「小日向くんが好きなのっ……!私と、つっ…付き合ってくれますか……?」
勇気を振り絞って、そう告げた。
──だけど、返ってきた言葉は想像以上に悲しい言葉だった。
「……ごめん。俺、実は他に好きな人いるんだ。」
「え………」
「だから、……ごめん。」
そう離れていく小日向くんの背中。
手を伸ばしても届かない。
私の恋は、砕け散ってしまった。
次の日から、私は失恋のショックで学校を休むようになった。
立ち直ろうとしても、小日向くんの言葉が頭から離れない。
なんで?どうして?
私たち、結構仲良かったよね?
想楽ちゃんも、私と小日向くんは絶対両思い、って言ってたのに……
こんなに悲しむくらいなら、告白なんてしなければよかった。
こんなに後悔するなら、しなければよかった。
溢れてくるのは涙だけ。
いまごろ、みんなはわいわい楽しくやっているのだろうか。
小日向くんは、好きな人と笑い合ってるのかな。
それに比べて、私は……
寂しい部屋で、独りで泣いている。
そんなの、すごく嫌だ。
私が学校に行かなくなってから3週間。
明日は、行ってみようかな……
今日は朝から胃が痛い。
不安だ。
緊張する。
みんなは私をどんな目で見るのだろうか。
嫌な目で見るのだろうか。
想楽ちゃんは、私に笑顔を見せてくれるだろうか。
そう、みんなを疑ってしまう自分が嫌だった。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
その言葉がぐるぐると頭を回る。
ランドセルを背負って、一歩家を出ただけなのに、久々の外気にソワソワする。
私は、3週間も外に出ていなかったんだな。
久しぶりに背負ったランドセルの感覚に、少し自分の情けなさを感じた。
いつもだったら、ここを想楽ちゃんが通りかかって、一緒に登校してたけど……
今日はいなかった。
他の子と行くようになっちゃったのかな。
そう考えると、すごく悲しくなった。
そりゃあ、そうだよね。
私が突然来なくなって、友達のたくさんいる想楽ちゃんが一人で行動するはずがない。
やっとのことで歩き出す。
誰かに見られたらどうしよう。
あいつ今まで何してたんだよ、とか、思われちゃうのかな。
そんなネガティブな考えばかりが頭を埋め尽くす。
想楽ちゃんに会いたい、という気持ちと、会いたくない、という気持ちが体中を駆け巡って息が苦しい。
どうして、どうして。
なんで私はこんなにも弱いのだろう。
情けない、情けない。
再び足が止まってしまった。
すると、ドンと後ろからぶつかられた。
突然のことにびっくりして振り返ると、一年生の子たちがきゃあきゃあと騒いでいるようだった。
私も、あんなに無邪気な頃があったんだな……
あの頃に戻りたいよ。
楽しそうな雰囲気が滲み出てくる教室。
久しぶりに見る私の顔を、クラスメートたちはどんな目で見るのだろう。
もともと、クラスで目立つ方ではなかった私は、教室に入っても誰にも何も反応されないのではないかと気が落ち着かない。
教室のドアは開いていて、笑い声や話し声がたくさん聞こえてくる。
ゆっくりではありながら、一歩一歩確実に進む。
そして、教室に足を踏み入れた。
ガヤガヤとしていた教室が静まり返る。
「あれっ?カコ!?」
想楽ちゃんの声が沈黙を破った。
「久しぶり〜、元気だった?」
前と変わらない笑顔を見せられて、優しく話しかけられ、少し涙腺が緩んだ。
「うん…想楽ちゃん、久しぶり」
そう言うと、想楽ちゃんにぎゅっと抱きしめられた。
「良かった、戻ってきてくれて」
「想楽ちゃ……」
「相原さん、久しぶりー!!」
「やっほー!」
「おはよう相原さん」
次々とクラスメートの子たちが話しかけてくれて、私のさっきまでの不安は一気に消えた。
「…相原さん」
帰りの会が終わり、少し出遅れてしまった私は、急いで教室を出た。
すると、そう小さくも大きくもない声が聞こえてきた。
「…小日向、くん」
ゆっくりと振り返る。
「……久しぶりだね」
そう言って小日向くんは微笑んだ。
──どうして。
どうして優しくなんかするの。
もういいんだよ、気を使わなくて。
いいの、もう。
「小日向くんは、好きな人がいるん…だよね」
そう言うと、彼の動きが一瞬止まった。
「え、…うん、まあ…」
胸がちくりと痛む。
「その…好きな子は、何組なの?」
「え……」
「あ、な、なんかごめんね。困らせちゃって、」
そう踵を返すと、
「……2組だよ。俺と同じクラス」
「そう、なの…。がんばってね」
それだけ残すと、私は走ってその場を離れた。
面白いです!
これからも頑張ってください(*´∀`*)
>>6
ありがとうございます!!
私は、小日向くんに振られたことを、まだ想楽ちゃんに話せていない。
一番私の恋を応援してくれていた存在なのに、“振られたことを自覚したくない”自分がいるのだ。
私は、まだ小日向くんのことが好きだ。
小日向くんがどんな人混みの中にいようが、私の目は瞬時に小日向くんの姿を捉えてしまうし、小日向くんの声にはすぐ振り返ってしまう。
それくらい、好きなのだ。
休み時間、少し一人になりたくて図書室に来た。
結局、私は本を読む気になれず、椅子に座ったままぼんやりとしていた。
『君の声』という題名の小説が気になって、手に取ってみたけど、まだ1ページも進んでない。
はぁ……と、ついため息が漏れてしまう。
小日向くんの好きな人は、小日向くんと同じクラスで。
きっと、仲が良くて。
……あーあ、私も小日向くんと同じクラスだったら、ちょっとは違ったのかな。
私は先生を恨んだ。
すると、手からするりと本を落としてしまった。
拾おうとすると、私の手よりも先に、白くて華奢な手が、本を拾い上げた。
「あ……」
顔を上げると、そこには心臓が二回転するほどの可愛い子が立っていた。
天海春桃(あまみさくら)ちゃんだ。
学年──いや、学校で一番可愛いと噂されている、かなり美人な子。
「はい」
春桃ちゃんは本を差し出してにこっと笑った。
あまりの可愛さに、思わず見惚れてしまった。
「あ、あ…ありがとう」
私と春桃ちゃんの背は大体同じくらいで、去年背の順が前後で、そんな小さな事でもすごく嬉しかったのを覚えている。
そして、何より春桃ちゃんはすごく優しくて、怒っているのを見たことがない。
春桃ちゃんは女子に呼ばれ、あっちへ行ってしまった。
いい匂いがふわりとする。
不審に思われないよう、控えめに春桃ちゃんを見つめる。
大きくて綺麗な二重の瞳、小さな鼻、形の良い唇、白くてすべすべそうな肌、桃色の頬……
そしてさらさらで色素の薄い、肩より少し長めのストレートヘアー。
非の打ち所がない、完璧な見た目だ。
スタイルだって良いし、足も細くて綺麗で、笑うと真っ白で綺麗な歯が見えて。
声だって綺麗で可愛いし、仕草も表情も全てが可愛らしい。
本当に完璧な女の子。
今まで、小日向くんばっかり見ていたから、こんなに可愛い子だと意識していなかった。
ただ、『天海春桃ちゃんは可愛い』という噂が耳に入ってきただけで、そこまで気にしていなかった。
彼女は可愛いから、すごくモテるだろう。
あまりそういう噂は耳にしないが、密かに彼女のことを想っている人なんてたくさんいるはずだ。
私が男の子だったら絶対に好きになる。
心なしか、さっきまで少し沈んでいた気持ちが、明るくなった気がした。
[小日向視点]
──始まりは、あの日の席替えだった。
『小日向くん、よろしく〜』
澄んだ声に目を向けると、天海さんが手をひらひらと振っていた。
『天海さん。よろしくね!』
それから、俺らは急激に仲が良くなった。
もともと、仲が良くなかったわけではなく、割と話していた。
彼女は、話していて楽しい人だ。
しっかりしているけど、どこか抜けていて、とても面白い。
『わ〜、見て見て!』
帰り道がたまたま一緒になり、二人で帰っていたときだ。
天海さんが空を指差した。
そこには薄っすらと浮かび上がる月が。
『月が綺麗だね〜!』
満面の笑みでこちらを向いてくる天海さん。
“月が綺麗ですね”は、“I love you”の日本語訳だとか。
そんなことをいつか聞いたような。
天海さんは首を傾げながらこっちを見つめている。
これは、告白なのだろうか。
それとも、天海さんは自覚していないのだろうか。
多分後者な気がするけど……
『う、うん。たしかに綺麗だね』
──俺はその日から、天海さんを意識するようになった。
理由は分からない、でも、その無邪気さや純粋さに、いつの間にか惹かれていった。
自分が、誰を好きなのか。
最近、よく話すのは相原さん。
最近、よく目で追ってしまうのは天海さん。
どっちなんだ。
俺が好きなのは───