放課後、教室のドアを開けるとドビュッシーの月の光が聞こえてきた。
四階から私達の教室のある一階にまで聞こえるピアノの音。
ほとんど毎日その音が聞こえている。
なんの部活動にも入っていない私は四階の音楽室の前まで行き、その演奏を聴くのが小さな楽しみになっていた。
誰が弾いているのか知らないが私はその誰かのファンであった。
いや、私はその誰かにやんわりとしたものではあるが恋心を抱いていたのだ。
階段を上っていくと段々と大きくなるピアノの音。
美しい旋律が近付いてくる。
近付く音に比例するように大きくなる私の鼓動。
嗚呼、麗しきピアノの君。
いつかあなたに面と向かい会えたなら...
そう思うもピアノの音がぴたりと止まると逃げるように階段へ向かってしまう自分が情けない。