スレタイ適当、笑。
えーと、ここは私が様々なジャンルの小説を書くところになりますね、
公式cpだったり、伽羅の独白だったり、夢だったり…。
まあ、暇つぶし程度に寄ってくれたならと思います。
・ 荒らしや、迷惑行為はお断りです。
・ 感想は大募集しております!
・ 更新は亀さんです、笑。
それでは、よろしくお願いしますね!
父様が死んで、数年が過ぎた。
可愛い弟のためならば、私は男になり、魑魅魍魎の主になりましょう――。
部活の合宿先が捩眼山だと知った。そこは、俺が総大将になることをよく思っていない牛鬼組の本拠地。リクオに、直接の関係がないとは言えどもリクオも確かにぬらりひょんの孫。何もないわけがない。そう思って、付いていった結果、俺の予想は見事に的を居ていた。
「リオ様……! だめです、お下がりください……!」
「氷麗、俺は大丈夫だ。お前は安静にしてろ」
後方で叫ぶ氷麗の足は、鋭い刃物で刺され真っ赤に染まっている。それでも尚、俺のことを気にかけてくれる彼女の優しさを背中に受けて、目の前の敵を見据える。
「牛鬼は、お前たちはそこまで俺のことが気に食わないか」
「例え、お前がぬらりひょんの孫であろうが、女は弱い――っ!」
「くっ……」
牛頭丸と名乗ったその妖怪は、刀を手に俺へと斬りかかる。俺も、刀を構えてその一閃を受け流す。しかし、人間の体ではこれが限界で、ただ俺は逃げ回るのみ、
俺の親父も、半妖で、畏れを操り常に妖怪の姿でいた。しかし、対して俺は才能がないのか、その恐れを上手く操ることができず、今だ人間の姿。女であろうが、妖怪の姿ならば優勢な位置に立てるはずなのに。そう思ったとき、油断していた俺は手に持っていた刀をはじかれてしまった。
「これで終わりだ、――奴良リオっ!」
刀を持たない俺に、牛頭丸は先程よりも勢いをつけて斬りかかる。
防ぐ手を持たない俺は、痛みに耐えるために構え直す。そして、――きん、と何かが刀を弾く音が響いた。
俺の視界を埋め尽くしたのは、幼少期、俺の背中を追いかけてきた弟の――リクオの背中だった。
リクオが弾いた刀は牛頭丸の手から離れ、少し遠い位置の地面に突き刺さる。
「兄ちゃん、大丈夫?」
「あ、ああ……」
「リクオ様!」
此方へ目線を向けずに俺に話しかけたリクオは、普段の温和な時とは違った。そう、言うならば妖怪の時の雰囲気と似ていた。
俺がそれについての疑問を投げかける前に、氷麗が傍へとやって来る。元々足を負傷しているくせに無理に移動していたせいか、足が先程より赤く染まっている。
「お二人共、お逃げください。あの者は、若たちの命を狙っております。ここは、この氷麗が――」
「いや、俺がやる。だから、リクオ、お前は氷麗と一緒に――」
「いい加減にしねぇか」
小さくでも低くその威厳溢れる声は確かに目の前の弟から発せられたもので、俺も氷麗も口を閉じる。
リクオは、少しだけ此方へ顔を向けた。
「氷麗も、“姉ちゃん”もここで待ってて。……大丈夫だから、僕が何とかするから」
そう言ってリクオは駆け出した。
――俺は随分と昔から男を演じてきた。リクオは、父さんが死んだせいかそのあたりの記憶が曖昧になっていて、俺が女だったことも忘れていたはず。なのに、今、リクオは“姉ちゃん”と言った。
(思い出したのか……?)
なんにせよ、リクオに何らかの変化があったことは確かで、俺は牛頭丸とリクオの戦いを見守ることしかできなかった。
闘いが始まって少し――牛頭丸がついに畏れを見せた。その爪で何やらかの呪文で動きの取れなくなったリクオへと襲いかかる。
俺は、訳も分からずリクオの前へ体を投げ出す。ただ、大切な弟を守りたいという思いだけで。
「リオ様――っ!!」
「姉弟諸共……、これで終いだぁぁああ!」
目の前に爪がかざされる。それを防ぐ武器もない俺は、ただ目をギュ、と瞑った。やがてやってきたのは――痛みではなく、どさりという音と静かな沈黙。そして何故か俺は浮遊感を感じていた。
「え……」
目を開ければ、そこには妖怪へと転じたリクオがいた。
地面へと目を向ければ、刃で爪を切られ、意識を失った牛頭丸の姿。再び、リクオへと目をやれば手には刀が握られていた。
「リク、オ……?」
「姉貴……なんて無茶しやがる。今は人間の姿だってのに」
「リクオ様、リオ様……!」
負傷した足を引きずり、氷麗が駆け寄ってくる。その姿を一目見たあと、リクオは刀をしまい、空いた手で優しく壊れ物でも扱うように俺の頬を撫でた。
「もう、大丈夫だ。……知ってたよ、自分のこと――夜、こんな姿になっちまうんだな」
そういったリクオの頬に流れていた一筋の血が、まるで涙のように見えた。
あの後――リクオは、牛鬼のもとへ行くとそう言い残して消えてしまった。だから、俺は、今、眠ってしまった氷麗を抱えて石階段を下りていた。
暫くして前方から微かな光と、足音が聞こえた。それはやがて大きくなり姿を見せたのは、リクオの友人のカナちゃんだった。
「リオさん……!……と、及川さん?」
「カナちゃん……こんなところ一人だなんて、危ないよ」
「それはこっちの台詞です。……他のみんなは?」
「それは……」
俺は、言葉を濁す。清継君、島君はきっと無事だろう。しかしリクオは――。
俺はどうしたい。できるならば、すぐに追いかけたい。でも今の俺では足でまといになるに決まってる。けれど、俺はあいつの兄貴、だから――。
様々な思いが俺の中を駆け巡る中、ぎゅ、と俺の着物の裾を握る気配があった。
「氷麗……?」
「リオ様……、私のことは気になさらないで。リクオ様を……、リクオ様の所へ……」
俺にしか聞こえない声で、囁くように言ったあと氷麗はまた目を閉じ、裾を掴んでいた手もだらりと下に垂れた。
氷麗の言葉では、と気づく。――きっと、俺は行かなくてはいけないのだろう。足でまといだとしても、奴良組のために、俺たちのために、今までのことにすべて決着をつけなくちゃいけない。
「カナちゃん。氷麗をよろしく」
「え……、え、でもリオさんは?」
「俺は、3人を探しに行ってくる」
「え、あ……!」
素早く氷麗をカナちゃんに渡し、俺は階段を今度は駆け抜けるように登っていく。行き先は、山の上――!
俺が到着した時には、もうすべて、終わっていた。
床の上には腹を切り、血を流して倒れる牛鬼とそれを見下ろすリクオ。リクオも、腹の辺りを抑えている。そして、傍らには黒羽丸とトサカ丸もいた。
「――もはやこれ以上考える必要はなくなった」
牛鬼は、刀を構えた。しかし、リクオは動じない。
「これが私の、結論だ!!」
「牛鬼貴様ぁああ―――!!」
しかし、その刀が振り下ろされることはなく、一直線に牛鬼の腹へ向かう。俺はそれを止めることができず、ただ手を伸ばすのみ――。
キン、と音が静寂の中で響く。牛鬼は、生きていた。
「――-なぜ止める?リクオ………」
リクオの刀の一閃で、牛鬼の刀の派は、近くの柱へと突き刺さり、柄は牛鬼の手から離れてからん、と床へと落ちる。
「私には、謀反を企てた責任を負う義務があるのだ。なぜ死なせてくれぬ……牛頭や馬頭にも合わす顔がないではないか」
「オメーの気持ちは痛てぇ程わかったぜ」
リクオは牛鬼の前に立ち、そして見下ろす。
「俺が腑抜けだと俺を、――姉貴を殺して自分も死に。認めたら認めたでそれでも死を選ぶたぁ、らしい心意気だぜ牛鬼。――だが、死ぬこたぁねぇよ。こんなことで……なぁ?」
リクオは、刀を肩へのせ不敵に笑う。そんな彼に、牛鬼も黒羽丸らも驚いた表情を見せた。
「若!? そんなことって……!!」
「これは、大問題ですぞ!!」
「ここでのこと、お前らが言わなきゃ済む話だろ」
「わ、若ぁ……」
黒羽丸たちの困った反応を見、リクオは牛鬼へ顔を寄せた。
「牛鬼……さっきの答え。人間のことは、人間んときのオレに聞けよ。気に入らなきゃそん時斬りゃーいい。その後……勝手に果てろ」
背を向け、戸口へと歩いていくリクオ。牛鬼は、まるで糸の切れた人形のように床へと崩れ落ちそうになり、それを俺は支えた。
(2人が、奴良組がこんな目にあったのは俺のせいだ)
そんな確信があった。
リクオを守りたい一心に、奴良組を引き受けて、でも結局それは組のことなんて思ってなかった。ただの、俺の――私の自己満足だった。
「ごめん……、ごめんね……牛鬼」
記憶の中にあった、あの優しげな牛鬼を思い出し、気を失った彼を抱えて、私は泣いた。
流石妖怪ともいえよう。翌朝には、牛鬼は目を覚ましていた。
リクオが話を終えて出て行ったあと、俺は、部屋の中へと入り込む。
「リオか……」
「今回は、ごめん。……俺の浅はかな考えのせいで、こんなこと……」
牛鬼の傍らへと座り、顔を俯かせて俺はつぶやいた。
ため息をつく音が聞こえたあと、俺の頭に温かな手が乗せられた。
「え……」
「お前の、リクオを守りたい思いは承知している。だが、それが組のことになるとは思わない」
「牛鬼……」
「今回のことで、リクオは変わるだろう。……お前も、すべてを抱え込む必要はない」
「……うん」
俺が涙をこらえているのに気づいていたのだろうか。牛鬼は、不器用に、でも優しく俺の頭を撫でてくれていた。
牛鬼の部屋を出て、廊下を歩いていれば、柱に背を預けたリクオがいた。どうやら俺を待っていたようで、俺が現れた瞬間、柱から背中を話した。
「……兄ちゃん、話があるんだ」
何を言われるのだろうか。そのリクオの一言でそんな不安が自分の中を埋め尽くす。
俺は聞かないふりをして、その横を通り過ぎようとする。でも、リクオがそれを許すはずもなく、俺の手を捕まえる。
「兄ちゃん――」
「ごめん、……これで許されるのなら、俺は何度だって謝る」
「何を言って……」
すべての原因は、俺。牛鬼はああ言ってくれたけれど。俺がもっと自覚すれば、今までどおり奴良組は引っ張っていけるはず。
俺はリクオからの逃れようと、手の束縛をなくそうとする。
「俺が悪かったよ。だから――」
「――姉ちゃんっ!!」
リクオにそう呼ばれて、俺は、は、と体の動きを止めた。その数秒後に、此方へ向かってくる足音が聞こえてきて、リクオは俺の手を掴んだまま近くの空き部屋へと飛び込む。
いきなりのことでバランスを崩しかけた俺は、畳に倒れ込む覚悟をと、目を閉じた。でも衝撃はやってこず、逆にやわからな体温が体を包む込む。
「リクオ……?」
リクオは、俺をギュ、と正面から抱き抱えていた。
いつの間にか占められた襖の外からは慌ただしい足音と声。次第にそれは遠ざかって行って、それでもリクオの俺を抱きしめる腕は緩まない。
「リク――」
「もう、無理しないで」
名前を呼ぼうとして、リクオに遮られた。それは、すごく辛そうな声。
「謝るのは僕の方。今まで気づかなくてごめん。辛かったよね、悲しかったよね……。姉ちゃんは、僕の姉でぬらりひょんの孫である前に――ひとりの女の子なのに」
「リク、オ……」
「……泣いていいよ。今までの分、ここで全部吐き出して」
そう言われて、もう我慢ならなかった。私は、リクオにすがりついて、声を押し殺して泣いた。昨夜流した涙よりも、さらに長く泣いた。
ひたすら泣いて、涙が泊まった時には私の短い髪を、リクオは優しく髪撫でていた。
「姉ちゃん……長かった髪、切っちゃったんだね。口調も全く変えて……」
「リクオ……」
先程から、リクオとしか言えていない。それぐらい、私はほかの言葉を紡ぐ余裕なんてもの無かった。
「――もう、抱え込まないで。偽らず、女の子として生きてよ。僕が、守るから。奴良組も、姉ちゃんも……僕の大事なものすべて」
ぎゅ、とリクオは私を強く抱きしめた。漸く落ち着いてきた私は、久しぶりに使う口調に戸惑いながらも、言葉を紡ぐ。
「嫌です」
「なんで……?」
「私は、ひとりの女で、貴方の姉で、ぬらりひょんの孫だから。守られるだけは嫌です。そんなことをしたら、リクオも私のように抱え込んでしまう」
「姉ちゃん……」
「一緒に……、一方的に守るんじゃなくて。2人で、守っていきましょう」
きっと、私たちは一人では成り立たない。二人で成り立つのだと思う。
リクオは、小さく頷いて、私を抱きしめ直した。
あれから、私は女として過ごすようになった、髪も伸ばし始めた。でも、一部の人間や妖怪は、私の本当の性別を知らない。いつか、話せたらいいと今は思っている。
――私は、リクオのとなりで生きていく。一人じゃなく。二人で。そうすれば、私たちは何倍も強く優しくなれるから。
fin