>>43 マリス女王陛下
…珍しい所でお会いしますね。女王陛下。今日も美しくていらっしゃる。物憂げなその表情ですらも味方につけてしまうとは、罪な物ですね。
(国を見るならば1番貧しい所を見ろ、と教えてくれたのは祖父だったか、父だったか。当時は国を出る事があるなどと考えても見なかったので忘れかけていた知識であったが、こうして国を出た今、それなりに役に立っている。路地裏を通る間、座り込む何人かの人はじろりと訝しげな視線を送って来るものの、激しい憎悪は感じない。すれ違う何人かはこちらの顔を見ないが、きちんと頭を下げて通っていく。金銭的には潤っているし、心身共に余裕が尽き果てている訳ではないのだろう。ここは良い国だ。…良い国に、見える。少々鋭い自身の勘は、この路地裏すらも他所から見られることを意識し、ここに住む人の心も誰かによって整備されている様な、不可思議な違和感を訴えている。まぁそれを探るのは至難の業であるし、なによりそこまで知るならば相当危険な轍を踏まなければならない。ならば知る必要は無いのだろう。あっさりと引き下がることに決めて路地裏を出ようと大通りへ歩を進めること数分。向こうからやってきた一家の表情が、なんだか今まで見たそれとは違うような。妙に切羽詰まったものでそれでいて妙に明るいのが気になって。瞳がギラギラしていてなんだか変な感じ。眉を潜めながらすれ違い、角を曲がろうとしたところで、思わぬ人物と鉢合わせて。この国では珍しい、自身と似ているけれど違う黒髪と黄の目。驚いた表情はすぐに引っ込め、柔らかな笑みを浮かべると胸に手を当てて上体を下げ、滑らかに挨拶とマナーとしての褒め言葉を紡ぐ。自国でも見目、血筋共に異端な身だ、社交界でのマナーはそれなりに叩き込まれている。仲間に見られたら盛大に吹き出されるだろうが、普段の言葉遣いは今は封印しておくつもりで)
しかしこの様な…少々治安の悪い場所に来るには護衛が少ないのでは?