駅のホームで鳴り響く、発車の合図。
階段を駆け下りている俺は、焦りを覚える。
この電車が命綱だ。
これを乗り遅れたら最後、俺は遅刻した奴という烙印を押されるのだ。そんなに大層なもんじゃない。
階段を下り終えると、目の前で大きな口を開けている電車がある。
助かった、と思った瞬間、『ドアがしまります』という車掌さんの鼻声アナウンスが俺の耳に届く。
それは地獄の囁きのようにも思える。そんな大層なもんじゃない。
駆け込み乗車をする不届き者にはなりたくない!という思いを胸に、「待ってー」なんてバカみたいな声を上げながら走った。駆け込み乗車する気満々じゃねぇか。
すると、そのドアの向こう側。
電車内に、仲のいい友達が見える。
こうなったら、あいつに飛びつくしかない。そう考えたのだ。
「おい!」
「え」
ダッと一歩、おもいきり踏みだしてそいつにしがみついた。
俺の飛びついた勢いで押され、ぎゅうぎゅう詰めになっていた人々がもっとぎゅうぎゅう詰めになる。
『駆け込み乗車はご遠慮くださーい』という声が響いた後、ドアが閉まった。そこまでの時間が長いのは、俺の体感速度の問題だから気にしたら負けだ。
「おい、お前いつまで抱きついてんだよ!」
「いいだろ別に!人だらけで手が動かねぇんだよ!」
そんな会話を小声で繰り広げながら、体制は変わらず。
ふと真横を見れば、女の子が立っている。
こんな満員電車の中に女の子なんて……危険だな。
そうおもっていた矢先染まる、俺のシャツ。
白の生地についた、赤い模様。