「反対側のドアが開きます」というアナウンスの声。
やっとこの地獄から解放される事が出来るのである。
「……なぁ、これ降りられると思うか……?」
そう耳もとで小さく囁く友達の声が、気持ち悪くてゾクリと背中を悪寒が駆け巡った。友達の声に失礼だ。
「いや……ちょっと難しいだろ……お前握力何?」
「30……5……くらいか?」
「俺より強いな、よし、お前引っ張ってけ」
ガッと掴んだ友達の手のひらから、甘い熱が伝わってくる。
……なんて、少女漫画見たいな表現を使っても相手の手はがっちりとした男の手。これが女なら、どれだけよかったか。
「はぁ?……しゃーねーな」
チッという舌打ちを聞かなかったふりをして、ニッと笑った。
ドアが開く音が聞こえて、手がグイッと引っ張られた。
「いっ!?」
予想外の引きのよさに、俺の腕はちぎれるかと思う位の痛みを感じる。……まるで魚釣りみたいだ。やったことねぇけど。
人を横に掻き分けて、ホームへの入り口に突き進む。
俺を引っ張る友達がホームに出た瞬間、今まで以上の力で俺を引っ張った。
その時、俺の頭の中から、電車とホームの間のちょっとした段差の事など消えていて……。
ここまで言ったら予想出来るように、俺は勢いよくぶっ倒れた。