【あらすじ】
︎︎今や国民的アイドルグループである“Devils”を生み出した中型事務所、ラピスプロモーションが五年ぶりに新人ガールズグループをデビューさせる。
︎︎そのグループの名前は“Story”。デビュー当時からクールなコンセプトを貫くDevilsと差をつけるために、おとぎ話のような可愛らしい世界観をテーマとしたグループである。
︎︎これは、そんなStoryがアイドルならでは苦難を経験し、成長していく物語。
︎︎どこ? どこ? あっち? 違う!
︎︎ああだこうだと騒ぎながら、菫の所持品が全て入っていたというリュックを探すメンバーたち。これはレッスンどころの話じゃない! という竜奈の一声で始まった荷物探索は一時間にも及んでいた。
︎︎そんな竜奈たちの様子伺う菫の表情は、罪悪感に満ちた暗いものだった。菫にとっては、故意に自分のものを盗んだ、もしくは隠した誰かの悪意に対する悲しみより、どうして荷物の管理をしっかりせずにメンバーに迷惑をかけてしまったのだろうという後悔心の方が強かったから。
「すみません、荷物の管理が甘くて……」
︎︎いたたまれなさそうに謝る菫に、しいなは苦笑い混じりでフォローを入れる。
「そんなの、盗った人とうちの制度が悪いんだよ。誰が決めたの? 練習生始めたばっかりの子はロッカーが使えないって」
︎︎しいなの言う通り、この事務所の練習生の間では、ロッカーの数が限られているためか、ロッカーを使用出来る人間は練習期間の長さで決められるという暗黙の了解が存在する。その暗黙の了解により、菫は誰かの目につく場所に荷物を置いておくしかなく、お手洗いに行っていた間に失くなってしまったというのが今回の件の経緯だ。
「……ねえ、スミレちゃん。その身体は誰かにやられたんじゃないよね?」
︎︎ぼそぼそとしたか細い声で尋ねるのは桜。リュックを探しながらも、菫のボロボロな姿をずっと気にかけていた。
「これは……荷物が失くなったことの焦りで。早く探さなきゃって急いでたら、階段から転げ落ちちゃったんです。打ったところに痣はできたけど他に痛む所はないから大丈夫だと思います」
︎︎それを聞いて、暴力とかじゃないなら良かったと安堵した表情を浮かべる桜。
︎︎ここまでは、比較的平和な雰囲気でのやりとりだったが。
「それよりさ、あの件はどうなの?」
︎︎ジンが特大な爆弾を落としたことにより、場が一気に静まり返る。
︎︎竜奈やしいな、桜はもちろん、あの希衣でさえ、今それを言うのかと言いたげに顔を強ばらせていたが、話題の張本人である菫には少しの動揺も見られなかった。
︎︎そして、堂々とした口調で答える。
「信じてくれるか分からないけど、いじめは絶対にしてないって言えます。釈明するために事務所と話し合いながら出来るだけの証拠を集めました。あとは声明文を書きあげるだけです」
︎︎Storyのメンバーの顔と名前が公開される頃に声明文も出そうとのこと。
「どういう証拠を提示しようと思ってるの?」
︎︎いじめをしていないという証拠なんてあるのだろうか、という疑問が希衣の心に浮かぶ。まさか、何年も前の学校での過ごし方を見せる方法は無いだろうし。
︎︎しかし、菫はデマには負けないと徹底的な作戦を立てていた。
「顔が公開される前に投稿されてるので、確実に練習生の誰かじゃないですか。だから事務所に徹底的に練習生の出身小学校、中学校を調べてもらったんです。そしたら、出身の小学校と中学校が同じ人はおろか、私と同い年の練習生さえいなかったんですよ。あの投稿と矛盾してるじゃないですか」
「確かに。小学校、中学校どっちも一緒って言ってたのにね」
︎︎相手がバカで良かったね。と言いかけた希衣だったが、その言葉はのみ込んでおいた。
︎︎この頃にはもう、菫の主張があまりにも筋の通ったものだったので、メンバーの中の疑心はほとんど消え去っていた。
「女子の嫉妬って怖。私もよく“女って感じの性格”って言われるけど、ここまではしないって」
︎︎あれほど菫の問題を面倒だと思っていた竜奈でさえ今は菫の肩を持つような発言をしているし、あの質問をしたジンも得心がいった様子だった。
「……あっ!」
︎︎興奮で上擦った声が響く。
「これじゃない!?」
︎︎しいなの声を聞きつけて走ってくるメンバー達。ゴミ箱の中という喜ばしくない場所ではあるが、確かに菫の言った特徴によく当てはまっている見た目のリュックが入っていた。
「それです! 中身は……」
︎︎リュックが見つかっても中身が抜かれていたり、荒らされていたりすれば元も子もない。急いで拾って中身を確認しようとした菫だが、その手を希衣が遮った。
「待って。このまま写真撮らせて。嫉妬してる人がいるかもしれないって証拠になるでしょ」
「……さすがケイ」
︎︎こんな時でも抜かりない希衣の行動を見て、若干引いた顔をするジン。
︎︎希衣はゴミ箱の中に入れられたリュックをそのままの状態で写真に取り、中から引き出して、菫に渡した。慌てて中身を確認する菫。
「良かった。大丈夫みたいです」
︎︎その言葉を聞いて、メンバー達は安堵する。ようやく落ち着いた雰囲気の中、レッスン室へ戻りながら菫は身の上話を始めた。
「小学生の頃からアイドルが好きで、本当はもっと前から練習生になりたかったんです。でも私の家、あまり経済的に余裕がなくて。家から交通機関を使わずに通える距離にある事務所がなかったから、交通費がいるじゃないですか。だからどこにも所属せず、五、六年くらい独学で歌とダンスを練習してました。ある程度技術をつけた後、ラピスプロモーションが暫くアイドルをデビューさせてないことは知っていたので、ここですぐにデビュー出来ればという可能性にかけてオーディションを受けたんです」
「……現実にしたってことね」
︎︎感心したように呟くジン。ジンはこの事務所で四年練習していたのもあり、練習歴三ヶ月の菫が同じグループになると聞いて、自分たちと実力が釣り合うのかと内心心配していたが、菫の話を聞いて杞憂だったと感じた。むしろ、それだけの熱意でアイドルを目指してきたのならば期待が出来るとも。
「じゃあ、声明文とは別にその事も伝えたら?」
「……え?」
︎︎希衣からの意外な提案に、目を丸くする菫。希衣は慎重な声で続ける。
「みんなスミレのこと見直すんじゃない? 意外と世間は単純で、そういう苦労話が好きなんだよ」
「ああ……そうですね」
︎︎言い方は少し素っ気ないものだったが、菫はその意見を取り入れようと決めた。いじめをしていないという声明文と、それとは別に、自分の個人的な思いを届けるために、もう一枚。