「みーっけ!」
カーペットを捲った先、目星いものが見つかると無邪気に笑う。その入口を開ける前に、あらゆる可能性を考えては細心の注意を払い周辺と自身に聖水を振り撒いた。
あーあ、誰かと合流した方が良かったかもなぁ。なーんか…この先の空気変じゃない?
何も無い可能性も高いわけだが、この先に吸血鬼__それも相当な実力を持っている者がいることを不思議と確信し乍ら入口を開ける。躊躇せず中に足を踏み入れると、その先の本棚に気付いて。
「なんか今日、ちょーいい感じかも〜」
義手で軽々と本棚を動かして見せれば、また別の扉がその姿を現す。堪らず口角が上がるが、僅かに体の力が抜ける感覚がして、ふらり。どうやら、自身に聖水を振りまいたとはいえ丁寧に仕掛けられた罠には少々足りなかったらしい。ただ、目眩がしただけではその義足は歩みを進めることを止めない。暫く進んだ先、一層血の匂いが濃くなるのを感じ取ると
「あーもう!面倒な事しないでよ〜!私1人しかいないのに!」
下水道で大声で騒ぎ立てる。無数に広がるのは下水道だけではない。この充満した血の匂いに苛立ちを感じながら、己の勘のみで突っ走る。運が良いのか、まだ相当距離があるが、選んだ道の先にはこの血の匂いの主がいるようで。
「……あっれぇ〜?おっかしいぞ〜?なんかこっち来てなぁ〜い!?」
A級のためばれるかもなぁ〜と思っていたがまさかピンポイントで追ってくるとは思っておらず、しかも毒が効いている素振りは視覚を共有して見る限りないため内心少し焦る。
しかし、その焦りも生命が危機にさらされる恐怖からではなく、単に自分の階級が騎士階級よりも上だとばれてしつこく追い回されるであろう未来を憂いての焦りだった。
(相手はA級…しかも傀儡からの情報からしてなんか弄ってるっぽいんだよなぁ………めんどくせぇ…誰かに押しつけるか……それとも、わざと人通りの多い道に出て肉壁にする。……戸惑うような性格だといいなぁ)
そんなことを考えつつ確実に自分を追ってきている気配から距離をとるためにスピードを上げ、精製した血液で作ったペストマスクとハンドガンを作る。
(いくらなんでもA級だからって、Desert Eagle .50 AEはやりすぎだったかな……女の子だしなぁ…)
頭の中でそんなことをつらつら考えながら確実にハンドガンの安全装置を外す