キャットフードが入った容器を床に置いて「よし」と合図を出せば、モカは勢いよく、しかし淑やかに食べ始めた。
その姿を見て、未彩は「なんで猫って淑やかに食べるんだろう?」と、ふと疑問に思った。が、尋ねるとまた何か言われそうなので、喉元まで出かかった疑問を飲み込んだ。
もう未彩は、自分のペットが喋っている事の謎など、忘れてしまっていた。
暫くモカの食事風景を見ていれば、他のペット達の事を思い出して大声を上げる。
「あぁ! ルークにもあげなきゃ!」
モカはそんな未彩を迷惑そうに横目で見て、声も掛けずに食事を続けた。
ルークとは、未彩が飼っているペットの名前で、かなり人懐っこくて可愛い犬である。マイペースで立ち振る舞いが辛辣なモカとは違う。
______ルークが喋ることが出来るようになったら、どうなってしまうのだろうか。
ルーク用の容器にドッグフードを入れている途中で、未彩はそんな事を思った。動物の時は可愛かったけど、喋れるようになってから突然グチグチと言い出すかもしれない。それが少し怖かった。
「…じゃあ私、ルークにあげてくるね」
ドッグフードが入った容器を持ち上げ、キッチンから出る扉を開けてリビングへと足を進めた。
ドキドキしながら扉を開ける。
「る…ルーク、ご飯だよ」
「あ、ご主人様! おはようございます!」