短いの
20:匿名 hoge:2023/08/16(水) 17:23金切り声とも機械音ともつかない音が速いリズムで鳴り響いていた。それは脳髄に張り付いて強制的に内部から思考のシステムを切り替えるような音だった。初めに目の辺りに引っかかるような違和感を感じた。たぶん目隠しをされているんだろうと思った。それから全身の一つ一つに意識を向けてみた。不安定な椅子に座っていた。手足には特に制約はなかった。けれどそう悠長に状況を把握している暇は無いということをその露悪的なリズムが言外に示していた。それは何の前触れもない囁きだった。中性的で蕩けるような声がした。それを合図として目隠しがそっと、やはり悪意を含んだ手触りで外される。強烈な光が飛び込んできた。眼球が傷つく感覚がした。目を瞑ろうとしても瞑れなかった。そこに輪郭のぼやけた誰かがいた。目と目が合うのが分かった。瞬きをすると相手も瞬きをした。私は肩の力を抜くように努めた。斜向かいに視線を逸らすとパネルの鮮やかな緑が浮遊するように漂っていた。屋内駐車場のような薄暗い空間に一陣の風が舞うのが目に見えた。心臓が速く硬い音を立てていた。
21:匿名 hoge:2023/08/16(水) 17:23小さく手を振っていた。降り注ぐ秋の光が眩しかった。奥底では冷めきった気分でいた。心臓が林檎の芯になってしまったみたいだった。自分の半身すらも消失したような感覚がして右手で左肩に触れた。けれどそれはそこにあった。同時に行き場のない重みを抱えた自分が不相応で不自然な存在に思えた。こんなところにいる自分に羞恥さえ感じた。交差点を渡っている人は誰もいなかった。歩道橋が今にも崩れそうなくらい脆く見えた。目にうつるものすべてが奥行きを失っていた。ただ状況に押されるように、操り糸に引かれるように、磁力に従うように足を運んでいた。全身の力が抜けていた。そのせいで足がもつれそうになる。でも別に転んだって構わないと思った。動いてることこそが自分にとっては窮屈でそれを奪われた方が自由になれそうに感じた。足を進めるたびに自分が何に向かって働きかけていたかという認識がだんだん薄れていった。気づいた時には自分は無力な子供でしかなくそこには迷子が1人いるだけだった。
22:匿名 hoge:2023/08/18(金) 10:59私は胸に分厚い本を抱えていた。無人の礼拝堂の中はいつもより広く見えた。外からは書類がぱさぱさと崩れ落ちるような音と雀の鳴き声が聞こえてくる。涼しくて澄んだ空気が肌に心地よかった。球状のステンドガラスが窓から射し込む淡い陽光を受けて秘密めいた雰囲気を湛え、2つのステンドガラスの間にある十字架は対照的に無機物さを強調させていた。その空間の下に暗示的な陰影ができていた。それらの一種母性のような気配は私をいたずらをしに来た幼い子供のような気分にさせ、いくらか落ち着かなくさせた。咳払いを一つした。いつもの自分の声だった。それから私は自分の輪郭をイメージするために目を瞑った。自分の心臓の音を感じた。そのうちに何かに背中を押されたような感触がした。目を開けて後ろを振り返ってみてもそこには誰もいなかった。ただ純白で真新しい壁があるだけだった。どうやら無意識のうちにふらふらと足を動かしていたみたいだった。バランス感覚が乱れている。けれどこれといった不調は感じられなかったし、むしろ体は軽かった。私は私用を済ませてそこを出た。
23:匿名 hoge:2023/08/18(金) 21:13蔦やら潅木やらがまとわり付いてうざったかった。僕の腕や足や顔にはあちこちに切り傷ができていた。靴の中は泥水の重い感触で占められていた。枯れた色味の深い崖が切り立っていた。時々偏屈な魔女が喘息で苦しんでいるような音が聞こえたり、どこから発生したか分からない強い風が僕の上半身をちょうど巻き上げるみたいに吹き抜けていったりした。それらは何かしらの警告かあるいは直接押し留めるみたいに粘着質にまとわり付いていた。僕は口を軽く押さえて上空から見た自分の姿を想像した。雰囲気に飲まれないために。それは確かに現実の延長にある道としての秩序を失った無意味な空間に過ぎなかった。ただ深い闇と静寂に感化された僕の脳が即時的な反応のイメージを作り出しているだけだ。何度も自分にそう言い聞かせて信じ込もうとしていた。とにかく僕は日が昇るまでにこのわけのわからない森からどうしても抜け出さなければいけなかった。たとえ世界がこのどうしようもない一つの場所に収束しようとしていても。
24:匿名 hoge:2023/08/21(月) 11:39グリーンの入場券の受付みたいな小さな建物に一日中居させてくれ〜って思いながらゲーセンの中何周も歩いてたらケロロ軍曹のメダルゲームの待機画面の音が耳から離れなくなってクリスマスイブみたいな気持ちになった。プリクラって1人でも入れるんだっけなあ店員に遠慮されるみたいな描写を何かで、見た気がするんだけれど。でもそんなわけないよな、なんだったんだろうあれって地元ローカル?やれやれ風情がないなって思ったからちかちかと、というほど頻繁にではないけど、とにかく薄暗く点滅して人を舐めたホットドッグの自動販売機をジト目で見た。こんな場所にジト目で見るべきものなんて他に何もなかったからだ。本当は、弟をジト目で見たかった。どうしようもなく風情がなくてくしゃくしゃした気持ちだった。今押し倒されたらそのままアメンボやらヒルやらが潜む深い泥濘に沈んでいくんじゃないかってくらいに原初的でリアリスティックなイメージで脳内が覆われていた。そこらへんにある電飾もアニメボイスもそれにふさわしい没入感は与えてくれなくてNHKにようこそを連想した。
25:匿名 hoge:2023/08/22(火) 09:57子供の指で瞼を触られて目を強引に見開かされていた引っ掻き傷が痛ましかった、虫食いが空虚だった。顔に大粒の汗が浮かんでいた。怯えている自分をはっきり認識した。袖口が濡れて、その因果のなさが致命的と言わんばかりに忽ちのうちに無垢な光の反射の空白から記憶が流れ込んでサイケデリックに改変されて悪意の色に染まって一瞬で透き通って知能を持たない魚になって、うっすらと張り付いた怯えだけが今の自我のすべてだった声を上げて助けを呼びたかった、その声ももうなかった口をぱくぱくとさせているだけだった。イメージの中では微熱にやられてくらくらする意識で階段を踏み外さないようにゆっくり上っていた体は疲弊しきっていて空気はだんだん薄くなっていたけど気持ちは満ち足りていて、純粋なうれしさに笑みが浮かんでいた。悲痛な喘ぎと無為の福音が同居して、それは矛盾を孕まない存在として、それは夢と現実の二元論でもなく、痛みが快楽で、より正確に言うのなら報いこそが快楽だとその来るべき終着点に向けて時を経た魂がはじめて整合性を持とうとしていた。
26:匿名 sage:2023/09/02(土) 02:41葉先についた露を喉に流し込んだ。頭の中心が痺れるみたいになっていくつかの切れ切れの思考が流れ星のように脳裏を過ぎていった。腹部の傷口が疼いだ。止血に使用したガーゼが朝の光の下で青みを帯びて見えた。自分の命があることの照れ隠しをどうすればいいのか分からずにいた。目に見えるわかりやすい道があればそれを辿ってもよかった。この先が行き止まりで、断崖であることは知っていたから。でもそんなものはない。送ってくれる車もない。オーロラ1つ見えない退屈な夜を過ごした。視界を覆う炎の揺れだけをじっと見ていた。何度も荷物を開けて中身を見た。だけどそこに大切なものは何も入っていなかった。留め具が壊れかけていた。冬が終われば水浴びをするのも悪くなかった。あまり馴染みのない動物を何匹か見た。彼らは彼らの中にある小さく綺麗に完結した世界で移動を続けていた。それは比喩的な意味合いでない死に続く移動だった。彼らは彼らの生まれ持った謎を謎のままとして次の世代に遺していく。あと少し虚ろになれさえすれば自分も一員としてその列に並べるはずだった。
27:匿名 hoge:2023/09/05(火) 23:23空に星はなかった。雲の間から月の輪郭が微かに滲んでいるだけだった。体に力を入れたり抜いたりしてみた。胸のあたりに鈍い痛みを感じた。これは、どのくらいの加減で沈んでしまうものなのだろうと思う。直感的な命の軽さに触れて何も面白くなくなった。退屈だった。口の中で小さくて硬い飴玉を転がしていたかった。けれどそんなものはない。ポケットの中を探っても何も入っていなかった。体を起こして沖の方に目を向けるとシャッターを切るみたいに瞬く光が見えた。それは本当に誰かがカメラのシャッターを切っている光なのかもしれなかった。だとすれば自分がここにいるのは幾分か前後の状況に沿っていない気がした。あるいはどれもこれも舞台のセットに過ぎなくて、自分はそこに紛れ込んだ台本も持たない人間であり、そこに込められた意図やメッセージ性といったものを読み取ることができるわけもなく、かえってその哀れさを切り取るための存在としてのキャストがあの光の前にいるのだと考えた方がよっぽど自然だった。世界一屈辱的で気持ち悪い夢だった。
28:匿名 hoge:2023/09/05(火) 23:242階の部屋の窓の外を時々へんな生き物が横切っていった。薄い白のカーテン越しにうつるその輪郭は様々だった。私は布団の隙間からなるべく感情を込めないように見つめていた。なにかすごく怖いことに巻き込まれるんじゃないかって怖くてドキドキして楽しかった。頭の中を占めるトラウマの容量というものがあるのなら今この場でそれを満たしてもらいたかった。今を幸せに過ごすことは怖くて大人になってから不幸になることが怖かった。体が離れていく気がしたから自分の吐く息を感じた。ベッドに体を押し付けてその感触を縛り付けていた。きょろきょろと移動する自分の目の動きを抑えることができなかった。その目はあるいは薄闇の中に食料を探していたのかもしれない。あるいは変化に対する純粋な脊髄反射だったのかもしれない。なんにしてもそれは潮の満ち干きみたいに原初的で人為を介さない動きだった。急にくだらなくなって立ち上がって照明をつけた。読みかけの雑誌がカーペットの上に落ちていた。重力が戻って体が怠かった。耳鳴りが始まった。窓の外にはもう何の気配もなかった。
29:匿名 hoge:2023/09/27(水) 20:04あ
30:匿名 hoge:2023/09/27(水) 20:52つながれた手。誰かの気配を感じた。薄い息づかいを感じた。それが誰なのかわからなかった。その手は、あるいは僕の手は震えている。その存在を認めて受け入れるには僕はいくらか疲れ過ぎていた。目をつぶると淡い青の夢の残骸をそこに見つけることができた。その中で僕は嘘を貫いていた。繋ぎ止めるための言葉を探していた。窓をたたく雨の音で世界との距離を測ろうとしていた。薄い仕切りの内側で点滅する光から何かの暗示を読み取ろうとしている。意識を途切れさせるわけにはいかなかった。もう二度と同じシーンはやってこないから。視認性を欠いた覆うものの正体をつかみたかった。それは時間を費やすにつれて元の柔軟さと自主性を失ってただの僕の妄想の産物として死んでいく。夢の中の自分は常に喘ぎ苦しんでいた。胸を抑えて何か緊急性を要するものを手探りで求めていた。半分意識はなく口の端から唾液が滲んでいる。そんな自分に嫌気がさしていた。古びた身体を手放したかった。ローラーで塗り替えられたかった。自分には大袈裟すぎる曲が耳から離れなかった。現実はとうの昔に蓋をされていたみたいだった。
31:匿名 hoge:2023/09/28(木) 22:19ビニール袋を下に敷いてのたうつと音がするから、音に気を取られて目を覚ましたという口実ができる。対象は何でもよかった。風切り音でもいいし、その鋭さに頬を切られてもいいと思った。閉鎖された工場の奥に進むにつれて肩の辺りが夜の温度に没していった。そこには何かが息付く気配があって空調の効いた部屋に通じている気がした。でもそれは僕の反射的な反応が断片の要素だけを連想させているに過ぎない。ほんとうはなんだってよかった。雲の切れ間からどんな嫌な記憶が降ってこようがそれは僕の与り知る領域ではないしどこにも導いてはくれない。一貫性というテーマの中で喘ぎ続けるしかなかった。僕が寒気を感じていても僕は僕自身の寒気についてしか語ることができない。代わりをつとめてくれるはずのものにはとっくに愛想をつかれて手元から離れてしまった。足をとめた瞬間に煙みたいに透き通った微細な虫の群れ僕という存在を侵し尽くそうとしていた。身を守るために必要なパスワードはここに来るまでに失ってしまった。そして僕は損なわれていく。
32:匿名 hoge:2023/09/29(金) 22:57リノリウムの床でゆれる銀の月は水分の塊みたいに見えた。果物の一種みたいだった。それは未来の暗示を含んでいた。少なくとも僕にはそう感じられる。薄い耳鳴りが現実と非現実との均衡を取るように続いていた。視線を平行に戻すと無人の観覧席が静寂を保って並んでいる。僕は首を上げてそこから上の様子を見たかったけれど叶わなかった。奥行きのないドット絵みたいに僕の認識できる範囲はごく限られたものだった。視界に収まるすべては意識に刻み込まなければすぐに霧散してしまうような取り留めがなく朧げなものだった。その中で自分の生命としての活動の音だけが確かに感じられた。?あ!呼び鈴が鳴った。
33:匿名 hoge:2023/10/01(日) 03:29強い力で首を絞められていた。頚椎の生々しい存在を感じた。ひんやりとした風が脳を渡った。玄関のチャイムが急かすように鳴り続けていた。彼の目を真っ直ぐ見ることができなかった。力が入らなかった。僕はただ罪悪感を感じていた。彼は深い困惑と怯えの中にいるみたいだった。自分より背が高いその男あるいは女は無知で臆病で、外の世界と関わるにはまだ準備が不足しているといった観を呈していた。そこでは何もかもが手遅れで、幼い線で単純化されて境界を失っている。僕はその人間といくつかの記憶を共有していたような気がする。それは少なくとも不快を呼び起こす類のものではなかった。ただそのことは何の支えにも助けにも免罪符にもならなかった。何もかもは手遅れで、僕の世界は虚しく消えていく。部屋を照らす橙の照明がなつかしく感じた。今自由にさえなれば僕は彼もしくは彼女を抱きしめることができるし、そこからどうとでもやり直せる気がしていた。けれどそれは意味の無い仮定だった。僕は終息という前提を元にそのキャパシティを手に入れていた。僕は自分にかけられた操り糸を自分の力で切ろうとしていた。その糸は体中至るところにあった。目の前にいる彼あるいは彼女も実はその一部で、自律性はすでに剥ぎ取られていて僕の眠気や彩度をつかさどる器官に過ぎないという気がした。息づく存在はもはや消え去っていた。結局僕は謝ることも許してもらうことも叶わなかったのだ。
34:匿名 hoge:2023/10/01(日) 22:16手のひらに収まるくらいの小さな鼓動を感じていたかった。薄いタオルケットを被せられて眠りたかった。吸い込んだ空気はどこか別の空間に送られていく。自分という存在を媒介にしないために、独立性を打ち立てるために呼吸をし続けている。傷が膿む前に会わなければいけなかった。恐怖している。身が竦む。言葉が出ない。けれど確かに伝えなければいけなかった。口を開くまで何も言ってくれない。そこには規律とオリジナルの軸があった。素肌に触れられる直前のような緊張を感じた。誰かが誤った選択を囁く。僕にはその声のする方向を見定めることもできない。僕は正面玄関から入ってその部屋に足を踏み入れたはずだった。けれどそこは目的地ではなくて何かの途中に過ぎなかった。その部屋を横切って僕がどこに辿りつこうとしていたのか思い出すことができなかった。思考する自分も足を動かす自分もあらかじめ誰かの意思によって操られているみたいだった。現実に引き戻す手は冷たくてよそよそしかった。僕らは同じ夢を共有しそれぞれの思惑を知ることで自らを矮小化させ二度とすり合わせることのできない状況に追いやっていた。けれど無意識の中で選び取れるものは初めから何もなかったのだ。
35:匿名 hoge:2023/10/03(火) 01:08目眩がしてよろめいた。傷口の疼きに声を抑えられなかった。倒れ込める場所を見渡してもそんなものはなかった。川の水が無関心に流れ続けている。色褪せた案内板が意味ありげに右に傾いている。喉がかわいていた。自分を世界に馴染ませるように息を吐く。僕の探していたものあるいは人々はすでにここから立ち去っていたみたいだった。ここには何かから見切りをつけられた痕跡がいくつも見て取れた。機を逃した僕は身の丈にあった持ち場を見つけたみたいにここに留まっている。からかう声が聞こえる。背中に何かのメッセージのようなものを感じる。振り返っても何もない。誰もいない。彼らは幸せになったんだろうか?僕は彼らが、垢抜けたカーキ色のキャンピングカーみたいなものに乗って静寂を保ちながらそれぞれの思惑に浸り、新しい場所に移動している様子を想像する。もちろんその中に僕は含まれていなかった。凍てつくような風を感じた。でたらめに並んだ秒数がきっちりとした間隔で減っていくような感じがした。
36:匿名 hoge:2023/10/04(水) 00:32口の中でざらざらした隕石の表面みたいな味がした。どこまで歩いても枯れ木や枯れ草が続いているだけだった。地面を踏む感触は後に何も手掛かりを残さず移動している実感もない。薄くかかった雲の向こうに月の気配が微かに感じられた。それは息をひそめて蜻蛉の目みたいに無感情にじっと様子を見ているみたいだった。僕は閉塞感をいくらか感じて息を吐き出した。そして身体の奥に溜まった震えの予兆みたいなものを消すように努めた。その場所からは何の息づかいも感じ取ることができなかった。自分さえもその匿名性に侵食されたただの銀色の塊になってしまった気がした。視界に入り込んだ窓枠も近くの塀や何かの破片に重なってぶれてそれが何の機能を果たすものなのか分からなかった。原型はあって確かに構造上の意味は成しているが、そこには奥行きというものがなく自分が何かの行動を起こしてもそれに相当する反応は返ってこなかった。ただひたすらに空疎さだけが一面に広がって浸かっていた。けれどそこには同時にバランス感のなさと危うさを感じた。それは夢みたいに脆く支えがなく一つの水滴がはじければすべてが塗り変わってしまうような不安定さだった。だから必ずということはない。外に出るための扉が脈絡なくぽつんと現れても不思議ではなかった。空疎さとは得てして同時に希望を含むことだった。
37:匿名 hoge:2023/10/04(水) 23:22手を引かれて奥へ奥へと連れていかれた。肌にひんやりとした風を感じる。彼女は急いでるみたいで、何かに苛立ってるようにも見えた。抗う気力も術も持たない僕はそんな彼女の顔を眺めていた。外を歩きなれていない彼女は小さな段差や地面の窪みに何度も躓きそうになっていた。等身大を見た方がいいのかなあ。結局この人は僕をどこにも連れていってくれないんだという気がした。ペースに飲まれて心を壊死させているだけだった。そんな繰り返されたシチュエーションに僕はいくらかうんざりしていた。きっと自分で決めるべきなんだろう。僕は足を止めた。少し遅れて彼女も足を止めた。そして不思議そうに僕を見る。きっと彼女は今では声を取り戻しているし、好きな場所に自由に行くことができるはずだった。それを最後妨げていたのが僕だった。継ぎ接ぎのずさんな幻に過ぎなかった。その正体を正確に捉えることはついに叶わなかった。もっと話をシンプルにするなら僕は忘れてしまっていた。それはもう二度と戻ってくるあてのない損失だった。僕は1人で道を引き返した。元々そこには他に誰もいなかった。
38:匿名 hoge:2023/10/07(土) 02:44鋭い爪が網膜を引っ掻き回す感触に浸っていた。そこにはもう引き返せないということに加えて一種の解放があった。匿名性を纏ったその存在に怯える必要はどこにもなかった。僕には何も選んで手にすることはできなかったのだ、結局のところ。本当はもっと素直な輝きに酔っていたかったけれど、仕方ない。誰もが目を閉じて一日を終えようとしていた。すべては僕の関与しないところで起こって終わったことだった。あとは受付で料金を払ってロビーで待って元いた場所に帰るだけだった。帰らされるだけだった。それは人の手によって作られた状況で、ただの成り行き上の手続きで、僕はその流れに組み込まれた歯車の一つに過ぎなかった。体はどこまでも弛緩して呼吸は穏やかで、悪意も善意もない無垢な人肌を側に感じていた。もうなにも語りかけてはくれなかった。それは機会を失い、僕は資格を失っていた。一切が混濁した水の中に沈んでいく。それでもまだ幾ばくかの時間は残っていた。目の中の疼きが遠ざかっていくなかで僕はその間にできることをぼんやりと考え続けていた。
39:匿名 hoge:2023/10/08(日) 22:32散々なことをしてきたからそれにふさわしい罰を受けなければいけなかった。その人は口を噤んでただ僕の様子を見ていた。僕がどんなふうに呼吸をして、どんなタイミングでまばたきをして、どこに視線を巡らせるかを仔細に、あくまで事務的にうかがっていた。逆に僕はその人のパーソナルな部分、たとえば身につけている服や靴やネックレスや表情の変化などについて必要以上に考えを及ばせる事は暗黙の了解として禁じられていた。僕は半永久的に過程に留まっていた。肩に子供1人分くらいの重みを常に感じていた。足を運ばせることのできる範囲はごく限られたものだった。このままずっと枷が外れることはないのかもしれない。それはあるいは年月を経る度に増加していく仕組みになっているのかもしれなかった。もうどんな言葉も語りかけてくれない。ひび割れたイメージの欠片すらも与えてくれない。観察者と被観察者として強固な壁で隔てられていた。その壁は僕の感じた息苦しさによる喘ぎ一つ通さない。そして僕はその状況に理不尽さや白々しさを感じないように努めなければいけなかった。その時間だけが次に進むための必要なプロセスなのだから。
40:匿名 hoge:2023/10/10(火) 10:17ばーん、頭の中が涼しいから空中に漂う冷気を叩きたくなった。その前に部屋にある機能性を持つ物を叩き壊さないといけなかった。咳したら肘をうってサイドテーブルから目覚まし時計が落ちた。ビジネスホテルにあるようなテレビ、誰かから貰ったものだった。喋っていることがわからなかった。なるべくわからないように努めていた。外に押しやることで自分だけが基準になれるから。さっきまで使用人が倒れ伏していたみたいな不吉さを感じた。それも外に押しやった。肺の空気を吐き出した。不健康そうな軋みを感じた。そじっと待っていた。それは転換と言うには前向きで停止と後ろ向きなことだった。訪れるあてのようなものはなかった。とにかく気配を押し殺して待つことだけが正解のような気がした。時々脈を計って枕の位置を直してコップに飲み物を注いだ。気が乗れば鏡を見た。時間が経つごとに気持ちが白けていった。そして手持ちがなくなったら眠る。繰り返しだった。自分の体と目に映る物に常に媚びを売っていないといけなかった。そこに期待の余地が生じることはなかった。
41:匿名 hoge:2023/10/11(水) 04:42等間隔に並んだ窓から無数の視線を感じた。その中に1人悪人が潜んでいた。月が青みを増して蝶の輪郭を孕んでいる。鱗粉はここまで届いて私の意識を鈍くさせた。思考が怪しい熱を持って破滅的な衝動に向かわせようとしていた。目を閉じる、ストライプの車が庭先を横切る、ばらばらに裁断されたタオルケットが空から落ちる、新種の病原菌が甲高く声を上げる、生死が点滅する、何かの列に並んでいた、特定し切れない感情が迫ってきていた、それはいくつかの濾過を経て安らぎに変容するはずだった、無力なままで画面を見つめる、一生懸命目を凝らす、間抜けなその様を絵に描かれる、鏡を見ても腑に落ちない、自我をなくして劇に紛れた、手すりを掴んでいた、体温計を回収する、そのどれもに4つ足の虫が張り付いている、「僕」が責任を負わされる、身なりのいいアコモデータがくぐもった声を出す、内通者として矢面に立たされる、知らない間にずいぶんかけ離れた場所に飛ばされたらしかった、本を閉じて眠った、口の中に磁気を感じた、人工の甘い味がした、夢は微細に震えて終わることを誰も知らなかった。
42:匿名 hoge:2023/10/15(日) 04:39応接室で先生を待っている間僕らは別々のことをしていた。その人はいつも知らない曲を聴いていた。そのことが楽しかった。僕は今のその人と大人になったその人の姿を同時に重ねて見ることができた。欠けた部分を互いに補い合うみたいにその境界は曖昧だった。僕にとってはこれがたった一つの夢だった。もしかしたらその感触だけを支えにこれから先の無惨な人生を生きていくこともできるかもしれないと真剣に考えていた。装わずに言い聞かせずにただ素直にそこにあるものを受け入れることができる。ことさらにネガティブな感情や不幸な想像を並べ立てなくても人前に立っていられる。それが思い込みかどうかは大した問題ではなく、そこに質感を感じられるかがすべてに共通する基準だった。妄想に耽っているとよくうるさいと言われた。そして椅子の向きを戻して時間軸の正確な僕と話し始めた。心を開いて無垢な微笑みを向けている。その人もまた同時に2つの僕を見ていた。結局のところ救いにたどり着くことはなかったけれど、その人の言葉によって今の自分と過去の自分が明確に切り離されている状態に僕は安らぎを感じていた。疲労が少しでも軽くなることを願った。
43:匿名 hoge:2023/10/17(火) 17:10夜半に見違えた姿をみた、求心力、コアがひび割れる、禊を終えるまでの時間にいくつかの顛末があった、盗作の援用、そのコピー、繰り返し、夢が外側に押し出される、喉の渇きは痛みに変わる、熱を失ってすぐに見せかけの楽園が築かれる、笑い声が届くたびに感覚が遠ざかっていく、震えるような日だまりに自身の末路を見る、呻きがあり叫びがあった、糸が切れるのを怖れていた、焦がれていた、意識を透かしてみた客観視より少し主体的なもの、無粋な存在としてすでに忘れ去られていた、人々は崇拝するもののために一生懸命だった、代理人を立てる必要があった、手遅れの弾劾裁判、口を噤み続ける、その厳粛な空気に身を委ねた、童話のような話だった、滑稽にも見えた、何度もリピートされる、映像の違いを目を凝らして見つけようとしていた、それも用意されただの余興に過ぎなかった、脚色され起承転結のつけられた余興だった、その終わりが近づいているのを感じ取ることができる、彼が伝えたかったことはとっくにその本意を剥奪され元の虚無に消えた。
44:匿名 hoge:2023/10/19(木) 21:39シーツを裁断していたら停電してすぐに復旧した。頭に浮かんでいた言葉が弾け飛んだ。早くここを出ないといけないと思う。窓の外では細かい雨がしつこく降り注いでいた。端から意味なんかない、切り捨てるのは簡単だった。視線を落とした先の液晶は薄青く点滅している。体中の骨がかくばっているような感覚がした。整合性が取れない。メーターが折れてごみになっていた。目の奥が眩しかった。出口から出るにもそこから動けなかった。夢はその入口だけを鮮やかなディテールで装飾していて他はすべて疎かにしていた。付箋を残しておく必要があった。肩に手をかけられる気がした。そうならないように机に向かって熱中してるふうを装う。ここでは感じたことが実際に起こるから。熱が引くのを待っていた。だんだんピントが滅茶苦茶になっていった。薬品のきつい匂いがした。誰かが撤収するための準備を整えているみたいだった。その姿はじきにあらわれて僕は追い出される。彼はそこにいて壁時計の針を見ていた。つられて僕も目をやった。
45:匿名 hoge:2023/11/14(火) 10:25彼は僕がポケットに忍ばせていた便箋をビリビリに破いた。僕は口の中で舌の動きを確認していた。その男は昨日まで僕と同じ職場で親しく働いていた同僚だった。片耳に黒いインカムのようなものを付けている。そしてひどく眠そうな顔をしていた。僕も眠かったし、それに身体中が軋むように痛かった。それは僕がいつか見た夢の続きだった。すべては予定調和のように滞りなくけれど緩やかに進行していく。彼はこの瞬間に至るまでの工程を思ってうんざりしているような表情をしていた。僕は目を閉じて思考を止めた。闇の中で斑に似た模様が淡く輪郭を作った。夢には誰の意図も介在することはなかった。おそらくこのシナリオにおける僕という要素もほとんど意味を持たないものなのだろうと思う。なんと言っても意味を見出すには無駄なものが多すぎた。しかし現実にしても結局のところそれは同じことだった。抵抗の術はなく、鏡は魂までは映してくれない。僕はこのまま夜が明けるまで無為に待つつもりだった。残骸のような文脈の中から抜け出して目を覚ますために。
46:匿名 hoge:2023/11/15(水) 10:51眠気を訴えたら本棚にぶつかった。それは橙に輝く本棚だった。僕は行き場を失った気分になる。試験会場で人を探している途中だったのだ。僕は裏口の外からその声に導かれた。気づけば周囲を取り巻く誰もが劇の小道具になってしまったみたいだった。確かに認識できる音も失われそこには何かが滴る気配のようなものだけが残った。僕はふいにその人に、というよりはその声に、いくつかの疑問を呈したかったことを思い出した。けれど肝心の内容は巨大な影に覆われにでもするように姿をくらまし、会話をするという段になると自分がしばらく眠っていないということを伝えるぐらいのことしかできなかった。能無しだと思われたかもしれない。全身からは力が抜けていてひどく怠かった。駐車場まで戻って迎えを待ちたかった。一息つくための場所で白々しく突っ立っていたかった。何かに与するというのはそれだけで事故なのだ。記憶が中心地を求めてさまよっていた。しかしそれはどこかのみすぼらしい川の流れに遮られて霧散するのだろう。いつもと同じだ。
47:匿名 hoge:2023/11/17(金) 12:56箱の中みたいな店の中みたいな空間で呼吸を失った。波が袖からでた肌をくすぐっているような感触がした。僕が手にしていた持ち駒は少なかった。おそらく多少強引にでもそれを増やしていく必要があった。別の空間に通じる壁を手探りで探してみた。けれどそこに辿りつくことはできなかった。非現実性の中でも許容される非現実性と許容されない非現実性がある。あるいは僕の自由意思なんて端から排除されているのかもしれない。誰かの視線が欲しかった。第三者の存在をもってして徹底して閉塞した空間の破調を作りたかった。姿は見えない。声は届かない。ポケットの中には何もない。置いてけぼりにしてきた喪失した記憶の予感のようなものさえない。そしてふと気付くと僕はその空間を抜け出して自分の足で歩いていた。見慣れた町の見慣れた住宅地だった。たった今まで包まれていた景色が断末魔を上げるように僕の頭痛となって僕の頭を締め付けた。けれどそれも一瞬のことですぐに治まる。すでに僕の体と心はすっかりこの世界に馴染んでいた。
48:匿名 hoge:2023/11/22(水) 13:44胸部だけ剥がれて心臓を出された。それは夏の匂いがした。僕の中にあった日照りは暗闇を強く求めていた。それは僕の意図しない領域で区切りまでの逆算を始めていた。浮遊感が怖かった。地面に足をつきたかった。そこが泥濘でもいいと思った。鮮やかすぎる輝きは往々にして短い時間で腐臭を滴らせるただの塊に変わる。塊ですらなかった。とうに散らかっていた。規模の感覚を失った僕の頭はその1つ1つを正しく認識することができない。息をついた。白い天井が今にも崩れ落ちそうに見えた。時間を刻む針の音が聞こえる。その音に意識を集中させていると自分の瞼が震えているのを感じた。疲れているのだ。僕は布団を首元まで被って剥き出しになった心臓を見ないようにした。そしてこの日に誰も訪ねてこないことを願った。目を瞑っていた。ずいぶん長い間目を瞑っていた。今の自分には時間の経過によってしか変化を期待できなかった。明日の自分にもそうすることしかできないことがわかっていた。トランクを閉められたあとの旅行ケースみたいな気分だった。何の意図もなく、気分を持つ権利さえなく、誰かの作りだしたシチュエーションの中で役割を与えられているだけの存在だった。僕にはもう夢を見ることさえ自分ではできない。
49:匿名 hoge:2023/12/08(金) 04:48彼は灯りから核心だけを取り上げる。それを舌の上で転がして痺れを感じた。けれどそこに浮かんだ構造を正確に見通すことができなかった。頭が引っ張られる。ねじ曲がる。磁気で靴が壊れる。次の用紙を手に取る。目眩がした。喉にゼリーを流し込んだ。場面が転換する。支度中に鍵をかける。秒針に振動を与える。世界中の軸が客体に侵されていく。誰の声も何の意味も含んでいなかった。およそすべての撓みが隣へと伝播し水浸しになっていった。空白に置かれたランプが回り続けていた。薄いカーテンに隔てられたその中で双子が成長を続けていた。付け足され引き抜かれる。リズムが失われ甘い匂いに覆われる。欲が血管の下をくぐり抜ける。それは鏡越しだと自分自身の破片に見えた。やがて辻褄を合わせるために閉じていく。可能性の側に放置され進み得ない時間の中で朽ちていく。それは正しく収まるべき場所を求めて反射的な喘ぎを繰り返していた。客体から主体に軸がぶれる。ピントが絞られる。姿形が明るみにでる前に気配が白々しく希薄になっていく。彼は輪郭だけを残したまま意図をその場から剥ぎ取っていった。
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