リビングには、燈が待っていた。
「こんにちは、燈ちゃん」
と、例によって、あまり返事のくるを期待せずに挨拶をすれば、意外と
「こんにちは、ユウキ君」
と言ってきたので、まごついた。小さい子を呼ぶようにユウキ君、と言ったことが一瞬気になったが、
狂人だから、僕のことが小学生の坊やにでも見えているのだろうと考えて、忘れた。
すると、とたんに僕は緊張してしまった。僕は死体として、彼女は猿として、お互い気兼ねなく
やって時間をつぶせばいいだろうという程度に考えていたら、とたんに僕たちは人間同士の関係に
なってしまったのであるから。挨拶が成立したことがその証拠だ。
「いらっしゃい」と燈は微笑んだ。「ユウキ君は、今何歳なの?」
僕は
「7歳」
と言ってみた(本当は19歳であるにもかかわらず)。
すると
「そう」
と言って燈は笑った。
僕は途端に胸がどきんとして、7歳の男の子に帰り、この燈お姉ちゃんに思う存分甘えてみたい、
という心理が芽生えた。
僕は、自分でも醜い笑いだと感じながら、子供っぽく笑ってみせながら
「あかりお姉ちゃん!」
と走り寄って、抱きついてみた。
すると
「ユウキ君は甘えん坊ね」
と言いながら、僕の頭を撫でた。
始めは異様に緊張してしまったが、やがて自分が19歳であることを忘れて、
その世界に没頭した。
そしていつしか、僕は燈お姉ちゃんの膝の腕ですやすやと寝ていた。