職員室を出て、私と榎下は廊下を歩き始めた。
今だ。ちゃんと伝えなきゃ。
恥ずかしがってる場合じゃない。自分の気持ちを伝えるんだ。
「榎下……、その、ありがとう。」
よし、言えた!
“ありがとう”って言っただけなのに。
あぁ、なんだか顔が熱いな。
いつからこんなに、恥ずかしがり屋になってたんだろう。
榎下は、相変わらず前を見たまま呟くように言った。
「別に。」
……榎下じゃない。これは榎下じゃない。
なんでこんなに違和感があるんだろう。
榎下は成長したっていうだけなのに。
私が知っている榎下は、もっと明るくて、面白くて、モノマネが上手な榎下。
嫌なことを吹き飛ばせるようなことをしてくれる榎下。
だけど____。
なんだろう。このもやもやは。
いつもの榎下は、何処に行ってしまったんだろう。
心のもやもやを吹き飛ばしたくて、言葉を発した。
「あのさ、榎下。なんかこの頃、急に大人っぽくなってきたよね……?クールな榎下も良いけど、やっぱり
私は、」
榎下の目を、しっかり見た。
「普通の、元気でモノマネ上手な榎下が良いな!」
そう言って笑った。なんか、言いたいことが言えて、自然と笑顔が溢れていた。
「うっせ。イメチェンだよイメチェン!」
榎下が必死になって講義する。
イメチェンって……何それ!
榎下は、やっぱり面白いなぁ。
半ば笑いながら、半ば苦笑しながら言った。
「イメチェンなんかしなくたって良いじゃん。イメチェンした榎下は違和感ありすぎて逆に怖い。」
「なんだよ。俺だって変わりたいっつうの。」
「変わんなくて良いんだって!そのままの榎下が一番だから!」
私がそう言うと、榎下は何故か赤くなった。
そんな榎下が滑稽で、思わず笑ってしまった。
「何照れてんの!」
「うっせーんだよ!」
やっぱり榎下は、こうじゃないと。
戻ってくれて良かった。いつもの榎下に。