>>638
「げぇ、マジかよ!」
タチの悪い冗談みたいな現象が次々と起こる。
砂利のショットガンもあっさり対処され、その次は回避も防御も難しい技が来る。
「っ……まだだああああっ!!!」
神経が焼き切れんばかりの気迫で金属形成。
硬度。ただ硬度のみを求めて作り上げたそれは数十cm四方と非常に小さく。板きれと呼ぶことすら烏滸(おこ)がましいものとなった。
が、
(これで十分!)
それを掌に張り付けるように操作し、回し受け。
「っでりゃあああっ!!!」
掌で円の動きを行い、擬似的な防壁を作る。
甲高い金属音が響き、かろうじて切り刻まれる事態は回避した。
(だが、守ってるだけじゃ勝てはしねえ……)
このままでは進展はのぞめない、何とか打開しなくては。
「はぁ……あのね、そこで対処できないようなら、そもそも立ち向かうこと自体してませんぜ」
未だに他人の意見に耳を貸さないリーダーに若干失望しかける。
更にいうなら、そこで『誰のせいで対処しにくくなったのか』を考えられない時点でまだまだ未熟という他ない。
「って、ああくそ! 言ってる暇はねえか!」
こうしている間にも猛攻は押し寄せる。
「はあああああっ!!」
先と同じ小型金属板での回し受けでしのぐ。確かに凄まじい剣技だが、流石に目が慣れてきた。防いでから呼吸を整える余裕くらいは出てきている。
「……つっても」
こちらからの攻め手がまるでないのが現実だ。まだ互角というには程遠い。
(どうする、何をやってもあのバカげた剣術で細切れになっちまう)
コンクリートや鉄骨まで容易に切断したところを見るに、下手な金属ではすぐ両断されるのがオチだ。
(ん? ちょっと待て。細切れ、細切れ……)
しかしその時、隆次はあることに気付く。
(……いっちょ、試してみっか!)
この土壇場で、即席ながら奇策を練り上げる。
「そぉらっ!!」
剱鴉の回りに、出来る限り大量の砂を生成。それらを纏わりつかせようと殺到させる。
どんな物でも切り刻まれるというのなら、はじめから極小の粒になっているものを、天文学的な数でぶつければどうなるだろうか。
それだけでなく、桜空が無茶を押し通し決死の突撃を敢行した。
流れを変えられるとするならば、この瞬間をおいて他にない。
>>640
剱鴉
「……問題ない、斬り伏せる……」
【無明流 陸の太刀……】
剱鴉
「……目障りな……」
桜空が鉄甲を投げつけ、鉄甲が破壊されるのと引き換えに斬擊二つを打ち消し、残った斬擊も回避したのを見て、予想とは少し違ったが、相手が足を止めているのならば好機と見て、間髪入れずに追撃を仕掛けようとするものの、突如として自身の周囲に大量の砂がまるで砂嵐のように巻き起こり、視界を奪われた事で桜空への追撃を中止せざるを得なくなる。
剱鴉
「……無駄な足掻きだ。」
【無明流 捌の太刀「滅陽」】
《ゴガガガガガガガガガガガガッ》
剱鴉は静かに目を閉じ、瞬時に自分の周囲に無数の浅葱色の斬擊群を放つ。この斬擊は先程の"逆神"と同じように周囲の空気を巻き込んで飛んで行く斬擊であるため、自身の周囲を舞う砂の流れを掻き乱すと同時に斬擊と共に遠方へ弾き飛ばす事で再び視界を取り戻してしまう……
この技は本来ならば多数の敵に囲まれた際に放つものであるため、これまでのものとは違って精度は低く、ある程度の距離を取っている二人に当たることは無い。
剱鴉
「……ふん、苦肉の策も徒労に終わったな。
悪は悪らしく惨めに死に絶えるがいい。」
【無明流 弐の太刀「双極」……】
狼谷
「させるかよ!!!」
《ドゴオォォォォォォッ》
既に桜空は鉄甲も無い事や、中川の異能の性質が土や砂の生成と操作であり、それに対抗するための手段も把握した剱鴉が手にした大太刀を鞘から抜き、二人を同時に斬り刻むべく神速の剣技を放とうとしたその瞬間……
狼谷が残った左手を地面に叩き付け、異能の範囲を剱鴉の近辺に集中展開する事で、常人であれば立っている事すら出来ない程の凄まじい大気圧を轟音と共に剱鴉にかけ、剱鴉の機敏さを封じ、その動きを一時的に鈍化させる。
狼谷
「この技もそうは持たねぇ……今のうちに行け!!!」
これで剱鴉は繰り出せる技の速度や移動速度は大きく鈍化させる事が出来るのだが、右腕を失っている現状ではせいぜい食い止めておけるのは一分足らずであり、同じ手は二度も剱鴉には通じないであろう事から、今のうちに三人に此処から脱出して欲しいと言う……
剱鴉は狼谷の起こした大気圧によって全身に強烈な負荷がかかっているものの、その瞳は変わらずに桜空と中川を捉えており、反撃をしかけて来たとしても即座に対応できるように手にした大太刀を構え続けている。
剱鴉にとって見れば、一分が経過した瞬間に最速の一撃を放てばそれだけで勝利出来る上に、反撃として攻撃されたとしても自分の動体視力を使えば容易く対処できると言うことから微塵も焦っている様子は無く、ただただ静かに……冷静に戦況を伺っている。
桜空「・・・・・俺は・・・・・もう、失いたくないだけなんだ・・・・・だが、それがお前達にとっての足枷になっていたのかもしれないな・・・・・」
(中川の言葉を書けば、小声で呟く・・・・・
思い返してみれば、失ってばかりの人生だった・・・・・
普通の幸せな日常、両親、姉との楽しい日々、薫先生、そして今この時も・・・・・
だが、それは客観的に見てみれば、足手纏いにもなりかねないほどの守護心だったのかもしれないと、気付かされる・・・・・)
桜空「・・・・・」
《ふざけんな・・・・・今のうちに行けだと・・・・・?それじゃあお前はどうなるんだ・・・・・?》
(桜空の体は、気づけば自然と動いていた・・・・・
桜空の考えは、揺るがず生き残った全員での脱出・・・・・薫先生からの教えもあるが、それとは別で桜空自身には命が一番大切なモノであるということをわかっていた・・・・・
ふざけるな、お前も一緒に逃げるんだ、帰ったら命と引き換えに俺たちを逃がそうとしたことを愚痴ってやる・・・・・
そう思っていたその時・・・・・)
紀「馬鹿が!!!!!逃げるなら今でしょうが・・・・・!!!!!」
ガッ・・・・・!
(少し前に意識を取り戻していたが、ここで戦闘に参加すれば他の三人の足手纏いになる上に、能力のデメリットも大きい自分では役に立たないと思っていた紀が、満を持して動き出し、桜空の服の首の部分、中川の腕をを掴んで三人で脱出口へと向かう・・・・・
狼谷が作ってくれたこの敵を足止めする為の一分、無駄にするわけにはいかなかった・・・・・)
>>641