「では、これからのことについてお話しします。」
そう淡々と口にしたのは、下校中の私を拉致し、先程のテレビを見せた男性(ちなみに、拉致後からテレビを見るまでの数日間、私の身の回りの手伝いしたのもこの人)だ。
女性も羨むような柔らかで細い黒い長い髪は後ろで一つに束ねられ、男性にしては白い肌に少しキツい印象を受ける鋭い目。
いつもスーツに身を包み、歳は20代半ばくらい・・・だろうか。
多分、綺麗ってこういう人に使うんだろうな。
場違いにも、そう無意識に考えてしまうような外見であった。
ここ数日の振る舞いを見ていても、どの動作も優雅で無駄がない。
どこか良家の生まれのようにも思えた。
「あなたには国の作った研究施設である、『学校』に入ってもらいます。ある程度の行動の制限、また、外部との連絡制限などはありますが・・・」
少年院よりかは幾分か良いです、彼はそう言って私を見る。
私は彼と視線を交えず、私と彼の間の机に乗っている書類を見ているような素振りをとった。
「詳しい施設の説明は施設に入ってからの方が分かりやすいと思われるので、あなたは今後自分がどうなるのかだけ把握しておいてください」
よろしいですね。
そう言って書類をまとめ始める。
見出しに『施設内での規則』など、これからに関わる文字がいくつも見えたが、それすらも彼からすればどうでもいいもののようだ。
ここまでスラスラと言われると、自分がクラスの女子の犯罪を肩代わりして少年院に表向きには入る、なんてこと一切感じられなかった。
ただ、長期の合宿に行きましょう、とのお誘いを受けているような感覚だ。
「・・・はい、分かりました」
私は気が抜けたようにそう言うと、移動は車で行いましので、と私を案内し始める。
これが、私の普通でない日常の、あっさりとした始まりだった。