頭の中で恋心は極彩色に色付いて巡り、絡む。 どんな容姿のどんな声のどんな性格の人間であるかなんてことはおろか名前や性別すら知らない人に恋心を抱くなんてちゃんちゃらおかしい話だと自分でも思ってしまう。 そんなことをしている内にピアノの音がぴたりと止まった。 床に置いていた鞄の持ち手を急いで握ると階段に向かって走る。 走っているからなのか、顔が熱くなっている気がした。