「見ろよこれ、」
隣の席の榎下( えのもと )朝陽( あさひ )が、笑いを堪えながら家庭科の教科書を指差した。
そこには一つの挿絵があった。
「ひっ…ふっ…何これ…ふふふっ…!」
私は堪らず爆笑しそうになる。
それをぐっと堪えたが、腹筋崩壊レベルだった。
榎下もクスクス笑いだす。
「だろ?に、似すぎだよなこれ…!ふっ!」
だってそこには____、うちの学校の教頭先生みたいに厳つい人が描かれていたから。
教頭先生は昔からジム通いをしていて、筋肉の量が半端ではないのだ。
生徒からは、筋肉マン先生と密かに呼ばれている。
あんまり面白かったものだから、顔がにやけていたらしい。
ヒヤムギ先生に注意された。
「そこ、芹澤さんと榎下君。何笑ってるの、しっかり授業に集中しなさい。」
ヒヤムギ先生の圧倒的な涼しさに、私たちは一瞬で虜にされた。
先ほどまでの笑いなど吹き飛ばされ、背筋はシュッと伸びる。
それ以降、その挿絵を見てもなんとも思わなくなった。
ヒヤムギ先生は何か超能力でも持っているのだろうか。
休み時間、親友の柳瀬( やなせ )玲衣( れい )に聞かれた。
「ひよちゃん、榎下と何笑ってたの?」
ひよちゃんというのは、私のあだ名である。
「え?だって教科書の挿絵の人が筋肉マン先生そっくりだったから。ほんとに似てたよ。思わず
笑っちゃった。」
と言いつつも私は、特に笑っていなかった。ヒヤムギ先生の超能力のおかげだ。
「へぇ、それでかぁ。」
れいちゃんは納得したように頷いた。