I want to eat your heart!
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「お前の背中、羽生えてるよ」
いきなり言われたその言葉に一瞬ハっとした。 訳が分からなすぎたのだ。一体こいつの目はどうしてしまったのだろう。いや、頭か?仕事がどかどか舞い込みすぎて精神がまいってしまったのだろうか。とりあえず俺の背中に羽が生えたとか言い出すこいつのクセッ毛の多い頭を優しくぽんぽんと撫でてやる。最初は嬉しそうだったがどうやらその本意に気づいたらしく俺の手を強く退けた。なんだこいつ。
「ほ、本当なんだってえ!生えてんだよ!ここに!羽があるべした! なあ!?」
いきなり楽屋にいた他のメンバーに答えを聞くも、やはり他の人間にも見えていない様であった。皆往々に「こいつの脳みそは大丈夫なのか」と相談を始める始末。俺もそこに混じり、おすすめの精神外科医は居るか、だの知り合いに医者はいたか、だのと皆それぞれに好き勝手を目の前で語り始めた。
「なして!?なして皆信じてくんねえの!?あっ、皆俺に嘘付いてんだべ!」
もしかして本当に見えているのだろうか、俺は一抹の不安を抱いた。俺以外の皆はさすがにドン引きしてたけど。俺は一応当事者(被害者?被疑者?)なのでもう一度あいつの隣へ戻り、もう一度頭を撫でる。今度は同意の念を込めて撫でたつもりなのだが、それでもあいつは俺の手を強く退けた。
「なんだよ皆してー!もーいーよ!馬鹿!」
(もしかして、あいつは俺が天使にでも見えているのだろうか)
長かった。本当に今までが長くてしょうがなかった。ついに来てしまったのだ。これまで俺は一体何をしていたのだろうか。こいつは目の前で優しく微笑む。そして、俺の頭を優しく撫でてまたほわっと笑った。それを見つめていた俺は、目頭が熱くなった。目の前がぼんやりと滲んでいく。今の俺はどんな顔をしているのだろう。嬉しさや悲しさ、辛さやらなにやら。とにかく心がそこかしこを彷徨うなか、目の前に居る男はそっと口を開いた。
「お前は良く頑張ったよ 俺もそれは見てきたし 皆も見てきたから」
俺は泣き出してしまった。いい年した大の男がこんな醜態を晒す中、それでもお前は優しく俺を慰める。声を上げて泣く俺をひっしと抱きしめ、もう一度頭を優しく撫でる。ああ、畜生。優しくするなよ。これ以上ここが惜しくなってしまったら。これ以上お前が惜しくなってしまったら俺は一体どうすれば良いのだ。もう会えないかもしれないのに。死んでしまうかもしれないのに。ぼろぼろと大粒の泪は止まらない。泪はまるで捻ったままの水道の様にとめどなく溢れて、零れて。
なあ、俺が死んだらお前はどうするんだ
きっと美人な奥さんもらって、子供作って幸せな家庭を築くんだろ
ははは、でもさお前は下ネタ好きだから奥さんも出来ないかもな
顔はいいくせに 畜生 本当に綺麗な顔してやがる。
どうか、 どうか俺の分まで
(どうか 俺の見えないところでお前は幸せに)
「申し訳ないなあ 俺は本気出したくないの」
するり。 するりするりと緩い表情と緩い動きで俺の蹴りを避ける。中々早いものだと自負していたつもりがこんなのでは自信が失せるではないか。
足がダメならこれではどうだと腕を出す。手刀を首に命中させようと相手の肩をがしり、掴む。俺より身長の低いお前はにやりと笑みを浮べた。
「ッ・・・気持ち悪ィ・・・!!!」
これほどにも俺を愛すお前に、少し「ツンデレ」が入ってしまった(こういう若者言葉、使い方が合っているのか分からないが)。だがしかしこれは本気の戦闘なのだ。「死闘」と言っても過言ではない。何時かの早食い対決よりも死闘なのだ。分かってくれ、とは言わないが、俺にもそれなりの気持ちがあっての今。それにしても、畜生。こいつ強いなあ。
「んふふ〜 俺はねえ よーちゃんの事大好きだから 動きなんてするする見分けちゃうんだよ 分かるかな わかんないよね ふふ」
肩を掴まれて嬉しそうに笑う。余裕丸出しのこいつは、見た目より大きい力で俺の腕を掴む。ぎりぎり。音を立てて軋む腕の骨。こんなに嬉しそうな声と顔で俺の腕の骨を折ろうとするかね、普通。・・・・いやこいつに普通を持ち出してはいけないのか。こいつは変態だ。俺を愛している、変態。俺もこいつは大好き(だったはずだけど信じたくなくなってきた)なんだ。 そんな奴が普通なわけない。
「だあいすきだよ あいしてる」
(負ける寸前でもこいつの事を愛していた)