「私、恵まれてなさすぎだよ…。」
少女は呟く。音のない、たった六畳の暗く電気もつけない世界で。ストレートの黒いロングの髪も、真っ青なコンタクトレンズをつけただけの偽りの瞳も、太陽に当たらず育ったために白い肌も、爽やか系の色でまとめられた花柄のワンピースも、何にも役に立ちはしない。少女にあるのは、世界的なオンラインゲームの《ユーザー名「シアノ」ファイター LV97》という偽りの肩書きだけ。このオンラインゲームだけではない。片っ端から言っていくと彼女のゲームのユーザーデータは、100などという数字は軽く超えるという。
「本当にそう思っているのなら、僕が君を変えてあげるよ。本来ならではの君にね。」
「…え?」
少女以外には人はいないはずの六畳の世界にもう一つの声が響いた。
「だ、誰!?」
少女は電気を慌ててつける。声の主は誰だと、辺りを見渡す。
「本当に君は見えないんだね。ん?君はというのは適切ではないな…。うん、人間は、だね!」
黒い猫はしゃべりだす。正確には独り言と普通に話しているのが混ざっている感じだ。そんな情報はいらない。一目で、一言で予想はついていたが、この猫は、変な奴だ…!危ない感じで、めっちゃやばいことに巻き込まれそうな、少女は後ろに二歩後ずさる。
「私、を食べるの…!?」
「はい?そんなこと僕は言っていないけれども。勝手に食人猫にしないで欲しいなあ。」
猫はやれやれと人間の真似事をするように首を横に振った。
「僕は君が今の君にもう飽き飽きしていると思ってここまで出向いてやったんだぞ。」
無駄に偉そうな口の聞き方をする猫の首根っこを少女はつかんだ。
「ねっ、猫さんと遊んでいる暇はないのおおお!」
と何年も開けていないカーテンを開き、窓を開け、外に放り出した。ー匹の黒猫を。少女は急いで窓とカーテンを閉めた。はあ、と溜息をつくとすぐにパソコンに向かう。
「僕は、君に話があってきたんだ。君にも僕にもきっと村にはならないことだと思うのだけれど。」
黒猫だ。さっきの。少女はパソコンに向かった時に座った椅子ごと後ろに倒れ込む。
「な、ななな!なんで猫が喋る上に密室の空間に入れるわけ!?」
少女は黒猫を指差し、言った。
「ねえ君、僕と組む気にはならないかい?」
黒猫は多分、人間でいえば黒いブラックスマイルとかいう奴で笑った。