2
久しぶりに、ウネリムネリ村に帰ってきた。田舎は嫌いで、飛び出したわたしだけど、
たまには田舎もいい。
ここは、別世界のように、のどかだ。実際、ここで三日すごして、東京に帰ると、
浦島太郎みたいに、むこうでは何もかも変わっていたりしていそうだ。
「おお、景!おかえり!」
「幸太!ただいま!」
重そうな木材を抱えた幸太がいた。あの無精髭も綺麗にそられていて、母の手紙の通り、
ほとんど別人のようであった。
居間で、のんびりしていると、ついに夜が来て、幸太が仕事から帰ってきた。
「ああ、疲れた」
と言って、ただおとなしくテレビの前に座ったのが意外だった。わたしの知っている幸太は、
いつも酒を飲んでいないと、落ち着かない人だ。
わたしの方が、その時、お酒を飲んでいたのだった。
「幸太、お酒は?」
「いらん」
「すご」
「やめたんだ」
「すご」
その時、母が
「できたわよ」
と、晩ご飯を運んできた。
3
さすがに、田舎は、眠るのが早い。
布団の中にいても、わたしだけ、ちっとも眠たくならないのだ。
それに、クーラーもないので、すごく暑い。
ふと、都会の束縛から解放された反動か、風流な気が起こってきて、
音を立てずに、こっそり布団から出て、外に出てみた。月が、星が、きれいだったから、
そのままふらふら歩いていた。
すると、しくしくと、誰かが泣いているのが聞こえたので、ぞっとした。しかし、なんだか
引き寄せられるような心地で、鳴き声の聞こえて来る方へ行ってみると、それは兄、幸太だった。
「あれ、幸太、さっきまで寝てたよね?」
「ちがう!おれは偽物だ!」
「何変なこと言ってるの、こわいよ」