ー1話ー
「菜摘、起きなさーい」
母の声で、朝が来たと分かった。
_こんな日も、変わらず朝は来るんだな。
奏は、死んでしまったのに。
そんな事に腹を立てて、私は布団にくるまって溜め息を吐いた。
そんな事をしていると、また母の声がする。
「菜摘?起きないなら朝ごはん無しだよ。
今日の朝ごはんは、菜摘の好きなアップルパイだよ」
私はその声を耳に、ベッドから立ち上がった。
…別にアップルパイが欲しいんじゃない。
何か食べて、気を紛らわせようとしたのだ。
私は体の向きを変えると階段に向かって歩き出し、手摺を使ってゆっくりと階段を降りた。
キッチンのドアを開けるとアップルパイと母の姿が飛び込んできた。
「…おはよう」
「菜摘、起きてきたの。
アップルパイあるから食べな」
母は満面の笑みでそう言った。
私は何も答えずに、アップルパイを口の中に放り込んだ。
_匂いで気づいていたが、やはり母の手作りだ。
母のアップルパイはどこぞの店のものより美味しく、甘いもの嫌いな私の口にも合う。
だから、母のアップルパイは自慢なのだ。
2、3個食べると、「ご馳走様でした」と手を合わせ、洗面台に向かった。
まず顔を洗う為、適当に髪を一つにまとめて顔を洗い、次にうがいをして歯磨きをする。
次に制服に着替え、髪を束ねて忘れ物チェックをして…。
「…それじゃ、行ってくるね」
家を出る。
私は家を出るなり溜め息を吐いて、とぼとぼと歩き出す。
母がわざわざアップルパイを作ったのは、奏がいなくなり落ち込んでいる私を励ます為。
奏の話をしなかったのも、奏を思い出させない為。
でも_奏を殺したのは、私も同然だ。
奏は飲酒運転のおじさんに突っ込まれて、亡くなった。
…でもそれは奏が昨日私を家まで送ったから。
だから、そのおじさんと時間が合ったんだ。
時間が合ったとしても。
私がやっぱり、と奏の家まで送り返せば、奏は死ななかったかもしれない。
私が、奏を守れていたかもしれない。
なのに、私は_。
考えれば考えるだけ、涙が込み上げて来た。
奏はまだ焼かれていないけれど、奏の部屋は家族しか入れないらしい。
だから、昨日お見舞いに行けなかった。
…奏は、それほど苦しんで死んだんだ。
それに、私は_
そうこうしている間に学校に着いたため、私は校舎に入り教室を目指した。