>>642
狼谷
「……ああ、すまねぇ……」
気絶から回復した紀がこの場に残ろうとしていた桜空と、中川の二人を連れて出口に向かい始めたのを見て、狼谷は優しく微笑みながら、三人に謝る……
だが、狼谷の胸中に悔いは殆ど無い……
八咫烏に入ったその時からまともな死に方が出来るとは思わなかったし、数多くの同胞や戦友達が息を引き取る瞬間を幾度と無く見てきた……
こうなる事は始めから予想できていたのだが……
叶うことなら……桜空の理想が叶った世界……
八咫烏が変わった後の世界を見てみたかった事だけが心残りだ……
三人は動きを封じられている剱鴉の傍を通って敷地外へ出ることに成功する……
「くぅ〜、これも、ダメか〜」
苦虫を噛み潰したような表情で洩らす。桜空の特攻と自分の砂撃が合わさってもなお崩せない。
またもや猛攻に晒されるのかと身構えた瞬間、予想外の攻撃が剱鴉を襲った。
「っ! 旦那!?」
なんと狼谷が命懸けの拘束を仕掛けていた。この期に及んで自らを犠牲にするつもりらしい。
「ったく、やれやれ……二人揃って自己犠牲か」
その献身っぷりには頭が下がる。他人の為に命を投げ出すなど、滅多にできることではない。
「けどまあ、俺も人のこと言えねえがな!」
彼の命令に背き、再び剱鴉の周囲に砂を殺到させる。今度は『散らされたものを操作している』だけなので、手間や消耗は大幅に抑えられた。
(やっぱ、刃物に対しての砂は正解だったな)
直接的な破壊はされない分、幾らかこちらにアドバンテージがある。
「うおっ!?」
またも意外な事態。ここで紀が動いたのだ。狼谷と再三の口論を始めようとした桜空と自分を引っ張り、脱出しようと走り出した。
彼女の有無を言わさぬ振る舞いに、諦観のため息をつく。
「へっ、ありがとよ紀ちゃん……けど」
もうひと仕事だけやらせて貰う。
剱鴉に対し、砂だけでなく彼女の足元から無数の金属針を伸ばす。
さっきまでなら無造作に捌けただろう。しかし超大気圧の拘束に加え、砂まで被さろうとしているこの瞬間ならばどうだ。
斬撃では壊せない砂と、風では動じない金属針が彼女を捕らえんとする。
「何がなんでも全員で生き残る」
もう、誰も失わない。仲間を切り捨てての生存などまっぴら御免だ。
「そうだよな? 大将!!」
そう言い、不適な笑みを桜空へと向けた。
紀「・・・・・あなた達は本当に馬鹿ですね、せっかくあの馬鹿が体を張ってまで私達を逃がしてくれたというのに・・・・・」
(紀は二人を連れて脱出する際、狼谷の表情がかすかに見えた・・・・・
あれは、どこかまだ悔いが残っている表情だった・・・・・
だが、今更引き返して加戦したところで、ボロボロの自分達が束になってかかったとしても相手に適うわけがないどころか、狼谷の意思を無駄にすることにもなるし、ただただ足手纏いになるだけだと思っていた・・・・・)
桜空「・・・・・その通りだ、アイツだってここまでしてくれたんだ、借りを返さずに死なれちゃあ困る・・・・・」と言い、紀の忠告に刃向かうように、中川の意見に賛同する・・・・・
一人でも、全員生きて帰るという意志に賛同してくれる仲間がいるだけでも、桜空にとっては力になった、気がした・・・・・)
>>643、644、645
【皆様方、新年、明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願い致します!】