ニ話
「ふっ!」
レイは強く地面を蹴って走り、剣で赤竜に肉薄した。しかし赤竜は、前足の鋭い爪でレイを薙ぎ払う―
が、そこにはレイではなく、火山ダンジョンの石しかなかった。壁が砕けただけで、レイはどこにもいない。
赤竜はレイの姿を探すべく―下を向いた。もちろんそこにレイはいた。
”赤竜の足を根元から斬ったレイ”が。
「ゲグオアアアアアアアアアアア!」
赤竜はそのまま火炎ブレスをレイに向けて放った。レイは、足元に落ちている拳大の石を、振りかぶって投げた。赤竜の腹へ。
ドゴォッ!
「ガァオッ!」
石の赤竜の腹、つまりブレスを放つために最も重要な部分に当たったため、息が途切れて火炎ブレスが放てず、中途半端な炎しか出なかったために、レイは軽く避け、そのまま剣を両手で構えて突っ込んできた。
赤竜も、見えてはいる。反応も出来る。しかし、体が動かない。そのために―
無防備な体を、レイの赤黒い剣によって刺される。
「ゲオオオアアアアッ!」
赤竜はうめき声を上げた。しかし、偶然か、必然なのか。赤竜は反動で火炎ブレスを吐いた。レイの至近距離で。速さは赤竜をはるかに上回るレイだが、至近距離では避けようもなく、剣が刺さったままなので、避けれるわけがない。
火炎ブレスはレイに直撃し、レイはそのまま吹っ飛び―ダンジョンの壁にぶつかった。
「ゲホッ!」
レイは血を吐き、動けずにいた。赤竜は、斬られた足を、前足で拾い、切断面とくっ付けた。
赤竜の再生能力。冒険者の一番苦戦とするものである。レイの動けない体に、今度は俺の番だ。といわんばかりに、赤竜の爪が振り下ろされ―
「づううおおおおおおおらあああああああああああああああ!」
ガッギイイイイイイイッ!
ある一つの剣が、赤竜の爪を受け止め―否、弾いたのだ。
「ったく、一人で赤竜なんて無茶すんじゃねえよ!」
そこにいたのは、中年男性、そして赤い髪の男。大きな剣を持っている。しかし、その剣は、峰と刃に分かれている、剣ではなく、刀である。それもかなり太く、厚く、重い刀である。
「そこの可愛い子!」
「へっ!?わ、私!?」
「この満身創痍の馬鹿スプリガン連れてちょっと離れろ!」
中年男性はそう怒鳴ると、”可愛い子”と呼ばれたロゼはレイを抱えて、10mほど赤竜から離れた。
「へへ・・・行くぜ!」
その男は走り出した。しかし、それは期待していたロゼにとっても、待ち構える赤竜に対しても―
遅すぎる。ノロノロしすぎ。というわけではないが、先ほどレイの高速移動を見たために、余計に遅く感じるスピードだった。赤竜はあざ笑うように、最大火力の火炎ブレスを放った。
ロゼも、赤竜も、あの男は死んだ。そう悟った。火炎ブレスに直撃したのだ。
「どうしたぁ?そんな・・・火力かよぉ!」
その男は、無傷で飛び上がり、誰もの肝を引っこ抜いたであろう。赤竜の火炎ブレスをまともに食らって生きていた冒険者はいない。そう言えるであろう。
「いやっはぁ!『火の神の加護を受けし戦士よ、今ここに汝の勇気を示さん』フレイムバリアアッ!」
男がかけた魔法。それは―火の加護、火炎精霊加護魔法、フレイムバリア。あらゆる火炎を防ぐ魔法である。
「んじゃあ、こっちの番だぜ!」
その男は、赤竜を、一撃で真っ二つに斬った。流石の再生が自慢の赤竜でも、即死は直せない。
赤竜はそのまま血をドクドクと流し、男はそれを見て
「うへぇ、結構気持ち悪いもんなんだなぁ」
楽観的にそう呟いただけであった。まるで後ろにいるロゼなど忘れたかのように。
ニ話終わり
魔法
詠唱すれば誰でも唱えることが出来る。しかし詠唱しないで魔法を撃つ者もいる。