短いの
2:◆w6 hoge:2023/07/06(木) 06:26 1 g
目が覚めた。青年は自分がどこにいるのか一瞬わからなかった。肌に触れる親密なあたたかさと遠くのほうから届く鳥の声と川のせせらぎだけが意識を包んでいた。また少し目を閉じ、今度はすぐに目を開け、自分のいる場所を思い出す。そこは彼が自宅からあてもなく歩きたどり着いた、人工の森林に囲まれた公園にあるベンチの上だった。ここが目に止まって吸い寄せられた、というより歩き疲れて休もうとした折にちょうど立ち止まった場所がここだったのだ。
腕時計の針を見ると20分ほどが知らず経過していた。青年はここ数日の間ろくに眠れていなかった。時間の経過を知ると、特にやることもないが何かに急かされるように立ち上がった。血の気が引いて軽い目眩がする。視界の隅には老人が1人川のほとりに立ち、妙に小さな手帳を手になにかを熱心に書き込んでいた。青年はふらふらとした足取りのまま手近な自販機の前に行きペットボトルのコーラを買って飲んだ。普段より炭酸が強く感じられたが、喉が渇いていたので一気に三分の二ほど飲んだ。意識が明晰になるにつれ全身の倦怠感がより気にかかるようになる。青年はため息をつき、咳払いをひとつした。なんだか聞き慣れないようなよそよそしい声だった。
ふいに、森の道に続く木陰に1匹の猫がいることに気づいた。黒と白と茶がそれぞれくっきりと縁取られた小さな三毛猫で、目は微かに緑がかっていた。首を斜めにかしげ、青年の中身を見定めるような視線で見つめていた。青年は少し後ろめたいような気分になって身じろぎをし、しかし他にすることも見当たらなかったので三毛猫の下に寄ってみることにした。青年がほとんど目の前に立っても猫は動じる様子もなく、視線を上げて青年の目をまっすぐ覗き込んでいた。珍しいことだ、と青年は思った。猫というものは自分が寄ると大抵の場合どこかに逃げ去ってしまうのだ。おそらく近寄る際のコツなようなものがあるか人間的な資質の問題なのだろう。けれどとにかく三毛猫はそこに留まっていた。三毛猫の様子から警戒心のようなものがないとわかると青年は身をかがめるようにして猫の頭に触れ、耳、喉、腹と順番に撫でていった。人目をはばからずにこういうことをするのは青年にとっても珍しいことだったが、いくらか弾んだ気持ちが自意識を薄れさせていた。彼は神経質であると同時に単純な性格でもある。三毛猫は退屈そうに目を細めたり、鳥のさえずりに呼応するように短く声を上げたりしていた。猫もまた寝不足のようにも見えた。
緩慢な空気の中で無為に時間を過ごしていると、向こう側の道から2人の人影が見えた。はじめに目についたのは小学校低学年くらいの少年の方で、軽く口を開けていて、しかし両目は閉じられて白杖をついている。隣では母親と思しき髪の長い女性が子供の左手を引いてこちらを眺めていた。青年がばつが悪そうにしていると、母親の方が微笑み、こんにちは、と言った。青年も挨拶を返した。彼女は何か声をかけるか迷ったような仕草を見せたが、軽く会釈をし、三毛猫を手招きしたあと子供と一緒に道を過ぎていった。盲目の子供が居る家庭で飼われている猫というのは人への警戒心が薄くなるものなのだろうか?と青年は思った。短絡で直感的な思いつきに過ぎないが、しかしそれはもっともらしいことのようにも思えた。青年はウエストポーチからコーラのペットボトルを出して残った液体を飲み干した。炭酸はもう気にならない程度の強さになっていた。
2 b
彼女は鏡にうつった自分を見ていた。戸惑ったような目をしていた。大きな目だった。不安定さを感じる目だった。瞳孔も虹彩もまるで純粋な液体が一時的な間に合わせとしてその形を模して自主的に寄り集まっているだけ、といった質感が感じられた。髪が濡れていた。頬が濡れていた。身体が濡れていた。肩の引っ掻き傷だけが肌色の中で喘ぐような存在感を示していた。シャワールームの中では栓がしめきられていないシャワーヘッドから滴り落ちる水の音だけが空しく響いていた。
彼女は数回まばたきをしてみた。次に現れた自分に幼い頃の自分を見た。少女は唇だけを動かして声にならない声で何かを言った。彼女は少女の言わんとしていることの意味を理解していた。小さく頷き、目を閉じてもう一度開くと今の自分だけが鏡に映っていた。彼女は髪と体を拭いてシャワールームを出て寝室へ戻りベッドに腰かけた。照明を切った室内は月が窓から淡い光を投げかけているだけだった。彼女はいくつかのことを思う。失ってきた人々のこと、取りこぼしてきた言葉のこと、捨ててきた夢のこと、自分で選んだパジャマのこと、自分で選んだシーツのこと、自分で選んだスタンドライトのこと、自分で選んだ目覚まし時計のこと、自分で選んだブレスレットのこと、自分で選んだ居場所のこと、自分で選んだ人間のこと。すべては紙の切れ端に書かれてインクの滲んだ文字のように曖昧なものだった。しかしそのすべては注意深くかき集めてしっかりと両手に抱いて進んでいかなければならないものだった。たとえそれがこのでたらめな流れの水流のようになった魂にひとつの波紋も残さなかったとしてもだ。自分の浅い呼吸を感じる。腹部から小さな胎動を感じる。時計の針がたえず時間を刻み続ける。眠りはもう彼女にとって怖いものではなくなっていた。
3h
その男は蝶の群れに顔をいじくられた、その男はタイムズスクエアで全身をぐるぐる巻きにされた、その男は足跡を尾けられてイエティに捕食された、その男はレントゲンが世界中に知れ渡った、その男は舞踏会で天井に張り付いていた、その男はインベーダーゲームの液晶に吸い込まれた、その男は痩せた男に告発された、その男は霊媒師に嘘を見破られた、その男ははじけたビーズを一つ残らず見失った、その男は望遠鏡を法外な値で買わされた、その男は歌謡ショーのサブリミナル効果に使用された、その男は畑で降ろされた、その男は音楽を心臓に移植された、その男は古代人の逆鱗に触れた、その男は妖精に耳栓を詰められた、その男は狐が見せた幻に恋に落ちた、その男は映写機のフィルムを巻き上げる音が脳裏から離れなくなった、その男は大きな力に磔にされた、その男はスプレー落書きの冤罪にあった、その男は岸辺に運ばれた、その男は冷たい床に頭を擦り付けた。
かわいそうな男
私はベンチに座って紙パックのリプトンを喉に流し込んで息をついた。あつかった。雲一つない晴天だった。クリーム色の薄手のブラウスにうっすらと汗が滲んでいた。
今日は休暇を利用して友人と地元の市中心部にあるテーマパークに来ていた。こじんまりとしてこれといった見所もないが、開設されたのはわりと最近のことで全体的に小綺麗な雰囲気があったし、人が混みあっていないことも気に入っていた。この時期にはハイビスカスやトケイソウやユリといった夏の花が円形花壇をカラフルに彩り、どことなく静かな印象を場に与えていた。
園内には人々の話し声やどこかのアトラクションから流れるBGMや女性のアナウンスの声が絶え間なく空間を流れていたが、それらは私の中の心象風景みたいなものとして留まって現実感を薄れさせている。
友達がこの後の予定について話をしてきたので、ん、そうだね、と言って会話に応じた。彼女はとても感情豊かな子で、いつも自分の感じたことを余さず一生懸命伝えようとしている。私はそんな彼女のちょっとした表情の変化、気分の揺れみたいなものを見るのが好きだった。それは自分にはおそらく欠けているもので、愛おしく感じさせた。私たちはこれから近くのコーヒーショップで昼食をとるということになったようだった。
彼女はトイレで化粧を直してくることを告げて早足で歩いていった。その背中を少し眺めたあと、立ち上がって伸びをした。肩にかけたイエローのナップサックの重みを感じた。私はパーキングブロックの上に立ってバランスを取りながら手で顔を扇いだ。暑い。なんでこんなに暑いんだろう。
私は気散じに周囲を散策した。着ぐるみが風船をくばっていた。このテーマパークの顔、薄青い狐みたいな姿をしたマスコットキャラ。なに君だっけ。ピなんとかちゃんっていうピンクの女の子の方もいたはずだ。前にここの売店でそのキャラクターのキーホルダーを買った気がするけどどうしても名前が思い出せなかった。私は思っていたより少し疲れていたのかもしれなかった。
5b
夜風が生ぬるかった。大きめのよれたシャツが風になびいた。自分の影がゆらゆら揺れていた。夜明け前の車道を走る車がヘッドライトの光を散らかしていった。少女はその行方を想像する。マンションの窓からいくつかの薄ぼけた光が見えた。彼女はその一つ一つの暮らしを想像する。塀や電柱を触りながらこの世界に息づく自分を意識しながら歩いた。カーブミラーに映る自分の姿を見た。何度か身をよじってその角度を変えてみた。道の傍らを流れる川の音に意識を傾けた。水生の生き物たちがふいごのような呼吸を繰り返す姿を想像する。水中で弾ける泡は何度でも蘇生する。遠くにはうっすらと海岸線が見えた。列車が過ぎていく地響きが聞こえた。そして彼女がずいぶん遠回りをしてたどり着いたのは自分の家だった。その家の門扉と窓と壁をしばらく見つめた。自分の手のひらを見つめた。辺りは静寂に包まれていた。白みはじめた空が夜明けを示していた。自分は16歳で、季節は夏で、拠り所とするべきものは何もなかった。一つの破綻といくつかの予感をぴりぴりと肌に感じながら彼女はドアを開いた。
6s
光と音に吸い寄せられるように入った。まるで蛾みたいだった。時刻は夜だったけれど、いくつも並んだ提灯が雑踏を明るく照らしている。少年はそんな祭りの喧騒の中に身を置いているとぶるぶると身震いがした。まるで風邪を引いているみたいだった。誰かの会話の断片を反芻するようにしながらふらふらと歩いていた。大学生ふうのグループの一人と肩がぶつかった。少年は声にならない声で謝り、彼らが行ってしまうと所在なげに前髪を触った。漫然とふらついているのもなんだか落ち着かなかったので、目についたイカ焼きの屋台でイカ焼きを買った。少年は千円札が2枚と小銭の入った、へんな小銭入れから金を渡した。そして比較的人のすいている広葉樹が庇のようになっている場所でそれをかじって食べた。ハッピを着た小さな子供達が目の前を走っていった。イカ焼きは思っていたよりも大きく途中で飽きてしまったが、処理をするのも面倒だったので無理やり胃に押し込んだ。立ち上がると腰のあたりが痛んだ。呼吸も浅くなっていた。蒸し暑かった。少年は結局花火が始まる前に帰ってしまった。
7y
髪を金髪したいんだよね、保育園の中をちりとりで掃きたいんだよね、プラレールっていくらくらいで買えるのかな?なるべく本格的なやつがいいな、わたし怪盗だけど体術も結構イケるんだよ!全身が泡立つような惑星の中にいたいんだw自動で洗ってくれて身も心もいつでも新鮮な空気に溢れていて、それは強烈な光に網膜が焼かれてもすべてが見渡せるくらいに満ち足りていて、お父さんとかお母さんとかお兄さんとか妹とかも存在しなくて、ああでも走るの早いから褒めてくれる人はいた方がいいな、水飲み場で水飲んでる人をバカにしたくなるよね、空港でハンバーガー食べてたら熱出るよね、エスカレーターで友達に会えたら最高だよね、ケロロ軍曹のアニメに出たいなあ、触診と読唇術とマジックとマインクラフトが得意です!将来の夢は映画監督になることです!飽き性なのが欠点です!怖いものは交通事故です!前の学校では、学校に行っていませんでしたwqもしよかったら、仲良くしましょう!一年間よろしくお願いします!
8e
部屋が水びたしになって涼しくなる夢を見た。自分の両肩をつかんで震えていた。あ、と口から声が出る。自然に息を吐いて音を伸ばしてみる。悲しくなった。部屋の中をきょろきょろと見回してみた。そんな自分を外からイメージして惨めになった。テレビの液晶がゲームの待機画面を映していた。何の音もなかった。自分の呼吸が乱れてることに気づいた。けれどそんな不自由さは一瞬のことで、本当はどうでもよかった。どうでもいいと思っていた。頭痛の奥が自分の知らない世界を見せてくれるような気がした。そんな偏執的な思考にすがりついている自分がいた。隙間をみつけようと必死で足掻いていた。外では月が出て虫が鳴いているんだと思う。自分が部屋にいる間はずっとそうだと思っているから。シャツが汗で湿っていた。ざらざらとしたものに触れたかった。喉が渇いていた。落下する感覚を味わいたかった。体が怠かった。視界を自分と全く接点のないもので覆いたかった。体が重かった。
9a
時計の針は2時を回っていた。保健室のベッドの上で、シーツを首の下までひっぱり上げる。仰向けになってガラス細工の青くて尾の黄色い熱帯魚を眺めていた。なんだってそんなものを自分が持っているのか、どこで誰に貰ったのか思い出せなかった。外からは強い雨音と時折雷の唸りが聞こえて、意識を傾けていると頭がぼーっとしてくる。腰の辺りに鈍い痛みを感じた。手足が寒かった。気持ち悪い。大多数の例に漏れず2日目が一番きついのだ。さっきまで見ていた短い夢のことを考えた。馴染みのない玄関、無機質な光、虫のように落ちてくる何枚もの手紙、薄情な態度を取ったこと。これといって何の含みも啓示もないような内容だった。その無内容さは今自分が置かれている現実に似ていた。瞼が腫れてるような感覚があった。こんなところにいても回復するわけでもない。はやく家に帰ってしまおうと思った。それにしても、ああ…………………………………………………
10aaaaaa
囁きみたいな小雨が降っていた。持ち主のいない庭で全身を濡らしながら空を見ていた。頭の中には薄い眠たさが腰を下ろしていた。実体の見えないものに髪を撫でられるような、少し浮いた心地がした。心音は一定のリズムを保っていた。世界はひと回り小さくなってその象徴性だけを強調させているみたいだった。辺りを見回すとそこら中に何かがさまよっていた。それは目を凝らすようにしなければ見えなかった。それでも線は曖昧で、その人物像や表情まで読み取ることはできない。何かを幻視して手を伸ばしてるようなのもいたし、半身だけ液晶が切れたようになった小さな存在の手を引く母親みたいなのもいたし、地の底の酷薄な風みたいな呼吸をしながら立ち尽くしているのもいた。それらは自分にとって繰り返しの夢みたいだった。何度も同じ夢を見て、その度に細かな違いをみつけて別の視点を得る。そこでは自分という主体性は取るに足らない無力なものだった。巻き戻され早送りされている画面の中の登場人物がそのことに気づくことがないように。
11a
がらがらがしゃん!って凄い音なったからめちゃくちゃビビったよ。ばたばた…って余韻みたいなのもあった。このスマホのキーボード夜間モードにしたら左下の言語切り替えの「あ」がUberEATSみたいな緑色になるのね。で、音にびっくりした勢いでスマホを落としちゃって夜間モードに切り替わったんだよね。かっこいい桐箱出てきたから指でこつこつ叩いてたらレベル上がった。レベルが上がったから動けるようになったよ。足が生えた。まだ生えたてだから引きずりながらだけどね。何にもよらず傷一つない真新しい状態っていうのは良いですね。なんかこうカジノのディーラーみたいな気分だよ。まあ、がらがらがしゃんって音を立てて崩れたのは私のせいじゃないんだけどね。勝手にだよ。でもやっぱ気まずい感じするから目の焦点斜めにあげて変な顔しながら帰りました。今思えばくるべき時がきたらがしゃんってなるような仕掛けだったんじゃないかな?ともあれ無事に帰れてよかった。これで解決ですね。
どこに目を逸らしても月があって殺されると思った。怠くて舌が痺れて、濡れた草の匂いに胸が締めつけられそうだった。体中に透明のガラス片が埋め込まれて、それは細胞のちょっとした変化に応じて突き刺さったり震えたり、時には熱くなったりした。虫の声が時間の流れにあるべき境目を引っ掻き続けていた。街灯の光がひどく眩しく感じた。手術室で向けられるライトみたいに無愛想な光だった。電線は夜闇の中で濃く際立ち、人々の生活を縛りつけるために自生した独立した存在であるようだった。強い吐き気を感じた。誇張された自分の影が落ちていた。それは今にも輪郭を失って蟻みたいに散り散りに動き始めそうな気がした。ついさっき途中で見るのをやめたつまらない映画のことを思い出した。頭が痛い。目が痛い。耳が痛い。喉が痛い。肩が痛い。胃が痛い。腰が痛い。ひどい有様だった。帰ったらシャワーを浴びよう。歯を磨こう。服を着替えよう。寝よう。
14:匿名 hoge:2023/08/06(日) 00:29ツンドラオオカミ犬みたいだった。でも犬よりかっこいいよ。目も知的だしさ、キバも尖ってるし、警戒心とか全然解かなくて。戯れて耳丸めたりしてるけどいつ噛まれるかわかんないんだよ。とぼとぼ歩いてて何もない場所でぎゅるぎゅる唸ったりして、めっちゃいかしてるね。めっちゃ寒かった。一緒に白い息はあはあ上げてお姉ちゃんの家まで行ったんだ。喘息出てしばらく木陰でダウンしてたからずいぶん遅れちゃったんだけどね。どうしてこのへんに君の仲間はいないんだろうね。それとも実はいて会ったりしてるのかな?深夜とかにさ。起きてないからわからないな。藁みたいな家あるよ。かっこ悪いね。喋り続けて疲れてくる。でも癖だからやめられない。もっと暖かい場所に行きたいね。今友達でいる子とかも巡り合わせだし、もっと人がいるところならふさわしい人を見つけられると思うんだよね。体が弱いのだって治るかもしれないし。てか日が沈んだら、寒いし、うち泊まった方がいいよ笑。飼うよ。どうぞ。
15:匿名 hoge:2023/08/08(火) 00:19夏はーぁいいよもういいよー、ってその人も言っていた。でもきみは一日中冷房の効いた部屋でゲーミングチェアに座っているから、いいじゃないかと思った。気分が嫌なんだって。人も死ぬし。きみの部屋には美少女アニメとかジャンプ漫画とか車とかてんとう虫とかスライムとかのポスターがべたべた貼ってあって、飲みかけのマグカップがいくつかあって、脱ぎ散らかされた服があって、緑の折り紙があって、レモングミのパウチ袋があって、病院みたいな無骨なベッドがあって、おしゃれなデスクトップパソコンとモニターがあった。きみはフローリングの床に仰向けになっていた。寝息みたいな息をして時折うめき声を上げているけど寝ていなくて、何か話しかけると言葉が返ってくる。ふと思いついたみたいに立ち上がってふらふらとした足取りで冷房の温度を少し上げて、ベッドに座っている自分の体になだれ込んでくる。脱力しきっているせいでひどく重く感じた。きみはいつも体温が高かった。全身が震えていた。
16:匿名 hoge:2023/08/09(水) 15:44今日という日は概ね平熱を保って進んでいるらしかった。泡みたいに濃い白の噴水がばちゃばちゃと疲弊したような音を立てていた。真下の水は透明でタイルの水玉模様から石盤の色合いまでがはっきり見て取れた。まじり気のない青空に飛行機雲がうっすらと引かれている。その線は何かしら生きた感触のするものを連想させた。体は軽くもなく重くもなくごく自然な成り立ちをとってそこに存在していた。思考は濁った感じはしないけどとくに澄み切っているというわけでもなく、断片的な情報が浮かんでは消えていった。自分が何を考えているのかは認められなかったが、その手触りからそれが自分にとって差し迫ったテーマのものではないということはわかった。地面で横向きになって少しへこんでいるコカコーラの缶が時折風に押されて乾いた音を立てていた。展望台に続く石段にまばらに人がいた。自分のすぐ側に古そうな自転車があった。向かいの車道で行き交う車が普段より遅く見えた。日が傾き始めていた。
17:匿名 hoge:2023/08/09(水) 15:45オリオン星雲、星のゆりかご、瞬き、昨日のこと、ばしゃばしゃ水かけるよ、繭の中にいるみたい、ちり大好き。合わねー、アニメとかでさあ宇宙空間に人の顔が透過してるシーン、目とか閉じてね、全然格好つかないよね。人間のせいじゃなくて宇宙の方が悪いんだよ。光合成すら習った覚えがないよ。退屈な講義だなあ。箇条書き、ネックレス、つむじ、放送スピーカー。長机が体に馴染まない。可愛げのない部類の下手なイラスト。ペットボトルに滑り止めみたいなの付けてる人何?立ち位置が大げさに変わる。説明が上手いのかどうかよくわからない。みんな同じように見えるし。顔を見飽きてうんざりしてきた。30分刻みで別の人がするようにすればいいのに。話に耳を傾けるのに顔を見る必要はないのかもしれなかったけれど今さら見ないようにするとそれはそれで落ち着かない心地がした。先生の私生活を想像した。ろくなことをしていなそうだった。頭の中が反抗的な色で占められてくる。とりあえずじっとしてくれないかなあいらいらするから。
18:匿名 hoge:2023/08/10(木) 07:56何の目的でこんな雪原に居るのかわからなかった。そこに居るのが誰なのかもわからなかった。年齢も性別すらも。とにかくその昏睡して鉛のように重くなった体を引きずっていた。息をしているのかも定かではなかった。けれどそうする他に自分がなすべきことは無いように感じられた。指先がかじかんで感覚はとっくに麻痺していた。何度も手を離してしまってそのたびにその腕をつかみ直す。肺に送り込んだ空気はひとつ残らず痛みに変わっていった。カメラのシャッターのような瞬間的な光が意識の底で瞬いていた。頭上では朝と夜が断続的に切り替わっているらしかった。傍らを狼やツバメといった生き物たちが無機質に通り過ぎて行き、暫くすると霧散した。あらゆる情景は象徴に過ぎないようだった。けれどそこにある痛覚と火照りは少なくとも本物だった。全身から力が抜けてその誰かにもたれるように倒れ込んだ。なぜだか家のソファと同じ匂いがした。そして意識は徐々に泥のような眠気の中に沈んでいった。
19:匿名 hoge:2023/08/16(水) 17:22その頃の低い目線で世界を見ていた。その日は自分の誕生日みたいだった。それがどういうイベントなのかも、自分が主役に据えられていることも正確には理解していなかった。4歳の時の自分は感情というものの存在意義も感情表現の使い方すら不慣れで、それは人工的な玩具か何かかと思っていたのだった。だからその時の自分も周りを真似て笑ってみたり、隣り合わせて笑っている母親の顔を覗き込んで首を傾げてみたりしていた。ゆったりしたサイズのクリーム色のワンピースから壁に飾られた色褪せた賞状の下にある葉の薄い観葉植物から灰色のカーペットの少し濡れたような感触からテレビで流れていたコマーシャルの中身にいたるまで、それらの光景は鮮やかに思い出すことができた。ただそこには音というものがなかった。そのことがかえって実際に自分が通過した現実よりも生々しく、リアリティを増幅させ、けれどリアリティで満ちて不透明さを失った空間はやはり現実らしくなく、それが夢だということを確信しながら現実で寝ている自分は静かな呼吸を繰り返していた。
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