そんな平凡でいつもと変わらない今日も、部活の時間になった。
「ひーよーちゃん!部活行こ!」
れいちゃんが私を呼ぶ。
「うんっ!」
私は答えながられいちゃんに駆け寄った。
榎下も近づいてきた。
「俺も行こー。」
全く、どれだけれいちゃんのことが好きなんだろうか。
私たち____私と榎下とれいちゃん____は、陸上部。
れいちゃんは中学になって初めて同じクラスになって、仲良くなった。
榎下とは小学校6年間ずっと同じクラスで、割と仲の良い男子だ。
委員会やクラブも結構同じになっていた。
れいちゃんは、私たちとは違う小学校だ。
でも、すぐに打ち解けた。
前々から、陸上大会とかで顔を合わせたこともあった。
更衣室で体操服に着替え、運動場に出る。
相変わらず真夏の日差しが照りつけ、蝉もミンミン鳴いている。
9月の大会で、先輩の3年生は引退となる。
私はその大会で、女子200メートルをやる予定だ。
榎下は80メートルハードル、れいちゃんは女子100メートルだ。
「今日はまず100メートル一本走るぞー!」
顧問の古谷( ふるたに )絢斗( けんと )先生は、鼻ビックと違ってイケメンで若い先生だ。
元気が良くて、生徒からも人気である。
いよいよ私の番が来た。
「位置について、よーいスタート!」
絢斗先生の声で勢いよく地面を蹴った____はずだった。
私の足は運動場のロープに引っかかり、そのまま転んだ。
「っ!」
痛みを堪えながら、なんとか走りきった。
「大丈夫か、ひより。」
既に走り終えて、汗だらけの榎下が私を見つめる。
その目は真剣で、私は恥ずかしくなった。
榎下の目の中に、私が写っている。
「うん。多分大丈夫。」
そう言いながらも痛みは強かった。
擦り傷とか、目立った外傷はない。けれど、じんじんと痛みが押し寄せてくる。
「ひより、お前保健室行ってこい。」
絢斗先生が私を見た。
「はい。」
重たい足を引きずって、私は保健室へ向かった。
そのあと、どうやらよくないらしくて病院に連れていかれた。
結果は捻挫。全治1ヶ月。重度の捻挫だという。
これでは大会に出れるか曖昧だ。どうしよう。
翌日から私は、車で送迎されることになった。
「ひより、どうだった?」
開口一番、榎下が言った。
「捻挫だって。全治1ヶ月。」
「え⁉ひよちゃん大丈夫⁉」
榎下よりもれいちゃんが早く反応する。
「うん、大会出れるかわかんないけど、頑張って治す!」
れいちゃんは頷いた。
「頑張って!」
そう言って自分の席に戻っていった。
「無理すんなよ。」
榎下が寂しげに呟いた。