柏倉さんがいるという安心感からか、足の重みは少し抜けた。友達にはなれなくても、いざという時に頼れる相手がいるのは心強い。
深呼吸を1つして、開きっぱなしの扉から校舎へ入ろうとした時……誰かが私の隣を横切った。普段ならそんな事は気にする筈はないけれど、その人物は少し変わっていたのだった。思わず足を止めて、前を確認してみる。その視界の先には、颯爽と歩く1人の生徒。彼女の歩く姿を、私は思わずじっと見つめてしまう。いや、正確に言えば、彼女のその髪を見つめてしまっていたのだ。
まず、その髪は今まで見てきた数々の人間の誰よりも真っ黒だったのだ。周りでたわいの無いお喋りをしている女子達と比べても、その黒さは明らかだった。夜の暗闇にも溶け込んでしまいそうな、そんな色をしている。次に、その髪は異様に長かった。時々腰まで髪を伸ばしている子を見かける事はある。だが、彼女の髪はそんなもんじゃない。脚の付け根を軽く越えているのだ。もう一年程放置していれば、膝の下まで軽々と伸びていってしまうだろう。そして、そんなに長ければ傷んで枝毛が増えてしまいそうなものだろう。しかし彼女の長い髪は、歩く度艶やかに光を反射し、さらさらと靡いて揺れている。触れるまでもなく、彼女の髪は綺麗に保たれていると分かるのだ。
そんな黒く長く美しい髪の女子なら、一目見ただけで印象に残る筈なのだが。私は彼女の顔も名前も、存在すらも知らなかった。転校生か何かなのだろうか。
気が付くと彼女は、どこかへ消えてしまっていた。