>>804
(くそ、やっぱここからじゃ遠すぎるか……!?)
周囲に本人の姿が見当たらない状況では、流石に声は届きはしないか。
「うげぇ、これも駄目かよ……」
貴重な手札の一つを切って尚、事態は好転しない。胸中に焦りが募る。
そんな中、樹木使いの言葉に耳を傾ける。
「……」
悪がいるから。
理想。
欲望。
「自惚れんな」
射抜き殺さんばかりの視線を向けた。
脊髄に熱が走る、神経が機敏になる。
魂が奴を赦すなと叫ぶ。
空中で手甲と脚絆を形成、刺で手足が傷付かないよう対策する。
「てめえらのソレは信念でもなんでもねえ」
目で追うのがやっとの速さで拳打と蹴りを打ち込む。刺の枝は悉く打ち砕かれ、着地を許してしまう。
返す刀でアッパーカットを放ち、また枝の一つをへし折る。
続けて流れるように回し蹴り。更に一本ひしゃげさせた。
「ただの自己陶酔だ」
枝が強くなっているなら、こちらも同じこと。それも手甲と脚絆という、体に密着するものの関係上、強度も『馬力』もこちらが優位である。
言い換えれば、この手甲と脚絆は、防具とマッスルスーツを兼ねていた。
……しかし、
「しゃらくせえ!」
それでも、押し切れない。膠着状態から競り勝ってはいるのだが、いかんせん『押し』が遅すぎる。こうしている間に仲間が死んでは意味がない。それに加え、こちらも徐々にかすり傷などを付けられ始めていた。
(これでも駄目だ、もっと別の方法を……!)
そう判断するやいなや、手甲と脚絆を円形盾に変化させる。枝の濁流が押し寄せ早々に軋みを上げた。あと数十秒もすれば無惨に破壊されるだろう。
「さぁて、いっちょ試してみますか!」
ある合金を紐状に無数に形成、高速で蛇が這うような動きで全ての枝に絡みつかせた。
すると……
3000℃もの火花が枝の表面を包んだ。
その金属の正体はフェロセリウム。
鉄とセリウムの合金である。木の肌のような表面が荒い物で高速で擦ると、高温の火花を起こす。UN1323(クラス4.1(可燃性物質)容器等級 II)に分類され、輸送する際には定められた容器や方法を用いなければならない程の代物。
瞬く間に枝が燃え上がり始める。ここまで高い温度では最早霧による湿度も、ましてや強度など関係ない。
加えて、全ての枝を隆次一人に向けていたことが事態を加速。
火の手はあっと言う間に燃え広がり『隆次の周囲』というごく狭い空間にしか展開していなかった枝達は、ものの数秒で全て炎上する。
「いくら理想が崇高でも、そこに至る道程が間違ってちゃ意味ねえんだよ」
【畏まりました、ではそのように描写します】
>>主様
【中川vs樹木使い】
樹木使い
「……………なッ!!」
手数でも物量でも此方が勝っている上に、じきに霞鴉が紀を仕留めて此方へ増援に来る。そうなればもはやこの優位性が崩れることは無く、圧勝できると考えていた矢先、生成した無数の枝の全てが瞬く間に焼き尽くされて行くのを見て驚愕する。
予め、バオバブの樹のように水分を樹木の中に蓄え、更に周囲の濃霧から水分を常時補充することで山火事に合おうとも耐えきれる程の耐火性能も備えていたのだが、それも3000℃の業火を前に意味を成さず、瞬く間に燃え散って行く。
樹木使い
「ぐ………ああぁぁぁぁぁぁッ!!!」
樹木と一体化していた事が仇となり、地中に伸びていた樹木本体と、樹木と一体化していた両腕を介して樹木使いの全身にまで炎が燃え移り、地面を転がりながら全身を覆う炎を必死で消そうとする。
こうなった以上、もはや勝敗は決した。
中川が巻き起こした炎によって周囲の建物にまで燃え広がり、窓ガラスや建物の壁をも焼き焦がし、風と共に周囲へと炎は勢いを止めること無く燃え広がって行く……
悪とされる組織を潰して回っていた鴉達と、街や、そこに住む人々を危険に晒し、実害を出してまで正義とされる鴉を倒そうとする中川……
この様子を端から見ればどちらが悪なのか判別できる者はいないだろう……
【あれ?そう言えば自然界にあるモノしか操れないんじゃなかったんですか?合金とかは明らかに人工になっていますよw】