きみのための物語

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183:◆Qc:2022/04/13(水) 23:43

『輪廻族』のコミュニティ。
この世界に転生してきた輪廻族に対して、円滑な順応を行いやすくする為の集まり。······と言っても、その人数は3人。
どのような世界でも輪廻族の捜索が難しい中、よくこんなに集まったなとニルは思った。
「······で、リナちゃんは······相変わらず酒場開くのかな?」
「はい!せっかくまた人間に転生できましたし!」
「······ちなみに前世は?」
「珍しく人だったんですよ!でもその前はー······犬でしたね。その前はたんぽぽで······」
「その特性まだ消えてなかったんだ······はぁ。まあ過労死しない程度にね······と言ってもこの世界じゃそれも無理な相談かぁ······」
ここは寂れた廃屋の中。ニル、エルの二人はもう一人の輪廻族と集まって色々と話をしていた。
どうやらそのもう一人の話によると、ここをどうにかリフォームして酒場にする、という。この少女にして珍しいことではなかった。

「あ、でも今回は前世で出会った人とまた会えましたから······」
「······なんで?」
「なんでも次元の隙間に落っこちた、らしいです。今寝てますけど······起こしてきますか?」
「いや、いいかな······ところで前の世界っていうのは?」
「凄い剣豪達がいる世界でしたね······あの人もその一人だったんですよ。向こうでも変わらず寝てましたけど······」
「······相変わらずリナの経験談は飽きないなぁ。植物とか動物とかに転生することがあっても······それで釣り合いが取れてるんだから」
ニルの呟きに、相手は苦笑しただけで何も言わなかった。

「······じゃあ、そろそろ私は行くね。これからオペが三つ入ってるんだよね」
「エルさんの方が過労死しませんか······?」
「自信ないかも······」
とだけ言って、エルはさっさと出ていった。
事実彼女は恐ろしく有能で、多忙だった。適当に散歩に出たり面会時間を確保できるのも、彼女の能力と切り詰めた睡眠時間の賜物だった。
「(······どうもこの世界はきな臭いなぁ······他の輪廻族と出会える日は······来るのかな······?)」




しかし。その数時間後、彼女は思いがけない対面をすることになる。
勿論それは、『四人目』の輪廻族であった。


◆Qc:2022/04/18(月) 01:34 [返信]

病院に戻ったエルは、救急車からの電話が入ってきたのを見ると即座に受け取った。······しかしその内容が地獄であった。
というのも、

「······穿通性······頭部外傷······だって······?」
『それだけではありません、心臓付近の胸部にも銃創が······』
「······嘘でしょ························患者の名前は」
『夜村夢花。何やらアイドルっぽい女性みたいですが······流石の先生でも、これは······』
「じゃあなんで搬送してるのさ?」
『············低音処理は施してあります。爆速でかっ飛ばしていますので······あと5分で到着します。準備を』

その声を残して電話は切れた。近くの窓を開けて耳を澄ませば、風に乗って救急車のサイレンの音が聞こえる気がする。
──エルは振り向き、ただならぬ雰囲気に怯える他の医者に向けて高らかに呼びかけた。




「最近暇だったでしょ?」






「どうして生きてるんだこの患者······」
「トラウマになりそうです」
「揺らすな!中央オペ室に運ぶ時間はない!緊急オペ室に運べ!」
「CT室には!?」
「そんな時間あると思うか!?ゴッドハンドが何とかしてくれる!急げ!」
一階が急激に騒がしくなった。と思えば超高速で通り過ぎていく真っ赤なストレッチャー。
珍しく静かな時間帯に、この病院始まって以来の危篤患者が運ばれてきたのは幸いだったろう。

「前口上とかいいからさっさと始めちゃおうか。私は脳の方の処理するからみんなは胸部の方お願い······」
『わかりました』
「あ、この子救急隊員さんによると身寄り居ないみたいだから、皆が最善と思った施術をマッハでやって」
そう言いながらも高速で手を動かしていくエルに対し、何かを言おうと思った壮年の医者が口を開く。
「······見捨てる、というのは?どう考えても患者の体力保ちませんよ······」
「あなたは······うん、もう医者やめていいよ。体力尽きる前に、全部終わらせれば、良いんだよ······!」

カラン、と音がした。······脳内に入り込んだ銃弾が取り除かれ、器に落とされた音である。
それを聞いては他の医者も一言もなかった。ただ眼前の作業に集中するだけである。

「心停止しました······!」
「こっちは大丈夫直接マッサージして!人工血管の移植は!?」
「既に縫合も済ませてあります!」
「よし!拍動安定したら教えて」
頭部は既におおよその処置を終えているようだった。エルは患者の頭部を見ながら、どこからか持ってきたメモ帳に何かを書いている。
「損傷部位は······こことここかぁ······深くなくて良かった。これならリハビリさえすれば多分日常生活に支障は出ないはず······後は脳ヘルニア起きても良いように薬はこんな感じで······感染症誘発したらこうすればよし······と」
「拍動再開しました!」
「おっけー······耐えてくれたね。輸血絶やさないように。あと人工呼吸器も持ってこよう。あとは──」

と、言いかけたときだった。
今まで整っていたエルの姿勢が、大きく揺らいだ。
そのまま彼女の身体は、何の抵抗もなく横に倒れていく。


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