「愛里! 良かった、クラス一緒だよ!」
「あーあ、離れちゃったなあ……」
「やばいよぉ、知ってる人誰もいない!」
そんな声の数々が耳に入ってくる。一方で私には、そんな喜びや悔しさを分かち合える友人はいない。去年のクラスメイトだって度々話す機会はあったものの、別に友人といえる程での仲ではなかった。そこには常に、微妙な距離があったのだ。あくまで彼女達は、「同級生」でしかなかった。
「寺崎さん?」
突然後ろから声をかけられる。一瞬驚いて振り向くと、そこには優しい笑みを浮かべる1人の女子がいた。栗色の柔らかい髪はふわりと巻かれていて、良いルックスがより映えている。
「またクラス一緒だよね? これからもよろしくね」
そう言って彼女――柏倉さんは微笑んだ。
「う、うん……よろしく」
精一杯の作り笑いで、私は応えた。
やっぱり、人と話すのは苦手だった。
柏倉さんが友人の元へと行ってから、2組の名簿をもう1度確認する。すると確かに、「柏倉優美」という彼女のフルネームが刻まれていた。
柏倉さんは俗に言う優等生だ。父親が教育庁で仕事をしているらしく、可愛らしい外見も重なって入学当初から話題になっていた。いざ会ってみると人柄も良くて、穏やかで優しい上に謙虚な彼女は学年中の人気者だった。去年も立候補なんてしないのに、推薦で学級委員に選ばれていたくらいだ。仕事柄か性格からか、私もよく気を遣ってもらった。おまけに成績も良く運動もできて、誰からも信用される人だった。
彼女と仲良くなりたい、と思った事もあったが、そんな事はできる訳がなかった。彼女と私では何もかもが違う。私は彼女の様に可愛くもないし、周りの人間と親しくできる訳でもなく、成績も運動神経もイマイチだった。当然友人もできなくて、たまに他クラスの女子から陰口を叩かれもした。
そういう時、いつも柏倉さんは注意をしてくれていた。