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《グアッ》
周囲の濃霧を払い、視界をある程度確保した事で紀の危機状況が判明したものの、戦場において不用意に周囲へと注意を分散するのは直面した敵対者に対する注意が欠如するため、悪手にしかならない……
打ち砕いた枝の一本一本にはそれほど異能による強化が施されていないと言うことはつまり、幾らでも即座に再生可能と言うことであり、砕かれた次の瞬間にはもう再生し終え、再生したばかりの枝槍がほぼ全方位から中川の体を貫こうと迫る。
また、そろそろ術者のいる根元へ近付けたと思いきや、術者が近いこともあり、根元部分と言う局所的にだが、異能か集中している事もあり、鋼をも超す硬度となった樹木によって阻まれてしまう。
樹木使い
「………!!」
だが、絶望的なままと言うわけではなく、紀と霞鴉の姿が見えたと同時に、その奥にある濃霧の中に地面に両手を付けた人影が見える。
位置的にもその人影こそがこの樹木使いの本体であるのだが、中川と樹木使いまでの距離は優に20mはある上に、何処から新しい枝槍を生やして来るかわからない……
戦場において頭数が減るのは、そのまま敗北への一歩。故に周囲の仲間を、余裕のある内に気遣っておくのは寧ろ定石といっても過言ではない。目の前しか集中できないようでは、それこそ早死にが待っているだけである。
「! くそ、壊したそばからこれかよ……!」
即座にコイル式ジャンプ台を形成、空高く飛び上がった。
恐ろしい再生速度だ、普通のやり方ではジリ貧になる。
(……仕方ねえ『修行の成果【おくのて】』の一つを使うか!)
今こそ虎の子を白昼に晒す時。
「そうらっ!! 手足のどっかは覚悟しな!」
意を決し、円盤型のブレードを生成、フリスビーの要領で空中から投擲する。数は2つ、樹木使いと霧使いの両方を狙った。
丸鋸、ソーサーなどの通称を持つそれは、高速回転を以て彼らを襲う。
……と、これだけならば強化された樹木で防げるだろう。
(けどこいつはそうもいかねえぜ?)
何故ならその円盤刃の刃先部分はある鉱物で出来ていた。
黒曜石。
外観は黒または茶色の半透明。ガラスとよく似た性質を持ち、脆いという欠点はあるが、割ると非常に鋭い破断面(貝殻状断口)を示すことから先史時代より世界各地でナイフや鏃(やじり)、槍の穂先などの石器として長く使用された。
(で、その凄ぇ切れ味の理由ってのが……)
刃先が単分子レベルの厚みしかないのだ。この特性により、他に類を見ない程の切断力を発揮する。
これが『修行の成果【おくのて】』の一つ。徹底的な己の見直しと鍛練の結果、黒曜石をも支配下に入れるに至った。