剱鴉
「(何かを仕掛けてくることはその言葉からわかっている。
だが、前面から迫る刃の壁を前に鉄甲だけでは完全に防ぐことは出来ないし、左右に飛び退いたとしても、着地するより先に次の一撃で確実に仕留められる)」
剱鴉
「(反撃する隙など与えない。
行動の選択肢を奪い、確実に仕留める……!)」
剱鴉は攻撃を放つと同時に、次の行動を予測し、早くも次の技を繰り出すための準備を行い始めている……その蜘蛛の糸程の隙も無い剱鴉の警戒心と、思考を即座に行動に変えることの出来る機敏さが脱出のための最後の壁となっている。
「げぇ、マジかよ!」
タチの悪い冗談みたいな現象が次々と起こる。
砂利のショットガンもあっさり対処され、その次は回避も防御も難しい技が来る。
「っ……まだだああああっ!!!」
神経が焼き切れんばかりの気迫で金属形成。
硬度。ただ硬度のみを求めて作り上げたそれは数十cm四方と非常に小さく。板きれと呼ぶことすら烏滸(おこ)がましいものとなった。
が、
(これで十分!)
それを掌に張り付けるように操作し、回し受け。
「っでりゃあああっ!!!」
掌で円の動きを行い、擬似的な防壁を作る。
甲高い金属音が響き、かろうじて切り刻まれる事態は回避した。
(だが、守ってるだけじゃ勝てはしねえ……)
このままでは進展はのぞめない、何とか打開しなくては。
「はぁ……あのね、そこで対処できないようなら、そもそも立ち向かうこと自体してませんぜ」
未だに他人の意見に耳を貸さないリーダーに若干失望しかける。
更にいうなら、そこで『誰のせいで対処しにくくなったのか』を考えられない時点でまだまだ未熟という他ない。
「って、ああくそ! 言ってる暇はねえか!」
こうしている間にも猛攻は押し寄せる。
「はあああああっ!!」
先と同じ小型金属板での回し受けでしのぐ。確かに凄まじい剣技だが、流石に目が慣れてきた。防いでから呼吸を整える余裕くらいは出てきている。
「……つっても」
こちらからの攻め手がまるでないのが現実だ。まだ互角というには程遠い。
(どうする、何をやってもあのバカげた剣術で細切れになっちまう)
コンクリートや鉄骨まで容易に切断したところを見るに、下手な金属ではすぐ両断されるのがオチだ。
(ん? ちょっと待て。細切れ、細切れ……)
しかしその時、隆次はあることに気付く。
(……いっちょ、試してみっか!)
この土壇場で、即席ながら奇策を練り上げる。
「そぉらっ!!」
剱鴉の回りに、出来る限り大量の砂を生成。それらを纏わりつかせようと殺到させる。
どんな物でも切り刻まれるというのなら、はじめから極小の粒になっているものを、天文学的な数でぶつければどうなるだろうか。
それだけでなく、桜空が無茶を押し通し決死の突撃を敢行した。
流れを変えられるとするならば、この瞬間をおいて他にない。