンタは好きじゃないの?」
「わたしはアイドルの追っかけが忙しいもん。」
それに、きっとすむ世界が違うもん。
はぁ…。
抜けるような空にため息を吐く。でもつくだけ無駄なのは知ってる。
物語の主人公しかり、ヒロイン、ヒーローもまたしかり。どれも私には合わないのです。
誰か白馬に乗ってなくていい、かわいい車に乗った王子様は迎えに来ないのでしょうか。
はぁ…。
「ちょいちょい。ため息ばかりついてどうしたのよ?」
「なんかさぁ、人生に変化がなくって、いい方の。」
「そうねぇー、あたしだって彼氏ほしいわー。」
「うーん、別に彼氏じゃなくっていいんだけどさ、家の前に突然遊園地ができるとかさ、ケーキが大量に億いられてくるとか!腐らないやつ!」
「現金なヤツ…。」
あんたね、という親友からのありがたい愚痴は、担任の新人、中島先生が入ってきたことにより妨げられた。
ありがとう、先生、これで遊ぼう!とかなったらいいのに…。
なるわけなかった。代わりに、体育祭実行委員を選ぶ時間となった。帰りたい。
前に出た学級委員の2人が指揮を執り、話を進めていく。
最初にクラス応援旗係、応援団員の選考、そのあと、その他さまざま、多種多様な係を決め、時間も残り少なくなったところで、実行委員なる者の選考が始まった。
やはり、春休みからの一か月余りでは人間考えなどそう簡単に変わる者でもなく、中学と同様誰
も手を上げない。それどころか、皆氷技でも食らったようにしんとして動かない。
「うーん、いい係だと思うんだけどな、先生は…。」
またしーんと沈黙。お通夜かなって。
じゃあしょうがないか、と先生はゴソゴソ、教卓の引き出しから何やらビニール袋を出した。いや、まさか。
「くじ引き…でいいかな。」
マジだった。まあでも、クラスで男女ひとりずついうことは、私に当たる確率は17分の一。
まあ、そこまで高い確率でもないよね。
「なんでぇ…」
「よかったじゃん、アンタ変化が欲しかったんでしょ?」
「いい方のって言ったのにぃぃ…」
「まあまあ、決まったことじゃん。」
「当たってないからって嬉しそうにしちゃって。」
机にへばりつく私の顔をしてやったり顔で眺める晶ちゃんにむう、と大げさにふてくされて頬をつつく。
「運動得意じゃないって言ったのに…」
「運動関係ないぞって言われたらもう断る理由もないわね。ドンマイ」
「ぬうう…。体育祭なんて嫌いなのに…。」
「ハイハイ、次、男子選考だってよ。前向いて。」
はてさて、もちろん男子たちもくじ引きをしたわけなのですが。
まさか男子体育祭委員に選ばれたのは、例の長月君。うーん、いい加減クラスの女子から呪いの手紙でもきそう。犯人捜しは手こずりそう…って、そんなことする気はないけども。
「ねえ、あたし先帰るからね?」
ふっと我に返えったのは晶ちゃんの声が聞こえたとき。
うとうとしてたら20分も経っていたとは…。ん、てか。
「えっ、何で?」
「何でって、アンタの委員会が終わるまで30分待ってろって言うの?やーよ、部活もないのに。」
「それは…はぁぁぁ…!!じゃあねぇぇぇ…」
「アンタ、そんなテンションでいたら長月に失礼でしょ、さっきから苦笑いだよ?」
…ありゃ。ほんとだ。あとで謝った方がいいかな。
それじゃ、と晶ちゃんがルンルンで帰っていったのを見送り、座っていた席にまた座ると、横の席になぜか長月君が…
「えっ。な、がつき…くん…」
「うん、そう。」
「何で、横に?」
「あー。ごめん、こっちのほうが話しやすいかと思ったんだけど、俺のこと嫌い?」
「ま、まままさか!長月君は素敵な人だと思うよ!!」
「ははは、やっぱり面白いね、さっきも拒否されてるんじゃないかってビビってたんだよ」
「さっき…?あ、あー…、あれは、委員になったのが嫌ってことで、長月君の事じゃないよ!?」
「そっか、よかった。」
「冗談じゃないよ?ほら、長月君ってかっこいいと思うし、勉強もできるし…」
「うん、ありがとう。」
またでた。神様スマイル…(私命名)、ほんとに茅野君そっくり…
じぃ、っとその顔を見ていたら目が合ってしまった。そしていつの間にか笑ってもいなかった。
「ひゃ…ごめん、私また失礼なことを…!」
勢いよく顔を背けると、遅れてすまない!と急いできた中島先生によって会話は終わりを迎えた。
30分と銘打っていたくせに50分オーバーしやがった会議も終わり、ようやく下校!
うーん、下校って響きは素晴らしいね。そんなことに素晴らしさを感じるほど麻痺してきてるのか、私の脳は…そろそろやばいかもね。
靴を履いて、あとは学校を出るだけ。
「ねえ、もう帰るの?」
「あ。長月君。帰るよ、部活ないし。」
「そっか、途中まで、一緒にいいかな」
「え?うん」
意外だった。どうして長月君は私と帰りたいんだろう。いや、そもそも帰りたいのではなく、一人でいたくないだけでは?うーん。解らない。
そこからはなにも特に言うこともないと、思う。
普通にしゃべって、同じ駅で降りて、少し話して、十字路で別れた、そのくらい。
ホントに何もなかったけど長月君はあれでよかったのかな、なんて、考えてもわからないことを考えるのもいいよね、たまにはさ。