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(うん。やっぱり来た)
吸血鬼の視力によって遠くから激走してくる義足の少女をとらえる。
(得物は、両手斧と……両足と片腕の義足と義手かな、銀製っぽいし。………さて、“計算どうり“に動いてくれるかなぁ)
少女を観察すると、距離が縮まったと同時に両手斧を片手に持ち変える
(良かったぁちゃんと計算どうりに動いてくれたぁ)
ペストマスクの下で虚ろに笑う。
笑みを湛えると、銃の照準をそらさずに片手を首に巻かれた包帯へとかける。
シュルシュル
包帯が緩み、露となった細いその首は___繋がっていなかった。
正確にいえば繋がっているのだが、赤黒く太い糸によって乱雑に縫い付けられていた。まるで大蜈蚣が巻き付いたような赤黒く変色した傷口に指先をねじ込む。
ぐちグチャリ
あっという間に出血すると、血が中に浮き上がりビー玉ぐらいの大きさになる。そのまま浮遊して彼の1mほど前に出ると。
ゴボッ!ゴボゴボゴボ!!!
突如泡立って膨張を始めると、瞬く間に精製した血液で壁が作られる。血の壁によって膨張する寸前に投げられた聖水を防ぐ。
ジュワッジュワワァワワァワワァァ゙!!
血の壁が聖水によって浄化させるさいに発生する煙と音が相手の聴力と視界を遮ると同時に銃の照準を上にある目的のもの………マンホールへと合わせる。
ダァァン!!!
寸分狂わず銃弾はマンホールを撃ち抜く。
すぐさま精製した血液で鳥の翼のようなものを作り出す。……その禍々しい赤色の翼はまるで、まるで自分の神を否定し自ら地獄へと下った堕天使のようだった。
「ごめんね、お嬢さん。今僕貧血気味であまり動きたくないんだ。……これ、僕からのささやかなCadeau♪」
マンホールから飛び出す直前に義足の関節めがけて発砲する。
血液の壁が浄化されるその光景を冷静に眺めながら、低姿勢をとると、斜め下から抉るように両手斧を突き上げた。…が、そこに感触はなく。空振りによりくる、と1度回転すると、大きな音を立てて両手斧は地面にクレーターを作る。自分に向けて放たれたと思った銃弾はマンホールを上の打ち、逃げる相手を捉えようと目線をあげればそこには、美しくも恐ろしい大きな翼が見えた。
「ああ〜っ、ずるい!綺麗だけど逃げるなんて!」
反射的に両手斧を地面から引き抜くとマンホールの出口、相手に向かって投げる。運が良かったのか、相手が義足目掛けて打った銃弾はその両手斧が防ぐこととなり。勢いを失い、こちらへ落ちてくる斧には驚いたが、難なく受け止めると跳躍する。
「めるはおにーさんともっと遊びたいの!」
(確かこの位置のマンホールは人通りが特に少なかったような気がするけど…おにーさん強そうだし、他のみんな大丈夫かなぁ)
下水道で全てが済めばよかったが、外に出られてしまうと思うように動けないため少々思案する。下水道から夜の街へ出、民家の壁や屋根を頼りに彼の吸血鬼を追おうとするが…他の吸血鬼の気配も察知して。相手が自分のことを他の吸血鬼に任せていたなんて知らずに。