スレタイ適当、笑。
えーと、ここは私が様々なジャンルの小説を書くところになりますね、
公式cpだったり、伽羅の独白だったり、夢だったり…。
まあ、暇つぶし程度に寄ってくれたならと思います。
・ 荒らしや、迷惑行為はお断りです。
・ 感想は大募集しております!
・ 更新は亀さんです、笑。
それでは、よろしくお願いしますね!
名前を、 【 学園アリス / なつみかん 】
――棗、
目の前の、少女は寂しそうに笑って自分の名前を呼んだ。
蜜柑、と口を動かしたところで少女は、遮るように次の言葉を口にする。
――もう、さよならや。
そう、少女はその瞳に涙を浮かべた。
嘘だと、少女に向かって手を伸ばす。けど、その手は届かず、逆に彼女は遠ざかっていくばかりで。
――蜜柑っ!!
愛しい、少女の名前を叫んだ。
はっ、と目を覚ます。目に映ったのは見慣れてしまった病室。
先ほどの夢が頭の中に焼きついて離れない。汗が、頬をつたった。
荒くなった息を整えて、起き上がると同時に病室のドアが開く。
「っ、棗!」
「ルカ……」
ドアから入ってきたのは、学園入学前からずっと親友だったルカ。
ルカは、起き上がっている棗に驚き、ベットへと駆け寄る。
「目、覚めたんだね」
「ああ」
「棗、起きたのか!」
続いて、騒がしく病室に入ってきたのは目の下に星の印を入れた、翼。
「うるせぇよ、ハゲ」
「ハゲてねぇよ!」
不意に、あの夢が脳裏を掠めた。なんとなく、あれはただの夢ではないんじゃないかと思った。どうしても、そう思ってしまうのはきっと、ここにいるはずの彼女の姿がないから――。
「おい、ルカ。……あいつは? 蜜柑は……?」
純粋な質問だった。
自分の言葉に、顔を強ばらせ、ルカは視線を逸らす。様子がおかしい親友に、嫌な予感を感じた。
ルカ、と名前を呼ぼうとした矢先、「……棗、黙って聞け」と、翼が告げた。
翼から、聞かされたのは今回のことの結末。そして、蜜柑のこと。
彼女は――アリスを無くし、学園から出て行った。ここで過ごした、すべての記憶を消して。
「蜜柑……」
呆然と、呟いた名前に答えてくれるものはいない。
――棗!
もう、あの笑顔を見ることはできないのか。
自分の名前を呼ぶあの声を聞くことはもうできないのだろうか。
「み、かん……」
翼は、悲痛そうに棗を見つめて、ルカは顔を歪めて俯かせている。その目には涙が光っているように見えた。
それから、5年後――。
少しずつ、彼女がもういないということを受け入れて。そして、もう一度会うためにずっと、生き続けようと心に決めて。
そして、その日はやってくる――。
「待ってや! 二人共――――っ!」
あの幼い頃よりも、だいぶ大人びた容姿。けど、あの頃を一切変わらない笑顔を高台の上から見下ろした。
どれだけ、この日を待ちわびたのだろう。やっと、彼女に会えると思うと心が震える。
「蜜柑」
もうすぐ、彼女は自分のもとへ帰ってくる。そのことを、噛み締めながら小さく彼女の言葉を呟いた。
――棗っ!
それに答えるように、遠き記憶の中の彼女が答えた気がした。
あの、自分が好きだった笑みを浮かべて――。
‐‐‐‐‐‐
最初は、学アリのなつみかんで!…といっても、蜜柑でてないし。伽羅の口調迷子だ、笑。
でも、どうしても書きたかったんだ。このスレだって、これが書きたくて立てたもんだし()
学園アリス31巻の、棗が叫ぶシーンで少しだけど、書かれていた過去の絵から妄想を含まらせた結果がこれだ。
…うん、後悔はしてないよ←
追記.翼先輩の口調が、わかんねぇ、笑
赤い糸のその先は、 【 緋色の欠片 / 拓珠 】
昔からの言い伝えの中にこんなものがある。
――運命的な出会いをする男と女は、生まれたときからお互いの小指と小指が目に見えない『赤い糸』で結ばれている。
運命的な出会いだなんて、幼い頃の自分にとってすごく憧れるもので、自分の小指にある赤い糸の先にいるのは誰なんだろうと、いつ現れるんだろうとすごく楽しみにしていたことを覚えている。
「珠紀」
名前を呼ばれるとともに、つないでいた手のぬくもりが増すのを感じ隣の彼へと視線を向ける。
「何? 拓磨?」
「あのさ……今度の週末に、どこか出かけないか? まあ、そうは言っても村の中だけだけど……」
照れくさそうに、わずかに視線を逸らし。少しだけ頬を赤く染める彼は、普段とはかなりのギャップがあって。すごく愛しく感じた。
「いいよ、村の中でも!」
だって、拓磨と一緒ならどこに行っても楽しいのは変わらないから。言いかけたその言葉をなんとか胸の中に留める。なぜなら、これを言ってしまえば、彼はさらに照れて別れ際まで無言、なんてこともありえるかもしれからだ。
「本当か? じゃあ、10時ぐらいに迎えに行く」
「うん、待ってる」
そう言って微笑み合う。
こんなこと、あの頃の事を思えばどんなに幸せなことなんだろうと思う。
今思えば、幼い頃に何度も想像した赤い糸の相手は彼だったのではないかと思う。
根拠は何もないけれど、でもそれは確かなことなのだと思う。
「拓磨、大好き!」
「な……、い、いきなりなんだよ」
「言ってみたたかっただけ」
「はぁ……全く、お前ってやつは」
不器用で、でも優しくて。暖かい自分を見つめるその眼差しが好き。
初めてこの村に来たとき、すごく不安で、ここに来なければ良かったって思う。でも、今では違う。この季封村に来てよかったと思えた。だって、貴方に出会えたから――。
――赤い糸のその先は、小さな村の中にありました。
‐‐‐‐‐‐
ほのぼののような…そうじゃないような、意味のわからないものになってしまった。
拓珠可愛いっ! 可愛いという以外に何があるというのだ!
絶対にこのふたりは、運命の糸で結ばれてたんだと思います! だって、ねぇ?(何が)
このふたりの糸が、この先切れることがありませんように!
膝枕 【 緋色の欠片 / 真珠 】
すやすやと、己の膝の上で静かに寝息を立てる少女。寝顔というのはその人にとって一番無防備な顔だというが、少女の穏やかな顔を見て確かにな、と納得してため息をついた――。
宇賀屋家の縁側に座って、風鈴の音を聞きながら柄にもなくぼーっとしていたところに彼女がやってきたのが始まりだった。
隣いいですか?、と問われ反対する理由もなくそれを了承し、隣に座った珠紀と共にただ外を眺めていた。
ふと、肩が重いことに気づいて我に返って隣を見れば、自分の方に頭を乗せて眠る少女。そういえばと、最近は受験勉強やら、鏡の事件やらで忙しかったことを思い出す。
普段なら恥ずかしさに負けて、すぐに起こしてしまうだろうが今回は疲れている彼女のためにも恥ずかしさを抑えてこのままでいてやろう――と思うも、結局は自分が彼女と触れていただけなのだが。一体この言い訳は誰に向けられたものなのだろう。
この状態で小一時間、やはりこの格好では体が痺れてきてしまい、寝ているのを起こさないように体を動かしたとき。
「あ」
既にもう遅く、彼女の頭はするりと肩から落ち、そのまま己の膝の上へ収まった。そこで冒頭へ戻る。
好きな女が、己の膝の上で、さらには無防備な顔で寝ているのだ。どうも思わないわけがない。が、あの珠紀にだけ懐いているあの男にはなるまいと、なんとか理性を働かせる。それでも、自然と視線は彼女へと注がれる。
(……綺麗な顔してんなー……)
こんな綺麗な彼女が、今まで男に捕まらなかったこと、自分がその彼女を捕まえたことを不意に不思議に思う。もしかしたら彼女と自分は古から繋がっていたのかもしれないなと、珍しくそんなことを思った。
膝の上で穏やかな顔を見せる少女。この少女が、二度も世界を救ったなんて考えられもしないだろう。でも、確かに彼女は救ってみせたのだ世界を――自分を。
逃がさまいと自分に縋り付いて、まだ方法はある、諦めないで、先輩!なんて彼女は何度も訴えかけた。時には必死そうに、時には泣きながら。だから、今、自分はここにいる。世界で一番愛しい彼女の傍に。
真弘は、広げられたいつも手入れを欠かさないと言っていた彼女の髪をひと房持ち上げる。そして、その髪に口づけた。あの男と同じようなことをしていることが気に食わなかったが。別に、自分は自分の欲のためにしているわけではない、誓いのため。
「……安心しろ。お前は俺様が守ってやる。だから、いつも笑ってろ」
彼女に向けられたはずの言葉は、誰にも届くことなく、セミの鳴き声によってかき消された。
参考:TOY様
‐‐‐‐‐‐
始めて、お題を使わせていただきました!
TOY様のところは、素敵なお題が多く、使いたいものがたくさんあります!なので、これからも使わさせてもらおうと思っています、
さて、今回は前回に引き続き緋色の欠片で、真弘×珠紀です。時間軸は、蒼黒の楔以降ぐらいですね。
まあ、これは――真弘先輩の独白って感じですね。
……まあ、書きたいことはかけたし満足だ!
貴方に会いたくてたまらない ( 前編 )【 緋色の欠片 / 拓珠 】
「お願い……お母さん。私、あの村で生きていきたいの、大切な人のとなりで生きていきたいの……」
向かい側には、日々しい顔つきをした自分の母親が自分と同じように正座している。さっきから何度も訴えているが、母からは何も返ってこない。それがさらに不安を掻き立てた。
「お母さん!」
「……珠紀。今日はこれぐらいにしときましょう」
「でも……!」
「私は、あそこへ――あんな村へ貴方を行かせることはできません」
これから先何度も言われても、この意志は曲げない。そう言っているかのように母親はきっぱりと言い切れば、部屋を出ていった。
部屋の中が沈黙に包まれる。聞こえるのは時計が針を刻む音だけ。
「……拓磨」
珠紀はぽつり、と愛しい彼の名前を呟いた。
鬼斬丸を壊し、祖母の葬式終え、季封村から家へ帰ってきてから約2週間。珠紀は未だ、村で生きる許可を得られないでいた。
母親の気持ちも確かに分かる。季封村では何度も死にそうになった。更には身内に殺されかけたりもした。鬼斬丸がなくなったとは言え、まだ堕ちてしまったカミサマはいる。きっとそれは、玉依姫の力を持つ自分を狙ってくるに違いない。危険なのは変わらなかった。
(だけど――)
自分は出会ってしまったのだ。あの場所で、この世界で一番愛しいと思える人と。
確かに村は危険だ。自分だって何度逃げ出したいと思ったか。それでも、いつも傍には彼がいた。自分を支えてくれて、引っ張ってくれて、そして守ってくれたあの人が。
村を出る前に約束したこと、“時雨が終わるまでには戻って来い”それは、もう叶いそうにない。けれど、絶対に戻ってみせるから――。
「だから、待っててね……拓磨」
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後編に続きます!
貴方に会いたくてたまらない ( 後編 )【 緋色の欠片 / 拓珠 】
突然、廊下から電話のコール音が聞こえた。こんな夜にかけてくる人物はただ一人だけ。珠紀はばっ、と立ち上がる。長時間正座をしていたせいか足がしびれるも最早気にもとめない。
廊下に出て、突き当たりにある電話を受話器を取った。そして、少し震え気味の声で言葉を発した。
「……もしもし?」
『あ、えーと……鬼崎です。珠紀……さんはいますか?』
何度も電話で会話をしてきたというのに、変わらずに緊張した声が受話器の向こうから聞こえた。それがなんだかおかしくて、思わず笑いをこぼす。
すると、「おい!」と聞こえてきた笑いに腹を立てたのか乱暴な声が聞こえる。
「ごめん、拓磨。だって、何度も電話してるのに拓磨ってば言葉が片言なんだもん」
『悪かったな。……誰だって緊張するさ。好きな奴に電話をかけるなんて』
真っ直ぐに好きと伝えられたわけではないのに、頬が熱くなるのを感じる。多分、無意識なんだろうが遠まわしに自分を好きだと告げる相手をいつもずるいと思う。
『珠紀? どうかしたか?』
「あ、……ううん、なんでもないの」
『それで……どうだ? 今月中には帰れそうか?』
「無理かな……お母さんのあの調子じゃあ」
『そうか……』
それっきり無言になる。ふと、先程の母との会話を思い出す。母親はとても頑固だ――それが、珠紀にも継がれたのだろう――説得するのはとても難しい。本当に彼のもとへ帰れるのだろうか。もし、このまま帰れなかったらと思ってすー、と背筋が冷えたのを感じた。
不意に、拓磨が「珠紀」と名前を呼んだ。
「何? 拓磨」
少し声が震えていたかもしれない。それに彼は気づいていたのか気づいてないのかはわからないが、何も言わずに言葉を続ける。
『正直に言うけどな、俺は、お前をそこから拐ってしまいたいと思ってる』
「たく、ま……」
『でも、お人好しで馬鹿なお前なことだからな。絶対に嫌がるに決まってる――だから、俺は待つよ。お前をこの村で。……まあ、待つのは性分じゃないけどな』
なんて温かい言葉なのだろうか。次々と涙が目から溢れ出てくる。何か言いたいのに言葉が出てこない。彼が愛しすぎて、何も言えない。
『珠紀……? 泣いてるのか?』
啜り泣く声が聞こえてしまったのだろうか。でも、できるだけ声を抑えたはずなのだが。何も得ずに黙っていればふ、と笑う声が聞こえた。
『言ったろ? お前のことは離れてても分かるって』
「う、ん……」
やっと言葉を発する。そうだった、彼は自分のことに関してならばなんでもわかってしまうんだ。ならば、さっき自分が考えていたこともきっと見通されていたのだ。だから、彼は自分を励まそうとあんなことを言ったのだ。
「拓磨……会いたいよ」
『……俺もだ』
蔵の中に監禁されていた時とは違う。ちゃんと、声を聞くことはできるのに。名前を呼ぶことができるのに、なぜこんなにも寂しいのだろう。
「……私、頑張るから。絶対にお母さんを説得して、村に戻るよ」
涙を手で拭き取って、そう告げる。寂しい、ならば会いに行けばいいのだ。母親を説得して、あの村へ帰ればいいのだ。
『……お前はそうでなくちゃな。くよくよしてるのは似合わない』
優しい声が聞こえる。……いや、声だけじゃなくてちゃんと顔も見たい。彼に触れたい。
愛しい気持ちを抑えるように胸に手を置く。
「待っててね、拓磨」
『ああ、待ってる』
――もし、あの村に戻って彼に出会ったらまず一番にこう告げるのだ、ただいまと。そして次は――好き、大好きだと溜め込んできた相手への気持ちを告げようと珠紀は心に決める。
2人が再開するまで、あと、もう少し――。
‐‐‐‐‐‐
またもや、緋色の拓磨×珠紀です。このcpは緋色の中で二番目に好きです。一番目はもちろん、真弘×珠紀です、笑。
離れている間、二人はどんな事を想っていたのかそんなことを妄s…想像しつつ書かせていただきました!
今回は長く書きすぎました…まあ、これが私の拓珠へと愛です!←
眠り姫にキスを 【 緋色の欠片 / 拓珠 】
(やめろ……珠紀! 俺なんかのために――命を捨てようとするな!)
必死に叫ぶ声は、言葉には出ない。
重なる唇を介して、珠紀から何かが流れ込んでくる。そう、それは彼女の命そのものだった。
彼女は、自分の体の中に眠る封印の力を自らの命とともに拓磨に注ぎ込み、封印するつもりらしい。だが、拓磨にはそんなことを考える暇はなかった。
――愛してる。
キスをされる前、彼女の口から囁かれた愛の言葉。その言葉は、自分の中に眠るもうひとりの自分を呼び覚まさせた。
そして、そのもうひとりの自分も彼女が深い永久の眠りに落ちてしまうのが嫌だった。
(やめろ、珠紀……! やめてくれ!)
しかし、拓磨の声が届くことはなく、珠紀の体からは少しずつ力が抜けていく。
そして、珠紀が崩れ落ちたとき、それを拓磨が支えた。
変化した腕は元に戻り、角も顔も元に戻る。彼女の望んだ通り、力は拓磨の中で封印された。
「何やってんだ……馬鹿っ!」
抱き抱えた体から熱が少しずつ引いていく。そのなくなっていく温度に恐怖を感じる。
珠紀が死んでしまう。自分を支え、そして愛してくれた珠紀が死んでしまう。そんなこと、拓磨が耐え切れずはずがなかった。
「死ぬな、珠紀っ!」
今度は、自分から珠紀の唇に己の唇を重ねる。そして、彼女から注ぎ込まれた力を半分、彼女の中へ注いでいく。同時、彼女の体温が戻ってくるのを感じた。
顔を離し、数十分経ち、ゆっくりと、珠紀の瞳が開いていく。
「たく……ま?」
状況に追いつけていないのか、少し呆然とした声で拓磨を呼んだ。それすら、愛しくてその体をぎゅ、と抱きしめる。
「死のうとするな、馬鹿……っ」
震える声で告げれば、腕の中の珠紀は何も言わずに頷いた。
――王子様のキスは、眠り姫を呼び起こす。どうか、自分の目の前から消えていなくならないでくれ。
‐‐‐‐‐‐
……どうしよう、拓珠ばかり思いつく。本命は真弘先輩なのに() それは全て、拓珠が素敵すぎるからだ!←←
いっそのこと、緋色の欠片専用のスレ作ろうかな…。うん、そうしよ、
一度、拓磨へ命を注ぎ込み死と生の間を彷徨う珠紀ちゃん。その間、拓磨は何を思ってたんだろうという思いつきから生まれた作品、
拓磨……かっこよすぎるでしょ←←
夏の夜( 前編 )【 緋色の欠片 / 真弘×夢主 】
夏の夜。
花火に照らされ、無邪気に微笑む君に心奪われた――。
「へぇ……去年に比べて、賑わってるじゃないかい」
「お、おう……そうだな」
今日は季封村総出の夏祭り。最後には花火も上がるという村一番のイベントだ。最近はこれをもとにして、村おこしを行っているらしくここに来るまでの道でちらちらと見かけない顔の人や、家族連れを見かけた。
真弘もまた、己の彼女である黎を連れて、夏まつりへ足を運んでいたのだが。
(これは……やばいだろ)
ちらり、と隣にいる黎の姿を盗み見する。
スラリとした体型に似合う、淡い紫色をした浴衣に、茜色をした帯。普段は高く一つ括りにしている髪を今日は、簡単に団子にまとめていて、白いうなじが見える。
いつもより、さらに色気の増した黎に、真弘は胸を高鳴らせた。ここに人がいなければ、きっと今にも彼女を抱きしめ深い口づけをしていたことだろう。それを安心しているのか、それとも悔しいのか複雑な思いでいる中、やっと視線に気付いた真弘に視線を向けた。
「何さ?」
「……な、なんでもねぇ……」
「ふーん……」
黎は訝しげに真弘の顔を覗き込む。予想外の顔の近さに、真弘はふい、と視線を逸らす。
その状態で約10秒。はぁ、と軽いため息をついた黎がやっと離れる。真弘はほっ、と安堵をつくが黎の様子がおかしいことに気づく。――機嫌が悪そうだ。
「おい?」
「せっかく珠紀たちと一緒に街まで行って買ってきたってのに……褒め言葉も、一言もないのかい?」
ぶす、と少し膨れた顔でじろり、と真弘を見つめる黎。
ずるい。いつもより色気が増しているというのに、その顔で見つめられてしまえが顔が逸らせなくなってしまう。
今度は真弘の方が様子がおかしくなってしまい、それに気づいた黎が真弘へと顔を寄せる。
「どうしたのさ……――」
ぐい、と真弘は自分の頬に伸ばされた黎の手を掴み自分の方へ引き寄せる。急なことで、更にはなれない下駄のせいか簡単にバランスを崩してしまう。
自分の胸に収まった黎を軽めに抱きしめる。周りからの視線が恥ずかしいが、この際は仕方がない。コイツが可愛すぎるのが悪いんだと自己完結させた真弘は、ぼそり、と黎の耳元でつぶやいた。
「……綺麗すぎるんだよ、ばーか」
「――っ!」
ばっ、と胸を押して真弘から離れた黎の顔は、見事に赤く染まっていて、真弘は、声を上げて笑った。
夏の夜はまだ始まったばかり――。
‐‐‐‐‐‐
自分が書いてる夢小説の主人公と真弘での、短編です!
後編に続きますー!
お姫様、迎えに来たよ。 【 アニポケ / サトシ×夢主 】
私は、一世一代の告白をした。幼い頃から想いを寄せてた少年に。
好きです、と伝えたあと、少しの沈黙、そして返ってきたのは、ごめん、という謝罪だった。そこで、私は振られたのだと理解する。直ぐにその場を逃げ出したくて、私は駆け出した。
その背中に向けて、彼は何かを叫んだんだ。
――――。
それが数年前ぐらい。あの日を境に、私は彼の旅から抜けて故郷のマサラタウンへ戻った。それからは、彼の母親と同じように、彼を待つ人になった。
帰ってきては、また別の地方へ。博士のところへ預けられていくポケモンたちから、帰ってきた時に聞かせてくれる冒険物語から、彼は私が以前から知っている彼ではなくなっていることを知った。
悔しい。私が一番彼を知っていると思っていたのに、今では私の知らない彼を知っている人が居る。でも、振られた以上、もう彼のそばにはいられなかった。彼が許しても、私が許せないのだ。
――そして、ついにその時がやってきた。彼が、夢を叶えたのだ。
テレビで報道するそれに、私の両目には熱いものがこみ上げてくる。ただ、嬉しさがこみ上げた。彼が夢に向かってどれだけ努力をしてきたかを、苦労をしてきたかを知っている。それが報われた。彼の夢が叶った。私は自分のことのように喜んだ。
数日後、彼は帰ってきた。その後はただ、パーティーだ。その騒ぎように、シゲルは苦笑していたけれど、どこか嬉しそうだった。
彼は言った、「ここで終わりではない、まだまだ強くなってやる。だから、また旅に出る」彼らしいと思った。同時に、寂しくなった。
パーティも終わりを告げて、私は一人マサラの夜空を見上げていた。その時、つん、と足をつつかれた。足元にいたのはピカチュウで、その手には赤いバラの蕾が握られている。それを私の方に差し出しているのだから、多分、私への贈り物だ。
「……ありがとう」
ピカチュウを抱き上げれば、甘えた声を出しながら擦り寄ってくる。それが可愛らしくて、頭を撫でていれば走ってくる足音が聞こえた。
「ピカチュウっ!」
息を切らしながらやってきたのは、今日のパーティーの主役、サトシだった。ピカチュウは、彼を見るなり、私の腕から抜け出し、今度はサトシの肩へと登った。
「全く、先駆けしやがって……」
「サトシ?」
「いーや、なんでもない! それで、その花受け取ってくれたんだな」
その目線は、私の持つバラの蕾へ注がれる。
「サトシからだったんだね。……ありがとう」
きっと鈍い君のことだから、この花の花言葉を知っている私が浮かれていることを知らないのだろう。花言葉は――。
「“純粋な愛、愛の告白”」
「え?」
まさか、その言葉が彼の口から出てくるなんて思っても見なくて、私の口からは間抜けな声がこぼれ出る。
彼の顔は、バトルで見せる真剣な表情そのもので。
「……聞こえてなかったかもしれないけど、あの日、俺から逃げたお前に俺、言ったんだ」
――“俺がポケモンマスターになるまで待ってろ”って
「あの時、俺はトレーナーとしても、男としてもまだまだ未熟で。そんなんじゃ、絶対にお前に迷惑かけるってわかってたから。だから、ケジメとして俺が夢を叶えるまで待ってて欲しかった」
帽子のつばを下げて、一瞬表情を隠したあと、私に顔を見せたサトシ。その表情はとても、柔らかいもので。言うならばそう、愛する人に向ける顔。
「遅くなってごめん。でも、聞いてくれるか?」
(俺は、お前のことが好きだ)
(俺のそばにずっといてくれ)
(その言葉は、とても嬉しくて涙が溢れた)
(私は、勿論――はい、とか細い声で答えた)
‐‐‐‐‐‐
あけおめー、()
前の小説のやつの続きがかけなかったので、あれは放置。今回はサトシだよー。なんか、再熱した((
捏造ばっか、笑
長編書こうとして、でも挫折しそうだなと悟りボツになったネタ。()
少し長いかも、なので、設定を提示ー。
・ぬらりひょんの孫の原作沿い。
・これから書くのは、牛鬼編のお話。
【夢主】
・名前は、奴良リオ。リクオの姉。15歳ぐらい
・リクオのために、男として現在総大将の後を都合と奮闘中。学校には通ってない→家庭教師がいる。
・元は物静かだが、総大将になるため荒っぽい性格にした。
・リクオとは違い、クォーターではなく半妖。
これぐらい。姉弟愛有りです、注意。
じゃ、次からスタート。
父様が死んで、数年が過ぎた。
可愛い弟のためならば、私は男になり、魑魅魍魎の主になりましょう――。
部活の合宿先が捩眼山だと知った。そこは、俺が総大将になることをよく思っていない牛鬼組の本拠地。リクオに、直接の関係がないとは言えどもリクオも確かにぬらりひょんの孫。何もないわけがない。そう思って、付いていった結果、俺の予想は見事に的を居ていた。
「リオ様……! だめです、お下がりください……!」
「氷麗、俺は大丈夫だ。お前は安静にしてろ」
後方で叫ぶ氷麗の足は、鋭い刃物で刺され真っ赤に染まっている。それでも尚、俺のことを気にかけてくれる彼女の優しさを背中に受けて、目の前の敵を見据える。
「牛鬼は、お前たちはそこまで俺のことが気に食わないか」
「例え、お前がぬらりひょんの孫であろうが、女は弱い――っ!」
「くっ……」
牛頭丸と名乗ったその妖怪は、刀を手に俺へと斬りかかる。俺も、刀を構えてその一閃を受け流す。しかし、人間の体ではこれが限界で、ただ俺は逃げ回るのみ、
俺の親父も、半妖で、畏れを操り常に妖怪の姿でいた。しかし、対して俺は才能がないのか、その恐れを上手く操ることができず、今だ人間の姿。女であろうが、妖怪の姿ならば優勢な位置に立てるはずなのに。そう思ったとき、油断していた俺は手に持っていた刀をはじかれてしまった。
「これで終わりだ、――奴良リオっ!」
刀を持たない俺に、牛頭丸は先程よりも勢いをつけて斬りかかる。
防ぐ手を持たない俺は、痛みに耐えるために構え直す。そして、――きん、と何かが刀を弾く音が響いた。
俺の視界を埋め尽くしたのは、幼少期、俺の背中を追いかけてきた弟の――リクオの背中だった。
リクオが弾いた刀は牛頭丸の手から離れ、少し遠い位置の地面に突き刺さる。
「兄ちゃん、大丈夫?」
「あ、ああ……」
「リクオ様!」
此方へ目線を向けずに俺に話しかけたリクオは、普段の温和な時とは違った。そう、言うならば妖怪の時の雰囲気と似ていた。
俺がそれについての疑問を投げかける前に、氷麗が傍へとやって来る。元々足を負傷しているくせに無理に移動していたせいか、足が先程より赤く染まっている。
「お二人共、お逃げください。あの者は、若たちの命を狙っております。ここは、この氷麗が――」
「いや、俺がやる。だから、リクオ、お前は氷麗と一緒に――」
「いい加減にしねぇか」
小さくでも低くその威厳溢れる声は確かに目の前の弟から発せられたもので、俺も氷麗も口を閉じる。
リクオは、少しだけ此方へ顔を向けた。
「氷麗も、“姉ちゃん”もここで待ってて。……大丈夫だから、僕が何とかするから」
そう言ってリクオは駆け出した。
――俺は随分と昔から男を演じてきた。リクオは、父さんが死んだせいかそのあたりの記憶が曖昧になっていて、俺が女だったことも忘れていたはず。なのに、今、リクオは“姉ちゃん”と言った。
(思い出したのか……?)
なんにせよ、リクオに何らかの変化があったことは確かで、俺は牛頭丸とリクオの戦いを見守ることしかできなかった。
闘いが始まって少し――牛頭丸がついに畏れを見せた。その爪で何やらかの呪文で動きの取れなくなったリクオへと襲いかかる。
俺は、訳も分からずリクオの前へ体を投げ出す。ただ、大切な弟を守りたいという思いだけで。
「リオ様――っ!!」
「姉弟諸共……、これで終いだぁぁああ!」
目の前に爪がかざされる。それを防ぐ武器もない俺は、ただ目をギュ、と瞑った。やがてやってきたのは――痛みではなく、どさりという音と静かな沈黙。そして何故か俺は浮遊感を感じていた。
「え……」
目を開ければ、そこには妖怪へと転じたリクオがいた。
地面へと目を向ければ、刃で爪を切られ、意識を失った牛頭丸の姿。再び、リクオへと目をやれば手には刀が握られていた。
「リク、オ……?」
「姉貴……なんて無茶しやがる。今は人間の姿だってのに」
「リクオ様、リオ様……!」
負傷した足を引きずり、氷麗が駆け寄ってくる。その姿を一目見たあと、リクオは刀をしまい、空いた手で優しく壊れ物でも扱うように俺の頬を撫でた。
「もう、大丈夫だ。……知ってたよ、自分のこと――夜、こんな姿になっちまうんだな」
そういったリクオの頬に流れていた一筋の血が、まるで涙のように見えた。
あの後――リクオは、牛鬼のもとへ行くとそう言い残して消えてしまった。だから、俺は、今、眠ってしまった氷麗を抱えて石階段を下りていた。
暫くして前方から微かな光と、足音が聞こえた。それはやがて大きくなり姿を見せたのは、リクオの友人のカナちゃんだった。
「リオさん……!……と、及川さん?」
「カナちゃん……こんなところ一人だなんて、危ないよ」
「それはこっちの台詞です。……他のみんなは?」
「それは……」
俺は、言葉を濁す。清継君、島君はきっと無事だろう。しかしリクオは――。
俺はどうしたい。できるならば、すぐに追いかけたい。でも今の俺では足でまといになるに決まってる。けれど、俺はあいつの兄貴、だから――。
様々な思いが俺の中を駆け巡る中、ぎゅ、と俺の着物の裾を握る気配があった。
「氷麗……?」
「リオ様……、私のことは気になさらないで。リクオ様を……、リクオ様の所へ……」
俺にしか聞こえない声で、囁くように言ったあと氷麗はまた目を閉じ、裾を掴んでいた手もだらりと下に垂れた。
氷麗の言葉では、と気づく。――きっと、俺は行かなくてはいけないのだろう。足でまといだとしても、奴良組のために、俺たちのために、今までのことにすべて決着をつけなくちゃいけない。
「カナちゃん。氷麗をよろしく」
「え……、え、でもリオさんは?」
「俺は、3人を探しに行ってくる」
「え、あ……!」
素早く氷麗をカナちゃんに渡し、俺は階段を今度は駆け抜けるように登っていく。行き先は、山の上――!
俺が到着した時には、もうすべて、終わっていた。
床の上には腹を切り、血を流して倒れる牛鬼とそれを見下ろすリクオ。リクオも、腹の辺りを抑えている。そして、傍らには黒羽丸とトサカ丸もいた。
「――もはやこれ以上考える必要はなくなった」
牛鬼は、刀を構えた。しかし、リクオは動じない。
「これが私の、結論だ!!」
「牛鬼貴様ぁああ―――!!」
しかし、その刀が振り下ろされることはなく、一直線に牛鬼の腹へ向かう。俺はそれを止めることができず、ただ手を伸ばすのみ――。
キン、と音が静寂の中で響く。牛鬼は、生きていた。
「――-なぜ止める?リクオ………」
リクオの刀の一閃で、牛鬼の刀の派は、近くの柱へと突き刺さり、柄は牛鬼の手から離れてからん、と床へと落ちる。
「私には、謀反を企てた責任を負う義務があるのだ。なぜ死なせてくれぬ……牛頭や馬頭にも合わす顔がないではないか」
「オメーの気持ちは痛てぇ程わかったぜ」
リクオは牛鬼の前に立ち、そして見下ろす。
「俺が腑抜けだと俺を、――姉貴を殺して自分も死に。認めたら認めたでそれでも死を選ぶたぁ、らしい心意気だぜ牛鬼。――だが、死ぬこたぁねぇよ。こんなことで……なぁ?」
リクオは、刀を肩へのせ不敵に笑う。そんな彼に、牛鬼も黒羽丸らも驚いた表情を見せた。
「若!? そんなことって……!!」
「これは、大問題ですぞ!!」
「ここでのこと、お前らが言わなきゃ済む話だろ」
「わ、若ぁ……」
黒羽丸たちの困った反応を見、リクオは牛鬼へ顔を寄せた。
「牛鬼……さっきの答え。人間のことは、人間んときのオレに聞けよ。気に入らなきゃそん時斬りゃーいい。その後……勝手に果てろ」
背を向け、戸口へと歩いていくリクオ。牛鬼は、まるで糸の切れた人形のように床へと崩れ落ちそうになり、それを俺は支えた。
(2人が、奴良組がこんな目にあったのは俺のせいだ)
そんな確信があった。
リクオを守りたい一心に、奴良組を引き受けて、でも結局それは組のことなんて思ってなかった。ただの、俺の――私の自己満足だった。
「ごめん……、ごめんね……牛鬼」
記憶の中にあった、あの優しげな牛鬼を思い出し、気を失った彼を抱えて、私は泣いた。
流石妖怪ともいえよう。翌朝には、牛鬼は目を覚ましていた。
リクオが話を終えて出て行ったあと、俺は、部屋の中へと入り込む。
「リオか……」
「今回は、ごめん。……俺の浅はかな考えのせいで、こんなこと……」
牛鬼の傍らへと座り、顔を俯かせて俺はつぶやいた。
ため息をつく音が聞こえたあと、俺の頭に温かな手が乗せられた。
「え……」
「お前の、リクオを守りたい思いは承知している。だが、それが組のことになるとは思わない」
「牛鬼……」
「今回のことで、リクオは変わるだろう。……お前も、すべてを抱え込む必要はない」
「……うん」
俺が涙をこらえているのに気づいていたのだろうか。牛鬼は、不器用に、でも優しく俺の頭を撫でてくれていた。
牛鬼の部屋を出て、廊下を歩いていれば、柱に背を預けたリクオがいた。どうやら俺を待っていたようで、俺が現れた瞬間、柱から背中を話した。
「……兄ちゃん、話があるんだ」
何を言われるのだろうか。そのリクオの一言でそんな不安が自分の中を埋め尽くす。
俺は聞かないふりをして、その横を通り過ぎようとする。でも、リクオがそれを許すはずもなく、俺の手を捕まえる。
「兄ちゃん――」
「ごめん、……これで許されるのなら、俺は何度だって謝る」
「何を言って……」
すべての原因は、俺。牛鬼はああ言ってくれたけれど。俺がもっと自覚すれば、今までどおり奴良組は引っ張っていけるはず。
俺はリクオからの逃れようと、手の束縛をなくそうとする。
「俺が悪かったよ。だから――」
「――姉ちゃんっ!!」
リクオにそう呼ばれて、俺は、は、と体の動きを止めた。その数秒後に、此方へ向かってくる足音が聞こえてきて、リクオは俺の手を掴んだまま近くの空き部屋へと飛び込む。
いきなりのことでバランスを崩しかけた俺は、畳に倒れ込む覚悟をと、目を閉じた。でも衝撃はやってこず、逆にやわからな体温が体を包む込む。
「リクオ……?」
リクオは、俺をギュ、と正面から抱き抱えていた。
いつの間にか占められた襖の外からは慌ただしい足音と声。次第にそれは遠ざかって行って、それでもリクオの俺を抱きしめる腕は緩まない。
「リク――」
「もう、無理しないで」
名前を呼ぼうとして、リクオに遮られた。それは、すごく辛そうな声。
「謝るのは僕の方。今まで気づかなくてごめん。辛かったよね、悲しかったよね……。姉ちゃんは、僕の姉でぬらりひょんの孫である前に――ひとりの女の子なのに」
「リク、オ……」
「……泣いていいよ。今までの分、ここで全部吐き出して」
そう言われて、もう我慢ならなかった。私は、リクオにすがりついて、声を押し殺して泣いた。昨夜流した涙よりも、さらに長く泣いた。
ひたすら泣いて、涙が泊まった時には私の短い髪を、リクオは優しく髪撫でていた。
「姉ちゃん……長かった髪、切っちゃったんだね。口調も全く変えて……」
「リクオ……」
先程から、リクオとしか言えていない。それぐらい、私はほかの言葉を紡ぐ余裕なんてもの無かった。
「――もう、抱え込まないで。偽らず、女の子として生きてよ。僕が、守るから。奴良組も、姉ちゃんも……僕の大事なものすべて」
ぎゅ、とリクオは私を強く抱きしめた。漸く落ち着いてきた私は、久しぶりに使う口調に戸惑いながらも、言葉を紡ぐ。
「嫌です」
「なんで……?」
「私は、ひとりの女で、貴方の姉で、ぬらりひょんの孫だから。守られるだけは嫌です。そんなことをしたら、リクオも私のように抱え込んでしまう」
「姉ちゃん……」
「一緒に……、一方的に守るんじゃなくて。2人で、守っていきましょう」
きっと、私たちは一人では成り立たない。二人で成り立つのだと思う。
リクオは、小さく頷いて、私を抱きしめ直した。
あれから、私は女として過ごすようになった、髪も伸ばし始めた。でも、一部の人間や妖怪は、私の本当の性別を知らない。いつか、話せたらいいと今は思っている。
――私は、リクオのとなりで生きていく。一人じゃなく。二人で。そうすれば、私たちは何倍も強く優しくなれるから。
fin
よくわからねー、(棒)←
一体何が書きたかったんだろう、私。不思議だ。
……まあ、ええや、終わったことは気にしない!
さて、そろそろテストあるんで、休みます。んで、終わったら、拓珠か、真珠の転生小説書こうかなと。長さとしては、中編……ぐらいかな。
お姫様と、その騎士 【 らくだい魔女 / チトセ×フウカ 】
俺の幼馴染は、銀の城のお姫様――の、はずなのに全然姫らしくない。
宿題は忘れる、遅刻・赤点は当たり前。女らしさの欠片もない。そんな、俺の幼馴染だけど。
――あたしは負けないっ。あたしを信じてくれる仲間がいるんだもの。闇には負けないっ
強く、優しく。頑固者で、でも放っておけない。そんな奴。
自分のことを考えず、他人のことばっか考えるから危なっかしくてしょうがない。だから、俺が守るって決めたんだ。
「チートーセー! 早く帰ろー!! ねぇ、チトセー!!」
「あー、はいはい。わかったから何度も言うなって」
「なら早く来てよねー!」
今まで以上に強くなって。誰からも守れるようになって。胸を張って、お前の騎士になってやるって言える日まで――この気持ちはしまっておこう。
視界の先で、綺麗な金色の髪がふわりと揺れる。気づけば、フウカの顔が近くにあって。
「何、ぼーっとしちゃってんの? とうとう、頭おかしくなっちゃったの?」
「ばーか。そんなわけあるかよ」
これだから鈍感は。高鳴る鼓動に気づかれないよう、フウカよりも先に箒を走らせる。
――不器用で、全然姫らしくないお姫様。だけど、俺はそんなお姫様の、ただひとりの騎士になりたい。
――だから、騎士になったときに伝えるよ。お前のことが好きだって。
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うん、意味がわからんね。
久しぶりのチトフウ。本を見つつ、口調確認しつつ、ね?、笑
なんか書きたいのと違ったような気もしなくもない、が。…まあ、今のところはこれでいいか。
新月の夜の訪問者 【 ぬらりひょんの孫 / リクオ×夢主 】
風呂上り。階段を登って自室の扉を開ければ、壁に背中を預ける一人の客人――いや、侵入者といったほうが正しいかも――がいた。
「よぉ、邪魔してるぜ」
「……ねぇ、あんた、どっから入ってきたの? 今日は窓の鍵も閉めておいたはずなんだけど」
「そらぁ……俺がぬらりひょんだからだ」
そいつの言うとおりで、新月の夜に決まって私の部屋へ訪れるこの男は、ぬらりひょんという妖怪、らしい……が。
「それがなんだって言うのよ!! 私、勉強しなきゃいけないの。早く帰ってってば」
窓を全開にし、男の背中を押して強引でもいい、追い出そうとした。でも、あのぬらり、くらりと躱すこの男にそれが通じる訳もなく、いつの間にか彼は私の目の前にいて、覆いかぶさるようにしで抱きしめられていた。
「つれねぇな……」
「い、いから……、離してってば!!」
「顔が赤いじゃねぇか。どうした?」
「べ、別に……」
無駄に美形だから、その顔外気が触れ合うほど近くにあるから顔が赤くなるのであって、決して好きってわけじゃ――。
「へぇ……、“好き”ねぇ」
「はっ……」
どうやら、口に出してしまっていたようだ。違う、違うからと必死に弁解する私を見て、男はくつくつ、と喉を鳴らして笑う。
「そぉかい。お前はそんなに俺が嫌いか」
「そ、そーよ!! 嫌いよ、あんたみたいな奴」
「――俺は好きだけどなぁ」
空気が固まった。え、今この男、なんて言ったの。好き、私のことが好き?
頭の中が真っ白になって、呆然としているのが悪かった。男は、さらに顔を近づけて。
「っ……」
軽く唇を触れさせた。私の唇に。
顔が熱い。これでもかってぐらいにきっと、真っ赤になってる。
唇をパクパクさせるだけで、肝心の言葉が出てこない私。男は、またもやくつり、と笑った。
「俺は、狙った獲物は逃がさねぇ。必ずや仕留めてみせる。――だから、覚悟しとけよ」
(彼は、私の耳元でそう囁いた)
(さらに顔を熱を上げた私を、彼はまた笑った。――今度が愛しげに)
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何が書きたかったんだろうね、私()
なにか書きたくて結果がこれだ。…まあ、満足できたしいいかな。
で、中編、どうしよーかな。
一緒ならば 【 ぬらりひょんの孫 / リクオ×夢主 】
宴の夜。騒がしい妖怪たちの声を背に、私と、そしてリクオは縁側で座っていた。
何も言葉は交わさない。でも、とても穏やかな時間。
つぼみになり始めたしだれ桜を見る。
「変わらないね、ここは」
ここに住む者たちは血が繋がっているわけではない。でも本当の家族のようで。すごく暖かい。普通の家庭で、親からの愛情を受けて育ってきた私でも、ここの温もりは羨ましい。
「……ずっと、ここの暖かさに触れていたいな」
ぽつりとつぶやいた。それができたらどんなにいいだろう。
ふと、左手にぬくもりが宿る。目を向ければ、赤色の全てのもの魅了する瞳と合う。
「――じゃあ、来るかい?」
「え?」
「俺の嫁として。奴良組に」
時が止まる。
賑やかな妖怪たちの声も聞こえなくなる。
「え、ちょ……質の悪い冗談?」
「そんなわけねぇ。俺はお前に心底惚れてんだ」
リクオの手が腰に周り、私を引き寄せる。酒のかすかな甘い香りで酔いそうになるほど、顔が近い。
「私……人間だよ? きっと、奴良組のお偉いさんに反対されるよ」
「なら、俺がねじ伏せてやる。俺は、奴良組3代目総大将だからな」
口角を上げて、自信有りげに言われてしまえばもう何も言えない。だって、今までの人生で彼がその自信に応えないことはなかったのだから。
「俺と一緒になれ」
もう、言葉はいらない。自然とまぶたが降りて視界が暗闇になる。唇にかすかな温もりが宿った。
胸が幸せでいっぱいになる。
(生きよう。この人とともに。壁があってもきっと一緒なら乗り越えられる)
私もリクオの背中に手を回す、その想いに応えようと唇を重ねる。
2人の世界で、しだれ桜だけが私たちを見つめていた。
---
シリーズもの。続きます
(……入りにくい)
昼頃。私は、奴良家まえの門の前にウロウロしてます。
いやだって、昨日のことがあったわけだし入りにくいんです。
(でも、結婚、かぁ)
そんなことができる歳まできちゃったんだ。そう思うとどこか寂しい気もする。
そう、リクオと出会ったのはこの場所だった。
ここに引っ越してきたあの日。大きな子の家が物珍しくて、礼儀も知らず覗こんでいればたまたま見えてしまった妖怪に失神してしまい。次に起きたとき、私がいたのはさっきまで見ていた家の中。目があったのは、まだやんちゃだったリクオ。
『遊ぼ!』
その言葉に誘われ、私はリクオとそしてそのお付の妖怪たちと遊んだ。
本当に、純粋な頃だったから妖怪たちの存在をすんなりと受け入れて――まあ、最初は怖かったけど――この奴良組は、私の居場所の一つになった。
けど、あの日、リクオは妖怪として目覚め、そして変わってしまった。
中学に上がったらあの幼い頃のやんちゃさも消えてしまった。寂しかった気もした。でも、きっとリクオも悩んでたんだ。だから、私は彼のそばにいることを選んだ。
それから、1年。リクオは人間としても、妖怪としても大きく成長した。そして、清明を倒し、リクオが帰ってきたあとの宴で、私は告白された。
『僕は君が好きだよ』
その顔は、今までの幼かった彼じゃない。大きく成長した大人の人だった。
こんな私でもいいのか。そう思ったけど、でも嬉しかったから私は返事を返した。
『私も、好き』
(恋人なら、まだ良かった。でも、結婚となると――)
きっと、昨日は私もリクオも酔っていた。普通、人間と妖怪が結ばれることはありえない。リクオのおじいさんやお父さんがそうだったとしても。
それに、後継のことを考えればリクオのお相手は、純血の妖怪のほうがいい。
昨日は、返事を曖昧にしてしまった。でも、だから昨日のことをなかったことにもできる。だから私はここにいるんだから。
(……ああ、でもなぁ)
ほんと、根性なし。
「……侑葉(ゆうは)さん?」
「あ、氷麗ちゃん」
ぱたぱたと氷麗ちゃんが駆け寄ってきた。
「今日はどうされたのですか? リクオ様にご用事でも?」
「まあね。……リクオは?」
「リクオ様は――」
ちらり、と氷麗ちゃんは屋敷の方へ目を向けた。
「実は、朝から様子が変で……。あっちこっちを歩き回ったり、ぼーっとされる時間が多かったりと……」
その姿が安易に想像でき、思わず苦笑する。
きっと、昨日のが原因かな。
「そっか……じゃあ、尚更だね」
「え?」
「案内してくれるかな? リクオのところまで」
とある一室にリクオはいた。
座り込んで腕を組み、考え事をしているようだった。
「リークオっ!」
「え、侑葉!?」
声をかけると本当に気配に気づいてなかったのか、肩を揺らして振り返る。その表情は驚きそのもの。
「い、いつから」
「今さっき。……ねぇ、昨日のことだけどさ」
誤魔化すよりもさくっと解決したほうがきっといい。
リクオの傍に正座して座る。
「私、ちゃんと返事返してなかったでしょう?」
「うん……」
「――やっぱり、私たちの結婚は難しいよ。リクオがやめよう、そう言ってくれればまだ、なかったことにできるよ」
本当に嬉しかった。今まででない最高の幸せ。
でも互いの未来を考えて、ここは引くべきだって思う。大丈夫、まだ間に合う。
もし、昨日のプロポーズの否定が入ったなら。この関係も終わらせようと思ってる。結婚しないんだから、次のためにも別れたほうがいい。
私も、もう、ここにはこない。
「リクオは、どうしたい?」
リクオは、ぎゅ、と膝の上で作った握りこぶしを握った。
そして、私に手首を掴んだ。
一気に近くなる距離。慣れなくて、顔が赤くなる。
「り、リクオ?」
「僕は、本気だよ。君とずっとに一緒にいたい。この気持ちは、君に告白した時から変わらない」
あの告白の時、既に考えてたってこと?
「昨日の言葉だって、嘘じゃない。どうしようもなく、君が好きで、愛しいから……僕は侑葉と夫婦になりたい」
告白されたあの日より、さらに大人びた顔。夜とは違う、けれど見た人を離さないその瞳に吸い込まれそう。
「……いい、の? 私、人間だよ。弱いよ。……世継ぎのこととか、周りだって反対してくるかも」
「昨日、言ったでしょ?」
掴まれた手を引かれて、一回りも大きくなった体に抱きしめられる。
「そんなものどうにかしてみせる。君のためだったら。……僕を信じてよ」
切ない声が耳を掠める。ああ、もう、本当に……。
「君が好き、大好き。僕と結婚してください」
「はい、……貴方の隣に居させてください」
今度こそ。もう後戻りはできない。でも、満足感が私を満たす。
私はこの人が好きで、彼も私が好きで。なら問題ない。きっと、――大丈夫だ。
朝。【 RF4 / ダグ×フレイ 】
ぱちり。仄かに光が照らす部屋の中でダグは目を開けた。窓の外は既に真っ暗で、真夜中であることを示している。
いつもならばすぐ寝付けるはずなのに、なかなか眠ることができないのはなぜか。――それは、隣にいつもあるはずの温もりがないからだろう。
今日は、街の年頃の女の子によるパジャマパーティーらしい。妻であるフレイもまたそのパーティーに呼ばれているらしく、宿泊のセットを持って部屋から出ていった姿は記憶に新しい。
(……新婚の時期じゃ、あんなに恥ずかしがってたのになァ)
結婚式があった夜。隣に愛しい人がいると思うとなかなか寝付けなかった。だが、今の状況は全くの逆。
いつから、自分は誰かの――あの少女の温もりがなきゃ眠れなくなった?冷たい温度に慣れていたはずの自分が、温もりがないことに寂しく感じ始めたのはいつ?
(あーあ……、早く朝になってくれねぇかナ)
再びダグは瞼を閉じた。
眩しい光が顔を照らす。ダグは傍らにだれかの気配があることに気づいて、うっすらと目を開ける。
ぼやけた視界の先で見えたのは、昨夜はいなかった人の顔。目に捉えた瞬間、ダグの頭はすぐに覚醒する。
「ふ、フレイ……!? いつ帰ってきたんダ?」
「今さっき。もう8時になってる」
壁にかけられた時計。確かに針は8時すぎを示している。
「ぅお……マジカ」
「もう……寝坊助さん!」
ちょん、と眉間をつつかれる。
感触がくすぐったくてダグは目を細めた。
「――おはよ、ダグ」
「はよ、フレイ」
今日も、いつもと変わらない。でも何かに満たされた一日が始まる。
---
…主旨が見えないや。
近くて遠いその関係 【 うたの☆プリンスさまっ♪ / 翔×夢主 】
幼なじみ。
それは、切っても切れぬ関係。
いつものように、机をくっつけて友千香と、ハルと3人で弁当を食べる。
昨日のテレビの話題から、最近の流行の話を終えた頃、友千香がある一点を見つけて、ふと、呟いたのだ。
「思ったけど…、翔ちゃんとあんたって、本当仲いいよねぇ……」
「そう?」
「はい! 見てて羨ましいです」
「……そうかなぁ」
友千香が見つめていたのは、クラスの男子と騒いでいる私の幼馴染である翔。
でも、仲がいいと言われても学校では必要な時ぐらいしか話さない。どっちかというと友千香やハルと喋る方が多い。そう伝えると、友千香は溜息をついた。
「仲いいじゃない。今朝だって、一緒に登校してきたし」
「でも、それは幼なじみだし、近所だから」
「幼なじみでも、近所でも、一緒に登校してくる男女はそういないってば」
確かに言われてみればそうかもしれない。
でも、それがどうした、っていう話。
「というか、なんで、そんな話になるの?」
「仲いいならいっそのこと、付き合っちゃえばって話よ」
「な……」
唖然とする私の手から、箸が床へと転げ落ちかけるが、タイミングよくハルがキャッチしてくれたおかげて、どうやら水道まで行く羽目にはならなかったようだ。
箸を受け取り、今度は落とさないよう机の上に置いたあと、改めて問いかける。
「……友千香。もう一回聞くけど、なんでそんな話になるの」
「はぁ……、あんたたち見てるとほんっと、いじらしいのよ。とっとと付き合えばこの苛立ちも収まるっつの!」
「と、トモちゃん……」
「それに!……あんた、翔ちゃんのこと好きなんでしょ?」
バッチリ見破られてしまった。何も言えずにいれば、「図星ね」と言われ、ため息までつかれてしまった。
「なら、告白しちゃえばいいじゃない」
「……そう簡単にいかないのが、幼なじみってものだよ。友千香」
ちらり、とまた翔の方を見ると。先程まで一緒にいた男子の姿は見えず、今度は数人か女子の姿があった。
翔はお洒落さんだから、よく女子のファッションについての相談を受けてる。でも、こっちからしたら見え見えなんだよね。翔が好きだから、お洒落はその話題の種にしているだけだってことが。
でも、翔は鈍いから、そんな女の子とたちの気持ちに気づかない。そんな翔に、幼なじみである私も想いを寄せてると伝わればどうだろう。――確実に、この幼なじみである関係は崩れてしまうだろう。
「好きだよ、どうしようもないくらい」
「なら」
「……でもね、きっと彼奴は私のことを幼なじみとしか見てないから。なら、この関係で満足しとかなきゃいけないの」
私は、力なく笑った。
幼なじみ。
それは、近いようで遠い関係。
---
トモちゃん大好きです。
あと、真弘先輩と翔君って、なんか似てるよね、色々と、()
――珠紀は屋上で続く階段をゆっくりと登っていた。
今は放課後。ほとんどの生徒が部活に励んでいる時間だ。だが、珠紀は今日この学校へ転校してきたばかりなため、部活はない。かといって、そのまま帰ってしまうのも惜しい気もした。
新しい学校に慣れるためにも、少し構内を歩いてみようという考えのもと、先程まで音楽室やら調理室やらいろんなところを歩き回っていた。そろそろ帰ろうと思った、その時、ふと屋上へ続く階段を見つけたのだ。そして、導かれるようにして珠紀が屋上への階段を上り始めたのだ。
登り続けて、ようやく鉄の扉を見つける。
片手で押してもびくともしない。ならばと両手で押すと、古い扉特有の鈍い音を立てながらその重たい扉は開いた。
その時、一陣の風が珠紀を襲った。さほど強いものではない、しかし急だったためか、咄嗟に珠紀は顔を守るように両腕をかざす。
暫くして、風が腕を打ち付ける感じがしなくなったのを確認し、珠紀は両腕を下ろす。そしていつの間にか、つぶっていた目を開ける。そして、その瞳は直ぐに大きく見開かれた。
珠紀の目の前に人がいたのだ。柵の上に両腕をおいて、そして顔をグラウンドの方へ向けている。
向けられた背中に、珠紀の胸はざわついた。動機が荒い。そして、心がひどく締め付けられた。
(何、これ……)
珠紀は、訳がわからなかった。ここに来たのは初めてで、そして目の前の人を見たのも初めてだ。しかし、その後ろ姿が懐かしいと感じる。
口が勝手に開いて、言葉を発する。しかし、ひどい乾きのせいか声が出ない。もう一度、と声を発し用としたとき、その人は振り返った。
「――っ」
男にしては、その瞳は大きい。そのせいか、中性的なイメージをわかせる。体もやはり小柄だ。何より印象的なのは、深い緑色のその瞳。夕暮れでその瞳は少し光っており、まるで宝石のように見える。
その少年は、少しばかり目を見開いた。今の今まで、珠紀の存在に気づいていなかったようだ。しかし、そうしていたのも少しの間。じっとしたままの珠紀を不思議に思ったのか、眉間にシワを寄せる。
「おい、何そこにつったってんだよ」
声変わり前の、やや高めの音。――ふと、頬に温かいものが伝った。
少年は、珠紀にぎょ、とした目を向けた。そして、慌てるように珠紀の方に駆け寄ってきた。背は珠紀と同じくらい、目線の位置はやや同じだ。男の子にしては低いな、と珠紀は呆然と思っていた。
珠紀の目の前にやってきた少年は、今度は心配げに眉を下げる。
「なんで、泣いてんだ?」
「え……?」
指摘され、珠紀は漸く気づいた。己が泣いているということに。「あれ」と、珠紀は頬に手を寄せると確かに温かいものが手に触れる。間違いなく己の涙だった。
ゴミでも入ったのだろうか。慌てて拭うが、それは一向に止まらない。
――悲しい、懐かしい。嬉しい。愛しい。いろんな感情が珠紀の心の中で駆け巡る。この人に会ってから、おかしくなった自分に戸惑い、溢れ出てくる涙に戸惑っていれば、手を引かれた。
「あ……」
目の前に学校の制服のブレザーが広がった。後頭部を押し付けられている感触がする。今、珠紀は少年に抱きしめられていた。
驚きで涙が止まる。小柄だと思っていたが、意外に硬いその胸に男の子なのだと実感して、珠紀は恥ずかしさに見舞われた。初めてあった人に、と慌てて胸を押して離れようとするもいつの間にか背中に回されたその腕がそれを許さない。
「ここには俺とお前しかいねーし。なんか、辛いことでもあったんだろ? 胸かしてやるから、存分に泣け」
どうやら、少年は、辛いことがあったから屋上へやってきて泣いているのだと勘違いしているらしい。でも、都合が良かった。彼を見て、涙が出てきたとは到底言えない、失礼すぎる。そこは、話を合わせることにした。
暖かい腕に包まれているうちにまた涙が浮かんできて、慌てて顔を胸に押し付ける。泣き止むまではここを動くことができない、なら素直に好意に甘えることにした。
(優しいな……)
見知らぬ自分にここまで気遣ってくれる優しさが嬉しいと思った。そうしたら、また涙がどんどん溢れてくる。涙腺が切れてしまったのだろうかと疑うほど。
でも、先ほどの悲しみではない。珠紀の胸は嬉しさ、幸せで満たされていた。理由はわからない。でもそのふわふわとした、感情に身を任すように目を閉じた。
---
中編予定、
真弘×珠紀の転生の話。原作は、真弘ルートの悲恋後。
桜花爛漫 【 ぬらりひょんの孫 / リクオ×夢主 】
浮世絵町には、最も古いとされる桜の木がある。
春になればそれは見事な桜を咲かせる。
しかし、ある時からその桜の木に関するおかしな噂が流れ始めた――。
「春じゃないのに桜が咲く?」
「そうなんだよ。昼は葉が生い茂る普通の木。だが、夜になると、綺麗な桜が咲いているらしいんだ」
パソコンの画面を見ながら、清十字怪奇探偵団団長、清継はそう告げる。聞いたこともない噂に、氷麗とリクオは顔を見合わせた。
「僕はこれが、妖怪の仕業ではないかと踏んでいるんだが……奴良くん、知っているかい?」
「僕が知る範囲では……奴良組にそんな妖怪いたかなー? 氷麗は知ってる?」
「いいえ。私も初めてお聞きました」
リクオも、またつららも首を横に振る。
「でも、桜が咲くだけなら何の被害もないんじゃ……」
「実は、その桜は人を酔わせるらしいんだ」
人を、酔わせる?
その場に集まる団員全員が、清継の言葉を復唱する。
「そう。その桜を眺めていたら、頭がぼーっとし始めて……。気づいたら朝になっていて、自分の姿を見下ろすと――」
「見下ろすと……?」
「何故か上半身裸だったり、顔に変な落書きをされてたりしてるんだ」
「……はぁ!?」
清継が真顔で告げた言葉に、全員が素っ頓狂な声を上げる。
「それが、つまり……“桜が人を酔わせる”ってこと?」
「そうだ。なんとも不思議だろう」
人の命に関わることでもない、それはただの妖怪の悪戯なのでは。全員の心の声が一致する。
「でも、この町にそんな古い桜の木があったこと自体初耳だよねー」
「ねー」
巻と鳥居が顔を見合わせて声を上げる。確かに、リクオもそんな桜があったことは初耳だ。
「若、どうします?」
「おじいちゃんなら知ってるかなぁ……」
リクオが唸り、考えた末、名前を出したのは――リクオの祖父、ぬらりひょんだった。
「……ってことなんだけど、おじいちゃん、何か知ってる?」
「はて、そんな妖怪おったかのぉー」
予想外れの答えに、リクオは目を見張る。ぬらりひょんは純血の妖怪。長い年月を生きていたため、特にこの町について知らないものはないとリクオは考えていたのだが。その祖父は知らないのならば、ほかに知っていそうな妖怪はいないだろう。
「リクオや。その妖怪は人に危害を加えるわけではないのじゃろう。ならば放っておけ」
ぬらりひょんは、そう告げた。だが、リクオはその妖怪が気になって仕方が無かった。
---
急に始まって急に終わるぬら孫夢です。長編にしようとしたけど、いい感じに続きが思いつかなかった没ネタ。
前回の真弘×珠紀中編は、内容が思いつかないので暫く放置。思いついたら上げていきます、
その日の日暮れ時、リクオは噂の桜の木のもとへやって来た。噂のせいか、また元々こうなのか近くには人の気配がない。
木を見上げれば、そこには青々とした葉が生い茂っており、どこを見ても普通の桜の木にしか見えない。
「でも、まだ夜じゃないし……もう少し待ってみようか」
――現在、リクオは奴良組の3代目。いつ命を狙われてもおかしくない立場でありながら、護衛もなしに夜遅くまでいれば鴉天狗に大目玉を食らうことは間違いないだろう。
しかし、リクオはひと目でもいいから会って見たかったいと思った、人を酔わせるというその妖怪に。
赤い空が暗闇に覆われていく。リクオはただ幹に背中をあずけ、その時を待っていた。しかしいつまでたっても桜は咲かない。
「やっぱり、ただの噂……だったのかな」
何もないところに一本だけそびえる桜だから、変な噂がついたのか。リクオは、溜息をついてその場を立ち去ろうとしたとき、ふわり、とリクオの視界に桜の花びらが舞った。
(え――)
振り返れば、そこには先程まで葉が生い茂っていた木が今度は、桃色の花を咲かせていた。桜だ。
聞く通り、その桜は見事なもので風に揺られて散っていく花弁が闇夜に映える。
「綺麗……」
桜を見つめていれば、頭が熱を持つようにぼーっとし始めた。リクオの瞳は虚ろになったとき、その目の前に桜の中から真っ白な手が差し出され、その手は優しくリクオの頬を撫でた。
――遊びましょ。
くすくすと笑う凛とした声が聞こえる。その白い手に、リクオの手が掴まれそうになったとき――逆にリクオが、その白い手を取った。
「――あんたかい。……夜な夜な、人間を惑わす妖怪ってのは」
リクオの姿は、先程とは違った。髪は長く、瞳は赤色に染まっている。夜のリクオだ。
慌てて桜の中にいる妖怪は白い手を引っ込めようとするが、リクオがそれを許さない。
「観念して、その中から出て来い……!」
リクオが勢いよく手を引き、桜の中から出てきたその妖怪はすっぽりとリクオの胸の中に収まる。
その妖怪は、少女の姿をしていた。長い黒色の髪に、淡い桃色の着物。顔を見上げ、リクオを写したその大粒の瞳は桜に似た桃色の瞳をしている。
「お前……」
見るからに桜を沸騰させる姿に、リクオは確かに目を奪われていた――。
---
前回の続き。まだ、続くよ
闇に差し込んだ光 【 緋色の欠片 / 真弘×珠紀 】
ふと、真弘は目を開けた。目の前に広がるのは黒。その一色のみ。
口から空気の泡が流れていく。
真弘は、静かにその空間を下へ、下へ沈んでいっていた。
(……ああ、そうか)
――俺は、鬼切丸の生贄として捧げられたのか。
そうであるならば、この場所にも納得がいく。ここは、きっと鬼斬丸が封印されている沼の中なのだろう。
あんな邪なものがあるせいか、沼の水もどこか濁っている。光が一切刺さないほどに。
どこまで続くかわからないその黒を、真弘はぼーっと見つめた。
(……わかってたことだ)
あの日、自らの宿命を言われた時からこうなることはもう既にわかっていた。もう、諦めるしかないのだということも。
己の命一つで、世界が、大切な人が、ものが、全て助かるのならば安いものだろう。
沼の水は、重たく真弘の上にのしかかり、下へと引っ張っていく。何かに引き寄せられるかのように。
(後悔も、何もない)
意識が遠くなる。これが氏ぬということか
これが運命なのだと、抗うこともせず、瞼を閉じかけた真弘。
――本当か? 本当になにも後悔はないのか?
しかし、その彼に心の内の己が声を上げた。
(うるせぇ……もう、どうしようもねぇんだ)
未だ無様に足掻き続けようとするもうひとりの自分を押さえ込むかのように、真弘は胸に手を置いて、拳を作る。
声は帰ってこない。今度こそ、目覚めることのない闇に身を委ねようとしたとき、耳にす、と声が聞こえた。
――…ぱい、……ろ先輩。……真弘先輩っ!!
初めはノイズがかかっているような微かな声。しかし、次第にはっきりしたその声は、確かに、己を呼んでいる。意識が一気に覚醒した。
聞こえてきた、その声は悲痛そうで、苦しげで。でも、いつも聞いていたような気がした。そう、戦いで傷ついて、地に伏せていたとき、ごめんなさいと謝り続けながら耳元で聞こえていた小さな声。
一筋、――真弘に光が差す。それは、真弘ただひとりを照らしていた。太陽でもない、月でもない、ましては人工の光でもない。暖かい光。
(……いや、そういえばあったな心残り)
真弘は、思い出した。泣き虫で、頑固で、でも決して立ち止まらず、前を向き続けたお姫様のことを。――己が一番好いていた女性を。光と呼べる存在を。
そうだ。自分は氏ねない。彼女がいる限り、彼女が自分を求めてくれる限り。だって、彼女は――。
「……俺がいなくちゃ何にもできねぇんだからよ」
体に力をいれ、手を使って沼の水をかいて上へ浮上する。まとわりつく、重たい水に押されながらも、もがいてもがいて、そして、その光に手を伸ばした。
――顔に光が当たる。その眩しさに耐え切れず真弘は目を開けた。目の前に広がったのは、黒――ではなく、赤色に染まった空。朝焼けだ。真弘は、地面に仰向けに寝転がっていた。
腕に重みを感じ、首を横へ少し傾けさせれば自分の腕を枕にして、息を立てて眠るひとりの少女がいる。
脱いだ上着を腕枕の代わりにし、少女を起こさぬように体を起こす。そこは、あの忌々しい剣が眠っていた沼の岸だった。
(……そうか。鬼斬丸、は……消えたのか)
どれほどの前かはわからない。でも、確かに鬼斬丸はこの世からその存在を消した。自分の身に宿る、封印の力と、少女の玉依の力によって。
しかし、それは本当に危険なことで。下手をすれば命を落としていた。――いや実際落としかけていたのかもしれない。自分も、少女も最後は命を削って力を注いでいたのだから。
(でも、助かってるということは……、やっぱあの光か)
鬼斬丸を壊すために、力を使い果たし、気を失う寸前。真弘は、一瞬であるが暖かい光が、少女と自分を包んだのを感じた。
もとより、鬼斬丸は、天之御中主神が弱きものの助けになるように残した力。始めから負の力ではなかった。それが、鬼斬丸が壊れたことで消滅し、本来の力に戻ったとするならば。あの光は、鬼斬丸の本当の力で。それが、己らを助けてくれたのだろう。
(なんつーか……複雑、だな)
今まで忌々しい因縁の元凶としか思っていなかったものに最後の最後で助けられるとは。真弘は、小さく苦笑した。
隣で、むずむずと少女が動く。そして口からこぼれる声は、己の名前で。思わず頬が緩んでしまう。
(全部、終わったのか)
明るくなり始めた周りを見渡し、改めて実感する。
全てを終わらせた。今、隣で眠るどこにでもいるような少女が。
「……ありがとな、珠紀」
優しく、その頬を撫でてやれば珠紀は、頬を緩めさせる。それでさえ愛しく見える。
――本当にありがとうな、夢でも、現実でも、……助けてくれてよ。
遠くから、自分たちを呼ぶ声が聞こえる。それは段々と近づいて来る。
また、隣の少女へ目線を落とし、これから訪れる日々へ思いを馳せた――。
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唐突ネタ。
シリアスはよく書くんだけど苦手。
君の愛が欲しい 【 緋色の欠片 / 真弘×珠紀 】
「先輩、あの――」
「お、おう、珠紀。悪いな、ちょっと今から用事が……ってことで、じゃーな!」
ひらりと手を挙げて、颯爽と去っていくその後ろ姿を見て、私は密かに握りこぶしを作った。
――鬼斬丸が壊れて、1ヶ月ほどたった。あの頃のことが嘘のように季封村には平和が訪れている……んだけど、最近真弘先輩の態度がよそよそしくなったと思うのは私だけだろうか?
近づけば逃げる、話しかければ逃げる。もちろん、あっちから近づいて来るなんてもっての他。
(私たち、恋人じゃなかったっけ……?)
私たちが互いの思いを通わせたのは、ほかの人とは違う特殊な状況の中。氏ぬか、生きるか、そんな命の駆け引きがある戦いの中で、私たちは好きだといい、そしてキスをした。はっきりとはわからないけど、先輩は私のことを「俺の女」と言ってくれたことから、つまり、そういう関係だと思っていいはずなんだけど……。
(……やっぱり、私の思い違いなのかな)
吊り橋効果、というものがある。不安や恐怖を強く感じている時に出会った人に対し、恋愛感情を持ちやすくなることらしい。もし、そうなのだとしたら――。
一度溢れ出した不安は止まらなかった。でも、やっぱり先輩が浮かべてくれたあの表情はきっと嘘には見えなかったから、私はそんなくだらない考えを振り切るようにして頭を振る。
(そうやって簡単にネガティブなるのが私の悪いところ! 不安なら聞いてみればいいじゃない)
ぱちん、と勢いよく頬を叩いて、さてどうやって先輩を捕まえようかと、いつの間にか止まっていた足を動かして、廊下を進んでいった。
「はぁ、はぁ……漸く捕まえましたよ先輩……」
始まりは、そう、放課後になって逃げられる前に先輩の教室に行ったところからだ。私の姿を見つけた先輩はすぐさま、前のドアを通って廊下を走っていく。
それを見て、ほうけているような私ではなく、そのまま先輩を捕まえるべくこうやって暫く鬼ごっこもどきのようなものをしていたのだけれど、先輩が、一口がひとつしかない部屋に逃げ込んだのが運の尽き、漸く捕まえたのだ。
念のためにと、その腕を掴む。久しぶりに全力で走って、体力を消耗しきり胸で呼吸している私とは反対に、真弘先輩は、少し生きが上がっているものの私よりかはまだ余裕そうだ。もし、先輩がここに逃げ込まなければ――と想像し、ぞくりと未だ続いていたかもしれない鬼ごっこに恐怖を覚え、それを頭の隅に追いやった。
「さあ、先輩。今度こそ観念してください……!」
「な、なんだよ、俺が何かしたっていうのかよ!!」
わけのわからずに、ぎゃーぎゃーと叫ぶ真弘先輩に、私の今まで我慢していたものが切れてしまったのだろうか、ぷち、と何かが切れた音と同時に私の口は動いていた。
「何か……? ええしましたとも。なんで最近私を避けるんですか? 話しかけても、近づいても……」
「それは……」
「先輩、……私は、先輩の恋人、ですよね?」
その彷徨う視線に不安になる。先程まで強気だった口調が一気に弱々しくなってしまう。
ふと、お昼頃に浮かべた嫌な思考が脳裏をかすめる。ああ、もう、なんでこんな時に思い出しちゃうんだろう。
「なのになんで避けるんですか?……私のこと嫌いになっちゃったんですか? あの戦いの中の出来事は、全部、嘘なんですか……?」
改めてその言葉を口にすると、もう、我慢ならなかった。溜まっていたものが溢れるように双眼から熱いものが頬を流れていく。
先輩が、ぎょ、と表情を固くさせるのも、お構いなしに、私は涙を拭うことも忘れて、先輩を見つめる。
「ねぇ、先輩……っ、避けられるのが一番辛いよ……。嫌いなら嫌いって言われたほうがマシ……」
訳も分からず、振り回されて何度も期待して苦しむよりも、フラれてしまったほうがマシのように思えてくる。
私、何を言ってるんだろう。ふと思い返して、気持ちを落ち着かせるために一旦ここは出直そうと、一言謝罪を入れたあと、すぐさま踵を返して駆けていこうとした。しかし、伸びてきた手が私の腕を掴み、それはかなわない。
「待てよ。……言いたいことだけ言いやがって、俺の話も聞け」
そのまま腕を引っ張られて、バランスの崩した私は真弘先輩の腕の中。目の前に、紺色が広がった。
先輩に抱きしめられるがまま、私は胸の中でじっとしていた。そうしてどれぐらいの時間が過ぎただろうか、先輩がぽつり、と語り始めた。
「なぁ、珠紀、俺はな。……お前が思っている以上にお前のことを好いてる」
「先輩……」
「だからこそ、不安になったんだ」
「え?」
一瞬だけ緩みかけた気がまた引き締まる。それってどういうこと?、続きを促すように胸から顔を上げて真弘先輩を見つめた。先輩は、私を少し切なげに見つめ返してくる。ねぇ、どうしてそんなに悲しげなの。胸がひどく締め付けられた。
「お前は、すごいお人好しだ。この戦いの中でいやってほど思い知らされた。……だから、つい思っちまったんだ。お前が、俺のことを好きだと言ってくれたのは、俺を生かすためだったんじゃねぇかって」
先輩の言葉に思わず呆然とする。先輩、ずっとそう思ってたの?
「そ、そんなわけないじゃないですか……!! 私は、本当に先輩のことが……」
「まあ待て。落ち着けよ」
思わずカッとなって、先輩に迫る。けれど、先輩は動じるどころか少し困ったような笑みを浮かべて、私の頭を撫でる。それはまるで、私の気持ちを落ち着かせるようなものですごく優しいものだった。
ずるい。いつもは子供っぽいくせに、時々大人びたような言動を取る先輩が、すごくずるい。でも、そう不満に思いながらも、結局はそれに甘えてしまっているんだ。いつも、私は。
「もし、そうだったなら俺はお前から距離を置いたほうがいいと思ったんだ。お前のおかげで、俺は生きている。もし、お前が使命感とかで俺と付き合ってるなら、俺が開放しなきゃいけないって思ってた」
優しく私の頭を撫でながら、先輩は言葉を続ける。漸く、先輩が私から逃げていた理由がわかった。結局は、私のためだったんだね。本当に、どこまで行っても先輩は優しい。優しすぎるから、不安になる。
「先輩、それは全部、先輩が思っていたことでしょう? 本当にそうだとは限らないよ」
「珠紀……」
「私は、先輩が好きだよ。玉依姫とか守護者とか……そんなの全部なしにして好き。もしも、この宿命がなくて私たちが普通の人間だったとしても、私は先輩を好きになる」
それは紛れもない自信からくるものだった。きっと、生まれ変わっても私は何度も先輩を好きになる。私は、守護者じゃない、優しくて、時々子供っぽくて、でもかっこいい先輩を好きになったんだから。だから、ね?と、先輩を見つめると、私を見つめる双眼が一瞬驚いたように大きくなり、そして、優しげに細められた。
「ほんと、お前ってさー……」
「なんですか?」
「……いや、なんでもねー」
ぽんぽん、と軽く私の頭を撫でて、先輩は私から離れる。無くなっていく熱が寂しくて、私は先輩が完全に離れる前にぎゅ、と抱きついた。
お、おい、珠紀!?、と焦る先輩の声を聞きながら、ぎゅうぎゅう、とその体をさらに強く抱きしめる。
「先輩」
「あん、どうした」
「好きって、言ってくれませんか?」
先輩の胸から顔を上げて、真っ直ぐに見つめて告げる。先輩は、きょとんとしたあと、しょうがねぇな、と言いたげな顔をしていたけれどその顔は嬉しげに笑っている。
先輩は、また私の体を抱き抱える。今度は、私も背中に手を回す。とくん、とくんといつもよりも早い胸の音が心地いい。
「珠紀、好きだ。……愛してる」
「私も好きです、先輩」
お互いを見つめて、どちらかじゃなく同時に顔を寄せる。そして、私たちは3度目のキスをした。密かに目を開けて、近くに有る先輩の顔を眺めて、あぁ、幸せだなと実感し、私は再び目を閉じた――。
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今私の中で、真弘先輩ブームが起きている。やばいかもしれない。愛ではちきれてしまいそうだ、()
強くなりたい。その理由 【 緋色の欠片 / 真弘×珠紀 】
先輩の、その宿命を知ったとき。どうしてと思った。どうしてそんなことを、教えてくれなかったのかと。でも、先輩は言いたくなかったんじゃない、言えなかったんだ――。
私たちの、私の中の先輩はいつも笑っていた。偉そうで、俺様で、自分勝手で。絶対にあきらめない強さを持っている人だと私は勝手に決めつけていた。先輩が隠していたことなど知らずに。それが、先輩の枷になってしまっていたのかもしれない。
あの人は、優しくて、頼りになる私の先輩だったから、先輩は、言えなかったのかもしれない。そんな人が、守るべき人に弱さを見せることなんてできなかったから。
でも、先輩は、確かに私に助けを求めていたんだ。時折見せた、あの寂しげな表情、後ろ姿。気づいていたはずなのに、言えばいいのに、私はそれを見て見ぬふりをしていたのだ。確かに、嫌な予感はしていた、でも、先輩に限ってそんなことはない、見間違いだ。そう思っていた。
そう、何も言えなかった先輩のせいじゃない。何も気づくことができなかった、弱かった私のせいだ――。
だからね、先輩。私は、強くなりたいよ。貴方から何もかもを奪おうとする全てのものから守りたいよ。……ううん、私は強くなるよ。誰よりも、何よりも大切で大好きな先輩だから。
「だから、先輩……待っててね。すぐに行くから」
ひとつ深呼吸をしたあと、私は、部屋に貼られているその結界へ、手を伸ばした。
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珠紀のモノローグ。時間的に、真弘先輩が蔵に閉じ込められて、それを助けるために珠紀ちゃんが救いに行くところぐらい。
原作では、蒼黒の楔は、前作の緋色の欠片の幻の大団円エンドの後となっておりますが、個人ルートエンドでは怒鳴るだろうという妄s((ゲフンゲフン、想像の賜物です。
真弘先輩エンドの後だとして、個人的に書きたいシーンを書いてみました。気が向いたら、最初から書くかも…?
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みんなが寝静まったあと、一人、水車小屋の外に出る。外は相変わらず真っ暗で、それが、貼れることのない闇のように見えてしまう。小屋からだいぶ離れたところで、私は、ナイフを取り出した。これは、護身ように誰もいない民家から拝借したものだ。自分の身を守るために持ってきたこれが、まさか、自分の命を絶つために使われるなど、あの時の私は想像もしていなかっただろう。
(……これでいい)
私は、不意な事故で、鏡の契約者になってしまった。みんなは、まだ方法があるとは言っていた。私も表面上はそれに同意していた。でも、どうしようもないと、内面は思っている。だって、もうこんなギリギリな状態で、私が生きる方法なんて見つかるはずがない。時間の無駄だ。ならば、この世界を救うために私が死ぬしかない。
「おーちゃん」
ぽつりと、呟くようにその名前を呼ぶ。するり、と私の影から白い何かが出てきて、私の体をよじ登り、肩へとやって来る。にー、と私がしようとしていることを知ってるように寂しげに鳴くおーちゃんの額をそっと撫でた。おーちゃんには、辛いだろうけれど、私が死んでしまったあとの遺言替わりになってもらおうと思う。祐一先輩がいるから、きっと、伝わると思う。
「みんなに伝えてくれる?……最後まで、こんな私についてきてくれてありがとうございました。そして、弱い私ですみませんでした、って」
おーちゃんは、悲しげな表情で私を見つめたあと、にっ、と鳴いて私から飛び降りて小屋の方へ駆け出す。そう、それでいいんだよ。おーちゃん。辛い役目を任せてごめんね?
その白い白い後ろ姿が見えなくなったあと、私は、ナイフを首筋に当てた。かたかたとナイフを持つ手が震えるのを、柄をしっかり持って抑える。死ぬって、どんな感じなんだろう。と思う。今まで、死と背中合わせの戦いをしてきたけれど、粗めてそんな事を思うのは、私をみんなが必死に守ってきてくれたからなんだろうか。ふと、みんなの顔が浮かんだ、拓磨、遼、祐一先輩、卓さん、慎司君、美鶴ちゃん、清乃ちゃん、芦屋さん、アリア、フィーア――そして、真弘先輩。
(真弘先輩、ごめんね……)
半年前の頃。生きることを諦めていた先輩に私は、何度も言った。生きることをあきらめないでと、でも、そんな事を言っている私が、今、生きることをやめようとしている。ほんと、笑えちゃうよね。ひっそりと苦笑する。
ここに来て初めて知る。生きることを選ぶのはどんなに苦しくて、辛いことなんだろうと。でも、今の私と同じような状況だった先輩は、最後はその流れに逆らって、生きることを選択したんだ。本当に強い人だと思う。私は、そんな人と今まで一緒にいられて、良かったと思っている。
「さよなら、みんな、真弘先輩……」
押し当てたナイフにぐっと力を入れる。これで、全部終わる――。頬に温かいものが伝うのを感じながら、私は死ぬその瞬間を迎えようとした、でも、その次の瞬間、すごい力で私の手の中からナイフが離れていくのを感じる。何かに、弾き飛ばされた?
ゆっくりと目を開けた先に見えたのは、強い光を宿した瞳。それは、私を睨みつけている。
「さよならじゃ、ねーよ。何やってんだ、お前……」
いつにない低い声が、怒っているのだということを示している。そこには、――真空の刃を手にした、真弘先輩がいた。
ぺたりと、その場に座り込む。相変わらず先輩は私を睨んだまま。私は震える声で言葉を紡ぐ。
「真弘先輩、なんで……」
「なにやってんだって聞いてんだよ!!」
私の問い掛けには答えず、さっきよりも声を張って先輩が叫ぶ。先輩の表情は険しく、でも、どこか悲しげな、切なげな表情をしている。それをさせているのが私だとわかれば、それからそらすように顔を俯かせた。
「全てを、終わらせようとしていました」
「自分の命を絶ってか」
「だって、それしか方法がないじゃないですか。今の状況は、本当にぎりぎり。残された時間で、私が助かる方法が見つかるだなんてありえない」
私は顔を上げる。先輩の表情は、さっきの険しさはない。ただ、切なさしか含んでいなかった。
「ならば、どうするべきか――。私が、死ぬしかないじゃないですか」
声が震えている。あぁ、改めて自分で言葉にすると現実味が増す。そこまで、本当にギリギリの状況なのだと、思い知らされた気がした。
私を見つめる、先輩の目は、ただ、私を優しく見つめるだけだった。
「――半年前、お前は言ったな。諦めないで、生きて、とその言葉……お前が今、一番必要としてるんじゃないか?」
「それは……。……私には先輩のような、強さはないです。死ぬ選択しかない中で、生きることを選ぶなんて、そんな強さは持ってない」
再び顔が下に向く。自分が不甲斐ないせいで、こんなことになってしまっている現状から目をそらしたかった。ふと、先輩がつぶやいた。
「俺は、強くなんかない」
弾かれたように顔を上げる。そこには、さっきと変わらず優しげな表情を浮かべる先輩しかいない。
「俺は強くなんかないさ。……だけど、俺が、お前の目からそう見えたのであれば、それは、お前がいたからだ」
先輩が、私から目線をそらし、私の背中が向けられている方を見る。重い体をひねってみてみれば、そこにはみんないた。
「珠紀」
「拓磨、みんな……どうして」
「オサキ狐が教えてくれたんだ」
その言葉と同時に、祐一先輩の方からおーちゃんが降りてくる。そして、地面に座り込んだままの私に駆け寄って、にー、と鳴く。その瞳は、強い光がある。おーちゃんは、遺言を伝えてない。そんな事を思う。きっと、私を助けるために呼びに行ってくれたんだ。そう思えば、たまらず、おーちゃんを抱きしめた。
「珠紀、俺はな、お前がいてくれたから、生きたいと思えるようになった」
先輩の声が聞こえてきて、おーちゃんを抱きしめる腕を緩めて顔を上げる。
「人間は、一人じゃ強くなんてなれねーよ。――もし、今、お前が、諦めようとしているのならば俺たちがお前を支える。一人で抱え込むな。俺たちは、ひとりじゃない。……そう教えてくれたのも、お前だったはずだろ?」
先輩から目を離して、みんなを見つめる。私を見つめる目は、優しく、そうだというように互いに頷いている。私は、もう一度先輩を見つめる。
「私は、これからも生き続けていいんですか……?」
「当たり前だ。俺らにゃ、お前が必要なんだよ」
「先輩……っ」
堰を切ったように、涙が次から次へと溢れ出す。涙腺が壊れてしまったんじゃないかと思うほど、流れていく。そんな私を、先輩はその場に膝をついて抱きしめてくれた。強く、でも優しく。私を包み込んでくれる。それが暖かくて、私の涙はいつまでたっても止まりそうにない。
「私、生きていたいよ。みんなと、先輩と……。ずっと、先輩の隣にいたい」
「俺もだ。絶対に、お前を死なせたりなんかしない」
その言葉が、力強くて。まるで、暗闇を払う光のようで。私は、先輩の胸に顔を押し付けて、今までの文をすべて吐き出すかのような勢いで泣き続けた。
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緋色では、先輩だったけど、蒼黒では珠紀ちゃんが命を絶たなきゃいけないことになってた。もし、お話が続いてたなら、こんな展開もありえたんじゃないだろうか?、と、ふと思う。
それより、真弘先輩ルートのアニメ化はまだですか、((
魔法の手 【 うたの☆プリンス様っ♪ / 翔×春歌 】
「どうしましょう……」
目の前に広がる楽譜を見つめ、春歌は溜息をついた。――スランプだ。
仕事内容はCMソング。完成まであと少しということでつまづいてしまった。期限はあと1週間しかない。
(……何も、浮かばない)
今までどうやって、音楽を作っていたのか。それさえも思い出せなくなってしまう。まるで、目の前に高い壁が立ちはだかったように、その向こうが見えずにいた。
こうしていても時間は過ぎていくだけ。悩むよりも、手を動かせ、頭を回せ。そんなこと誰よりも自分がわかっている。けれど、手は一向に動かなかった。
携帯の着信音が、静かな空間に鳴り響いた。この着信音は、――。春歌は弾けたように携帯を手に取って、通話ボタンを押した。
「も、もしもし……」
《あ、春歌か?》
「翔君……っ!」
電話越しに聞こえてきたのは、1ヶ月ぶりに聞く声だった。
――来栖翔。只今世間を賑わせている期待の新人アイドルだ。その持ち前の元気の良さと、可愛らしい容姿を買われて様々な番組やCMに出演している。テレビをつけていれば、毎日その姿が見えるほどに翔は人気を集めていた。しかし、こうやって会話は出来るんは久しぶりだった。スランプのこともあってか、やや気持ちがうつむき加減になってた春歌は、少し泣きそうになる。が、翔に気づかれるわけにも行かずに、それに耐えた。
《このあとから、2日オフなんだ》
「そうなんですか?」
《ああ、……でさ。久しぶりに会えねーかなって。いや、休みはまだあるから、明日でも――》
「今日、今日がいいです!」
只今の時刻は、夜の11時。けど、時間なんて関係ない。今はただ、こんな機械越しではなくちゃんと声を聞きたかった。
言葉を遮るように告げた春歌に、翔は驚いたように息を呑んだ。しかし、そのあとにくすりと、笑う声が聞こえ、わかったと返ってくる。
《じゃ、30分ぐらいしたら着くと思うから、部屋で待っててくれ》
「はい、わかりました!」
《それじゃ》
電話が切れた。つーつーと、音を聞きながら春歌の胸は踊っていた。やっと、翔君に会える。それが心の中を占めていた。しかし、その視線が机の上に落とされたると、その気持ちはまた沈んだ。
まだ、仕事が終わっていない。――けど、この時間だけでもいい。翔君と一緒にいたい。春歌は、机に広がる楽譜を束ねる。
(まだ解決したわけじゃない。でも、きっと、翔君に会えばいい方法が思いつくかも知れない)
それは確信には程遠いもの。けれど、今までの経験から何となくそう思ったのだ。
春歌は、二人で買ったお揃いのマグカップにココアを入れ、そしれ翔の到着を待った。
前回のが終わってないんだけど…、今は後回し。
これは、今日誕生日であるリア友への贈り物です!…ま、ちゃんとしたプレゼントはやるよ、笑
---
優しく頭を撫でる感触がした。それは、何度も何度も繰り返される。
誰がとか考えたりもしたが、心地よさの方が勝り思考を捨てる。今はただ、この心地よさに身をゆだねていたかった――。
ふと、頭から手が離れていく気配がして、無我夢中でその手を取った。
「……グリーン?」
少し驚いたようにびくりと体を揺らしたのがわかった。起きてるの?、と続いた声。それに合わせて目を開けると、澄んだ青色と目があった。
ブルーの後ろに見えるのは天井。どうやらここは、ジムにある一室の様子だった。
「いつから起きてたのよ」
「今さっきだ」
「嘘」
「本当だ」
どこか不機嫌そうに顔を歪めるブルーから目を背けるように顔を傾けると頬に柔らかい感触が当たった、これは――。
「膝枕、か?」
「そ。ジムにきたのはいいけれど、全く姿が見当たらなくって……。で、手当たり次第に部屋を探してたら、この部屋でソファにもたれかかって寝てたあんたを見つけたのよ」
「そうか、……それで、どうやったらこの体制になるんだ」
「あたしのせいじゃないわよ。隣に座ったら、あんたの方から倒れてきたのよ」
「じゃあ、どかせばいいだろ」
「それは――、……てへ?」
いたずらっ子のように、ちょん、と舌を出したブルーを見上げる。
グリーンが推測するに、ただ、自分の驚いた顔が見たかったからこの状態のまま放置していたに違いない。だが、結局驚きはしなかったので、ブルーは不満げにしている。
にしても、相変わらず突拍子もない行動を取る。ため息を付けば、なぜか睨まれた。
「それより!」
「なんだ」
「また徹夜したでしょ! 隈、できてるわよ」
ちょんと、隈が出来ているあたりをブルーの細い指がつつく。
実際、昨夜徹夜していたのは事実なため、グリーンは何も言えずに押し黙っていた。変に言い訳をすれば、目の前の女が騒ぐのは目に見えていたからだ。
「全く……。働くのはいいことだけど、働き過ぎも良くないわよ」
「はぁ……うるさい女だ」
「と、いう訳で。今日は、ブルーちゃんサービスして、膝を貸したげるからもうしばらく寝てなさい!」
そんな声とともに、視界が真っ暗になる。どうやら、ブルーがグリーンの目を手で覆ってしまったようだ。
そこまでして寝かせたいのかと呆れてしまう。時折、ブルーは妙に過保護なところがある。そうなってしまった原因もすぐに思いつくが。
「倒れて、一番に困るのはあんたなんだから。休める時に休んどきなさいよ」
再び、優しく頭を撫でられる。声色からして、照れてるのだろうか。そんな顔が見れないのは残念だが、それは眠りの後から拝んでもいいかも知れないとグリーンはようやく瞼を閉じた。
優しく頭を撫でる感触が、夢の世界へいざなう子守唄のようで。
頭の片隅で、こんな日もあっていいかもしれないと思いながらグリーンは眠りに就いた。
---
こんなもので悪いな。
…ま、改めて誕生日おめでとう。来年からは、高校生だし。学校離れるし。ちゃんとお祝いできないと思うからね。今年は特別サービスってことで。
ちゃんと、プレゼントは用意するから、来週楽しみにしてて、
最後になるけど。…お前が、一番の親友で良かったって、思ってる。
(…なーんて、普段言えない台詞をここで言ってみたり。あー、恥ずかし、)
うたプリのやつの続きー、
---
ぴんぽーん。無機質な機械音が鳴った。春歌は持っていたマグカップを机の上において、ソファから立ち上がる。その時に、机にあたってしまい上に重ねていた楽譜が床に散らばってしまった。しかし、そんなことが気にならないほど春歌は翔に会いたかった。
誰なのかなんて確かめずに、ドアを開く。見えた、金色の髪、青色の双眼。そして久しぶり、という機械で阻かれていないその声に、春歌はたまらずその人物に抱きついた。
「翔君っ!!」
「は、春歌!?」
勢いよく抱きついた春歌を、咄嗟に受け止めた翔。背が小さくとも、体つきはいいためか少しバランスを崩した程度で済んだ。
春歌は、顔を上げ、そしてニッコリと笑った。
「おかえりなさい、翔君!」
「ああ、ただいま」
そう言って、翔は優しく春歌の頭を撫でた。春歌は、くすぐったそうに笑い声を零す。それを、いとおしげに見つめていた翔であったが、ふと春歌の顔を見て、撫でていた手をとめた。そして、空いている手で扉を閉めて、部屋の中へとはいる。
「なぁ、春歌」
「なんですか?」
「目の下の隈、どうしたんだ?……眠れてないのか」
翔に指摘され、春歌はようやく気づいた。スランプのせいで、作品が仕上がらず、それが悩みとなり最近寝れていなかったのだ。今だけは、仕事の話をしたくなかったのに、春歌は慌てて、翔から顔を隠すように背を向ける。
「春歌?」
「な……なんでもないです、大丈夫ですよ!」
「隈作っといて、大丈夫じゃないだろ……、ん、これは?」
春歌の方に歩み寄った翔は、床の上に散らばっているものに気づいた。あ、と声を上げて静止をかける春歌を無視して、それを拾い上げる。それは、先ほど春歌が落とした楽譜だった。
「春歌、これって……」
「……仕事です。でも、大丈夫ですよ、もうすぐで終わりますから」
自分がスランプであること。仕事に行き詰っていることを翔に知られたくない春歌は、それだけを伝えると翔の手から楽譜を抜き取る。そして、ほかの楽譜も拾い上げてばまたまとめて机の隅に置いた。
「何にもない、のか?……本当に?」
背後から聞こえてきた声は、先程とは違う。低く、怒りが込められているように聞こえた。怒らせてしまったのだろうか。怖くて、春歌は振り返ることができない。
「俺は、そんなに頼りないか?」
「そんなことありませんっ!! 翔君は素敵で、かっこよくて……ただ、これは私の問題だから。私が解決すべきことだから」
「そんなこというなよ。俺とお前は、パートナーで、恋人だろ? パートナーってのは、支えあうもんじゃないのか?」
後ろから伸びてきた腕が、春歌の腰を捉えて引き寄せる。あっという間に、春歌は後ろから抱きしめられていた。
久しぶりに再会して、嬉しいはずなのに。なんでこんなにも悲しいの、寂しいんだろうか。春歌は、腰に回された手に自分の手を置いた。
「学園時代、隠し事してた俺が言えることじゃないかもしれない。でも、お願いだ。何かあるなら言ってくれ。俺の知らないところで苦しむ春歌は、見たくない」
春歌を抱きしめる腕が震えている。
――学園時代、翔は心臓病という病を抱え、それでも無茶を繰り返していた。それを春歌は、いつも不安に見ていた。止めることはできない、それは彼の夢を否定してしまうから。今ではそんなことないけれど、もしかしたら翔は今の自分と同じ気持ちなんだろうか。
(……不安、だよね)
大切な人の苦しむ姿を見てきた春歌にはその気持ちが分かる。だから、――春歌は話すことにした。
七夕の夜に 【 緋色の欠片 / 真弘×夢主 】
学校からの帰り道、不意に空を見上げた。しかし、都会の光のせいか見えるのは僅かな星たちだけ。昔、満天の星空を見たことがあるせいか、黎は今目の前に広がる空がひどく寂しそうに見えた。
しばらく眺めたあと、空から視線を外して歩き出す。すると、とある民家に飾られた笹が見えた。そこには折り紙で作った飾りや、短冊が掛かっている。
(そうか、今日は七夕か……)
――七夕。空の上にいる彦星と織姫が、年に一度天の川を超えて出会える日。そういえば、村の頃は大きな笹の葉に願いを書いた短冊を飾って、飾りも作ってたっけと思い出す。そうすると、どこか1年に一度しか会えない彦星と織姫が。自分と、村に残してきた少年に重なった。
(……真弘)
村から離れて数年。優しい祖父母のもとで育てられていたおかげで、何一つ不自由なく暮らしてきた。学校でも、友達は男女共に多い。とても幸せだった。しかし、ふとした瞬間に寂しさを感じるのだ。――そう、あの元気な笑い声がないことに。その心情はまるで、曇りひとつないけれど星がない、今の夜空のようだった。
(まだ、彦星たちのほうがましかもねぇ)
彼らはまだ、1年に一度。しかし自分たちは、もう一生会えないかもしれないのだ。
さらりと風が、黎の長い髪を揺らす。
(短冊、かぁ)
いつの時だったか。短冊に、「ずっと一緒にいられますように」と書いたことがある。その時にまだ、こんなふうになっているとは当時の自分も知らなかったが。
(……書いてみようか)
無理でも、叶わなくても。それでもいいから、自分の願いを形として残しておきたかった。
家に帰って祖父に笹をたのもう。それで、祖母と飾りを作ろう。
黎は早まる気持ちを抑えて、帰路を先程よりも早足に駆け抜けた。
――その願いが叶うのは、その翌々年。
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くっ…間に合わなかった!!
今回は、村に戻る前の黎ちゃんと真弘先輩をイメージ。…あ、この本編は別サイトにて連載中です。
この辺のお話も、今度しっかり書きたいなぁ。(ってか、真弘先輩×黎ちゃんのcpのくせして、真弘先輩が出てきてない…、)
目次のようなもの。
今まで書いたのがバラバラだからちょっとまとめてみた。
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【ルーンファクトリー4】
・朝。 / ( ダグ×フレイ )>>25
【ポケモン(アニポケ、ポケスペ混合)】
・お姫様、迎えに来たよ。/ ( サトシ×夢主 )>>9
・タイトル未定(友人へと誕プレ小説) / ( グリーン×ブルー )>>42
【学園アリス】
・名前を、/ ( 棗×蜜柑 ) >>2
【らくだい魔女】
・お姫様と、その騎士 / ( チトセ×フウカ )>>20
【ぬらりひょんの孫】(今のところ、リクオ×夢主のみ、)
・君と共に、/ >>11-18
・新月の夜の訪問者 / >>21
・タイトル未定(夢主姉設定) / >>22-24
・桜花爛漫 / >>29-30 ※未完
【うたの☆プリンス様っ♪】
・魔法の手 / ( 翔×春歌 )>>41、>>43 ※未完
・近くて遠いその関係 / ( 翔×夢主 )>>26
【緋色の欠片】
▽拓磨×珠紀
・赤い糸のその先は、/ >>3
・貴方に会いたくてたまらない / >>5-6
・眠り姫にキスを / >>7
▽真弘×夢主
・夏の夜 / >>8
・七夕の夜に / >>44
▽真弘×珠紀
・膝枕 / >>4
・闇に差し込んだ光 / >>31-32
・君の愛が欲しい / >>33-36
・強くなりたい。その理由 / >>37
・タイトル未定(無印真弘ルートで、蒼黒) / >>38-40
・タイトル未定(転生パロ) / >>27-28 ※未完
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アンカーってつけすぎはよくないのね…、もうしないわ
無題。【 らくだい魔女 / チトセ×フウカ 】
目を開ければ、抉れた地面が見えた。体が汚れるのも気にせずにごろりと横にしていた体を仰向けにすると、周りにあったはずの建物はほとんど倒壊していた。所々からモノが焼けたような煙臭い臭いが漂ってくる。――ここであった戦いのひどさを改めて感じた。
体は鉛のように重たい。少しでも動かせば体のいろんなところが悲鳴を上げそうなほどの痛み。それを我慢して、地面から体を起こした。
目の前には半分崩れ落ちた壁に、背中をもたれさせ、膝を立てて座る姿がある。青色をしたその目を閉じ、大きく肩で息をしている。
生きていることに、ほっと安心して息をついた。でも真っ白な制服は、所々赤くなっていて、あたしよりも怪我がひどいことを物語っていた。腕や足の、火傷のような後にあたしは顔をしかめた。
「チトセ……」
随分と水分を取っていないからか喉が張り付いている。そのせいでかすれた声で名前を呼ぶ。声は小さくて、きっと聞こえてない。でも、呼ばずにはいられなかった。
じっと、見つめていればチトセはうっすらと目を開けた。本当に小さな声だったから聞こえているはずないのにと驚く。チトセは暫く視線を彷徨わせたあと、その群青色の瞳であたしを捉えた。その時、顔が緩んだように見えたのは気のせい?
「ふう、か」
同じようにかすれた声。でもしっかりと耳に届いた。いや、正確には頭の中に響くような声。チトセとよく交わしていたテレパシーのような感じだった。もしかしたら、あたしは無意識にテレパシーで千歳を読んでいたのかもしれないとうまく働かない頭を動かして考える。
チトセは、意識が朦朧としてるのかな。瞳がしっかりと開いていない、目は虚ろっていた。それでも、チトセは穏やかに笑みを浮かべた。
「大丈夫、か?」
今度ははっきりと聞こえた言葉に、目を見開いた。
――大丈夫、なんてあんたが一番大丈夫じゃないじゃない。いつものように、憎まれ口で言い返そうと声を出そうとする。でも出てきたのは嗚咽だった。
そのあとから、次から次へと涙が頬を伝っていくのを感じる。冷たい。暑い中にいたからか、その涙は妙に気持ちよかった。
涙を拭うことも忘れ、呆然としていればチトセは手をついて立ち上がろうとする仕草を見せた。それを見てあたしは、涙をぬぐい慌てて口を開いた。
「動かないで! あたしが行くから!」
思いのほか大きな声が出た。あたしも驚いたし、勿論チトセも、驚いたように体をびくりとさせる。そして、大人しく地面に座り直した。頑固なチトセが直ぐに引き下がったんだから、見た目以上に体は辛いのかもしれない。
……あたしも人のことは言えないんだけれどね。でも、チトセ以上にこの体はまだ動くはずだから。あたしは、ほとんど焼けた芝生に手をついて、立ち上がった。
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なんか、もう…無理やね←
一応続く予定。……なんだこれは。
某イラストサイトに載せるべく…、下書きしますー。
勿論、真弘先輩の誕生日祝いで、笑。
一旦ここに書いて、サイトに移すとき少し訂正する感じになるかな?、それじゃいってみよー。
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それは、すごく些細なことだったと思う。
何度も悩んだ末に、聞いた質問だったのに先輩は、まるで他人事のように受け流してしまって。先輩の今までのことを思い返せば仕方がないことだったのかもしれない。先輩がそんな態度をしてしまったのも変じゃない。 でも、例えそれが先輩にとって大事じゃなくても、私にとっては大切なことで。だから、私は――。
そらいろ。
家の縁側に座ってぼーっと、外を眺める。
聴こえてくる蝉の音。いつもは煩いなぁ程度にしか思わないそれが、あんな事があった後だからなのか、いつも以上にうるさく聞こえる。けど、そんな苛立ちを当てる相手も、そもそも苛立っているのは私が原因であるからこの胸にくすぶっている気持ちはどうにもできない。重くため息をついて、そのまま仰向けに寝転がる。
もし、この現場を美鶴ちゃんにでも見られてしまえば、はしたないですよ、なんて言われそうなんだけれど、体が動かない。まるで、今の私の頭の中のよう。
寝返りを打つと、頬に木の床が触れる。暑くてたまらない体には、冷たくて気持ちよかった。
その状態のまままた、ぼーっと廊下の先を見つめていればふと、暗くなる。誰かの影だ。美鶴ちゃんよりも少し大きいその影を辿って目線を上へ向ける。
「何やってんだ、お前」
「拓磨こそ。ここで何してるのよ」
そこは、涼しげな私服姿の拓磨がいた。私を呆れたような顔で見下ろしている。その顔が妙に憎々しく見えて、質問を質問で返す。すると拓磨は怪訝そうに片眉を上げて、その後全てを理解したようにため息をこぼしす。……何よもう。ため息を一番こぼしたいのは私なのに。
そんな私の気持ちを知らずか、拓磨は私の隣に腰を下ろした。私も、床に手をついて体を起こす。
「お前、知ってるか?、来週の――」
「来週の水曜日は真弘先輩の誕生日……でしょ?」
「誰から聞いたんだよ?」
「美鶴ちゃんに聞いた……っていうか、教えてもらった。ちょうど、1か月前ぐらいにね」
「そうか」
私も何か話したいこととか何もなかったからそこで、会話は途切れた。
その後は、ただ二人で外を眺めるだけ。拓磨は、ずっと私の傍にいるだけ。
(……というよりも、なんで拓磨はここにいるんだろう)
今日は別に、約束も何もしてないはずなのに。――でも、なんだろう。誰かがいてくれるだけで、本当に少しだけれどもくすぶっていた気持ちが晴れたような気がした。
(……、あぁ、そういえば)
去年の秋もそうだった。真弘先輩が蔵にいることを知りながら、結界から出れなかった私の背中を拓磨は押してくれた。何気ない言葉で。でも確かに元気をもらった。
拓磨は不器用だ。でも、すごく優しいことを私は知っている。もしかしたら、今ここにいてくれるのは具体的な目的があってだからとかじゃないんだろう。ただ、私の傍にいるためにここにいるのかもしれない。
(そうなら、もしそうならば……拓磨になら話せるかも知れない)
この気持ちをどうにかできるのは私自身しかいない。拓磨に打ち明けることでどうにかなることでもない。でも、なんとなく元気をもらいたかった。あの時のように。
「ねぇ、拓磨。今から話すこと……聞いてくれる?」
「……ようやく喋ったな。ほら、さっさと言えよ」
――そのために俺は今ここにいるんだから。
聞こえないはずの言葉が、夏風とともに聞こえた気がした。
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雰囲気からして拓珠…、違いますよ!真珠ですからね!!
無題。【 RF4 / ダグ×フレイ 】
「せいっ……はぁっ!!」
モンスターに最後の一撃を叩き込む。力をなくしたモンスターはそのまま地面へと倒れ、その姿を消した。辺りを見渡すと、ほかのモンスターの姿はないことからこれでここのモンスターはすべてはじまりの森へ返すことができたようだった。
背後唐草を踏みしめる音が聞こえた。振り返れば、片手剣を鞘に収めながら私の方へ歩いてくるダグの姿があった。
ダグは私の姿を見つければ、にっ、と口角を上げる。
「お疲れさン」
「ダグこそ。仕事手伝わせちゃってごめんね」
「気にすんなヨ。忙しい時に、誘ったのは俺なんだシ。でも、今え思えば声をかけといて良かったゼ。こんなにもモンスターが多いとはナ……」
「うん。ゲートもいつもより多く開いてた」
今日私が受けた依頼――何が原因かはわからない。けれど、セルフィアの近くの森で、モンスターが大量発生しているようで、危険なのだそう。現状、旅人が何人も怪我を負っているらしい。そこで、その話を聞いたアーサーさんが、私に頼んだけれども……来てみれば思いのほか多くのモンスターがいた。
いくら私の武器が強く、技術的にも上でもこれぐらいの量では間違いなくすぐに病院送りにされていたかもしれない。本当に、今日の朝ダグが冒険を誘いに来てくれてよかったと思う。正直申し訳ない部分もあるけれど。
「あとは、これをアーサーに報告すればいいんだナ?」
「うん。アーサーさんなら原因を突き止めてくれると思うから」
「確かにナ。……あ、そうダ。今さっき、モンスターを倒してた時にサ、横道見つけたんだワ」
「横道?」
「こっちダ」
ダグに案内され、今の場所より少し深いところに着く。すると、木の陰に隠れているけれど横道らしき通路があった。
「もしかしたら、この先に何かあるのかな」
「かもナ。気をつけていこうゼ」
「うん……」
ダグも私も、それぞれに武器を片手に通路の奥へ進む。そしてその先には開けた場所があった。けれど、中央にぽつんと宝箱があるくらいで、ほかには何もない。変なところに道があったから警戒してたけど、表抜けしてしまった。
「宝箱だけかぁ……」
剣を鞘の中にしまいながら、宝箱を取るべく近づく。そして、箱をあげようと手を伸ばして――。
「フレイっ!!」
名前を呼ばれて、宝箱を開こうとした手が一瞬止まった。次の瞬間後ろからすごい力で片手を引っ張られる。急すぎて、声を上げるまもなく横からダグの片手剣が突き出し、見事に宝箱に突き刺さった。
なにするの、と言いかけてダグの剣が刺さった宝箱が、タダのたからばこではないことに気づいた。なぜなら、宝箱の蓋の部分に目が二つついていたのだから。
「モンスターボックス……」
私は呆然と、そのモンスターの名前を呟く。
モンスターボックスは完全に化けるのをやめたのか、箱を開かせ獰猛な牙と舌を出す。――もしも、ダグが呼ぶのが一瞬遅れたらと思うと、牙を見て背筋が凍った。
モンスターボックスは、剣から逃れようと左右に動き始める。そこをダグは一気に剣を引き抜いて、上から下ろした。大ダメージが入ったのか、そのままモンスターボックスははじまりの森へ帰っていった。
剣を鞘に収める独特の音がそばから聞こえた。その音に我に返った私は、慌ててダグの顔がある方に向こうとして、逆に怒号を受けてしまった。
「馬鹿カ!! 水の遺跡の時にも言ったはずだゼ。モンスターがいる場所で気を抜くんじゃねぇっテ!」
「ご、ごめん……」
ダグの顔は正しく怒りそのもの。私は申し訳なさの気持ちから、か細く言葉を絞り出すようにつぶやいた。顔を俯かせば、ため息が聞こえた。呆れられたのかな。そう思うとさらに気持ちが沈んだ。けれども、次の瞬間に頭に重みを感じた。頭を撫でるような感覚も。
慌てて顔を上げると、銀灰色の双眼と目が合う。ダグどこか困ったような顔をして微笑んでいた。
「ホントに……しっかりとしているように見えて、どこか抜けてんだよなァ……」
「ごめんね……」
「謝んナ。その分、オレが守ってやればいいことだシ」
自然の流れで告げられた言葉に驚いてしまう。しかし、ダグは自分が発した言葉に気づいていないのか無邪気な笑みを浮かべたあと私から離れていった。頭から離れていった体温がどこか寂しかった。
「それじゃ、帰ろうゼ」
「あ、う、うん!」
先に歩き出すダグの背中がどこか大きく見えた気がした。またそのままボーっとしてしまっていたけれど、聞こえてきたフレイ!、という声がどこか苛立ちを含んでいた気がしたから慌てて駆け寄った。
――私は、普段守るという立場にいるから守られるという立場に慣れてない。でも、もしわたしを守ってくれると言うならば、ダグがいいな。なんて考えた私は、密かに笑みを浮かべた。
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これがちです、笑。まぁ、ダグじゃなくてその時連れてたのは、ディラスとレオンさんだったのですが…。
畑ダンジョンに潜った際に、ほら、宝箱だけの部屋があるじゃないですか?、とある部屋に入ると宝箱が3つありまして、奥に二つ、手前に1つといった感じにね。
で、手前のを取ろうとしたときディラスが奥の宝箱の一つに向かって走り出したんですね。で、そのまま攻撃してたんで「なにやっとんじゃーっ」と言おうとして、その攻撃した宝箱がなんと、モンスターだったんですね…、いやー、あれはホントびっくりした、笑。
そういう経緯で、今回のお話が出来上がったわけですが、今回CP要素は薄いかな?って感じですね。
無題。【 歌王子 / 翔×夢主 】
舞台袖で深呼吸を繰り返す。どうしてこんなにも緊張してしまうのか。これから舞台に立って歌うのは私だけではなく彼なのに。
これほど私が緊張しているのだから、じゃあその彼は大丈夫だろうかと後方へ振り返ろうとしたとき、観客席から、たくさんの歓声と拍手が響き渡る。それは、私たちに次の出番が回ってきたということなのだろう。それを裏付けるかのように私たちの出番を告げるアナウンスが流れた。
「出番……だな」
後ろから私のそばへ歩いてきて、ぽつりと呟いた翔の声はわずかに震えていた。私の予想通り、翔の顔はどこか強ばっている。
私の方を一回も見ず顔はステージの方へ向けられたままだった。舞台の雰囲気に呑まれている、そんな感じに見えた。――そんなに不安にならずとも、いつも通りでいればいいのに。いつもの翔だったら、寧ろ自分の世界に引っ張り込んでいくのに。
でも、いくら私がそう思ったって、不安になるのも仕方がないのかもしれない。私は、どうしても彼を勇気づけたくて、あの笑顔が見たくて――私は翔の右手をとり両手で包み込むように握った。
「……! 澪――」
「翔、頑張って」
ばっと、勢いをつけて振り返った顔。私を見つめる瞳は、元の大きさよりも一回り大きく見開かれている。それに反して、私は瞳を細めた。自らの震える手を無視して、翔の手を強く握る。どうか、この想いが届くようにと。
ふと翔は、何かに気づくようにはっとした。そして、気を緩めるかのように笑みを浮かべた。
「……ああ、言われなくてもわかってる。……大丈夫だ。俺が歌うのはお前の曲なんだから、絶対に優勝してみせるぜ」
「……うん、そうだね」
力を入れていた手が自然と緩む。そこから、翔の手がするりと抜けた。なくなった暖かさに物寂しくなった。でも、帽子のつばを持つ翔の手は、もう震えてなどいない。再びステージを見る翔の瞳はその先にある何かを見つめているように見える。もう、彼は大丈夫だと私は確信した。
音楽の前奏が流れ始める。ピアノとヴァイオリンで紡がれる曲は私が、翔に送ったもの。――私たちがパートナーを組むきっかけとなったもの。
「それじゃ、行ってきます。……お前への気持ちを、全力で歌ってくる!」
「行ってらっしゃい――ちゃんと、ここで聴いてるから」
私の方を振り向いた翔は、太陽のように眩しい笑みを浮かべる。くるりと振り返ったかと思えば、勢いよくステージへと走り出した。
見送った背中は、小柄な背中に反してとても大きかった。
いくぜーっ!、と声が響いたかと思えばその次に聞こえてきた翔の歌声へ耳を傾ける。
可愛らしくて、でも元気あふれる声。あの時から変わらないそれに、私はふと今までのことを思い出した――。
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これから書く予定の歌王子の夢。翔君落ちのやつで、序章の部分。
生存確認のためと、推敲のために載せてみました。一応某占いサイトで連載予定。もしかしたら、こっちでやることになるかもだけど。
えーと、遅ればせながら緋色の公式CP+aでポッキーゲームネタ()
ただ書きたかっただけなので、クオリティは期待しないでね。
それではいってみよー。
拓磨と珠紀の場合。
「……」
「……」
「……」
「……あのさ、珠紀。何してんだ」
「見ればわかるでしょ。ポッキーを咥えてるの」
「じゃあ、なんで俺の方を見てんだよ」
「そりゃ、ポッキーゲームをするためだよ」
……。あ、拓磨が頭を抱えて座り込んだ。
今日は、11月11日。世間では、ポッキーの日と呼ばれていて、世の恋人たちはポッキーゲームというものをする日……なんだと思う。
だから、鬼崎拓磨という恋人が居る私は、こうしてポッキーを咥えて待っていたのだけれど。
「……拓磨? おーい、拓磨ってば」
「聞こえてるから大丈夫だ。だから、離れてくれ」
……うーん。みるからに動揺してるな。
拓磨って、以外にもよくいろんな雑誌とか見てるから、ポッキーの日とか、ポッキーゲームとは知っててもおかしくないんだけど。や、この反応を見る限り知ってはいるんだろうけど。
「お前、ポッキーゲームって何をするのかわかってるんだろうな?」
「知ってるよ? 両端を咥えて、食べていって……最終的にはキスするんでしょ?」
「……恥ずかしくないのかよ」
まぁ、そう言われてしまえば。
「恥ずかしいよ。……でも、こういう恋人っぽいこともしたいなって」
決して、不満があるわけじゃない。みんなのいない場所で、手を繋いで登下校して。商店街で買い食いして。ちょっと喧嘩したりして。そんな拓磨との日々はすごく楽しい。でも、時々ほかのカップルを見て羨ましく思うときがある。
拓磨は、不器用で照れ屋で、だからなのかキス、とかそういうのをあまりしてくれない。……だから、イベントに乗っかってでもいいから恋人らしいことをしてみたいと思うのは――。
「……やっぱり、我儘だよね」
無理して関係を進めたいわけじゃない。拓磨が嫌だって言うのならば、素直に身を引こうと思う。
手に持っていたポッキーの箱を鞄にしまおうとして――、手首を掴まれた。
「拓磨?」
いつの間にか立ち上がっていた拓磨は、無言のまま箱の中からポッキーを抜き取る。そして、そのまま私の口の中にその先を突っ込む。
いきなりの展開に驚いて、拓磨と呼ぼうとして――拓磨は、その反対側を口に含んだ。
「――っ!?」
さっきの恥ずかしがっていた姿はどこに行ったのか、遠慮もなしにポッキーを食べ進める拓磨。校内ではそれなりに人気のある顔が近づいてきて、私は思わず目をつぶった。
真っ暗の中、口の中には加え続けていたせいで溶けてしまったチョコの味が広がっていて、そして、唇に柔らかいものが触れた。
一度、二度と優しく重ねられたあとそれはゆっくりと離れていく。
「……あのな。なら、そういうのはちゃんと言ってくれたほうがいい」
目を開けると、窓から差し込む夕日に照らされている拓磨の顔が近くにあった。頬が少し赤いのは、夕日のせいじゃないと自惚れたい。
「こんなゲームしなくても、ちゃんとキスしてやるから」
照れくさげに、視線を横へずらしながら告げる拓磨に、頬に熱が集まるのを感じる。
そんな私の頭を拓磨はぽんと軽く撫でたあと、鞄を片手に早足に教室を出ていく。
さっき拓磨の熱が触れていた、自分の唇に触れて、少しだけ余韻に浸って。
「待ってよ、拓磨!」
鞄をひったくる様に持てば駆け足で拓磨の後を追いかける。
帰り道、二人でポッキーを食べながら帰るために。
――――
思いのほか、長くなって吃驚。
拓磨はね、ほんと男の子だなと思う。うん。可愛い←
悟った。これ、残るの6つのCP全部書くの結構時間がかかるわ。
名前。【 緋色の欠片 / 真弘×夢主←祐一 】
まだ暖かい春の日に、真弘がいつもの遊び場へ、黒髪のショートの少女を連れてきた。
よろしくと、笑いかける彼女は間違いなく自分たちとは違う、れっきとした人間。
祐一は、それが自然なことであるように、少女に対して苦手意識を抱いた。彼女は、薄汚れている獣である自分とは違う、暖かな日差しのような子供であったから。
幼い頃から祐一は、自分は人とは違う存在だということに半ば気づいていた。守護者という役目がなければ、人間たちから迫害されてしまうのだということも。
真弘とその少女がどういう経緯で知り合ったのかは知らない。けれど、彼女も本当の己らを知れば直ぐに手のひらを返して逃げるのだろう。祐一はそう思っていた。――あの時までは。
夕日が照らす帰り道。真弘と少女がはしゃぎながら帰る様子を祐一は後ろに付いて歩きながら見つめていた。時に怒り、時に笑い。ころころと表情を変えていく少女をぼんやりと見ていた祐一は、足元の段差に気づかずに転んでしまった。
不格好な転げ方。ついでに音も聞こえたのか真弘と少女はすぐに気がついた。
「なーにやってんだよ祐一」
けらけらと馬鹿にしながら近づいてくる真弘だが、さほど祐一は気にしない。いつも優位に立ってからかっているのは自分であるし、真弘もそんなつもりはないということもわかっていたから。けれど、背後から追いかけてきた少女がぽかりと真弘を殴った。
「ばかっ。ちょっとは心配してあげなさいよ」
「っい……。おいこら、スゲェ力で殴ったろ今」
後頭部に手を当てて、目を潤ませながら睨む真弘に少女は鼻を鳴らしてあしらい、座り込んだままの祐一の目の前にしゃがみこむ。
「大丈夫?」
「平気だ。こんな傷……」
「え、……っあ」
少女は、視線を落として声を上げた。視線の先にあるのは、地面で擦って滲んだ祐一の膝。しかし、今では出血はほとんど収まっており、もう直ぐで塞がりそうだった。
――人間とは違う血を持っているという証拠。自分が獣である証明。
「俺たちは人間とは違う。直ぐに治る」
少女は、黙り込んだままだった。
ありえない現状を目の前にして、何思っているのだろうと顔色を伺うように祐一は下から覗き込む。驚きか、怯えか。けれど祐一が一瞬だけ見えた少女が浮かべていた表情は、祐一の予想をはるかに上回るものだった。
(泣い、て……)
少女は少しつり上がった形をした大きな目に、涙を溜めていた。初めての反応に祐一はいつもの冷静さを忘れて表情に焦りを見せる。
「そんなこと、言わないでよ……」
少女がポケットから取り出したのは白いハンカチ。それを、すっかり傷跡のない祐一の膝へ巻きつける。見えない傷があるかのように優しく締めた。
ぽたりと涙が地面に落ちる
「あんたはちゃんした人間だよ。あたしが言うんだもん。絶対だよ!」
涙を拭うことも忘れて、一直線に見つめてくる暗い青色の瞳に祐一は言葉をなくした。
流れる沈黙に、砂を踏みしめる音が聞こえた。気付けば真弘が少女の後ろに立っていた。真弘がそっと艶やかな髪を撫でると少女は弾かれたように立ち上がって真弘に抱きつく。
勢いが良かったせいか、少しバランスを崩す真弘だが直ぐに体制を直ししっかりと受け止める。
真弘の腕の中にいる少女の体は、嗚咽こそないが小さく震えていた。
「……な? びっくりしたろ」
まるで自分でそうであったかのように、真弘は苦笑いを浮かべながら告げた。
その合間にも子供をあやすように、少女の頭を真弘は優しく撫でる。
「まっすぐに見てくれるんだ、俺たちのこと。こんな奴、早々いねーよ」
少女に寄せていた視線を祐一に向け、口を弧の形にする。そうして、漸く祐一は理解する。真弘が何故少女を、玉依に関係のない人間の女の子を連れてきたのかを。
祐一は、何も言わずにその場に立ち上がる。膝に巻かれたハンカチが暖かい。
真弘の方へ近づいて、少女の傍に立つ。撫で続けていた真弘の手が少女の頭から退いたのと同時に代わりに祐一の手が少女の髪に触れた。優しく、壊れやすいものに触れるかのように。
僅かに頭を撫でる感触が変わったことに気づいたのか、真弘の胸から顔を上げる少女。目の下は痛々しく腫れていて、顔を伏せていた真弘の服の箇所は濃い色に変わっていた。
自分のために、こんなにも泣いてくれたのかと祐一は不謹慎だと思いながらも嬉しくなる。こんなこと、初めてだった。
「……どうしたの」
ぽつりと問いかけられて、祐一はなにを話そうか決めていなかったことを思い出す。僅かに顔を伏せて考え込んでいると、少女からの視線を感じた。
ふと、大事なことを思い出す。
(……あぁ、そういえば)
――名前を聞いていなかったな。
祐一は、必要最低限の人間の名前しか覚えない。だから、彼女も初めて会った時に名前を教えてくれていたのだろうが、祐一の頭の中には止められていない。
けれど、今度は必ず記憶にとどめておこうと祐一は決める。この、他人のために泣く優しき少女の名前を。
「お前の、名前はなんだ?」
覚えていないということを不快に感じたのではないかと、祐一は少し不安に思う。けれど少女は、そんなこと気にしていない様子で、むしろ驚いたように目を見開き、やがて笑顔を浮かべた。――それは、祐一にだけに向けてくれた初めての笑み。
「あたしの名前は、黎っ!」
先ほど泣いていた時の雰囲気を吹き飛ばすように元気よく告げられた名前。とくりと、祐一の胸が微かになった気がした。
思えば、あの時は初めての連続だった。
初めて、自分のために泣いてくれる存在が居ることを知った。
初めて、自分たちとは何の関係もない人間の名前を知りたいと思った。
初めて、誰かと――この少女と一緒にいたいと思った。
祐一が、少女を好きになるのに時間はかからなかった。けれど、惹かれていくたびに祐一は気づく。少女は、自分ではなく別の誰かに惹かれているのだということを。それが、――自分の無二の親友であり、彼女に想いを寄せている真弘だということを。
けれど、祐一はそれで構わなかった。何よりも大切なふたりが幸せでいるのならば、それで十分だと。――ただ、欲を言うのであればいつまでも、この先ずっと。彼女の幸せを守っていたい。彼女の隣で。
「黎」
「ん、何さ。祐一」
振り向くと同時に揺れる黒髪。あの頃とは違い、腰まで伸びている綺麗な髪。それを束ねているの緑色の結紐。
これだけでも、彼女が自分でない相手を好きなことが分かる。
「黎」
「だーから、何さって聞いてるじゃないかい」
むくれる頬。思わず祐一は笑みをこぼす。
――愛しい。愛しい。だから、守りたい。
「ただ呼んでみただけだ」
「なにそれ」
目の前の少女はぷっと吹き出した。それを、祐一は目を細めて見つめる。
――黎。
愛しい存在を、祐一は今日も呼ぶ。
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某サイトに載せている本編の、番外編の番外編()
ポッキーゲーム?…知りませんよそんなの。
彼女を綺麗にする魔法。【 緋色の欠片 / 真弘×珠紀 】
窓際の自分の席で、頬杖をついて黒色のケースから覗く、薄紅色のそれを見て溜息をつく。先ほどクラスメイトから、間違えて買ってしまったからと譲り受けた口紅だ。本当、正直に言えば、自分に口紅など洒落たものは似合わないと自覚している。憧れる気持ちもないわけではないけれど、まだ自分には早いような気もするから。
でも、付けてみたいという気持ちがないわけではなくて。幸い、どキツイ赤色だとかそんな色ではなく淡いピンク色だからつけてもそんなに目立ちはしないだろう。
(それに――)
ふと、ある顔が頭の中に浮かぶ。背丈に反して、ガキ大将のような尊大な態度。それでも、常には私たちを大切に思ってくれる私の彼氏。
……して、恋人になる前から気づいていたけれど、あの人はどうやら、大人の女性、というものが好みらしい。時折、観光でやってくるそんな女性たちに見とれていることを彼女である私は知っている。鼻の下を伸ばして見つめる彼を、私が妬ましい目で見つめていることには気づいていないだろうけれど。
(私なんて、まだまだだし。……先輩から見れば子供なんだろうな)
でも。もし、この口紅をつければ先輩が好きな大人の女性とやらに近づけるのだろうか。
そんなわけ無いというマイナスな気持ちと、もしかしたらというプラスの気持ちが私の中で反発し合って――。
……結局、長い戦いの末、期待の気持ちが勝ってしまったようで鞄の中から、いつも持ち歩いている手鏡を出して自分の顔を移す。慣れない手つきで危なっかしくしながらも唇に薄紅色を載せ終わる。
一瞬、鏡に映る自分が大人になったような気がしたけれど、改めてみればお世辞にもすごく可愛いとは言えない自分の顔があった。綺麗になったなんて、人には言えない恥ずかしいことを考えてしまった自分に私は苦笑いを零した。
これがまた出てくることはないんだろうなと思いながら口紅に蓋をしてポーチにしまう。結構人気の会社から出たものらしいけど、私にはやっぱり早すぎたようだ。少しもったないと思ったけれど、似合わないものは仕方がないと思う。
こんな姿を誰かに見られたくなくて、誰かに見つかる前にと早々に教室に後にする私。でも、そう上手く誰にも合わずに下校できるわけも無くて――。
「お、珠紀。まーだ、残ってたのかよ」
「……真弘、先輩」
階段を下りたところで、遭遇してしまった。一番会いたくないと思っていた真弘先輩に。
彼のことだから、ストレートに似合ってないとか言われるだろうなとは思っている。でも、やっぱり本当に言われるのと予想するのとは全く違って。だからこそ、傷つく前にと思っていたんだけど……。目線がどんどん下がっていくのが分かる。
「なんだよその、会いたくなかったのに的な顔は」
「いえ、なんでもないです」
本当にそう思っていただけであって、ストレートに言い当てられてしまえば居心地が悪くなるのは当たり前で。この人、意外に鋭いんだよねと思いながら口元を隠すために顔を背けた。
正面に立っている偉そうな先輩様は、この場からいなくなる気配はなく、どういう訳か視線を送り続けている。
(……もしかして、口紅、バレてる?)
これでも淡い色のものだし、よく見られない限りは大丈夫だとは思うんだけど。……ここは、平然を装って逃げるしかない。
「それじゃ先輩。さようなら」
顔を戻して、ペコリと頭を下げて颯爽と靴箱の方向へ一直線向かう。
けれど、すれ違い際に腕を掴まれたせいで足がぴたりと強制的に止まる。
「……なんですか?」
「お前、口になにかつけてるか?」
びくりと肩が揺れた。動揺しているのがバレバレだ。こんなの、そうですと肯定しているようなものでしょっ、と相変わらず演技下手な自分に腹が立ってくる。
でも、もしかしたら気づかれていない可能性もあるし……私は、そのまま覚えのないふりを装うことに決める。
これ以上、顔を背け続けても違和感有り余るだけだろうから思い切って顔を真弘先輩の方に向けた。
「そうですか? 先輩の気のせいじゃないんですか?」
にっこりと、頬を上に上げることを意識する。上手く笑えているかどうかは、鏡を見ないとわからないけれど。
正面から受けるのは、探るような目線。ここは、すぐ逃げるのが一番!……なんだろうけど、用心を越してか私の腕は先輩の手に掴まれたままだ。
「あの、先輩。離してもらえませんか」
「嫌だ」
「え」
「嫌だ」
容易く離してもらえるとは思ってなかったけど、そう断言されては逆に私のほうが吃驚だ。というよりも、先輩の眉間にシワが寄っているような気がするのは気のせい?なんだか、不機嫌そうな……。と、冷静に観察していれば先輩の右手が私の顔に伸ばされる。
「!?」
伸ばされた手が、何処に向かうのわからないまま反射的に目を閉じる。それが、一番不安を煽るものだと気づくのは目を閉じたあとだ。すぐに目を開けるのもなんだか変だし。本当に、私馬鹿と内心で叱咤する。もう頭のなかはぐるぐるだ。
ふに。何かが唇に触れた。そして、何かを拭き取るように動いたあとそれは直ぐに離れた。恐る恐る目を開けると、先輩は目の前で自分の親指を見つめていた。
「あっ……」
先輩の指は、淡いピンク色で色づいている。もしも、さっき唇に触れたのが先輩の指ならば――と、そこまで推理してさっと血の気が引いた気がした。もう、完全にバレてしまった。
「やっぱ、つけてるじゃねーか」
親指を見つめて、何を思ったのかひとつ溜息をつく。そして、上げていた腕をもう片方の腕と一緒に胸の前で組み直す。
「さっさと白状すりゃよかったじゃねーか。……それともあれか、先生にバレそうだったからか?」
いつ、あの言葉が飛び出してくるのかドキドキしながら待ち構える。でも、いくら身構えたってあの言葉が耳に届けば私はきっとこの場を駆け出していってしまうような気もした。
下で組んだ手が震えている。
「別に告げ口なんて、真似は俺はしねぇよ。……じゃあ、なんでお前黙ってたんだよ」
けど、その言葉はいつまで経ってもやってこない。先輩は本気で分からないという態度をとり続けている。――なんで。いつも鋭い時は鋭いくせに、どうしてこの人はこんな時だけ鈍いのだろう。
不安や、焦りの気持ちがだんだんと怒りにへと変わっていく。
先輩が、また口を開こうとして、それにかぶせるように私は言った。
「先輩にっ、似合わないって言われると思ったから……っ」
スカートを掴む手が震えているのが分かる。目の前で、先輩が驚く気配がした。
一度出した本音は、止まることを知らずに私の気持ちに反して口は動き続ける。
「友達からリップを貰って……、これをつけたら先輩好みの大人な女性になれるかなって思って。でも現実は、そうじゃなくって。……中途半端な私を、見られたくなかった」
口紅は、子供を大人に変えてくれる魔法の道具だと思い込んで。でも、結局はそんなことはないわけで。大人になりたくて背伸びして、結果不格好になってしまった私。そんな時に、似合わないって言われたらどうだろう。きっと私は泣いてしまうに違いなかった。
「――――お前ってやつは、……本当に」
うっすらと目に涙が浮かぶ。滲んだ視界で、先輩が額に手を当てて溜息をついているのが見えた。呆れられてしまったかもしれない。こんな小さな問題に悩む私を。視線が下に向く。こらえていた涙が頬に落ちそうになって――くしゃりと頭に触れる温もりがあった。
「せん、ぱい」
顔を上げると、そこには呆れた表情、ではなく困ったようなそんな笑みを浮かべる先輩がいた。何度も優しく頭を撫でるから、涙腺がどんどん緩んでいって目からこぼれた涙が頬を伝っていくのを感じる。
「あのな。俺がお前に惚れたのは容姿が好みだったから、だとか思ってんのか? お前は、容姿が好みだから俺を選んだのかよ?」
慌てて首を横に振る。そんなわけない。そりゃ、私としては身長が高いほうが好みだけれど……真弘先輩を好きになったのは、私が彼の強さに憧れて惹かれたから。そして、見え隠れする弱さを支えたいと思ったから。
「違うだろ?……俺も同じだ。まぁ、気になるようになったきっかけは容姿が、とかそういうのだったかもしれねぇけど……俺は、お前の真っ直ぐなところか諦めないところとか。そういうところを好きになったんだよ」
いつもは聞けない先輩の本音に目を丸くさせる。そして、安心した。先輩はちゃんと私を見てくれてるんだとわかったから。
「だから、大人っぽくなくって子供でも。化粧が似合わなくっても俺は気にしねぇ。だって俺は、そのままの珠紀に惚れたから」
胸の中にあった不安が溶けていく感覚がする。この人はいつもそうなんだ。いざという時には、すごく頼りになって私を支えてくれる。だから、そんな彼に見合う人になりたいと私はずっと思っていたんだ。
「……っ、おら、帰るぞ!」
今更、顔を赤くさせた先輩はくるりと背中を向ける。ちらりと見えた耳まで赤くなっていることに私は気づく。
(あぁ、もう、好きだな)
知らず知らずに頬が緩む。
「先輩っ!」
「ちょ、まて、抱きついてくんな馬鹿!」
嬉しくなって背中に抱きつくと、照れ隠しか大声を上げる先輩。それも構わず、私はぎゅっと抱きしめた。
「あー……言い忘れてたが」
「はい? なんでしょう」
雪の積もる道を二人肩を並べて歩く。
ずっと静かだった空気に、先輩の声が溶け込む。
「さっきの、……似合ってたと思う」
「え」
頬を赤くさせながら言うものだから、伝染して私の頬も熱くなるのを感じる。
さっきの、とはリップのことだろうか。
「けど! 俺以外の前で付けんなよ」
――……それ以上、美人になられたら俺が困る。
「せん、ぱ……」
それ以降、帰り道が無言になったことは仕方がない。でも、その沈黙は今まで以上に穏やかなものだったと私は思う。
彼女を綺麗にする魔法。―another―【 緋色の欠片 / 真弘×珠紀 】
「珠紀。綺麗になったな」
「……おいこら、彼氏様のまえでなんつーこと言い出すんだお前」
屋上で、おかずの取り合いの戦いを繰り広げる後輩をぼんやりと眺めていればとなりから聞こえてきた淡々とした声に、真弘は口の中の牛乳を吹き出しそうになる。それをなんとかとどめて、顔を向けると当の本人は涼しい顔で屋上の中央に目を向けていた。
「俺は、本当のことを言っただけだ」
「そーかよ」
その裏は何を思っているのか。この幼馴染は中々顔に出さないのが非常に厄介だと真弘はつくづく思う。
(……綺麗、ねぇ)
胡座をかいた膝の上に頬杖を付いて話の中心人物を見つめた。
(確かに、綺麗になった気はするな……)
風が吹くたびに流れる茶の糸。顔立ちは元々いい方だけれど、最近はもっと綺麗になったと思う。それに、ころころと変わる表情はすごく――。
(って、俺は何を考えてんだ)
見とれかけていたことに、はっと我に返って気づく。全ての思考を追い払うように首を振る真弘に、祐一はただじっと目線を寄せる。
「知ってるか、真弘」
「あん?」
「女性というものは、恋をすると美しくなるのだそうだ」
「それって、どういう――」
はたと、動かしていた口を止める。漸く祐一の言おうとしているモノを理解した真弘の頬はあっという間に色づいた。
「……そういうことだ。よかった真弘」
「うっせー。黙ってろ、馬鹿」
そう言い捨てると祐一は、本当に黙り込む。続いて寝息が聞こえてきたから昼寝に入ったのだろうと真弘は推測した。
(恋をすると、か)
それは、つまり。彼女が綺麗になっているのは己という存在があるからということ。
正直に言えば、もとより人気のある彼女がこれ以上綺麗になると狙う男も比例して多くなっていく。その分、真弘の気苦労も増えていくのだが。
(……まぁ、悪い気はしねぇな)
ふと、内心微笑んだ。
リップ騒動を終えた帰り道。いつもだったら学校でのことを楽しそうに話す珠紀だか今日に限って黙りこくっている。真弘としては、一緒にいられるのならばそれで満足なのだが……ちらりと、珠紀の口元を盗み見する。その唇は、淡いピンクで色づいている。
(……こんなもんつけた日には、俺の苦労が増えるって事になんで気づかねぇんだコイツ)
でも、それは彼女が鈍いからだろうと疑問自答をする。
(リップなんてもん、お前にはまだ必要ねぇだろ)
――恋は、女をキレイにする。
そうであるならば――。
(お前には、俺がいりゃ十分だろーが)
口紅だなんて、魔法の道具がなくっても。自分自身が魔法をかけてやればいい。
けど、本人にそのまま伝えられるほど真弘に度胸があるわけでもなく。でも、ひとつだけ言っておくとすれば――。
――あー……言い忘れてたが。
――さっきの、……似合ってたと思う。
――けど! 俺以外の前で付けんなよ。
――……それ以上、美人になられたら俺が困る。
おまけ。
リップ騒動後のある日の屋上。
「そうだ。ひとついいことを教えてやろう珠紀」
「なんですか。祐一先輩?」
「実は、今日――」
『二年にさ、春日珠紀っていう女子いるの知ってるか?』
『知ってる知ってる。すげー美人だよな』
『彼氏いんのかな。いなかったら俺が貰っちゃおーかな』
がたんっ。
『お、おい鴉取?』
『珠紀は、俺のもんだ!! 奪いたけりゃ、俺様を倒してからにしろっ!!』
「という感じにな」
「……私、もう3年の教室に行けません」
「けれど、あの照れ屋な真弘がああまで言ったんだぞ」
「それもそうですけど――」
「おーすっ。真弘先輩様の登場だぜ。……って、どうした、珠紀」
「先輩のばかっ!」
「え、ちょま、どうした。たま――」
はっ。
「お前か。お前だな、祐一!」
「俺は何も言っていない。いったとするならば、今朝の教室での出来事を――」
「言ってるじゃねぇかっ!!」
一週間ほど、真弘を避け続ける珠紀の姿と、それを生暖かい目で見つめる3年生がいたとかいなかったとか。
(俺のもの、って。……なに、公の場所で言ってるんですか! 先輩のばかっ!)
実は、珠紀も嬉しがってたりとか。
――
口紅という簡単なお題をもらい、短編にするつもりがこんなことに…。
支部にあげるときは、珠紀目線の方をもう少し題名に関連するように推敲します。でも、今のところは満足です。
Difference 【 緋色の欠片 / 拓磨×珠紀 】
例えば。
風になびく茶色の髪であったり、
大粒の輝いている瞳であったり、
止まることなくしゃべり続ける口だったり、
コロコロと変わり続ける表情だったり、
自分よりも、頭一つ分小さい身長だったり、
小さい歩幅で自分についてくる足だったり。
ふとした瞬間に、隣にいる人物を異性だと感じる。
異性である分、考え方もそれぞれ違ってそれに困ることはあるけれど――。
「あ、見てみて拓磨。粉雪降り始めたよ!」
足を止めて空から舞い落ちる雪を見上げる珠紀。嬉しそうに、楽しそうに緩められる頬。どきりと胸の鼓動が一段と強く鳴る。
「…っ冷た」
「そりゃ、顔を上に向けているからだろ」
「だって、雪なんて滅多に見たことなかったから」
雪が顔に触れてその冷たさに驚いて顔を戻す珠紀をくすくすと小さく声を立てて拓磨は笑う。不機嫌そうにうがめられた顔には、雪が溶けて水になったものがついている。それを指で拭いてやると、一瞬だけ動きを止めて顔を横に逸らしてしまう。
戦いのさなかでは、あんなにも強く凛々しかったのに。今、拓磨の目の前にいるのは頬を僅かに赤らめて恥ずかしがるひとりの女の子。
可愛くて、愛しくて、どうしようもなく――。
「――好きだ」
「……え?」
「……あ」
思わず呟いてしまった。
逸らされていた顔は真っ直ぐに拓磨の顔を見つめて、その表情は驚きに満ちていると言わんばかりに瞳は大きく開かれていた。
(な、……何言ってんだよ俺!!)
声に出そうとは思っていなかった本心が口の中から飛び出したことに拓磨の頭の中は一瞬にして真っ白になる。
熱の感じる顔を、今度は拓磨がおもいっきり背けた。横からはじっと見つめる視線があるが拓磨はそれにさえ気づかないほど頭の中でいろいろな考えを巡らせる。
(大体、付き合ってもないやつにいきなりこんなこと言って――。まぁ、いつかは言うつもりだったけど、なんでこんなタイミングで――)
「ねぇ、拓磨」
額を抑えて、怪しげにぶつぶつと呟き続ける拓磨の裾を細い指が軽く引っ張った。思考の海から浮上した拓磨は、ゆっくりと珠紀の方に顔を向けて呆然とする。
珠紀の表情は、幸せに満ち溢れているような、そんな笑みを浮かべていたから。
「私も、拓磨のこと好きだよ。大好き」
僅かに桃色のマフラーに顔をうずめさせて、寒さのせいかはたまた別のことが原因なのか、頬を赤らめる少女はどうしようもなく――。
「……ほんと、お前には敵わない」
「え、拓磨どうしたの!?」
再び額に手を当てる拓磨に今度こそ珠紀は驚く。視線を地面に向けている間、隣からは失敗しちゃったかなと、不安げな呟きが聴こえてくる。
本当は、振られるとしてもちゃんとした告白をしようと思っていたのに自分の不注意で思わぬ場面で本音を暴露することになりどうしたものかと悩んでいたはずなのに。
『私も、拓磨のこと好きだよ。大好き』
さっきの一言で、そんなもの一瞬にして吹き飛んでしまった。代わりに胸の中からじんわりとした温かいものが上がってくるのを感じる。
「お前ってやつは……」
「拓磨……?」
「ほら、帰るぞ。このままじゃ風邪引く」
顔を上げた拓磨は、そう言って促する。以前と一つ違うのは、言葉とともに差し出された左手。
珠紀も気づいたのか、不安そうな顔から一変してふわりとした笑みに返る。
右手でその手を取って、序でに指を絡めて所謂恋人つなぎというものをすれば、隣の顔は僅かに赤らんでいた。
二人で手をつないで帰る何時ものとは違う帰り道。
雪で気温が下がって寒い中、つないだ手だけが暖かかった。
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…あ、あれ?書きたかったものとなんか違う。
本当は、「ふと瞬間に恋に落ちるふたり」みたいなやつを書きたかったんだけど、途中で路線変更されたわ。←
まぁいいや、また挑戦しよう。いつか。
拓磨と珠紀ちゃんのCPはこういう、初々しい恋愛がにあっていると思う。唯一の同世代だし。(遼は…まぁ、留年してなかったらひとつ先輩だから)
慎司君と珠紀ちゃんのCPも似てるけど…こっちは、どっちかが引っ張って――みたいなイメージ。
だから、拓珠は同等っていうのかな。いい仲間であり、恋人であり。…言いたいことわかる?笑。
小さな願い。【 緋色の欠片 / 珠紀←おーちゃん 】
「……どうしたらいいんだろうね、私。……どうすれば、いいんだろう」
僕の体に顔をうずめる珠紀。ちょっとくすぐったくて抜け出そうとしたけれど、冷たいものを感じて動きを止めた。また、泣いてる。
「にー……」
泣かないで。言葉にしようとしても、耳に聞こえるのは弱々しい鳴き声。
珠紀は顔を上げた。痛々しく目元は腫れていて、涙がまだ頬に残っている。でも、「何、おーちゃん」と僕に心配をかけないように笑みを作る。
ちろりと涙が残る頬を舌で舐める。くすぐったそうに聞こえる声がするけれどやめなかった。
泣かないで。笑って。僕は、貴方の笑顔が好きだから。
僕の舐める動作は、珠紀が僕を抱き上げたところで止まった。また見たその顔はさっきよりかは元気があった。
「ありがと、おーちゃん」
小さく聞こえてきた言葉に胸が熱くなる。言葉にしなくても届いたものに、嬉しくなった。
珠紀は、僕のご主人様だ。けど、それ以上に守りたい人。ほかの人が、役目なんかなんか関係なく珠紀を守りたいと思うのと同じように。
力になりたい。僕の体は小さくて、弱々しくて。頼りにならないかもしれない。置いて行かれたのもわかってる。
でも、貴方が好きなんだ。その証に、おーちゃんと呼ばれるたびに胸が暖かくなるをいつも感じるんだ。
この気持ちを届けることはない。僕が願うのは、あなたが幸せそうに笑う顔。だから――。
『貴方に忠誠を玉依姫。貴方に、僕の力を』
どうか。自分の力で、僕の力で。貴方の幸せを、貴方の大切な人との未来を掴み取って欲しい。
---
緋色の欠片ドラマCD発売だぜ、ふぅぅぅぅぅっう!!←
早く聞きたいけど、一応クリスマスプレゼントとして買ってもらったので、25日まで聞けない。(´・ω・`)
…まぁ、その間に発売おめでとう小説をつらつら書こうと思います。
今回のは突発的なおーちゃん視点のやつ。初めてだよ、おーちゃん視点なんて…おーちゃん可愛い、可愛いよ。
実は、人型より妖姿の方が好きだったり。
天然小悪魔とクリスマス【 緋色の欠片 / 真弘×珠紀 】
頬に落ちた冷たい感触。赤いマフラーに埋めていた顔を上げれば空からちらちらと雪が舞い降りていた。
「雪降ってきましたね」
「だな。この調子だと、明日になりゃまた積もってるだろ」
少しずつ量を増していく雪を見上げて、雪かき面倒くせー、とネギの覗くビニール袋をがさりと鳴らし真弘先輩が愚痴をこぼす。雪掻きの大変さは、数日前に身を持って知っため私は苦笑いを返すしかない。
「でも、ホワイトクリスマスですよ。素敵じゃないですか」
「ホワイトクリスマスー? んなもん、毎年雪が必ず降る季封村だからなー。クリスマスの日に雪降るのはいつものことなんだよ。お前も、いつしか雪なんて嫌だーとか思うようになるぜ?」
ほとんど都会ぐらしだった私にとって、ホワイトクリスマスなんて数年に一回しか経験がない。だからこそ、今日は雪が降って良かったと思うのだが、先輩はそんなこと微塵も感じていない様子だった。
ロマンチックのロの字もない発言に、む、と唇を尖らせる。
(……そりゃ、ずっと住んでたんだから仕方がないと思うけど。恋人ができて初めてのクリスマスなんだから、少しくらい浮かれてもいいじゃない)
真弘先輩と敢えて目線を合わせないようにして、ブーツで雪を蹴り上げるように歩きを進める。――少しぼんやりしていたのが、ダメだったのかもしれない。雪の中に突き刺さったブーツのつま先をそのまま上に上げようとしたけれど、上がらず、勢い余って後ろに体が傾いた。
「あっ……」
気づいたときにはもう遅かった。後ろは雪とは言えども、新雪ではない。多少の痛みを覚悟して、ぎゅと目をつぶった。
一秒、二秒。覚悟した痛みはいつまでたっても訪れない。三秒、四秒経ってようやく異変に気がついて目を開けた。
「ったく、ほんっとに危なっかしいな。お前は」
目の前に広がるのは、真弘先輩の呆れ顔。状況が頭に追いつかず、私は瞬きするしかない。
時間が経つにつれて、ようやく頭も回るようになってきた。
感触ではあるが、背中に先輩の腕らしきものがあるというところから、後ろにひっくり返りそうなところを先輩が助けてくれたんだろう。
「足、捻ってねーな」
「は、はい」
「それじゃ、起こすぞ」
ゆっくりと先輩の腕が私の体を起こす。私の両足がしっかりと地面についたのを確認して、先輩の腕は背中から離れていった。
「だから言ったろ。ぼーっとしてんなって。ただでさえ、お前は雪道になれてねぇんだから」
「す、すみません……」
先輩の口からこぼれた溜息に、体を縮ませる。考えていた事の中心が、真弘先輩だったとは言えども今のは完全に私の不注意だった。申し訳なさやら、情けないやらで視線がどんどん下の方向へ向いた。
「……ごめんなさい」
顔が下の方向へと向き、私の口から謝罪の言葉が再度飛び出す。横からまた溜息のような息の音が聞こえて――次の瞬間、頭に何かが置かれた感覚があった。
(え?)
それは、二、三度私の頭を優しくなでる。慌てて顔を上げれば、先輩の手が私の頭の上に置かれていた。
私を見つめる、二つの緑の瞳は優しく細められている。
(……あぁ、そんな目をしないで欲しい)
真弘先輩は、子供っぽくて、全然年上らしくなくて、俺様で、わがままで。そんな人じゃないといけないのに。
たまにこうやって、慈しむような、そんな顔をされたら私は急に自分が子どもっぽく思えてしまう。どう反応すればわからなくなる。
「ほんと、お前は目が離せない。……きっと、これから先。毎年のように、転びかけて。俺が助けて。それの繰り返しなんだろうな」
「先輩?」
頭を撫でていた手が、ゆっくりと頬に下りてくる。手袋をしていなかったせいで冷たくなった手が頬に触れるものだから肩が跳ねた。
優しく撫でる少し骨ばった手に、段々と頬が熱を帯びるのを感じる。
いつもと違う雰囲気に、恥ずかしくなる。
「せ、せんぱ――」
「どーせ、恋人と過ごす初めてのクリスマス……なんて考えてたんだろ?」
「う……」
「図星かよ。ほんっとに、わかりやすいな。お前は」
見事に言い当てられて、反撃もできずに言葉を詰まらせる私を先輩はケタケタと笑う。
確かに、その通りだけど先輩に笑われるのがなんか気に入らなくって、頬の手を避けようと手を挙げたところで、先輩のもう片方の手がそれを阻止する。
「初めてだから、何かがあるとか。んなこと考えなくってもいーだろ。これからずっと一緒のクリスマス過ごすんだから」
優しく絡められた手。頬に添えられた手。私を見つめる瞳は、微かに熱を含んでいるようにも見える。
いくら周りから鈍いだの、天然だのと言われた私でも、今どうすべきなのかはちゃんとわかってる。
先輩の顔が近づいてくると同時に、瞼をゆっくり締めようとして――。
「珠紀、真弘」
「う、うぉぉぉぉおおおっ」
「きゃぁぁあああっ!」
先輩の声に合わせて、思わず声を上げる。いつの間にか、私に触れていた手は離れていて、そこだけ暖かかった。
「ゆ、祐一っ!? なんでお前がここに……」
「買い物にいったふたりの帰りが遅いと美鶴に言われてな、迎えに来た。みんなで」
「みんなで? でも、祐一先輩しか――」
「あ、せんぱーい! 迎えに来ましたよー!」
私の声にかぶせるように、男の子にしては少し高めの声が響いた。少しだけ体をずらすとこっちに向かって手を振る慎司君。更には、拓磨や、卓さん、遼の姿まである。
「な、なんでお前らが……。つーか、全員で迎えに来る必要性はなかっただろ!」
「もしものことを考えてですよ、鴉取くん?」
「お、大蛇、さん……」
先輩の反論も、見事に大蛇さんに言いくるめられてしまった。
――結局。二人での買い物のはずが、全員で帰宅することになってしまった。
「ったく、いいところだったってのに……」
「いいところって、なんのことスか?」
「っ、なんでもねーよ。拓磨、一発殴らせろ。なんなら狗谷でもいい」
「な、理不尽っすよ!」
「俺を巻き込むんじゃねぇ!」
前方で、夜だというのに騒ぎ立てる三人組。右隣では、ひっそりと苦笑する慎司君が。左隣では、近所迷惑ですよ、と注意をする卓さん。さらにその横では、何も言わずに傍観する祐一先輩。
(……なんだかなぁ)
せっかくいい雰囲気だったのに、みんなが来たことで甘いものが一気に拡散した感じがした。
滅多にない甘さ。今日のようなイベント日だからこそ――と期待していた分、堪能できなかった分の落胆は大きい。――でも、だからって簡単に終われはしない。
荷物のない、身軽な体で雪道を駆けた。
拓磨に拳を受け止められて、不機嫌そうに吠える真弘先輩の横に立つ。
「先輩」
「あ、珠紀。な――」
ちゅ。
「―――!?」
「な……」
それは、一瞬のことだったと思う。私が、こっちに向いた先輩の唇に自分のを重ねた途端、周りの動きが停止した。
顔を離すと先輩の顔は林檎に負けないくらい真っ赤だった。
「な、ななな、お、おまっ……」
「確かに、クリスマスは毎年まりますし、きっと先輩とずっと一緒に過ごしていくんでしょうけど。今の私たちで過ごすクリスマスは今年だけなので、今感じられることを精一杯感じていたいんです」
言っている傍から、だんだん恥ずかしくなる。クリスマスだからということで、いつもは絶対にしないような、みんなの前でキスをするということをやってみたけれど、頭が冷えてみればすごくとんでもないことだったような気もしてくる。
「えぇっと、だから……その。め、メリークリスマス、です。先輩」
それを言うわけでも一杯一杯になってしまった私は、その場を駆け出し、一足先に家の方向に向かう。
(うぅ、恥ずかしい……。でも、できた)
恥ずかしさのほうが大きいのは確かだけど、満足感もある。少し機嫌をよくして足のスピードを緩めた私は、その後ろで、何が起こっていたのか予想することもできなかった。
―――
メリークリスマス!ってなわけで、久々な真珠。真弘先輩がリードしているようで、最終的には、珠紀ちゃんに振り回してもらいました!
天然小悪魔な珠紀ちゃんいいよね!そして、誰が相手だろうと珠紀ちゃん至上主義な守護者様たちも大好きです。
ともあれ、よかったね。真弘先輩。寸止め終わりじゃなくって、笑。
1/2マフラー。【 緋色の欠片/真弘×夢主 】
※診断メーカー「寒いね、と言うと○○されったー」より。
「うぅ、寒い……」
校舎から出ると、北風が一気に体の体温をかっさらう。コートも、手袋も、マフラーさえも家に置いてきたあたしは、あまりの寒さに腕で自分の体を抱きしめた。
「だから、何かつけてこいって言っただろーが」
「平気だと思ったんだよ」
後ろから付いてくるように出てきた真弘の首には、浅葱色をした暖かそうなマフラーが巻かれている。
羨ましそうに見ていれば、大げさにため息をつかれた。
「何が原因かわからねぇが、この2年は冬にしては暖かかったし、お前は、6年も都会の方にいたから忘れてたかも知んねーけど。これが季封村本来の寒さだぞ」
「そうは言ってもさー」
頭に残るかすかな記憶によれば、幼い頃の自分は雪の中だろうが防寒具一つ付けずに走り回っていたような気がする。だから、今日も大丈夫なのだと思っていたけれど、予想は大外れ。
もしかして成長したせいで体の中で熱が作られなくなってしまったのかもしれない。
(……年取ったねぇ)
我ながら、年寄りじみたことを考えるなと思った。
「猫は寒さに弱いんじゃなかったか?」
「……そのせいもあるのかね」
今年の秋に覚醒した、あたしの中に眠る猫又の血。
最近、妙に肌寒く感じるのも、温かいお茶がすぐに飲めなくなったのも、それのせいなのだろうか。
一瞬、そんな馬鹿なと考え直すけれど、遼のあの本能に従順なところを思い出して、やっぱりそうなのかと、結論づけた。
「にしても、あー寒い。早く家に帰りたい……」
スカートにポケットがないことが恨めしい。指先が赤くなってしまった両手をすり合わさせる。けど、いつまでたっても暖かくならず、いい加減諦めてさっさと帰ろうと思ったとき、ふわりと首元に暖かさが戻った。
驚いて首元を見れば見慣れた浅葱色が。続いて真弘のほうを見ると、首元にあったはずのマフラーは手の中にあった。
「ちょ、あんた、なにして――」
「ちょーっと黙ってろ。すぐ終わる」
本当に煩そうに言うものだから文句言わずに素直に黙り込む。
真弘は、長めのマフラーを何回かあたしの首に巻きつけたあと、少しだけあたしとの距離を縮めて今度は自分の首にマフラーを巻き始めた。
思わぬ展開に目を丸くしている間にマフラーは巻き終わり、仕舞いにはあたしの右手を左手で掴んでそのまま自分のポケットに突っ込んだ。
「これでよし」
「これでよし、じゃないって!」
達成感あふれる真弘の言葉に突っ込みを入れながら、ポケットから手を抜き取ると一気に手が風によって冷やされた。その冷たさに、手を動かせずにいれば真弘は笑いながらあたしの手を掴んでまたポケットの中に入れた。
「これなら寒くねーだろ」
「だからって……」
「俺様がいいって言ったんだから、いいんだよ! おら、早く帰るぞ」
半ば強引に歩き出す真弘。マフラーと手によって繋がっているあたしもそれについていくしかない。
家に帰るまでこの近距離なのかと、目線を外してため息をつく。誰かに見られた時には、死ぬなと思いながら横の方に向いたとき、真弘の赤い耳が目に入った。それは決して、寒さからではないとはひと目で分かった。
先程、手馴れた様子でマフラーを巻きつけて手を握った真弘だったけれど。あたし同様に恥ずかしさがあったのだとわかった途端、くすりと笑いが溢れてしまった。
「なんだよ」
「なーんでもない」
じとりと見つめてくる視線を受け流して前を向く。
さっきのような恥ずかしさもない。寒くもない。
ただ、首元とポケットの中で絡めるようにして繋がれた手がすごく暖かかった。
―――
タイトルは、「にぶんのいちマフラー」と読みます。(
診断結果は、「黎が真弘に寒いね、と言うとマフラーで一緒にぐるぐるに巻かれました。」だったんですけど、プラスして手もつないでもらいました。彼氏のコートのポケットの中で手をつなぐっていいよね!…この場合、ズボンのポケットになってるけど。
なんとか、真弘×黎の番外編みたいなやつがかけたから満足。
無題。【 緋色の欠片 / 真弘×夢主 】
守護者の力を封じていた結界は壊した。あとは、我らが姫のもとに集うだけだと守護者たちは夜の世界を駆け抜ける。
「……何か、音が聞こえますね。まるで――」
「誰かが戦ってるような感じの音、だな」
その方向へと足を運べば、そこには大勢の薬師衆と戦う遼の姿があった。本来の力は取り戻しているはずではあったが、気づいていたいのか、はたまたそれ以上に疲労しているのか体はボロボロでふらついてもいる。
真弘は、颯爽と薬師衆と遼の間に割って入り、風の力で薬師衆を吹き飛ばす。体勢を崩した薬師衆を、残りの守護者が沈めていく。あっという間に、その場は静まり返った。
「おい、狗谷。黎はどこだ」
「知らねぇよ。逃がすために俺が薬師衆の囮になって、それっきりだ」
探し求める姿がないことに、真弘は遼に問いかける。
遼は、疲れ果てた体を休めるように地面の上に腰を下ろし、そして首を振る。
「何とか匂いで感じ取れねぇのかよ」
「どれだけ離れてるのかもわからないってのに、探し当てられねぇよ。――……でも、早く見つけてやれ。泣いてたぞ。あいつ」
遼の言葉に答えず、真弘はぐっと拳を握り締めた。爪が皮膚に食い込んで血が出るのではないかというぐらいに強く。
黎を泣かせた。この事実は、この中で真弘が一番理解している。だから――。
(だから、早くあいつのもとへ……!!)
黎は強い。だからこそ弱い。そして、そんな彼女を支えられるのは自分しかいない。
沢山心配させた。その分、あの細い肩を思いっきり抱きしめてやりたかった。
――ふいに一陣の風が吹いた。
遼が、僅かに視線を向けて、そして呟いた。
「あいつの匂いがする」
「! どこだ」
「あっちだ。あの山を越えた先。それ以上はわからねぇ」
遼の指し示す一点を真弘は穴が開くほど見つめる。この方向。山を越えた先。黎がいると思われる場所は、たったひとつしか思い浮かばない。
(あそこか、あそこに黎が――!!)
仮定ではない。真弘は、確信してた。必ずその場所に黎がいることを。なぜならその場所は、黎と己しか知らない秘密の場所だから。
「大蛇さん、先に言っててくれ。直ぐに追いつく」
「……わかりました。必ず、黎さんと共に来てくださいね」
「ああ、わかってる」
有無を言わせない力強い口調に、卓は仕方がなさそうにため息をつく。
結界を壊すために動いている間も、真弘は黎のことしか考えていなかったことを知っているから。だから、卓は真弘の背中を押す。
「待ってますよ、鴉取君」
「おう」
「頼んだぞ、真弘」
「任せとけ」
いまいち感情の読めない顔にに、と笑い返せば真弘はその場を駆け出した。途中、己の力である風で後押ししながら、ただあの場所を目指して走り抜く。
どれだけ経ったのだろうか。服の中が汗だくになった頃、真弘はたどり着いた。そして、探していた姿があった。満天の星空の元、青々と茂る草原に座り込み、体を縮めさせてなく背中。
「真弘……」
名前を呼ぶ声は、どれだけ泣いたのかわかるほど痛々しく枯れていた。
真弘は、抑えきれない感情に静かに後ろへ歩み寄り、そして抱きしめた――。
―――
今、下書き中のやつの幕間として入れる予定のやつ。多分、変わる。絶対変わる←
最近書くのが楽しくて仕方がない。
次、真珠、拓珠以外を書いてみたい。
君を護る者。【 緋色の欠片 / 守護者×珠紀 】
屋根の上で跳ねる雨の音に珠紀は重たい瞼を開けた。最初に目の前に映ったのは真っ暗な空間だった。いつも見ている自室とは違う景色に珠紀は自分は何処にいるのかと混乱に陥った。
(ここ、どこだろう)
体を起こして首をひねる。見渡せば書物がぎっしり詰まった棚が幾つも並んでいる。そこでここが神社にある蔵の中だということを思い出す。同時に先程の出来事も頭の中で一瞬でフラッシュバックした。
――珠紀が己の祖母に告げられたのは、まさしく死の宣告だった。
最初は、玉依の歴史の裏側で密かに行われていた贄の儀式と言うものの真実を確かめるためにここにやってきたはずだった。けれど、祖母は人の命を犠牲にすることは普通のことだと言わん限りの表情で珠紀の贄の儀は本当にあるのかという質問に淡々と答えた。
そして告げられたのは、自身は目覚めかけている鬼斬丸を封印するために死ななければならないのだということだった。
頭が真っ白になった。約数週間前は自分は普通の女子高校生だったはず。なぜという言葉で頭の中は敷き詰められた。
呆然とする珠紀に、先代玉依姫に一言二言なにか告げたあと美鶴、芦屋を引き連れて出て行ってしまった。
ひとり暗い中に取り残された珠紀は、まるで目の前の事実から目をそらすように気を失ったのだ。
それが、これまでに起こった出来事の全てだった――。
珠紀は、ふらふらとした足取りで蔵の扉の前に立つ。しかし押しても引いても扉は動きもしない。小さな先輩から教えられた呪文を唱えても開く気配はない。静かに扉に掌を押し付ければ微かに祖母の気配を感じだ。
(おばあちゃん、結界をはったのかな……私が逃げられないように)
その事実は、珠紀を本当に犠牲にしようとしているということが伺えた。
体を反転して背中を扉に預けるように経てば、珠紀はそのままずるずると床に座り込んだ。
蔵の中は寒かった。雨のせいもあるのかもしれない。珠紀はその名前を呼ぼうとして、途中で止めた。
(そっか、おーちゃんもいないんだよね……)
この村に来たその日。美鶴から渡された玉依の者を守るというオサキ狐という妖し。おーちゃんと名づけられた妖狐は、珠紀を時に癒して、時に助けてくれた。
しかし、そのオサキ狐も祖母らがさる時に珠紀の影から飛び出して蔵の扉の隙間から外へ飛び出してしまったのだった。その小さな白い姿を、珠紀は追うことはできなかった。
(だって、仕方がないよ。私、死ぬんだもん)
膝の上で組んだ腕に珠紀は顔をうずめた。
――頭の中に浮かんだのは、守護者たちの顔だった。
鬼斬丸が解放されたあの夜。彼らは、ロゴスとの戦いで深い傷を負ってしまった。珠紀はそれ以来、まだ顔を合わせていない。
「……もしかして、私が犠牲になればみんな解放されるのかな」
顔を少し上げて呟いた珠紀の言葉は、沈黙の中に掻き消えた。
(みんな苦しんでた。でも、私の命で解放されるんだったら――)
何も知らない、何もできない無力で泣き虫な余所者の自分を守護者たちは守ってくれた。その中には、使命だからとそんな思いもあったのかもしれない。けれど、珠紀は彼らとともに過ごす中で本当に自分を気遣ってくれていたということを感じ始めていた。
――強くて、優しい私の守護者たち。もしも、この命で恩返しができるんだったら。
(怖くはないかな……)
世界のためだと言われても実感はわかない。けれど、身近な大切な人達を守れるのだったら自分は死のう。
珠紀は、ひとり暗闇の中で決心をする。自分の命を封印に捧げることを。
「……ごめんね、みんな」
役立たずな玉依姫で。こんな形でしかみんなを助けることができなくって。
「でも、大丈夫。…これで、終わるから。私が自分の命を使って、みんなを守るから。だから――」
許してね。それで、お別れをするつもりだった珠紀の耳にひとつの声が飛び込んだ。
「――ふざけんなよ、珠紀!」
それは、あの夜の日から聞いていない声。ずっと恋しかった声の一つ。
「たく、ま……?」
扉越しに聞こえてきたのは、守護者の一人――拓磨の声だった。
「嘘……拓磨、なの?」
「ああ、俺だ」
幻聴なのではないかと疑いを持って問いかけた言葉に帰ってきた言葉。弾けたように珠紀は腰を浮かせて扉と向き合った。膝立ちになれば、扉に手をついて額を押し付ける。
閉じた瞼からは、涙が溢れていた。
「どうして……」
「……ったく、どーしようもねぇお姫様だな。」
やれやれと溜息を混じらせながら聞こえてきた呆れ声に珠紀は驚いて顔を上げた。この場にいるのが拓磨だけではなかったことに珠紀は目を見張る。
「真弘先輩……」
「お前の命犠牲にして、幸せになんかなれねぇよ」
「なんで、どうしてここが……」
「オサキ狐が教えてくれた」
戸惑う珠紀を落ち着かせるかのように穏やかな声が響く。珠紀は言葉にならない声で、祐一先輩、と呟いた。
「成長しているな。自身が見たものを映像として伝えられるほど力をつけている」
「……――おー、ちゃん?」
震える声で名前を呼べば、扉の向こうから微かにあの白狐が泣いた声を聞いた気がした。じわりと、珠紀の視界がまた曇ってしまう。
「珠紀先輩、泣かないでください」
「わ、私、泣いてなんか……」
「泣いてますよ。僕、嘘を見破るの得意なんです。それに、どれだけ一緒にいると思ってるんですか?」
「慎司君……」
優しく、労わるようにかけられる言葉に、珠紀にまた一筋涙を流させる。
「我らが姫。迎えに来ましたよ。さ、ここから出ましょう」
柔らかな低いトーンの声。卓さんと言おうとしたが嗚咽で珠紀は声を出すことができなかった。
扉の向こうから感じる頼もしい己の守護者たちの存在に珠紀は必死に涙を拭う。かけられる言葉が優しい。何よりも彼らが無事だったということが嬉しくて涙が止まらなかった。
優しくて、自分を包み込んでくれる彼ら。だからこそ珠紀は――迷惑などかけられる筈がなかった。
「私は、大丈夫だから。安心して。これで全部が終わる。今まで守ってもらったぶん、私が――」
「……っ強がるなよ!!」
どん、と扉が振動し、珠紀は驚いて扉に触れていた手を離した。聞こえてきた声で、珠紀は拓磨が扉を叩いたのだということに気づく。
「俺たちは、お前の、春日珠紀だけの守護者だ。だから言え。お前がどうしたいのか。全部、叶えてやるよ」
聞こえてきた声は、何時ものようにぶっきらぼうだった。けれど秘められている思いに珠紀はだそうとした言葉がつっかえた。
(大丈夫じゃ、ないよ)
最初から、平気なわけがなかった。突然死ななければならないことを告げられた。こうして冷静を装わないとおかしくなってしまいそうだった。
これから先も生きていたい。叶うのならば、この仲間たちとともにくだらない平和な日々を過ごしてみたかった。
(けど……)
世界を救うには自分が犠牲になるしかない。珠紀は喉元まで出かけた本音をグッと飲み込んで。再び平気だよと口に出そうとして――。
「諦めなければ希望はある。前を向け」
聞き覚えのある言葉に珠紀の口が止まった。それは、かつて珠紀が口にしていた言葉だった。
敵に敗れ、戦意を完全になくした彼らをなんとか勇気づけたくて。珠紀は涙を流しながら必死に訴えた。
「お前が言っていた言葉だ。けど、今はお前に必要なんじゃないのか」
それっきり拓磨の言葉は途絶えた。さっきまで微塵も意識していなかった雨の音が今は少しうるさく感じる。
珠紀は、顔を伏せて扉に手を寄せる。
「生きて、いたいよ」
掌を扉につける。
「まだ、死にたくない……」
吐息のように珠紀の口から小さくこぼれ落ちる言葉は紛れもなく彼女の本音。
「助けて……っ」
ぽろぽろと両目から涙をこぼれさせ、珠紀は脱力するように床に座り込んだ。
あいつと私。【 ポケスペ/ゴールド×夢主 】※ゴールド出番なし!
「……私ができることって、すごく少なくて、すごく小さなことなんです」
手の持つコップをきゅと強く握る。コップの中のオレンジ色の水面が僅かに揺れた。
「私は、アイツのためにご飯を作ったり、ポケモンたちのケアをしてあげたり、あいつの帰りを待ってあげたり……そんなことしかできないんです」
見つめていたてから顔を上げると、透き通った青の瞳と目が交差する。僅かに細められた目と下げされた眉に私は頑張って作り笑いをする。
「私は、ブルーさんたちのように図鑑所有者じゃないし、大して強くもない。……そんな私が、あいつのそばにいる資格なんてないでしょう?」
僅かに首をかしげて問いかけるように告げる。目の前の整った唇は未だに言葉を発しない。だってきっと図星だと思うから、何も言えないんだ。その事実に僅かに胸を痛めながらコップを机の上に置いた。横に置いていたカバンを持って立ち上がり、その場を後にしようとして――手を取られた。
「確かに、あんたはアタシたちよりも弱いかも知れない。でも、あんたがあいつにしてあげられることって、あたしたちにはできないことなのよ」
私の手を、綺麗な手が包む込むようにして握られる。暖かい温度に頬がゆるんだ。優しい言葉に涙が出そうだった。
「ご飯を食べてもらえるのも、ポケモンたちを任せられるのも、あいつがあんたのもとへ帰っていくのも。全部、あいつがあんたのことを信用しているから、信頼しているからでしょう?」
私の手から離れた彼女の手が、優しく私の頬を撫でた。それを機に私の両目からは涙がこぼれ始める。
「資格が無いとか言わないで。あんたしかいないんだからね? あの爆発頭任せられるの」
少し冗談めいた言葉に思わず笑ってしまった。けど、涙は止まらない。ブルーさんはしょうがないわねぇと私の涙を拭ってそのまま抱きしめてくれた。
柔らかな温度に包まれていれば、糸が切れたようにまぶたが重くなり始める。
(……あぁ、会いたいなぁ)
なんだか、どうしようもなくあいつに会いたくなってきた。けどその気持ちに反して眠気が私を襲いにかかる。
「――――」
気を失う直前につぶやいたものは何だったか。でも、傍らで彼女がくすりと笑った気がした。
―――
お相手、レッドさんだと思った?、残念ゴールドでした。←
確かに、ブルー姉さん相手だったら相手レッドさんだと思うよねー。私も、後から気づいたわ。
あー、ゴールドオチの長編夢小説書きたいなぁ。
「あたしのモノ」 【 うたの☆プリンスさまっ♪/唯(翔)×春歌 】
※翔君の女装注意!
「ええと、すみません。人を待っているので……」
「いーじゃん、別に。俺たちと一緒に来る方が楽しいよ」
「そーそー」
困りました……。
今日は、翔君――いえ、唯ちゃんと行ったほうがいいのでしょうか――と、デートの予定だったのですが、今朝突然翔君に仕事が入ってしまい、デートする駅前に現地集合ということに。だから、こうして私は10分前からずっと待っていたのですが、突然男性二人に絡まれてしまいました……。
「お、お断りさせてもらいます。大切な約束なので――」
「強情だなー」
「えぇ? 俺、結構タイプだけどな」
少しずつ後退していく。距離をとったら、その場から逃げ出そうと思った。でも男性の一人に気づかれたのか、腕を取られて逆に引き寄せられてしまう。
「っは、離してください!」
「君が俺たちと付いてきてくれるならね」
もう片方の手で、巻き付いた手を外そうとする。込められるだけ力を入れるけれど、びくともしない…。男の人ってこんなに力が強いの……?
そうしているうちに、空いていた左でも別の男性に掴まれてしまう。
「い、嫌です。離してくださいっ!!」
「そんなこと言わずにさー」
まともな抵抗もできないまま、ずるずると引きずられるように進んでいく。じわりと目元が熱くなる。ぎゅ、と目を瞑った中で心の中で叫んだ名前は――。
「――ちょっと、あたしの連れになにやってるの?」
耳に届いたのは女性にしては少し低い声。目を開けて、霞んだ視界の先に見えたのは黒いマニキュアを塗った手が私の腕を捕まえている男性の腕を、握っているところだった。
「離さないと、この腕このままへし折るよ」
ぐっと、力を入れたのが男性の顔が僅かに歪んだ。腕が離されると、男性と私の間を離すように誰かが割って入ってきた。さらりと揺れる金髪。偽物のはずなのに、すごく綺麗に見えた。
「大丈夫? 春歌」
「しょ――ゆ、唯ちゃん」
僅かに向けてくれた顔、それは唯ちゃん――翔君だった。
頬が僅かに赤らんでいるし、呼吸も少し上がっている。ここまで走ってきたということが一目瞭然だった。それが自分のためだと思うと、状況が状況なのに嬉しくなってしまう。
「へぇー、君も可愛いじゃん。ちょっと男の子っぽいけど」
「後ろの子も、この子と一緒なら付いてくるんじゃないの?」
反省の色ひとつ見えない男性二人。寄せられる目線が、体を舐めとるようなもので怖い。翔君の背中に隠れるように体を寄せる。それでも目線が向けられているような気がして、翔君の服の裾を掴んだ。
「……悪いけど行くつもりはないよ。こいつを渡す気もない」
服の裾を掴んでいた手を外されて、代わりに男の子らしい骨ばった手が入り込んでくる。指を絡めるように繋げられれば、強く握られた。
「こいつは、あたしのモノだから」
聞こえてきた声に、驚いて顔を上げると横から見えた翔君の顔は、女の子の格好をしているはずなのに凄くかっこよかった。
なんとか男ふたりを撒いて、デートをせずに寮へと戻ってくる。翔君の部屋へ入れば、二人してソファに脱力するように座り込んだ。
隣で息をついた翔君は、被っていたウィッグを外して顔を覗き込んでくる。
「春歌、平気か?」
「うん、大丈夫。翔君が来てくれたから」
「でも、悪い……。やっぱり、一緒に行ったほうがよかったな。……怖かっただろ」
顔を覗くように、本心を探すように合わせられるスカイブルーの瞳。思い出したのは、さっき感じた恐怖。必死に抑えようとするけれど、やっぱりダメで目から熱いものがこぼれていくのを感じる。
「こ、怖かっ、た……っ」
「うん」
「もし、翔君が来てくれなかったらって思うと……っ」
「うん」
「……っ怖かったよ」
翔君が、私の頭を引き寄せる。翔君の大きな胸の中に収まった私は、子供のように泣きじゃくった。心の中に住む恐怖を洗い流すように。感じたものすべてを、彼の温もりで塗り替えるように。ただ泣いた。
翔君は、服が涙で濡れていくのも構わず私の頭を撫で続けてくれた。時折、「大丈夫だ」とか「俺がいる」とか、優しく囁いてくれた。それが一層、私を泣かせた。
どれほど経ったのか、ようやく涙が引いた。きっと、目は真っ赤に腫れていることだろう。今日一日は、外に出ることもできなさそうだった。けれど、先程まで感じていた恐怖はもうない。その代わりに、今日は翔君と一緒にいたいという気持ちが強くなる。
「ごめんね……服、濡れちゃった」
「気にすんな。春歌の涙を拭けるなら、構わねぇよ」
顔を上げると、変わることのない笑顔がそこにあった。翔君は、優しい。私にはもったいないくらい素敵な彼氏。改めて、この人が私の恋人であることを嬉しく思う。
ふと表情を緩めさせた翔君は、私の頬に手を添える。何をするのかと思えば、そのまま目尻へとキスを落とす。
「しょ、翔君!?」
「春歌は、俺のモノだ。俺がずっと守る。これは絶対だ」
女の子の格好をしていたから、翔君の顔には微かに化粧が施されている。でもそれを感じさせないほど翔君は男らしくって、かっこよかった。きっと、翔君のカッコよさは見た目なんかじゃない。生き方とか、考え方とか、言葉とか。そういうものなのだと初めて知る。
「だから、お前も俺の傍にいろ」
「うん、ずっと翔君の傍にいます」
どちらからでもなく、二人で同時に顔を寄せて重ねた唇は僅かにしょっぱい味がした。それでも、何度か合わせていくうちのその塩辛さは、甘いものへと変わった。
――――
女装してても、翔君はかっこいいんだよ!…というのをぶつけてみた。
なんで女装しているのかは、こうした方が来栖翔だとはばれずにデートできるからです。紛らわしくてごめんね。
ふわり。遮る物何一つ無い草原に風が吹く。草木の独特な匂いが珠紀の鼻を擽った。
靡く髪を抑えながら珠紀は膝下へと視線を落とす。自身の太ももを枕にし、規則正しく息を立てて寝る顔がそこにはあった。
風の悪戯で額に落ちる彼の前髪を、指でそっと退ける。夏の森林の色を思わせる翡翠色は瞼の裏に隠され、代わりに何時ものガキ大将のような一面から想像できないほどの幼い寝顔を覗かせる。
こんな顔をしていれば可愛いのにな、と思うも珠紀はそれを口に出すことはない。今は寝ているこの彼が、大きく開いた口で怒鳴り散らす様、もしくは唇を尖らせ顔を背けヘソを曲げる様子が目に浮かぶから。だから、珠紀は何も言わずに心の中にしまっておくのだ。
珠紀は顔を上げた。一面に広がる緑色。その向こうにはもっと深い緑をした山と、雲一つない空が広がっている。耳に届くのは、時折強く吹く風の音と草木の揺れる音、そして彼の寝息のみ。穏やかな日が差す、緩やかな昼頃――数年前の出来事と比べ物にならないぐらいの平和な風景があった。
鬼斬丸、鏡を巡る戦い。己を玉依姫としてではなく、春日珠紀として守ってくれる守護者の面々はこの平和を珠紀が居たおかげだからだと言う。決して諦めず前を向く珠紀がいたからだと。けれど珠紀はそれを否定した。前向きだなんてただの表向きのもの。本当は後ろ向きで、泣き虫な強がりは自分。あの戦いを乗り越えられたのは間違いなく仲間の――この、彼のおかげだと。
普段は子供っぽくて、騒がしくて、ちょっと馬鹿で。けど小さな背中はとても頼もしく、力強い言葉は珠紀に勇気をくれた。でも、彼の一面はそれだけではなくて、本当は怖がりで、強がりな彼。それでも自分を守ってくれる姿に珠紀は彼を支えたいと思った、そして――ずっと傍に居たいと思った。
「んん、……」
「先輩?」
下から聞こえた声に目線を落とす。隠れていた緑色が僅かに見えた。けれど寝ぼけているのかまだぼんやりとしたままだ。普段とのギャップの差に珠紀は思わずくすくすと声を立てて笑ってしまった。
どうやらその声で完全に目を覚ましたのだろうか。彼はぼけっとした表情から不満げな顔へと一転させる。
「なーに笑ってんだ?ばーか」
「何でもないですよ。……ただ平和だなと」
気持ちいいひだまりの下、大好きな人とのんびりと時間を過ごす。この村に来るまではなんとも感じなかったこの時が今ではどうしようもなく愛おしい。
全て言葉にせずとも、意外なところで鋭い彼には分かってしまったようで、今度は柔らかな笑みへと顔を変化させる。
「たーまき」
「なんですか?」
伸ばされた手の甲が、優しく珠紀の頬を撫でる。珠紀はその上から自分の手で覆う。
「たまき」
「だから、何ですか?」
目元が優しく緩められ、瞳は眩しそうに目を細められる。その視線の意味に気づいて珠紀の頬は僅かに赤くなる。
「珠紀」
「……まひろ、先輩?」
彼の名前を紡ぐと、向けられていた顔は嬉しそうに笑った。子供のような無邪気な笑みに心が暖かくなる。
「珠紀、好きだ」
ストレートな言葉に瞬きを繰り返す。照れ屋な彼からは想像できないほど、真っ直ぐな言葉。不意打ちだったからか再び頬は朱に染まる。それを見て、けらけらと笑い返されてしまった。
「笑わないでくださいよ」
「……平和だなと思ってよ」
不満げに唇を尖らせ文句を言えば、返ってきたのは同じ言葉。何気ないのになんだか面白くて、楽しくて。珠紀も笑ってしまった。
草原に、青い空のもとにふたりの笑う声が響く。
「……ね、真弘先輩」
「ん?」
「好きですよ」
お返しにと呟いた言葉。少し呆然とした表情の後、彼は――真弘は、静かに微笑んだ。
―――――
リハビリです。んでお久しぶりです。
こんなに沢山小説を一人で書いて凄いですね♪(#^.^#)
79:遥姫 ◆ml2:2017/07/27(木) 22:01 ID:eIk
>>78様
お返事遅くなってしまって申し訳ないです…(;´∀`)
自分を妄想を小説に書き起こすのが好きなので、あとは分力を上げたいのでひたすら小説を書いてまして…。
すごいだなんて、…ありがとうございます。そういうお言葉が励みになります!(´∀`*)
○登場人物
鬼崎拓磨( オニザキ タクマ ) / 高校二年 / 身長178cm
/ 鬼崎家の守護者。鬼の力を宿す。不器用ではあるもののその内はとても優しい。若干ヘタレで心配性な面をもつ。先輩である真弘に思いを寄せる。
鴉取真弘( アトリ マヒロ )/ 高校三年 / 身長157cm
/ 鴉取家の守護者。鴉の力を宿し、自由自在に風を操れる。常に騒がしくお調子者の俺様先輩。しかし、時に年齢以上に大人びた一面も見せる。
○他登場人物
狐邑祐一( コムラ ユウイチ )/ 高校三年
/ 狐邑家の守護者。狐の力を宿す。真弘とは幼馴染であり、守護五家とは違った絆を真弘と結んでいる。
春日珠紀( カスガ タマキ ) / 高校二年
/ 守護五家に守護される玉依の家系。当代玉依姫。
犬戒慎司( イヌカイ シンジ )/ 高校一年
/ 犬戒家の守護者。言霊を操れる。
○簡単な作品紹介
主人公の春日珠紀は、両親の海外転勤を機に、祖母が住む母の実家に引っ越してきた。だが、着いた村で珠紀は突如カミサマと呼ばれる奇妙な生き物達に襲われる。珠紀を救ったのは、不思議な能力を操る鬼崎拓磨という少年だった。祖母は彼女を村に呼んだ理由を打ち明ける。それは、先祖代々続く「玉依姫」の使命として「鬼斬丸」という刀の封印をすることだった。村に鬼斬丸の力を狙う謎の集団「ロゴス」が集まってくる中、玉依姫を守るべく「守護者」と呼ばれる少年達が現れる。戸惑いつつも彼らに支えられ、珠紀は玉依姫としての使命に目覚めていく――。
一瞬の夢、夕暮れの幻。 / 鬼×鴉
* * *
屋上へ続く重い扉を、難なく片手で押すとわずかに冷えた風が拓磨の頬を撫でた。
なんでこんな寒い中に屋上へ来なければならないんだ、と心の内で愚痴をこぼしつつ屋上に出た拓磨は己がこんな場所まで来る原因となった姿を探す。
あたりを一通り見渡すも姿はない。探し忘れていた場所があったことを思い出す。絶対的な確信を持って、その方向へ顔を上げた。
拓磨の読み通り、屋上の屋根の上にその姿はあった。片足を投げ出し、片足を左腕で抱え込んでいる姿。遠くを見つめている横顔は、簡単に表現しにくい儚さがあった。黄昏ているようにも、寂しそうにしているようにも見える。一瞬、声をかけることを忘れ見入っていた拓磨だったが本来の目的を思い出し、頭の中にあったものをかき消すかのようにかぶりを振った。
「またそこですか……あんたも物好きっすよね。余計に風が当たりやすいところにわざわざ居るなんて」
遠く離れた場所にいる人物に、この声を届けるためやや張り上げて言葉を投げかける。
口から飛び出すのは少し嫌味を含んだ言い方。ちょっと子供っぽいあの人はすぐに反応するだろうと目線を動かさずにいれば、拓磨の予想通りに顔がこっち向いた。不機嫌そうに顔をしかめているというおまけ付きで。
「一々うっせーぞ。拓磨」
「そんなんじゃ、風邪引きますよ。真弘先輩」
「この俺様がそう簡単に風邪ひいてたまるかよ」
減らず口を叩く真弘には先程の儚さなど欠片もなかった。だが、それでいいと拓磨は思う。あんな顔をされてしまえば、嫌でも距離を感じてしまう。大人と子供という越えられない年齢さを。
「つーか、なんでお前がここにいるんだよ。珠紀は?」
拓磨が思考に浸っている間に、真弘は立ち上がって屋上の屋根から飛び降りた。一般人だったら骨にひびぐらいは入りそうな高さを真弘は怯えもせずに自らの力を使って綺麗に着地する。流れるかのような仕草に一瞬言葉を失う拓磨。けれど、ずっと黙っているわけもいかず口を開いて質問に答える。
「珠紀は、慎司と一緒すよ。なんでも帰りに買い物に行くとかで」
「で、お前は?」
偉そうに胸の前で腕を組み自分を見つめる真弘。小さくせにと拓磨は思うも決してそれを口にはしない。後々面倒になることを経験済みだからだ。
また黙り込む拓磨に真弘は話の続きを催促するように、「で」と少し強調させて告げる。遠慮ないなとため息を付きつつ拓磨は話を再開させる。
「真弘先輩を呼びに。祐一先輩が用があるらしくって。図書室で待ってるらしいっすよ」
「祐一が? 珍しいこともあるもんだな」
「そーっすね」
「何か知ってるのか、お前」
「いーえ。俺はただ祐一先輩に頼まれただけなんで」
「……ふーん、そうか」
じっと拓磨を見つめる緑の瞳は何かを探るようにして一瞬細められる。しかし、事実拓磨は何も知らないため黙ってその視線を見つめ返した。
真弘が拓磨を見つめ続けて数秒。結果、何もわからなかったのか息を吐いて目線を元に戻した。どれだけ自分は信用されていないんだと、拓磨は小さく悪態をつく。
「何の用なんだあいつ。つか、それなら教室で言えよ……」
面倒くさそうな表情浮かべ、耐えずに幼馴染への愚痴をこぼし続ける真弘。ぼんやりとその姿を見つめていた拓磨だったが、何かに気づいたように目を僅かに開かせた。そのまま真弘の顔へ手を伸ばし、鼻をきゅと摘んだ。
「な、何すんだ」
「どれぐらい外にいたんですか。鼻。真っ赤ですよ」
鼻を摘まれたせいで、若干鼻がかった声になっている真弘の文句を聞き流し、拓磨は呆れたようにため息をつく。
「いくら俺たちが丈夫だからって……あ、ほら。手も冷たくなってるじゃねぇすか」
鼻から手を離した拓磨は次に、真弘の手を握る。拓磨の手より僅かに小さいそれは、氷のように冷たくなっていた。
「う、うっせーな。離せって!……たく、この心配性が」
真弘の小さい手をいとも簡単に覆ってしまった拓磨の手をさっと振り落とせば、再び握られないように真弘は両手を制服のズボンのポケットへと収めてしまう。
人がせっかく心配しているのに、そんなこと言うならば最初から心配かけさせるようなことをしないでくださいよと、拓磨は思うが敢えて口に出すことはなかった。一秒後に拳が飛んでくるだろうということを長年の付き合いから理解していたからだ。
真弘は、数秒拓磨の顔を見つめて背中を向ける。一直線に屋上の扉の方へ歩き出した。
「どこ行くんすか」
「図書室。祐一のいう用事ってもんが気になるしな」
「そーすか。んじゃ、俺がついて行っても?」
真弘は、ぴたりと足を止めた。数秒の沈黙の後返ってきたのは――。
「……勝手にしろ」
そっけない言葉。でもあの素直じゃない真弘先輩だから仕方がないかと知らずのうちに頬を緩めた拓磨は、「じゃあ勝手にさせてもらいます」と真弘の背中を追いかけた。
* * *
図書室の扉を開ける。変わらず静かな空間がそこにあった。窓から差し込む日の光によって橙色の世界へと変わった中に遠慮なく入り込んでいく真弘。続いて拓磨もその中へと足を踏み入れる。
「あれ、祐一先輩いないっすね」
拓磨に言付けを頼み、真弘を呼び出した祐一の姿は其処にはなかった。いつもいる奥の窓際の席は空いている。
帰ったのだろうか。でも、約束をないがしろにする人ではないはずだしと拓磨は祐一がいない理由を頭の中で巡らせるが真弘は特に驚いた様子もなく奥へと足を進める。
「まぁ、帰ってくるだろ。来なかったら来なかったで、帰ればいい」
真弘は足を止めれば、近くの椅子を引いて腰掛ける。その様子を拓磨はジッと見つめていた。
――拓磨は、知っていた。真弘が、そこが自分の場所だと言わんばかりに自然と座った席は、祐一がいつも居る場所の近くだということを。それは紛れもなく、真弘が何回もこの図書室に足を運び、図書室の住人とも言っていいほどこの場所を好んでいる祐一といつも共に過ごしているという証。本人がおらずとも見せつけられた絆の深さに拓磨は真弘の近くに行くことさえ躊躇って、入口の付近から動けずにいた。
「……随分、と……あっさりしてるんすね」
拓磨が、長い沈黙の後に告げたその一言は微かに声が掠れていた。何時になく動揺していることが見え見えだった。拓磨はそれを承知の上で返事を待つ。
「あいつはマイペースだからなぁ。いちいち気にしてたら身が持たねぇよ」
パイプ椅子の背もたれに腕を乗せて、窓の外をぼんやりと眺める真弘の横顔はどこか穏やかだ。意識せずにやっているのか、それとも――。
(……本当に、歳が離れてるってのは厄介だな……)
同じ村で過ごした幼馴染。しかし、歳が一つ違うだけでもこれだけの差が出るのかと拓磨は苦虫を潰したかのような表情を浮かべるが、悔しがっても仕方がないことなのだということも拓磨はきちんと理解していた。けど、もし、と考えてしまう思考は止められない。
もし、同い年だったら――
もっといろんなことを共有できたかもしれない。
もっと一緒にいることができたのかもしれない。
今よりもっと――自分のことを意識してもらえたかもしれない。
今だけ拓磨は、あのマイペースな先輩を羨ましく、そして妬ましく思えた。
「……どうした。さっきまであんなに元気だったくせに。体調でも悪いのか?」
扉の前で立ち尽くし、黙り込む拓磨の様子がおかしいことに気づいたのか真弘はようやく目線を向けてくる。拓磨は、向けられる眼差しから逃げるように顔を横に背けて小さく、「なんでもねぇっすよ」と答えた。
これではただの拗ねている子供ではないか。段々と自分自身にも嫌気が差してきた拓磨は耐え切れずに溜息をつく。
真弘は再び黙り込んで拓磨を見つめていたが、唐突に椅子から立ち上がる。乱暴に立ったせいか、静かな空間に椅子のがたん、という大きな音が響く。音に気づいて顔を上げた拓磨は、こっちに向かってくる真弘に目を丸くさせた。
「ここに来てから様子おかしいぞ。お前」
拓磨の傍までやってきた真弘は、下から拓磨を見上げる。自分の気持ちなど何も知らない無垢な翡翠の瞳。拓磨は横に目線をずらした。それでも真正面から感じる目線に拓磨はまた溜息をつきたくなる。
――いっそのこと白状してしまおうか。向けられる目線にそんな思いが湧き上がる。運がよければ意識してもらえるかも知れない。そんな思考の後、拓磨は口を開いた。
「……別に、大したことじゃねぇっすよ」
ひと呼吸置く。拓磨は僅かな可能性にかけて、紡ぎ出す声に小さな本音を乗せた。
――……ただ、祐一先輩が羨ましいと思っただけっス。
真弘は最初、ぽかんとした表情をしていた。拓磨は、それを横目に見る。反応からして自分が求めていた可能性はないのだと、と瞬時に判断すれば目線を横に流す。先ほどの誤魔化すための言葉を続けようとして――聞こえてきた忍び笑いに目を見開いた。
「なんだ。あの拓磨のくせに一人前にヤキモチかぁ?」
目線を戻せば真弘は掌で口元を抑えて、笑いをこらえていた。今度は拓磨が呆然とする番だった。やがて、沸々と怒りがこみ上げてくる。自分にしては告白とも言ってもいい言葉だったのに馬鹿にされるなんて。いくら己の好きな人だからといって許せはしない。
「……笑うのはあんまりじゃないっすか」
「まーまー、不貞腐れんなって」
真弘の言うとおり、拓磨は不貞腐れた子供のようにわかりやすく不機嫌さを表情に出していた
真弘は、ふいに緑の双眼を細めて頬を緩める。それは親が子を見るような、慈しむようなそんな顔。見たことのない表情に拓磨は、怒りさえも忘れて見入ってしまうと同時にこんな表情もできるのかと新たな真弘の一面を知る。
真弘は少し踵を上げて、腕を伸ばして拓磨の頭に触れる。そして何を思った混ぜ返すように髪を乱暴に撫で始めた。
「ちょ、何するんですか……!」
真弘の表情にすっかり油断していた拓磨は、髪を撫で続ける手の首を持ち、なんとかそれ以上髪が崩れるのを阻止する。だが、いつもなら飛んでくる怒号は今はなく、真弘は先程と同じように拓磨を見つめていた。まるで何かを待つように。
拓磨は、ごくりと喉を鳴らし。張り付く喉から言葉を紡ぐ。
「……本当にヤキモチだって言ったら、先輩は困ります……?」
拓磨は、抑えた真弘の手首を引いて体の距離を縮め、僅かに背中を曲げて顔の距離をつめた。すると、途端に丸まっていく緑の瞳に拓磨は困ったように笑った。
真弘は、それでも真っ直ぐに拓磨を見つめ、そして。
「…じゃ、もし、そのヤキモチが嬉しいと俺が思ってたらお前はどう思う?」
はっきりとしない遠まわしな答え。相手らしさを感じると共に言葉の裏に隠されたその気持ちに拓磨は、一瞬戸惑う。夢ではないのだろうか。すべて、夕暮れが見せる幻かも知れない。しかし、拓磨はそれでもいい、とも思っていた。一瞬の夢でも構いやしない。この瞬間が幸せならばそれで――。
「それは思ってもみませんけど、嬉しくてたまんないっすかね」
――満足だ。
拓磨は、ようやく表情に笑みを浮かべる。真弘は、嬉しそうな反応にふい、と顔を横に背けて「そーかよ」と素っ気無く返す。
照れてるんだろうなとその様子を微笑ましげに見つめたあと、空いている手を拓磨は真弘の頬に添える。
(文句言われたらその時だ。殴られるのも……まぁ、今回は目をつぶりましょーか)
真弘の顔をこちらに向かせ、この後の反応を色々と予想しながらも拓磨は顔を近づけて、小さな唇に口づけを落とした。
Fin.