「……なぁんだ、僕のこと知ってたんだ」
パッと立ち上がり衣服に付着した汚れや枯れ葉を払い落とす。やっすい土下座だけどやんなくて良かったんだ〜とぶつぶつ言いながらずれた眼鏡を戻し、改めてフィーニスと目を合わせる。
「ねぇ、勝手に君のテリトリーに入っといてなんだけど、こんな薬草知らない?」
フィーニスにこの山に生えているらしい薬草の特徴と生える環境を伝えてる。
「もし知ってたらその情報を僕にくれない?代わりと言っちゃあれだけど、お願いごととかあったら可能な限り答えるよ?」
「ふむ…、その薬草なら心当たりがある。ついてくるといい」
彼から伝えられた特徴を記憶し、この森全体の構図を脳内に描く。直ぐにその薬草の在処を思い出すと、まあ案内した方が早いだろうと付いてくることを促し。屈んでいた体勢から立ち上がり、ひらりと身を翻し歩を進める。鬱蒼と茂る草木を掻き分け乍ら、後ろを振り返ることなく口を開いて。
「…お願い事なんだけどね。私と遊んでくれないかな?」
「こんな森じゃ本当に誰も来てくれなくてね。まあその方がゆっくりできるし、無為な闘いを避けたい身としては好都合なんだが…怠けていたらどうも動きが鈍くなってしまって。君なら私の攻撃で弾け飛ぶことはないだろう?だから是非ともお願いしたいんだ」
夜王様に見限られて屍鬼になるのは嫌だし、急な戦闘で体が動かないのも困る。久々の来客に開いた口は止まらないようで。暫く進むと、開けた場所に出る。そこには彼のお目当てである薬草があった。先導するように彼の斜め前を歩いていたため、止まれば彼を振り返り上品に掌で薬草がある場所を指す。つい癖で視線を下に向けたが、そこに彼の顔はない。そうか、彼は私より背が高いんだったな。迷い込んだ小児を出口まで案内することの方が多いようで、自分の癖にくつくつと笑い声を漏らすと視線を上げて。好きなだけ持っていくといい。そう言うかのように首を軽く傾げてみせた。