4
わたしたちは歩きながら、幸太の偽物から、話を聞いた。
幸太がある日、酒をたくさん飲み過ぎて、暴れ回っていると、中毒になって、
死にかけた。倒れて、頭が、
岸田家の墓
にぶつかった。その時、幸太の魂が岸田家の墓の中に、岸田家の墓の中から、
誰かの魂が、幸太の中に、つまり入れ替わっていくのを感じた。
そして気がついたら、まっくらな虚無の中に、幸太は閉じ込められていて、
ずっとひとりぼっちだった。だけどお盆になると、どういうわけだか、出て来ることが
できた。そして、自分の体を、取り戻そうと思った。
ところが幸太は、自分よりも、立派な岸田家の誰かが、自分の変わりをやっているのを見て、
もしかしたら、このまま、おとなしくお墓に帰って行くのがいいのかもしれない、と思った。
そして、今日ずっと、わたしや母と一緒にいたが、みんなが眠り、これでお別れだと思って、
一人お墓に向かっていたら、ふと、上を見ると、月があんまりにも綺麗で、涙が出たのだという。
それを聞いて、わたしは泣いてしまった。
「岸田家は」と、兄が言った。「よう学問ができる。岸田家の人は、みんな偉い。お前達のことを思うとな、
今のままでいいような気がするんだ」
「それじゃ、あんまり幸太がかわいそうだよ!」
朝日が昇り始める。
「ああ、もう、お別れだ!馬鹿な兄貴ですまなかった!社会が悪い、社会が悪いって言っても、やっぱり
まじめに働かない俺が悪かった!」
山の上から赤い光が爆発し、その光を浴びた幸太の魂は、もの凄いスピードで、しゅるしゅると、
お墓の方向に吸い込まれて行った。
泣いているわたしに、ちゅんちゅん、小鳥が不思議そうに泣いた。
5
帰ってみると、大騒ぎ。幸太……いや、岸田家の誰かの魂が、がぶがぶ、お酒を飲んでいた。
「ああ、幸太がまた放蕩をはじめた!」
と母は悲鳴をあげていた。
「うるせえ!さあ、さっさと行くぞ!」
「どこに……」
「墓参りだよ!」
そう言って、岸田は走り出した。わたしと母は、朝の光の中、後から走って追いかけた。
お墓について、岸田は、岸田家の墓の前に立った。
「幸太!そこはよそのお墓だよ!」
と母が言ったが、かまわずお酒をぐびぐび飲んで、
「ああ、少しの間だけでも、行きていられることができて、とても楽しかったです!だけど、
もうこの辺にしておきましょう!」
そう言って、もの凄い勢いで、お墓に頭をぶつけた。
幸太の体は、気絶した。蝉がみんみん鳴いている。