【相模湾 密輸船】
氷華
「………人としての暖かさを失うにつれて……人への情が無くなるにつれて私の力は強くなっているような気がする……」
氷華は緋染とノエルの二人と別れた後、firstの密輸船が相模湾に侵入したところを、氷華が現れ"周囲の海もろとも巨大な密輸船"を凍り付けにし、船の動きを止め、中に乗っていた船員も全員まとめて瞬時に凍結させ、到着してからものの数秒で制圧している……
明らかに氷華の異能は強さを増しており、その異能の変化の原因を"人の暖かさの喪失"を条件としている事を実感し、誰にともなく呟く。
氷華
「やがて私は今のように人である事を維持する事さえ出来なくなる……けれど、それに悔いはない。寧ろ……完全なる正義と勝利の使者となれるのなら……躊躇う理由も迷う必要もない。」
甲板に降り立ち、船内に通じる扉を蹴り壊して船内へ入りながら一人呟く……夕渚やノエルと話していた時でさえ、その心の大半を占めていたのは冷たい無の感情であり、その冷たい無の感情が心の全てを占めた時、自分は心まで氷のようになってしまうだろう……
だが、もはや自分の変貌に対する迷いや戸惑いは完全に消えており、それどころか自らの意思でそれを望むようにさえなっている……
氷華
「………太陽に向かって蝋の翼を羽ばたかせた英雄は太陽に届かず、墜落した……なら……蝋の翼ではなく、鴉の翼を持った私は……太陽に届くのかしら……?」
船内で氷像となった船員の頭を次々と拳で殴り砕き、確実に絶命させながら、貨物室の扉を開け、中に積載されていた大量の爆薬を見て、冷たい笑みを浮かべながら自らの翼は太陽に届くのかと自問する……
今の氷華には、もはや先日まではあった悪への理解をしたいと言う感情すら削ぎ落ち、一方的な殺人を行っても何も感じることが無くなっている。
firstが二日後に八咫烏の一大武器工場を襲撃するために暗躍しているのと同様に、六日後に日本に地獄を作り上げると言う計画もまた、着実に進んでいる……
桜空「・・・・・ぁ、りがとぅ・・・・・!」
(桜空は、頬張りながらも、喉に詰まらせないように食べてゆく・・・・・
警戒心が常にあり、怯え切っていた桜空は、見違えるほどに相手に対しての警戒心も怯えもなくなり、寧ろ自分からお礼まで言えるほどに懐き始めている・・・・・)
隅影「・・・・・野郎・・・・・やりやがったな、野蛮な鴉め・・・・・」
(双眼鏡で近くの建物の影から様子を伺っていた隅影が、氷華が海ごと密輸船を襲撃したのを見て、静かに怒りを顕にする・・・・・
一応、桜空から頼まれて密輸に協力したが、まさかそれがすべて水の泡になるとは予想外だった・・・・・
それも、最悪の形で・・・・・)
>>339