>>580
(クソ、やっぱこんなのじゃ蚊ほども効かねえか……)
虚しく弾かれた大量のナイフを観察し、力量差を推し測る。
「OK旦那、たった今それを痛感したとこだ」
一時撤退を促す旨の返答を聞き、なるほどと納得する。
『武装勢力を丸ごと殲滅する』『切り札』
具体的な戦闘力と立ち位置がわかっただけでも儲けものだ。この場合、これ以上強力な蟲は出てこない、どころかそもそも存在しない。そしてこちらへの対抗手段も尽きた。加えて、こちらとしてはひたすら逃げに徹すればいい戦闘力であることが判明した。
(よぉーし、方針は明確化した。あとは)
行動に移すのみ。
先ずは蜈蚣からの攻撃を回避、及び発電室への侵入を優先。蜈蚣の排除はほぼ不可能、攻撃はせず消耗を避ける。
「もう1つ」
虫の男を忘れてはならない。今彼は気を失い完全に無防備な状態にある。今後蜈蚣に悩まされない為にも、ここで始末しておくべきだ。
パチンコ玉の指弾で再び頭部を狙う。動作やリソースが極めて小さく済むこの技なら、蜈蚣の攻撃を掻い潜りながらでも十分使う余裕がある。
《ガッ》
不殺を信条とするfirstの理念や、発電室に入るまでの隙を捨ててまで蟲鴉に向けて撃ち込んだパチンコ玉だったものの、部屋を埋め尽くすような巨体である上に、不規則に蠢いている巨大蜈蚣の体に阻まれ、撃ち出されたパチンコ玉は最初と同様に重厚な外骨格に激突し、砕け散ってしまう。
巨大蜈蚣
『ギイィィィィィィィ…!!!』
更に悪い事に、術者である蟲鴉へ攻撃したと言うことを察知した巨大蜈蚣は攻撃を放った中川に狙いを定め、通常の蜈蚣には無い、無数の剣のような牙がズラリと環状に並んだ口と、建物を容易く倒壊させる強靭な顎を持って中川を呑み込み、噛み砕こうと襲い掛かる……