きみのための物語

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184:◆Qc :2022/04/18(月) 01:34

>>183
病院に戻ったエルは、救急車からの電話が入ってきたのを見ると即座に受け取った。······しかしその内容が地獄であった。
というのも、

「······穿通性······頭部外傷······だって······?」
『それだけではありません、心臓付近の胸部にも銃創が······』
「······嘘でしょ························患者の名前は」
『夜村夢花。何やらアイドルっぽい女性みたいですが······流石の先生でも、これは······』
「じゃあなんで搬送してるのさ?」
『············低音処理は施してあります。爆速でかっ飛ばしていますので······あと5分で到着します。準備を』

その声を残して電話は切れた。近くの窓を開けて耳を澄ませば、風に乗って救急車のサイレンの音が聞こえる気がする。
──エルは振り向き、ただならぬ雰囲気に怯える他の医者に向けて高らかに呼びかけた。




「最近暇だったでしょ?」






「どうして生きてるんだこの患者······」
「トラウマになりそうです」
「揺らすな!中央オペ室に運ぶ時間はない!緊急オペ室に運べ!」
「CT室には!?」
「そんな時間あると思うか!?ゴッドハンドが何とかしてくれる!急げ!」
一階が急激に騒がしくなった。と思えば超高速で通り過ぎていく真っ赤なストレッチャー。
珍しく静かな時間帯に、この病院始まって以来の危篤患者が運ばれてきたのは幸いだったろう。

「前口上とかいいからさっさと始めちゃおうか。私は脳の方の処理するからみんなは胸部の方お願い······」
『わかりました』
「あ、この子救急隊員さんによると身寄り居ないみたいだから、皆が最善と思った施術をマッハでやって」
そう言いながらも高速で手を動かしていくエルに対し、何かを言おうと思った壮年の医者が口を開く。
「······見捨てる、というのは?どう考えても患者の体力保ちませんよ······」
「あなたは······うん、もう医者やめていいよ。体力尽きる前に、全部終わらせれば、良いんだよ······!」

カラン、と音がした。······脳内に入り込んだ銃弾が取り除かれ、器に落とされた音である。
それを聞いては他の医者も一言もなかった。ただ眼前の作業に集中するだけである。

「心停止しました······!」
「こっちは大丈夫直接マッサージして!人工血管の移植は!?」
「既に縫合も済ませてあります!」
「よし!拍動安定したら教えて」
頭部は既におおよその処置を終えているようだった。エルは患者の頭部を見ながら、どこからか持ってきたメモ帳に何かを書いている。
「損傷部位は······こことここかぁ······深くなくて良かった。これならリハビリさえすれば多分日常生活に支障は出ないはず······後は脳ヘルニア起きても良いように薬はこんな感じで······感染症誘発したらこうすればよし······と」
「拍動再開しました!」
「おっけー······耐えてくれたね。輸血絶やさないように。あと人工呼吸器も持ってこよう。あとは──」

と、言いかけたときだった。
今まで整っていたエルの姿勢が、大きく揺らいだ。
そのまま彼女の身体は、何の抵抗もなく横に倒れていく。


◆Qc :2022/04/18(月) 23:02 [返信]

まるで泥に沈んだかのような眠りだった。
言おうとしていた、叫ぼうとしていた言葉は言えずに、逆に喉に何か空気とは違うものが挟まるのを感じた。


言おうとしていた言葉。何だったっけ?
ああ、そうだ。

あとは、
あとは、あとは──
「······状態に、······っ!ゴホっ······!」

······休憩室の最奥。まるで戦場のような病院の中、一番上等なベッドや布団があるというのは専らの噂である。
そこにエルは横たわっていた。······どうやら倒れた時にここまで運ばれたらしい。
患者はどうなっただろうか。······丁度メモ帳を手に持っている時に倒れた為、気の利いた医者が居れば何とかなるだろう。
それよりも問題なのはあの後に控えていた3件のオペだが······と、そこまで思考を回した時、研修医が入ってきた。

「あ。ちょっといい?」
先程の手術の時には当然居なかった顔である。
「は······はい、なんでしょうか」
少々怯える彼の様子を無視して、エルは質問を始めた。
「私がここに運ばれてきたのは何時くらい?」
「分かりませんが······19時に僕が来た時······休憩室に沢山の先生が詰めかけていたのは覚えてます」
エルは時計を見た。······現在時刻は4時。つまりざっと9時間くらいは寝た、というより気絶していたことになる。
「そっか······オペはどうなったかわかる?」
「えっと······先生含めて院内総出で行った緊急オペのことですか?」
「そうそれ。穿通性頭部外傷の方」
「先生が倒れた後、シマダ先生が他の方々をまとめて無事に完了させたそうです。いつ容態が急変してもおかしくないので今はICUに入れてるみたいです」
その報告を聞くと、エルはほっとしたような表情を浮かべた。ただそれも一瞬のことで、次には不敵な笑みを浮かべる。
「へぇ、シマダ先生がねぇ······他のオペは?」
「移植手術でもないですし······どれも緊急性はないので保留にしてありますが」
「患者に説明は?」
「しました。エル先生が過労で倒れたと言ったらどなたも口を揃えて『待ちます』と······」
「······結局私がやるんだね。まあいいけど······」
布団を整えながらエルは呟く。······9時間も眠ったおかげか、目の奥に油汚れのようにこびりついていた疲労が多少消えた気がする。
「報告ありがとね。オペは明日中に全部やるから······今はあの患者に集中するよ」
「わかりました。伝えておきますね」
そう言って研修医は駆け出していく。
その後ろ姿を見送りながら、エルは『輪廻族』としての記憶を少しずつ紐解いていく。
······彼女が今まで出会ったことのある輪廻族は10人を優に越している。······が、同じ世界に、同じタイミングで転生した人数はこの世界の3人より多かったことはない。
勿論一つの人生で出会える人の数から言って、そんなものはほとんど参考にならないことは承知している。
だが──どうしても信じられなかった。

あの重症を負った患者──夜村夢花といった──が、輪廻族であるらしいということが。


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