>>643
「くぅ〜、これも、ダメか〜」
苦虫を噛み潰したような表情で洩らす。桜空の特攻と自分の砂撃が合わさってもなお崩せない。
またもや猛攻に晒されるのかと身構えた瞬間、予想外の攻撃が剱鴉を襲った。
「っ! 旦那!?」
なんと狼谷が命懸けの拘束を仕掛けていた。この期に及んで自らを犠牲にするつもりらしい。
「ったく、やれやれ……二人揃って自己犠牲か」
その献身っぷりには頭が下がる。他人の為に命を投げ出すなど、滅多にできることではない。
「けどまあ、俺も人のこと言えねえがな!」
彼の命令に背き、再び剱鴉の周囲に砂を殺到させる。今度は『散らされたものを操作している』だけなので、手間や消耗は大幅に抑えられた。
(やっぱ、刃物に対しての砂は正解だったな)
直接的な破壊はされない分、幾らかこちらにアドバンテージがある。
「うおっ!?」
またも意外な事態。ここで紀が動いたのだ。狼谷と再三の口論を始めようとした桜空と自分を引っ張り、脱出しようと走り出した。
彼女の有無を言わさぬ振る舞いに、諦観のため息をつく。
「へっ、ありがとよ紀ちゃん……けど」
もうひと仕事だけやらせて貰う。
剱鴉に対し、砂だけでなく彼女の足元から無数の金属針を伸ばす。
さっきまでなら無造作に捌けただろう。しかし超大気圧の拘束に加え、砂まで被さろうとしているこの瞬間ならばどうだ。
斬撃では壊せない砂と、風では動じない金属針が彼女を捕らえんとする。
「何がなんでも全員で生き残る」
もう、誰も失わない。仲間を切り捨てての生存などまっぴら御免だ。
「そうだよな? 大将!!」
そう言い、不適な笑みを桜空へと向けた。
剱鴉
「ギリッ……」
【無明流 肆の太刀「黄昏」】
《ガガガガガガガガガガガガッ》
剱鴉は自身の視界を奪う砂、動きを封じる大気圧、そして足元から迫る金属針を見て、致命傷を避けはするものの、剱鴉の着ている藍色のコートに針が刺さり、その下に着ている黒いズボンや藍色のシャツにも針が掠った事でボロボロになっていく。
執念と意地だけで視界も動きも封じられている中、足元から伸びる針から致命傷となる部位や、手足と言った言動に支障の出る場所を避けているところから彼女の意思の強さや、身体能力の高さが伺える。
剱鴉は対抗策として、構えた大太刀を小さく振るう事で自身の周囲に大量の斬擊を飛ばし、先程の"滅陽"とほぼ同じように周囲の砂を吹き飛ばし、針も全て切り裂く事で対処する……
だが、振るう刀の範囲が狭くなり、斬擊そのものも半径3m程で自然消滅してしまうため、桜空達の元にまでは届くことはない。
狼谷
「ハッハッハッ!
とっくに死ぬ覚悟は出来ていたんだが……こうまでしてくれるのなら……もう少し足掻いてみるか!!!」
剱鴉
「……………!!?」
《ドゴオォォォォォォッ》
中川が生成したものの、切り裂かれた金属破や瓦礫を風によって一点に集めて巨大な塊に変え、それを剱鴉に向けて砲弾のようにして打ち出す事で技を発動した直後の剱鴉にぶつけ、剱鴉の体を吹き飛ばし、そのまま瓦礫の下敷きにする。