>>505
>>507
《ゴオォォォォォォォォォ……》
倉庫から出た紀と中川の前には、左右に伸びた灰色の壁と天井に、まるで血管のように張られた水道のパイプが伸びており、水が流れる音が無機質なコンクリートの壁や天井に反響して周囲の音が聞き取り辛くなってはいるものの、周囲には人の気配は感じられない。
桜空が捕まっているエリアは二人のいる南東地区から離れた北西にある区域であり、南東地区は主に倉庫としか使われていないため、あまり人員が集中していないように思われる。
スチャッ・・・・・
桜空「無線機を置いて両手を頭の後に回せ、お前の背中は完全に取った・・・・・」
(桜空は、弾が入っていないライフルでの脅し作戦に出る・・・・・
仲間が来ているというのは先ほどの見張りの鴉達の会話でわかってはいたものの、まさか監視カメラで丁度見つかってしまったタイミングに出くわすとは想定外だった・・・・・)
紀「・・・・・まるで侵入してくれと言っているようなものですね、こうも見張りも何も無いとは・・・・・」
(八咫烏といえば噂には少し聞いたことがあり、悪に対して容赦のない制裁を与えるということから、それ相応の見張りや徹底した侵入者対策がされているのかと想像してはいたが、ここまで無防備だと逆に不安にもなる・・・・・
監視カメラで見られているなど、思っていなく・・・・・)
>>510
「なんだ、気を張って損したぜ」
またもや兵士の姿はなく、鼻で嘆息。
何があるのかと思えば、何の変哲もない水道管のみ。どうやらここもハズレらしい。
(……いや待てよ、水道管?)
水。
古来から重要視されてきた要素の一つ。地政学でもよく取り挙げられ、またこれの確保を巡っての争いや苦難も枚挙に暇がない。
「……」
そしてその『大動脈』といえる部分が今、目の前にある。
「よし、決めた」
一歩踏み出し、深呼吸。
「紀ちゃん、隠密行動はここまでだ」
そう言い終わると、狼谷に連絡を入れる。
「狼谷の旦那、聞こえるか? これから施設内の水道管を壊して奴らを引っ掻き回す。その混乱に乗じて攻め込んでくれ」
連絡を終えると、次は何十もの巨大な斧を宙に生み出し、目につく限りの水道管を破断させていく。
巻き起こる轟音と水流。無秩序な噴水庭園がそこに完成した。
あのまま隠密行動を続け、桜空が始末されるまでの時間制限というリスクと、ここで破壊工作し比較的有利な状況ながら隠密性を捨てるリスクを天秤に掛け、後者を選んだ。
(それに、通気孔を抜けた時点で監視カメラに引っ掛かってた可能性もゼロじゃないしな)
建築物における水道管。重要なインフラの一つ。そんなものを壊せば大混乱は明白。もしかしたら最近の設備はこういった事態にも対応しているのかもしれないが、とにかく暫くすればこの部屋に大勢の兵士が押し寄せてくるだろう。
「よし! こんなもんだろ。紀ちゃん、俺達までびしょ濡れになる前に進むぞ」
一通り壊し終わったのを確認し、更に奥へと走り出す。
ついでに自分達が入ってきた側のドアは、能力でドアノブの内部構造を弄り、開かなくしてある。これを無理矢理通るなら直接破壊するしかない。かなりの時間が稼げる筈だ。
(とりあえず当分は、後ろから追跡される心配はねえな)
現時点で桜空が捕らわれている部屋はかなり遠い。ならばここで混乱を起こせば、否が応でも人員を散りばめざるを得ないだろう。
(そしたら俺達を潰す為の人員は少なくなるってね)
この一連の行動により、戦闘時の危険性を軽減するだけでなく、狼谷達が攻めやすくなるというのが隆次の作戦であった。
(監視してる奴が居眠りでもしてくれたらもっと楽になるんだが、そんなラッキーは期待しちゃ駄目だよな)