Episode 1 まったり村に引っ越してきました!
____ガタンゴトン、と電車ならではの音をたて、マイペースに運転されている1つの電車。その電車は、まったり村というところに向かっていた。
乗っている人はあまりいないが、誰も乗っていないというわけでもない。乗っている人はそこそこいる。
そんな乗っている人たちの間に紛れ込んでいる小学5年生くらいの少女は、今日からまったり村で村長を勤める新村長、 “ 悪咲 ほのあ ” だった。
「 今日からはまったり村の新村長になって独り暮らしするのか〜 不安でいっぱいだけど、なったからには頑張らないとね! 」
周りの人に聞こえるように、大きな声で独り言を言う新村長。新村長というよりも、ありのままの名前で呼んだ方がわかりやすいだろうか?
電車には付き物とも言える席には、そのほのあが口角をあげてどしんと座っていた。偶然座りたそうにしているお年寄りもいなかったのが理由なのか、席のド真ん中にどしんと。
幸い人がぎゅうぎゅうに詰め込まれた満員電車ではなかったので、ほのあは手足を存分に伸ばしながら電車に乗っていた。
ふと小腹が空いたのか、肩から斜めにかけられていたかわいい桃色のうさぎさんがこちらを見つめているポーチのチャックをグイグイと開き、ポーチと袋で守られていた “ ほのあんぱん ” というあんぱんを取り出した。
そのほのあんぱんを、女の子らしい薄い桃色のラブリーなたれ目でまじまじと見つめ、両手を使って持つ。
ほのあんぱん、というのはほのあの持ちネタでもあり、ほのあが作った自作のあんぱんでもある。
見た目は普通のあんぱんだが、それにほのあが少し手をくわえて作られたあんぱんであり、名前は作った本人の名前とあんぱんをミックスさせたらしい。
作った本人のほのあは、ほのあんぱんをパクリと一口。
口に入れた瞬間。ほのあの口の中はほのあんぱんの味で少しずつ支配されていく。パサパサしていないしっとりとした生地の部分と、絶妙な甘さでとろけてしまいそうなあんこ。
ほのあにとってこの2つはとても相性がよく、いつ食べても飽きない味だそうだ。
「 やっぱりほのあんぱんんはいつ食べてもおいしいな〜! ……でも、もうちょっと砂糖を入れた方がよかったかな? 」
ほのあんぱんを食べたほのあは、自然と笑顔になっていた。よほどおいしかったのだろうが、まだ完全においしいというわけではないという。
もっと工夫をこらして、最高のほのあんぱんを作ろう! と、この時ほのあは固く心に決めたのだった。
こんなのんきにほのあんぱんを食べていたが、この間にも時間は過ぎているということを知らせてきたように、電車内には40代くらいの男性の声でアナウンスが放送された。
「 まもなく〜まったり村〜まったり村〜 お出口は右側です〜 」
「 あ、もう着いたんだ! 早く降りないと…… 」
食べかけのほのあんぱんをガサガサと音をたてながらも袋にしまい、同時にポーチの中へと二重にしまい込む。
アナウンスが放送されてから少しすると、電車がゆっくりと止まっていく。シュー、というなにかが抜けたような音とともに電車が止まり、出口も開く。
ほのあは忘れ物がないかしっかりチェックし、電車から降車した。
電車から出ると、そこはもうまったり村の駅。
どうやらここには駅ナカなんていうところもあるらしく、結構大きな駅である。少し見て回ろうかな? なんて思いつつも、食いしん坊なほのあは色々な食べ物のお店を見て回った。
……が、今日は朝早くから起きて、母の手料理をたっぷりと食べてきたのだ。理由は当分食べれなくなるからだそう。さきほどはほのあんぱんも半分くらい食した。
なので、今はもうお腹いっぱいのほのあ。食べたいものは山ほどあったが、また今度食べにこようと涙をこらえ、 “ 楽園のまったり村 ” とも呼ばれた村に、足を踏み入れた____。
「 わぁ……! すごい……!! 」
まったり村に足を踏み入れると、そこには本当に楽園のような光景が、ほのあを待ち構えていた。