>>665
狼谷
「お前はまだこの組織に入って1ヶ月ほどだったな?
短い間だったが……色々と大変な事もあったと思うし、これからも幾つもの困難や苦難も訪れるだろうな……」
firstは裏社会の組織であり、裏の世界からも表の世界ででも敵が多い。
組織に入る前も、入った後も、そしてこの先も八咫烏を始めとした数多くの敵が立ちはだかる事になってしまうと言うことを告げる。
狼谷
「だが……剱鴉と言う化物を前にしても……諦めたり悲観すること無く最後まで勝機を探り続けることが出来たお前なら……負けること無く進んでいけると俺は思った……」
呼吸を整え、少しでも長く話すことが出来るように自分の左足の弾傷に微弱ながらも大気圧をかけて出血を遅らせながら言葉を紡いで行く。
狼谷が剱鴉に最期の足掻きを出来たのも、今こうして遺言を残すことが出来るのも、彼の助力の賜物だからだろう、一番始めに言葉を伝えていく……
剱鴉と言う、圧倒的な実力を持った敵に対しても屈すること無く挑み続け、勝機を諦めなかったその度胸を、勇姿を狼谷は見ており、それを高く評価している。
狼谷
「うちのボスはまだまだ若い……俺の代わりに支えてやってくれないか……?」
もう左足の間隔は無い。
全身の痛覚が無い…
神経が死滅し始めているのだろう…
幸いにもまだ意識が朦朧とするような事は無いが、それも時間の問題だ。一度意識を失えばもう目覚めることはない…
中川さえ良ければ、桜空の事を支えてやってくれないかと聞いてみる。
「そいつぁ買いかぶりってもんよ、旦那」
双眼を閉じ、柔らかに彼の言葉を否定する。
「けど、そう言われて悪い気はしねぇな……OK、後は任せてくれ」
だからといって、他に適任がいるかと言われれば疑問が残る。紀は組織への忠誠心などが自分よりも欠けているので、消去法的にこうなったのだろう。
これからあの直情一本気リーダーの尻拭いをやらされると思うと、気が滅入ってくる。
(けれども……何だろうな)
不思議と、それを投げ出す気にはなれなかった。
「じゃあな。地獄(あっち)でまた会おうぜ」
それだけ言い残すと、踵を返しその場を後にした。
一人の漢を見送るのにそれ以上の言葉は要らない。きらびやかな虚飾も必要ない。
ただひとつ、何があろうとも曲がらぬ意思(たましい)を示せばよいのだ。