どこまでも愛おしい夜に。

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1:くいち◆.w6fiLb/nBnwY 初心者:2023/07/05(水) 20:33

・失踪可能性高め
・ジャンル、ごちゃ混ぜ()
・描写が矛盾する可能性あり
・アンチ・ヘイト的なネタが含まれる可能性あり。
・感想書き込み自由


ーーーーーーー以下より開始ーーーーーー



 それはどこにでもある、平凡な日常の夜だった。
 黒に塗れた路地裏を男が駆けている。呼吸はどこか荒く、それでいて形相も普通じゃない。男は何かから逃げている様だった。

 「 はっ、はっ、はっ、くそっ!くそっ!!なんっだよあれ!!!俺が何したって言うんだっ! 」


 その質問に答える者はそこにはいない。走り過ぎて足首やふくらはぎも痛くなって来ている。響く足音は一つ。しかし男の上から跳ねる音が聞こえて来る。カツン、カツン。屋根から屋根へ飛び移り、男の後をついているようだ。男が疲れているのに対して、軽快な足取りで距離を徐々に詰めてくる。
 気付けばもう逃げ場が無い。どれだけ走っても、逃げても、振り切れない。やけになれば隠し持っていたナイフを片手に、睨みをきかせて怒声をあげる。


 「 降りて来いよ、卑怯者がぁ!!真っ向からなら俺だって強い──── 」

 そんな男の蛮勇も、最後まで口が続く事は無かった。気が付けば、腕の感覚が無くなっており、首に一本の赤い線が走る。恐る恐る振り向けば、追いかけて来た者の正体を知る。それは……。

 「 深夜に大声をあげるものじゃないですよ、近所迷惑ですからね…お静かに 」


 男よりも小柄だと言うのに、どこにそんな力を持っているのかと言う大きな刀と、結ばれた銀の髪に青い目が冷酷な輝きを放ち睨む。その女の事を、男は最期にこう思う。


   アイツは人間じゃない、怪物だと。



 遺体がひとつ出来れば、女は指を鳴らす。どこからか現れた大きな口を持つシャチの様な生き物が、遺体を丸呑みにする。
 溜め息を混じらせながら、女はリストアップされた紙に目を通す。


 「 ……次は、此処ですか。少し面倒ですね、遠いものですからね。………『知空学園高校』…中々、この仕事も面倒なものです 」


 愚痴は誰にも、届かない。

2:くいち◆.w6fiLb/nBnwY 初心者:2023/07/05(水) 21:25


 「 あーあ、先輩の進学先に行きたかったなぁ 」

 放課後、夕暮れの中で教室に居残り、青春と呼ぶには質素で、どこか遠くを見詰めて思いを馳せる。『陽見々原 友奈(ひみがはら ゆうな)』にとっては、この二者面談の時間が何よりも苦しいものだった。

 「 そんな事を言ってもこれは…仕方がないとしか言えないな。この評価なら別の学校を目指した方が良い。
 それに、友達が一緒に行くだとか、先輩がいるからとか、そんな理由で決めるものじゃないんだよ。行ってから後悔するのが関の山、だったらもっと自分のやりたい事を優先しなさい 」

 担任の言う事はもっともだ、ぐうの音も出ない。それでも友奈が両腕を組んで悩ましげにしているのには、理由があった。それも極単純な事だ。

 「 そう言われても私、したい事とか微塵も無くてぇ〜…楽しくいければそれで良いんですよ!だから校則が厳しい所は余り嫌なんで!…後、出来たら安い方がいいですね、お金とか!…欲しいものってどうにもこう…お小遣いが足らなくてぇ〜〜! 」


 ーーー知空学園高校。どこにでもあるような進学校。バイトは事情が無い限り禁止で、土曜日も昼まである少し校則が厳しめな高校。唯一変わってる所と言えば、文化部よりも体育会系の部活が多く、男女問わずして剣道や空手などの武道を授業で習う事が決められている。それも3年まで継続して。はっきり言って、このカリキュラムは色々問題があるとは思うけれど、入った時点で反論の口は閉ざされている。友奈は特に、気合が入らない為やる気を出さず、体育の先生に目をつけられている事もあり、うんざりしている。この面談は本来ならもっと早くに行われる筈なのに、途中で出会ってしまってお小言を言われてしまった、そんな事もあり友奈はメンタルが落ち込み気味でもあった。


 「 陽見々原は学力は高いんだがなぁ、そう言った素行をもう少し良く出来ないか?…良い志だとは思うが 」

 「 無理ですぅ〜、もう私ヘトヘトなんですぅ〜!…後固く着飾るのってなんかこう、全身に鳥肌がぞわぞわ〜って!それこそもう虫が這い回るみたいな…!! 」

 「 …その例えは先生も苦手だからやめて欲しい。まぁそうだな、それならここは───── 」


 それからも話が続くものの、気が付けば日が落ちて来ている。6月とは言えもう7月が差し掛かっている。時計の針は6を越えていた。


 「 仕方がない、この話はまた明日だな。長引いてすまなかった。陽見々原は先生と帰り道が一緒だったな、最近は色々通報も入っているし、先生が送ろうか? 」

 「 もぉ〜、先生子供扱いし過ぎですよぉ〜っ!これでももう18歳なんで!それに今日は私、用事があるので気持ちは嬉しいんですけれど、ごめんなさいっ!それじゃあ先生さようなら〜! 」


 先生、と言う職業だから当たり前なのかもしれないが、大した説教もせずにゆるりと話せる担任は陽見々原にとって、好きな先生4位に入るくらいには好きだ。腰を曲げてお辞儀した後で駆け足で帰り道を急ぐ、本当ならもっと早く帰れた筈なのに、なんて愚痴を溢しそうになるものの、我慢する。何故なら今日は彼女にとって、生き甲斐とも言える程に楽しみにしていた配信者による配信がある。少しずつ暗くなり始めた空を見上げながら、果たしてどんな内容なのかと期待を込める。明らかに不審者の様な黒い服に身を包んだ人物、こんな時間までファミレスにいた同じ学校の学生、塾に行っているクラスメート。そんな子達ともすれ違いを続けながら、家に着いては鍵を開けて、扉に手をかける。

 「 ただいまーっ!…って、あぁ、今日もそっか 」

 広い家に自分の声が響き渡った事で、今日も一人だと言う事が強調される。母親は相変わらず、またどこか別の男といるのだろう。呆れにも近い感情を抱きながら、もう慣れた事と思い、色々と私用を済ませ始めた。

3:くいち◆.w6fiLb/nBnwY 初心者:2023/07/09(日) 20:39


 「 いやぁ〜〜、楽しかった!…まさかあんなどんでん返しが待ってるだなんて、流石は待ってるなぁ。ポトラさんやっぱ推せる〜…! 」


 陽見々原はスマホを片手にベッドにうつ伏せに寝転がりながら、ひと段落着いたのか満足そうに表情が緩んでいた。彼女の楽しみである配信が終わった事で、そろそろ勉強に取り掛かろうかと身体を起こせば、視界の端に黄色い光が走るのを捉えた。不思議に思い、窓を開けながら身体を乗り出すと、その黄色い光は遠くに離れていく。屋根から屋根へと飛び移る様に、どんどんと離れていく。


 「 …何あれ、心霊現象?いや、ありえないんですけど、流石に気になっちゃうよね。…別に行っか、最悪明日は休めば良いし 」


 誰かの悪戯、にしては中々気合が入ったもの。好奇心が働けば、どうせ親も居ないから。それを理由に動き出す。足早に動き易い服装と、スニーカーを履いて家を出る。不思議な事に、さっきまで見ていた配信なんかよりも、より期待が止まらないもので。

 「 …あっちの方って何かあったっけ、学校はもうちょっと東の方だし。どっちにしろほっとけない…! 」


 黄色い光があるビルの屋上に止まれば、当然注目の的。大勢が集まり始めては陽見々原も遠くから見詰めるばかりに。一体全体何かと思っていれば、光の場所から突然爆発音が響き渡る。より傍観者としての視線を集めながら、何かの事件が起きた。そう思わせるには充分な事で。混乱が徐々に伝染して、拡散して、ざわざわと騒ぎ始める。

 「 一体全体なんだ、何が起きたんだ!? 」
 「 おいおい、こんな夜中に爆発騒ぎか、勘弁してくれよ 」
 「 アイツ、大丈夫か?爆発の中にいたけど… 」
 「 誰かは通報してくれるし、別にほっといても良いか 」
 「 嫌だなぁ、怖い…すっごく怖いじゃんか… 」
 「 ほんっとやめてよ、明日は大事だってのにぃ〜 」

 色んな感想が飛び交う中で、陽見々原は目を見開いている。冷や汗が頬を伝い垂れても、それよりも自分の命の危険を感じる程には、恐怖を感じていた。四足歩行の刺々しく、骨が出た銀色の四足歩行の怪物が、ジッと陽見々原と視線を合わせたまま離れなかったからである。視線を外さずに後退りをするも、決して逃がして貰える雰囲気では無い。それでも、周りの目からは見えていない様な空気を感じて。よりもっと恐怖を煽られながら、それでもこの場に留まり続けるのは危険だとゆっくりと離れていき。さっきの黄色い光は恐らく、その怪物のものだったのだと理解をする。

 「 …何、あれっ!何あれぇっ…!ほんっとに心霊現象って言うか、オカルト的なアレじゃんか…!周りの人に興味が無いのが良かっ…。いや、良くない!私を狙って来てるんだから、絶対に私が一番最初に死ぬっ!そんなの絶対い、や…っ 」


 走る。走る。走る。なのに一向に離れた気配がしない。爆発のあったビルからは離れて、もっと民家の多い所まで来たって言うのに。理由は簡単。化け物がすぐ後ろまで迫って来ていたから。そして右手を振りかぶっていた事もあるからだ。陽見々原は察してしまう。自分はもうこの後すぐに亡くなってしまうのだと。諦めて受け入れるしか無いから、未練もあるけれども、もうここまで。走馬灯が少しばかり見え始めた所で。




 爆発音が化け物の頭から響き渡った。黒い煙が化け物の頭を覆う。余り喰らった様子は無い。色々と頭の整理が追い付かないまま、気付けば化け物の後ろから一人、影が近付いて来ている。剥き出しの刀を片手に持ちながら、口端から血を垂らして。


 「 …やはり、『ボマー・スター』の効き目は薄い様ですね。私を追いかけて来た、中々面倒な事ですね。ここまで負傷するとは。全く……本来ならオマエ程度、相手にするつもりなんか全く無かった事ですのに 」

 苛立った様子だ。それでいて陽見々原の事なんか眼中に無いとばかりの態度で。気遣う様子も無く、鋒を向ける。何が何だか理解が出来ないが、腰が抜けてこれ以上逃げる事も出来ず、ただ眺めるばかり。

4:くいち◆.w6fiLb/nBnwY 初心者:2023/07/10(月) 21:46


 誰かは理解出来ない。それでも陽見々原にとっては、現れた謎の人物が救世主に思えた。座り込み体を休めながら、足を引き摺り距離を取る。

 「 そこに倒れている人。もう少し離れてくれません?邪魔…と言えば聞こえが悪いですが、巻き込んでしまうかと思われるので。まぁ、命が惜しくないなら、どうぞご勝手に 」

 女性の声が静かに響く。それでいて冷たい言い方。事実とは言え彼女も僅かに怪我をしている様子なのが、陽見々原には気になった。無理をしているのではないか、そんな不安が脳裏をよぎるから。
 化け物が振り返り、彼女の方を向いたかと思えば口が十字に開いてワニの様に食らいつく。剣山の様に生え揃った歯が閉じられれば、鉄がぶつかり合った様な音さえ響く。口端には黒い布を垂らしていた。陽見々原の顔が青ざめる。しかしそれは杞憂に過ぎず、電柱の上から声が響き渡る。

 「 …なるほど、見覚えがあると思ったら、オマエは『シルバラン・ゲータ』。大食漢の怪物が表にまで来るとは思ってもいませんでしたよ。…その罪を清算する時は今です。場所はここです。懺悔しなさい、現在までの生き方を 」

 声の方へと視線を向ければ素顔を晒す彼女がいた。銀髪の中に入った黒のインナーカラー。肩ほどまで伸びたサイドテール。青い瞳が氷柱の様に棘を持ち睨む様子は、どこか神聖さを感じさせた。刀を片手に構えて、睨み合う時間が起きる。
 化け物の咆哮は陽見々原と、戦っている彼女にしか聞こえていない。耳が痛くなりそうな程騒がしいのに、夜の街は静寂を保ち続けている。化け物は身をゆっくりと下げたかと思えば、四肢に血管が走り膨張を始めて、そしてまた収縮を始める。急激に目が開いて黒い光が走ったかと思えば、次の瞬間には大きく跳躍していた。そうしてまた先程のように喰らいつこうと大きく口が開かれている。


 「 三度、同じ手はくらいませんよ。『 シューティング・スター 』…構え 」


 そんな事は読めている、そう言った様子でゆっくりと足を運んで腕を下げる。鋒に煌めき、と呼ぶに相応しい虹色の光が集い始める。何か技名の様な物を静かに声に出した瞬間、流星の様な突剣が化け物の口に突き刺さり…そのまま、体ごと貫通をする。墨の様に黒が濃く、掴めそうな程どろっとした血と呼ぶには禍々しい液体が化け物の身体から吹き出しながら、地面へと倒れ伏せた。あんなに恐ろしいと思えた化け物も、呆気ない終わりを迎えた。陽見々原にとってはまるで夢のような一連の流れで、安心をする。彼女も刀を収めて、一息吐いている。しかし、何か違和感に感じたのか陽見々原はジッと化け物の死体を見ている…。


 「 ……あっ!!あぶ、ないっ!! 」

 その声が響く時には既に遅く、凶爪が彼女の身体に傷をつける。赤い血が目の前で飛び散る。

 「 …迂闊、でしたね。ここまで生命力に長けているとは。…いや、もしや。オマエはまさか…! 」

 傷口を抑えて、視線を離さず睨み続ける。歯軋りを起こして、自分の甘さに嫌気がさすも、それはただの無駄。化け物は自分の邪魔物を排除する事に決めた様だ。距離が近付く。涎も垂らして、屈辱を味わされた分、食べる際は骨の髄まで。そんな様子が伝わって来る。足取りが僅かに重くなっているが、なんとか戦える。そう判断した彼女は、手先を震えさせながら柄に手を伸ばす。だが、それよりも先に。

 こつん。

 この場には余りにも不釣り合いな間抜けな音が化け物の頭から鳴った。音の出どころを良く見ると、それは一足のスニーカー。飛んで来た方向を見ると、蹴り上げた足を震えさせ、唇を噛んで恐怖を押し殺して睨んでいる陽見々原がいた。

 「 …わ、かんないけど、分かんないけど!知らない人だけど!助けられた、事実は変わんないし、それに。
 そんな美人が、惨たらしく殺されるのなんて、私嫌だっ!だ、だから…た、食べるなら、わ、私からにしな、よ! 」

 「 …やめ、なさい。やめなさいっ!駄目です、ただの人間が相手だなんて、そんなの、勝てるわけが…! 」

 彼女が懇願する声は化け物にはもう耳に入らない。放っておいても良い獲物。しかし化け物にとっては楽しみにしていたメインディッシュを邪魔された苛立ち、標的を変更する理由はそれだけで良いらしい。すぐに方向を変えて、大きく開いた口が、再び閉じられたーーー。

5:ごたんだ:2023/07/12(水) 00:42

級にうまくなった缶

6:くいち◆.w6fiLb/nBnwY 初心者:2023/07/12(水) 11:46

[|ご感想ありがとうございます。色々小説を読んで勉強しているのですが、恐らく一番読んでいるジャンルがラノベだからすらすらと出来たのだと思います。上手と言われてとても嬉しく感じますが、まだまだ粗い点も目立つものですので、温かい目で見守ってください。

追記:本日可能なら更新予定になりますので、今しばらくお待ちください ]


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