「君、大丈夫? どこか痛いの?」
「……」
泣きじゃくる私を、心配そうに見てくれた。
「これあげる。ハンカチなんだけど……とってもいい匂いするでしょ?」
そのお姉さんが渡してくれたハンカチは、石鹸のような香りがした。
「名前書いてあるけど、気にしないでね」なんて、笑いながら。
その時のお姉さんが今も忘れられない。あの透き通った声が、あの白い肌が、あの優しい笑顔が。
ピーッ ピーッ
目覚まし時計にしては控えめな音が、部屋に響きわたる。
「ん、またあの夢……」
上体を起こし、目覚まし時計を止め、真希はそっと呟いた。
そして、壁に掛かっている制服に目を向けた。
「あっ!」
慌てた様子で、制服を手に取った。
未だに信じられないのだ。自分がこんな名門校に受かっただなんて。
「今日から宜しくね」
なんて、少し恥ずかしい事を言ってしまった。
まあ、今日くらいはいいだろう。
そうだ、あのハンカチも持っていこう。お守り代わりに……ね
「麻希! 遅れるよ!」
母の声で、現実に戻らせられた。
そうだ、今日はもう入学式。
ぼーっとなんて、していられないんだ。
麻希は返事をし、速足で階段を下りていった。