もし、誰かに【兄弟はいるか】と訊かれたら、私は【いない】と答えるだろう。
実際、【今】はいないのだから___
私には、10歳年が離れた兄が一人いる。
いや、【いた】の方が正しいだろう。
何故なら、彼は私が5才の時に死んだのだから。
私は両親から、事故死だと教えられた。
彼が亡くなった当時は、死というものを理解しておらず、喪服を着た両親が何故泣いているのかわからなかったが、今思うと胸が痛くなった。
宿題をしている兄に遊んで欲しいとせがむと、最初は鬱陶しそうに突き放すが、最終的には付き合ってくれた記憶がある。
何だかんで私を可愛がってくれていたと思うと、痛みは尚更強くなった。
小学生になり、私が人の死を理解出来た頃から、兄の話はタブーとなった。
と言っても、リビングの横にある仏壇に彼の写真が飾られているが、日常会話などで兄の名前を出すと、両親の顔が曇るのだ。
それからは彼のことは胸の内に留めようと、それなりに楽しい学校生活を送ってきたが、小学6年生になったある日のことだった。
その日はパソコンの授業があり、コンピューター室に向かうと、私達はそれぞれパソコンが設置されているデスクに座った。
先生の指示で、Googleを利用して自由に何かを調べても良い、ということになり、クラスメイト達は楽しそうに調べものをしている中、私はパソコン画面を見つめたまま、何もしなかった。
「どうしたの?」
隣の席に座っている樹里が、私のパソコン画面を覗きながら言う。
「特に調べたいものがないんだよね。樹里は何調べてんの?」
私も樹里のパソコン画面を覗き込むと、そこにはオススメの小説が紹介されているサイトが映っていた。
樹里らしいな、と私は微笑する。
「あと、これって画像も出るらしいよ」
「画像ねぇ……」
私は机に肘をつくと、再び自分のパソコン画面を見つめた。
画像なら、生前の兄の写真が見てみたい。
兄の話がタブーとなった今、私は仏壇にある写真しか見れないのだ。
友達とはしゃいでいる姿や幼い頃の写真なども、見てみたかったのである。
私は冗談のつもりで、検索欄に兄の名前を打ち込んだ。
すると、また樹里が私の画面を覗いてきた。
彼女は私が打ち込んだ文字を、ゆっくり読み上げる。
「何これ……?【西尾皐月】?」
訂正
×私には、10歳年が離れた兄が一人いる。
○私には、12歳年が離れた兄が一人いる。